TS憑依禪院直哉~甚爾君のお嫁さんになれなかったから恵君を食おうと思う~   作:八握剣異常性癖魔虚羅

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9話目

 虫全般嫌い。あのテカりも触った時の感触もホンマに無理。でもウチもオバハンになったら履き物で躊躇なく叩き潰せるようになるんかいね? どうも、天才ゴリラと即席コンビを組んどる禪院直哉やで。黒沐死

 

 虫の嫌なところはようけある。人によっても1番嫌なところは違うんちゃう? 鳴き声が嫌とか、見るのはいいけど触るのは無理とか、気付いたら近くに居るのが無理とかな。ウチが1番キショいと思うんは────いっぱいおるところ。

 

「いやいやいやキショすぎるやろ! そんで速すぎやって!」

 

 投射呪法で加速しつつ、石に呪力を込めて横に投げる。拍手の音と共に場所替えが起きて、なんとか黒い濁流から逃れられた。

 

「プチプチ潰すんは無理。とにかく火力が足りひん。やっぱ甚壱君連れてくるんやった……お似合いの顔やし……」

 

「だが朗報だミス禪院。数は多いが結局のところ烏合。飲み込まれれば即死だろうが、潰すのは容易い」

 

「まあ結局のところゴキブリやしね。誰か肉が無いから食われんくて、ほんで火力も持ち合わせとる都合のいい術師とかおらん?」

 

「流石は先輩。最適解だ。メカ丸、出番だぞ!」

 

 パンッ! と小気味のいい音が響いて……呪骸か? あれは。確かに喰われる肉は無いやろうけど、薙ぎ払えるような火力は──

 

『大祓砲!!』

 

 出せるんやねぇ……ホンマに高専生は優秀やで。そこでデカブツに喰われとるアホ術師にも見習って欲しいわ。呪骸君が頑張ってくれとるんが全部パァやで。

 

「……葵君、領域対策は?」

 

「シン・陰は修めている」

 

「充分。1分保たせぇや?」

 

 カスを餌に黒い濁流が再び産まれようとしている。しかも学習能力もあるんか、四方八方に散るように。これを逃したら詰みやね。カスを餌にしたゴキ共が別のカスを餌にして増える無限ループや。それこそ悟君でも呼んでこなアカンくなる。

 

 掌印を結んで息を整える。世界を己のエゴで塗り替えろ。

 

「──領域展開、『時胞月宮殿』」

 

「『シン・陰流簡易領域──』」

 

 ウチの領域が開ききる前に葵君が身を守る。これで術式対象の選別とかせんですむ。ホンマ優秀やで。

 

 街中に広がろうとしていた虫共がウチの領域に閉じ込められる。食欲を満たす障害を取り除くべく標的をウチに変えて──

 

「もう遅いんよ虫ケラ共」

 

 投射呪法の術式効果を受ければ1/24秒で動きを作らない限り1秒フリーズする。ほんでこの領域内では動きを作る必要があるのは細胞単位に拡張される。結果、細胞の一つ一つが1秒ずつバラバラにフリーズして──その身体が滅茶苦茶に砕け散る。動いたら致命的、なんてことが虫ケラに分かるわけあらへんしな。それに──

 

「動かなければええとでも思ったんか? 甘すぎるわカス」

 

 生物は生きている以上動きを止めることなど出来はせん。心臓を含めた循環器、呼吸器官、消化器、この領域内ではそれらの全てがウチの術式の効果対象。心臓の鼓動、呼吸、消化活動。それらを1/24秒で出来る奴なんかこの世におらへん。……悟君は別やけど。ともかく、領域対策が無い相手ならこれ1本で完封する自信がある奥の手や。

 

 葵君の簡易領域が崩壊するまでしか維持出来ひんかったけど、勝敗を決するには十分な手傷。ここまでくれば術式の焼き切れも関係あらへん。頭潰して終いや。

 

「お疲れ様やね葵君。ほな後は適当に残業して……」

 

「ミス禪院!」

 

 ──ウチの誤算は二つ。一つはコイツを繫殖力特化の呪霊と思い込んでいたこと。ゴキブリ操術的な術式持ちやと思っとったんやけど、コイツはあの群れを含めた総体で一つの呪い──なんて分かったのはこの戦いの後での話や。

 

 二つ目──

 

私ハ! 肉ノ味ガ! 好キダ!! 

 

 

「……ッの、カスがぁ!」

 

 既に繁殖……単為生殖を終えていたこと。

 

 嚙みついて来た呪霊に反射的に叩きつけた拳が、肉切り包丁のようなものに阻まれる。呪具? いや、呪霊がそんなもん使うわけあらへん。ならこれは身体の一部──

 

 拍手

 

 ウチと入れ替わった瓦礫が包丁に叩き割られる。そのまま刃が当たった地面に何かが植え付けられ……卵かあれは。産まれたゴキブリが蠢きだす。

 

「防いだら内側から喰われるって訳ね。上等やんか……!」

 

 問、防げない攻撃を持つ呪霊をどう祓うか。

 

 答──速度で潰す! 

 

 事前に作った動きをトレースすることで加速するウチの術式。欠点はカウンターに弱いこと。いくらカウンター前提で動きを作っても限度があるからな。その欠点を補うために、相手に触る動作を組み込んでおく。

 

「キッショいもん触らしよって……」

 

 1秒のフリーズ。その隙に術式を重ねる。加速、フリーズ、加速──

 

 ──投射呪法のフリーズは1/24秒で動きを作ることに失敗するか、物理法則を無視した動きを作ることで起きる。逆を言えば、それに成功すればウチの術式を利用して加速も出来る。フリーズさせたハズの虫から迫りくる、防御不能の一撃。

 

 拍手

 

「俺が居ることを、忘れてもらっては困るな」

 

 1フレームの動きが終わり、次の動きを設定する最中のまさにここしか無いタイミング。位置替えによって腐れゴキブリは包丁を外し、逆にウチは無防備な背中をブチ抜く最高のチャンスを手に入れる。これに応えられないなら呪術師なんか辞めた方がええね。

 

 力は速さと重さ。最高速度まで高めた拳を、その頭部に向けて振り下ろす。

 

 黒い火花が、ウチらの勝利を祝福してくれた。

 

「はー……しんど。相性が悪いわ。恨むで傑君……いや、腐れ前髪……」

 

「ミス禪院。怪我は?」

 

「唾付けとけば治るぐらいや。それよかあの呪骸の子呼べる?」

 

「死骸の焼却だな? ──待て、死骸?」

 

「ん? ……は?」

 

 最高速度の黒閃を頭にブチ込んだ。流石にアレで祓えてへんことは無いはずや。なのに何故、残穢として霧散しとらんのや……! 

 

「メカ丸!」

 

「説明ぐらイしてから呼べ『三重大祓砲』!」

 

 唐突やけどゴキブリが死に際にフェロモンを出すって話聞いたことある? ウチは昆虫学者ちゃうからそれが本当なんかどうかは知らへんのやけど、今重要なのは『ゴキブリは殺しても増える』って共通認識が日本中にあること。

 

 呪力が焼き尽くす寸前、死骸を喰い破り、内から黒い濁流が再び流れ出す。

 

 ある程度は呪骸君のおかげで焼き払えた。それでも残った物量は、雑魚術師を喰らうには充分な量で、放っておけば無限に増殖しかねない。

 

 位置替えで逃げる──意味無し。ウチらが逃げ切れるだけや。

 

 領域展開──残った呪力でいけるか? 考えとる暇も無い。一か八か伎芸天印を結んで……

 

「……今日はよくよく後輩に助けられる日やね。ウチも鈍ったかな?」

 

「『満象』!」

 

 上空から現れた象の式神が虫共を潰し、残りも水で洗い流す。範囲攻撃の方法が無いのは投射呪法の弱みやね。省エネで領域を開く方法でも探そかな。

 

「最高のタイミングや恵君。ウチのこと抱いてもええで?」

 

「ふざけてる場合ですか」

 

 戦況の判断能力、術式の万能さ、機転。高専に入学したらすぐにでも等級上がりそうやね。真希ちゃんと違って変な邪魔も入らんやろし。

 

「葵君、後のデカブツは任せてもええか? 流石にもう特級はおらへんと思いたいけど」

 

「任せろ。女性にばかり活躍させていては俺の立つ瀬が無い。特番にも間に合わせたいしな」

 

 術式は完全にサポート向けなのになこの子。蘭太君をステゴロ出来るようにした感じや。それはもう上位互換ちゃうか? 

 

「ほんで恵君は……ウチと一緒に残業しよか。疲れとるんなら下がってもええで。さっきの一発でそんぐらいの貢献はしてくれたし」

 

 あんなん家でも対処できるの甚壱君くらいやろ。扇の叔父さんは炎で相性良さそうなのに負ける気しかせえへん。「来い虫ケラが!」とか言いながら後ろから群れに喰われて死にそうや。

 

「俺はまだやれますよ?」

 

「ほな行こか。使い慣れとらん式神おったら有象無象相手に試しときや」

 

 葵君と恵君って相性悪そうなんよな。恵君がもうちょい吹っ切れてくれたらええんやろけど。まあ今はとりあえず物理的に離しとこか。

 

「ウチ達の戦いは、これからや!」

 

「それ縁起悪いんでやめてください」

 

 ツッコミ役がおるってええね。

 

 

 

 

 

 新宿、京都の呪霊は駆除完了。現れた呪詛師共は取り逃したけど、首謀者の腐れ前髪……もとい、傑君は悟君が討伐した。護衛対象だった乙骨君も無事やったし、ひとまず百鬼夜行はウチら呪術師の勝ちでええんちゃうかな? 禪院家としてもウチ(と葵君)が特級祓ったから面目保てたしな。

 

 新宿の方には悟君を一人で足止めしとった呪詛師がおったそうやけど……どんなバケモンなんやろね? どうやったのかウチも聞いてみたいわ。少なくともウチは悟君を足止めなんか出来る気せぇへん。無限を含めて『五条悟』と術式に認識させてフリーズさせたらええんかね? ……普通に1/24秒刻みで動かれて終わりやろな。

 

「恵君ももうすぐ高専入学かぁ……任務とかで一緒になったらよろしゅうな?」

 

「ええ……でも、一級が出るような任務に俺が出ることありますか?」

 

「高専の任務の割り振りは雑やからねぇ。まぁ禪院家がどこまで外の任務を受けるか次第かもしれへんな」

 

 こっから宿儺の受肉とか起きるわけやし、ウチとしてはどうしても過保護になってまうんやけど……今日の感じ見るに心配しすぎかもわからんね。魔虚羅を調伏出来ればええねんけどな。そんなん出来たら悟君の次に強い奴認定待った無しやで。

 

「そういえば恵君、好きな女のタイプとかある? 男でもええけど」

 

「直哉さんには教えたくありません」

 

「え、そんなウチのこと嫌い?」

 




投射呪法に不義遊戯合わせるの死ぬほど難しそう。一緒に過ごしたあの青い春が無かったら危なかったかもしれへんね
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