鉄槌の騎士と盾の守護獣の敗走を耳にしたシグナムは驚愕した。意気揚々と蒐集に出向いた2人が負けるとは思ってもいなかった。ザフィーラからは鼻を抓みたくなるような臭いがプンプンしているので近くの小川で水浴びをさせている。風呂場にあの臭いは持ち込みたくない
「デバイスを盗られただと!」
「ごめん……シグナム」
逃走するときに見えない力に引っ張られ我々にとって大切な相棒を奪われた。意気消沈するヴィータは私服の袖を強く握り締め、愚かな自分に泣きそうになっている
死は負けである。生きていれば次に繋げることが出来るが戦力の激減は今の状況では好ましくない、デバイスから情報が抜かれてしまえば自分たちは丸裸である。そしてシャマルは戦闘向きではないので残ったシグナムにかかる負担は相当に重くなる
当然だが蒐集のペースが落ちてしまえば主の命に関わってくる。それに管理局に目を付けられてしまった。八方塞がりではないが詰みかけている
「あいつは先日の魔導士とは違う」
「どういう意味だザフィーラ?」
水浴びから帰ってきた彼にタオルを渡して問い掛ける
「あの少年は我々に対して恐怖を抱くことなく挑んできた!それも迷いなく」
「あたしの攻撃を打ち返しやがった。今までそんなことなかったのに」
白い魔導士や自身が対峙した黒い魔導士は未知との遭遇のように怯えや震える表情が見てとれた
「修羅場を経験している訳か」
「シグナム…前に言ってた剣道の子供って転移か空間魔法が使えるんだろ?そいつの手を借りることは出来ないのか?」
「馬鹿者!我々の招いたことに巻き込んではならん」
確かに彼の持つ能力があればヴィータの穴を埋めて蒐集は容易に捗るだろう。攫って力で脅してしまうのは言語道断だが事情を説明したら手を貸してくれるかもしれない、見ず知らずの女性を助ける心の持ち主ならもしかして……しかし
「ただいま~」
シャマルと共に病院から帰ってきた自分たちの主は部屋の中を見渡した
「なんや今日は珍しく早く揃って」
「門下生が気を利かしてくれたので早く帰れることに」
「そうなんや、じゃあ腕によりをかけて作らんと」
瞬時に表情を切り替えて不安にさせないようにする。蒐集を始めてから慣れない嘘を口にするようになり心に針が刺さるような感覚に陥ることが多々にある
『(あとでシャマルを入れて話す!いつも通りに振舞って気取られるな)』
『(分かった)』
『(承知)』
思念通話で2人に伝えるとシャマルを台所から遠ざけて主の作る料理で食卓を囲み入浴しヴィータが添い寝を済ませる頃には日付は跨いてしまっていた
深夜のリビングで今回の出来事を報告するとシャマルは驚きの声をあげるが手で声が漏れるのを塞いだ
「じゃあ私がヴィータちゃんの代わりに」
「ダメだ、クラールヴィントは戦闘には不向きだ!それにヴィータはカートリッジの精製は雑で使い物にならない」
いつもなら「んだとてめぇ!」という怒号が飛んでくるが自分の蒔いた種で窮地に追いやられているので反論することが出来ない
「当面は私とザフィーラで蒐集を行う、お前たちは主の傍に」
ヴォルケンリッターの将として責務を果たさなければならない、辛いことには慣れている。優しい主の笑顔を守る為なら身を滅ぼしても構わない、尊敬し大好きな彼女に幸せな明日を迎えてもらいたい!ただそれだけの為に
「シグナム休んだ方がいいわ」
「だが休んでいる間にも病の進行が」
懸念した通り蒐集の負担はシグナムの肩に重くのしかかった。魔導士ではなく別世界で大型の魔獣を狙うが対価が釣り合わない!彼女はバレていないつもりだと思っているが長年連れ添った騎士たちには隠し事は通じなかった
「ヴィータちゃんを復帰させましょう」
「デバイス無しでどうやって?足手まといの的になるだけだ!」
「危険なことだけど方法はあるわ」
「策だと?」
シャマルが口にしたのは互いのモノを賭した果し合いを申し込むことだった。策と呼ぶには到底及ばない代物だ
「多分だけど…その子は管理局に匿われている可能性があるわ」
「何を根拠に?」
「アイゼンからの信号が出たり消えたりしているの、恐らく通信を遮断する保管庫から出して調べていると思う」
「つまり持ち主も一緒に?」
その問い掛け彼女は深く頷いた。向こう側にとって闇の書に関する情報は喉から手が出るほど欲しいモノである。それが尻尾を振ってアピールをしてくるのであれば確実に飛びついてくる
「だが誘いに乗るか?それに搦め手を仕掛けてくることも」
「ちゃんと保険はかけるわ、約束を反故すれば隠れている私たちで援護をする。まずはヴィータちゃんのデバイスを表に出させることが重要よ」
最悪は闇の書の魔力を放出して逃げ出せば囲まれても問題無い、1対1に持ち込むことが前提だが鉄槌の騎士を退けた相手に心が躍る
「あたしの魔力をシグナムに託す」
「ヴィータ」
「私もだ!」
隠れていた2人も姿を現し彼女の手に触れて力を注ぎ込む、この戦いには勝たねばならない!力強い表情に戻るシグナムだがシャマルの顔だけは暗かった
「来たか!」
指定した時間より少しだけ早い上空を見上げると変身の光に包まれた人物が落下しながら姿を現す。その人物を見てシグナムは動揺を隠すことが出来なかった
「本当にいいの誠君?」
「やるしかないでしょ!上手くいけば生け捕りも出来る」
「それに向こうの誘いに乗らなくても。少し待ってフェイトさんたちと複数で」
「多分それだと逃げられる。将という誇り高い存在に恥は曝せない」
現在のアースラの戦力でまともに対抗出来るのは彼だけだった。局員たちは戦力外でフェイトやなのはもデバイスが手元に無い、クロノを送り出すことも検討したが近接戦を得意とするベルカの騎士が相手では勝つ確率は限りなく低い
「まだ病み上がりだから無茶はしないで」
「今度は虎耳バニーで看病をお願いします」
「着ないわよ」
それは無事に戻って来いというプレシアなりのエールだった。そして目標の場所に到達しカメラに映し出された彼女を見て走り出すのであった。
『誠君、私たちは空で待機してます!もしものことがあれば介入します』
「帰りはビジネスクラスでお願いします」
『ビーフorチキン?』
「クロノが
『玉子とみそ汁もつけておくから』
リンディの報告とエイミィの冗談を耳にして、リラックスをしていると
【マスター!私の名前は?】
「師匠から何も聞かされてないの?」
【生涯を連れ添う相棒なら本人に名付けてもらいなさいと】
「そうだな…」
脳内に様々な名前が思い浮かぶ、改造人間や光の巨人に魔界騎士などヒーローからあやかりたいと思っていたが、最後に残った言葉を口にしながら空に飛び立つ
その名は?…その名は!…その名は‼
「ジャックドール!」
金色の光に包まれると出て来たのは、赤いバリアジャケットの胸元からは黒十字襷掛けが走りデバイスのコアが首の下に鎮座して輝きを放っている
それは異質な存在であった。騎士やなのはたちが使用するのは杖や剣などの武器にコアが装着されていたがジャックドールはバリアジャケットに存在している
【素敵な名前ですね】
「気に入ってくれてなにより」
どうやら気に入ってくれたようだ!そして彼は視線を前に向けて騎士甲冑を纏うトレーニング帰りに出会ったシグナムのことを見つめていた。正直こんなところで会いたくなかった
「ヴィータたちを退けたのは…お前だったのか」
「襲われたんでね」
「すまない、主を助けてくれた恩人に仇を返す真似を」
「出来れば理由を教えてほしいですね。あそこで」
親指を上に向けて艦内に来てほしいと求めるがシグナムは首を横に振って剣を構えた
「管理局の人間なのか?」
「訳あって助太刀かな?」
【未契約なので報酬もありませんね】
「そうか」
もし自分たちが先に接触していたら彼が仲間になってくれた可能性の未来を想像したが、霧散させて柄を握る手を力強く締め込んだ
「この場に現れたということは承諾してくれたんだな?」
「向こうは手出しをしない」
「すまないがアイゼンを出してもらえないか?未熟ゆえ無事に済ませることが出来ない!」
「分かったジャックさん」
【OK】
展開状態のグラーフアイゼンが誠の手のひらに握られ砂地に突き刺した。そして彼も両手に剣を呼び出して魔力で刃を形成する
「ヴォルケンリッターが将シグナム!討たせてもらう!」
「私立聖祥大付属小学校三年、六合塚誠!行きます!」
互いの姿が消えた刹那、剣の交わる音が大気を震わせるのであった
「ロクゴウ君!」
鍔迫り合いに負けて砂地に吹き飛ばされた彼を心配する彼女だが、モニターに映る誠は間を置かずに砂煙から突撃して剣を下から振り上げると再び力比べとなるが、今度は押し切ってしまう
「凄いわね」
「母さんが育てたんですよね」
フェイトの問い掛けにプレシアは首を縦に振ろうとしたが止まってしまう
「私は初歩しか教えていない、自分で答えを導き出してトレーニングに励んだわ」
「なのはさんのように才能があったと?」
「努力出来る才能かもね」
十字にクロスした斬撃を飛ばすとシグナムは回避しようとするが、彼が超スピードで彼女の背後に回って羽交い締めにするように固定し直撃させた
「末恐ろしいな」
【恐縮です!】
ジャックドールを褒める彼女は騎士甲冑が破れているが目立ったダメージを受けていない、シグナムは距離を開けると鞘に魔剣を戻して構えをとる
「居合か?」
【違います!】
さっきまでとは違い剣が蛇のように蠢いて鞭のように誠を襲っていく、彼は剣を仕舞うと手に魔力を集中させて掴み取り一本背負いの要領で地面に叩きつけようとするが受け身をとられてしまった
突進してくるシグナムと何度も刃を交わし隙を見つけてはカウンターを仕掛けるが防御されてしまう。彼女の蹴りが腹に突き刺さるが後方に飛んで威力を殺す。しかしそこを連結刃の強襲を受けそうになるが
「波!」
斜め下方向に砲撃魔法を放って加速して直撃を避ける。再び剣を呼び出すと柄の部分をバンジーガムで繋いで即席のヌンチャクを作って振り回す
「小賢しい真似で」
【マスターは真面目ですよ‼】
ヌンチャクが地面に接触し、舞い上がった砂がシグナムの視界をカーテンのように覆った。彼女は目を守るように構えると彼が突っ込んで来ると予想しカウンターで仕留めようと精神を集中したが
「グラビトン・ハンマー!」
ヌンチャクの片方から更にバンジーガムが伸びて大岩と繋がりモーニングスターとなって襲ってきた。考えていなかった想定外の攻撃に右側面に直撃を受けた彼女は吹き飛ばされてしまった
「手応えアリ」
【いえダメです!】
ジャックドールの言葉に眉を顰めるが大岩がひび割れて粉々砕けていた。シグナムは直撃する前にカートリッジを3本消費し最大出力の拳で殴りダメージを極力抑え込んだのだ。彼女は彼の前に立つと
「違う立場で戦いたかった!」
「なぁ投降してくれ、もしかしたら」
「すまない…それは出来ない」
「分かった」
互いに剣を構えて踏み込もうとした瞬間だった
「……うっぐ!なんだこれ?」
誠の胸から手が飛び出していた。しかし血は流れておらず後ろから貫かれている訳ではなかった。シグナムやアースラの面々はこれを知っていた。なのはが受けたリンカーコアから魔力を奪う『旅の鏡』つまりこれをやっているのは
「シャマル!貴様‼」
シグナムの怒号が響き渡り別空間にいた彼女から通信が入る
「ごめんなさい、もうこれしか」
「貴様こんなこと、私に恥を!」
距離があるせいで映像の無いモニターに唾を飛ばすシグナムだが
「舐めんじゃねぇ!」
左手で胸から飛び出したシャマルの腕を握って、岩に刺さった剣を無理やり抜くように力強く引っ張りあげると空いている右手を自身の胸に突き刺してしまう。そして
「闇の書…貰っていくぞ!」
「あぁぁん!」
飛び出した彼の手がシャマルの巨乳を強く握り締めていた
誠専用インテリジェントデバイス【ジャックドール】
レイジングハートや騎士たちと違いバリアジャケットにコアが搭載されている。これは彼が防御を主体にしていることやバリアジャケットに魔力を張り巡らせてスムーズに魔法を使用させる為に考案された。
なお作中内で使用している剣はベルカ式のアームドデバイスで人格は持たない、カートリッジシステムは6発式のリボルバー型
誠君は何故か「ジャックさん」と呼んでしまう
簡単な詳細になります。イメージとしてはストライカーズのスバルのマッハキャリバーがローラーシューズではなくバリアジャケットになった感じです。使用する技に関しては登場したときに説明を入れていきます
カラーリングイメージはウルトラマンガイアV2だと思ってください
感想ありがとうございます
お気に入り登録もありがとうございます
誤字訂正もありがとうございます
これからも頑張ります