TS憑依禪院直哉~甚爾君のお嫁さんになれなかったから恵君を食おうと思う~   作:八握剣異常性癖魔虚羅

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呪術廻戦は全巻揃えてますがスナックバス江はエアプです


TS憑依禪院直哉~甚爾君のお嫁さんになれなかったから恵君を食おうと思う~

 ──私は天才であるらしい。

 

 父から受け継いだ術式は、一番期待されていたものでこそなかったが、直感的に使いやすく、父には天性のセンスがあると褒められた。

 

 ──皆言ってる。男でさえあれば文句無しに父の次の当主は私だったと。

 

 この家は強烈な才能主義に、強烈な男尊女卑。まだ幼少の身であり実力を示していない以上、次期当主に叔父や兄弟を推す声が止むことはない。或いは、実力を示したとしても。

 

 ──禪院家には落ちこぼれがいるらしい

 

 ──男のくせに呪力が1ミリも無いのだと

 

 ──どんなショボくれた人なのだろう

 

 ──どんな惨めな顔をしているのだろう

 

 それは、自分を慰めるための惨めたらしい好奇心だった。女であるというだけで見下されている自分。呪力が無いという理由だけで見下されているらしいその人。同類を見れば慰められる自尊心もあるのではないかと。

 

 そこに居たのは……いや、あったのは。全てを削ぎ落した虚無。

 

 呪力が無い落ちこぼれ? 誰だそんなことを言い出した間抜けは。

 

 速く駆けるために獣が余計な脂肪を削ぎ落すように。鳥が飛ぶために余計な全てを捨て去るように。蛇に視力や足が無いように魚に泳ぐ以外の機能が無いように──

 

 彼に呪力などという余計なものは必要が無い。何故ならその肉体だけで、この家の人間を皆殺しにしてなお余りある圧倒的な暴力を有しているのだから。

 

「なんだお前」

 

 殺意──ではない。その程度の興味すら目の前の彼は私に向けていない。これはただ単純な、目の前の化け物が自分の命を戯れで殺せることへの原始的な恐怖。

 

 死。

 

 声をかけられただけで、私はあまりにも濃厚なそれを感じ取ってしまった。彼がほんの少しだけ気まぐれを起こせば。苦手なものを食べる程度のほんの些細な労力をかければ。容易く私は殺されると悟って──

 

 ──瞬間。脳内に溢れ出す、存在した記憶。

 

『で、死んだん?』『あまりにも隙だらけや』『同じ顔、同じ乳』『人の心とかないんか?』『疾風迅雷やね』『ざけんなや 呪力が練れん ドブカスが』

 

 この身体……いや、男であった場合の自分の未来。本来あるべき禪院直哉という男の存在。圧倒的な強者に憧れた男の末路。呪術廻戦という物語の悪役の運命。

 

 魂と肉体のどちらが先かという話が原作のどこかでもあったが、私は禪院直哉で、禪院直哉は私だ。入れ物が多少変わっていようとその存在が大きく変わることは無い。プレゼントボックスの中にゴミが入っていても空っぽでも、観測するまではプレゼントボックスなのだから。

 

 だからこれは必然。禪院甚爾という男に憧れ続けた彼の中身になってしまった私は、彼に会ってしまえばこうなることは運命づけられていた。

 

「──惚れました。一目惚れです。結婚してください」

 

「は?」

 

 理解できないと呆けている顔もイケメンやね……

 

 

 

 

 

 物語の中に生まれ変わるとしても、選べるのなら絶対に選ばない。呪術廻戦というのは一言で言ってしまえばそんな作品だ。

 

 主要キャラでも容赦なく死ぬ。四肢の欠損は当たり前。精神的リョナも完備。モブは死体が残れば御の字。そんな世界に産まれることを望む者の方が少ないだろう。

 

 その中でも禪院家は最悪だ。これは別に男尊女卑がどうだとか、実力主義がどうだとかそういう話ではない。というかそれなら少なくとも禪院直哉というキャラクターに転生した私は問題な……いや、何故か女になっているのは問題か。

 

 そうではなく。禪院家というのは作中で皆殺しの憂き目にあっているのが問題なのだ。それも主要人物の覚醒イベントの踏み台として。そして禪院直哉はそのキャラの見せ場として最後に斃される名脇役。悪く言えば嚙ませ犬。これがいわゆる踏み台転生者というやつなのだろうか? 

 

 ともかく。そんな未来を知っているからには、どうにか脳内の知識を活かして生き残るように足掻くべきなのだろうが、私のしていることと言えば──

 

「なーなー甚爾君。そんなお馬さんやのうてウチとも遊んでや」

 

「やかましい。俺は金を増やすのに忙しいんだよ」

 

 天与の暴君の気を惹くことだった。

 

「どうせ甚爾君勝てへんやん。見たことないで? 甚爾君が当ててるところ」

 

「……今回は勝つんだよ。ガッチガチの本命だ」

 

「ほんならウチらも賭けしやん? ウチが言った馬の方が早かったら……せやなぁ、稽古でもつけてや」

 

「俺が勝ったら?」

 

「オトンに頼んで肉でもなんでも好きなもん買うてもらう」

 

「決まりだな。縛りでもなんでも好きにしろ」

 

 内心でほくそ笑む。前世の知識を活かしたチート、なんてそう簡単にいくものではないし、そもそも一週間前の夕食も忘れるのに、前世での記憶なんてものをどれだけ正確に覚えていられるかという話だが、興味のある分野に限れば話は別だ。

 

「ほんならウチはアドマイヤベガにするわ」

 

「見る目ねぇなあ。ナリタが勝つに決まってんだろ」

 

 サイゲ〇ムス、ウ〇娘、いつもありがとう。禪院甚爾の胡坐の上に収まりながら、そんなことを考えつつ競馬中継を見ていた。

 

 

 

 呪術師は呪力で肉体を強化して戦う。逆に言えば呪力を持たない人間の身体能力は、その肉体の能力そのままだ。だというのに。

 

「なんで術式使ってるウチより速いねん! おかしいやろ!」

 

「お前が鈍すぎるだけだろ」

 

 投射呪法。24分の1秒で動きを作ってそれを後追いする。過度に物理法則を無視した動きは作れないが、ある程度は身体能力を無視できる。要するに、何度も重ね掛けすることで実質人間の限界を超えた動きを行える術式だ。

 

 だというのに、目の前の暴君は加速した私に追いつき、いとも容易くその動きを妨害してくる。結果は投射呪法の発動の失敗による1秒のフリーズ。

 

「……動き出しが遅いんだよ。上限が無くたって、最初で見切られればそれで終わりだろ」

 

「え、アドバイス? そんな気遣いできたん甚爾君」

 

「ブン殴るぞ?」

 

「堪忍してや。可愛いお顔がぐっちゃぐちゃになってまう」

 

 とはいえ言われたことは至極真っ当。フィジカルギフテッドなら最初の脚の踏み込みだけで次の動作ぐらい分かりそうだし、投射呪法のあらかじめ動きを作るという特性上そこを見切られれば終わりだ。

 

 ──今やっているのは至極単純な子供の遊び、鬼ごっこである。普通と違うのはお互いの速さが音速に迫ろうとしていることだけ。

 

 だというのに、一度もこちらから触れられないのは、甚爾君の言う通りで身体の使い方が悪いのだろう。なにせこちらの速さは無制限。対して向こうは肉体の限界まで。これで負けるのだからそれはもう技術の方の問題だ。

 

「もっぺんや!」

 

「俺が飽きるまでな」

 

 このままではまずい。最低限フィジカルギフテッドに勝てる実力を身に付けておかないと、いざあの場面になってしまった時に『ドブカス……がぁ……!』と言い残すぐらいしかできなくなってしまう。恨みを買わないようにするのが一番だというのは言うまでもないのだが、扇のオジサンがなぁ……

 

 そしてもう一つ。本来なら先程の方が重大な理由となるはずなのだけれど、今の私……そして『禪院直哉』にとってはこちらの方が重大な理由。

 

 ──いつまでも進歩が無いと、甚爾君に飽きられる……! 

 

 それは自分の死よりも恐ろしい想像。……『禪院直哉』に引っ張られているのだとは思う。『私』にはそんな情熱だとか渇望だとかは無かったような気がするから。

 

 目指すはアッチ側……とはいえ流石に五条悟に勝てる呪術師になれるとは思わないけれど、せめて甚爾君に食い下がれるぐらいにはなりたいものだ。

 

「おら目線。どっちに動くか自分からバラすな間抜け」

 

「しゃあないやんそういう術式なんやから!」

 

 とはいえ今のところ影すら踏めそうもない。まずは基礎のカラテ……要は肉体を鍛えるところからだろうか。躯倶留隊の隊長とかに頼んだら鍛えてもらえないだろうか……でも『禪院直哉』って滅茶苦茶嫌われてたしなあ……それに男尊女卑まで加わったら当主の娘とはいえ酷い扱いを受けそうだ。いっそそれより……

 

「なぁ甚爾君」

 

「あん?」

 

「ウチのことお嫁さんにしてみーひん?」

 

「小便臭くなくなってから言えアホ」

 

「ノンデリー!!」

 

 絶対もっと強くなって……ついでに美人にもなって……ほんで甚爾君を見返したる……! 『禪院直哉』の魂が叫んでいる。いや、お前本来男だろ? でも私でもあるから仕方ないのか……? その辺の境目は曖昧だ。『禪院直哉』がそもそも同性愛の素質があったのか、私という異物のせいでこうなっているのか……どちらもありうる。それだけだ。

 

 結局それからも一度も鬼ごっこに勝つことは出来なかったけれど、なんとか次も賭けに勝ったら鍛えてやるという約束をとりつけることは出来た。

 

 




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