アースラの艦長室でリンディは白濁した緑茶を口に含みながら無限書庫にいるユーノから届いた報告に目を通していた。地球にはエイミィが滞在し前線で戦う子供たちのケアや情報収集に勤しみ、息子のクロノは前回の戦闘をグレアム提督に報告し今日は入院中のリーゼ・アリアのお見舞いに向かっている
『闇の書の正式名称は【夜天の魔導書】で、各地の偉大な魔導師の技術を収集し研究するために作られ、主と共に旅する魔導書です。破壊の力を振るうようになったのは、歴代の持ち主の誰かがプログラムを改変した可能性があります』
改変のせいで機能が暴走を繰り返し悲劇を生み出す。いつの世も馬鹿のせいで誰かが被害を受ける。責任を追及しようにもガイコツ相手に損害賠償は出来ない
『厄介なのは持ち主に対する性質の変化であり、一定期間蒐集がないと持ち主を蝕み、完成したら所有者の魔力を際限なく使わせます。無差別破壊のためだけに』
今までの歴史で生き残った者はいない、それは11年前の出来事を経験しているリンディにとって忘れることが出来ない記憶である。文末には最前線で戦う少年・少女に向けて激励の言葉が並び、彼女も頬を叩いて気合を入れると地球にいるエイミィから緊急通信が舞い込んできた
今も小さいけど幼稚園に通っていた頃から『秘密基地』に憧れた。自分の部屋はあったけど狭い空間に好きなものを詰め込むのはおもちゃ箱みたいでワクワクする。着ている服を脱ぎ捨ててもお菓子を食べても怒られない自分だけの世界を持つのが夢だった
誠の『四次元マンション』は高町なのはが求めていた理想の空間だった。好きなように彩ることが出来る最高の場所で何をしても許される桃源郷である。他人のモノだから羨望の眼差しで憧れてしまう。だって魔法少女で人間だもの…………そして彼女は
「次に変なことを言ったら顎からいくぞ!」
「だって~」
別に喧嘩ではない、彼らは小学生なので地球に戻ってからは学校に通うのが当たり前だ!誠は日々のトレーニングがあるので寒くても布団の外に出るのは容易だが彼女は違った。母親や兄姉に起こされるまでベッドの上で毛布に包まってしまう
朝はゆっくりしたい、寒い日は暖かい毛布を手放したくない、家と学校が近かったらもっと寝ていられるのに、そこで彼女は『四次元マンション』を中間地点にしようと考えた。自室⇋『四次元マンション』⇋学校近辺にすればギリギリまで寝ることが出来る。このことを放課後に誠にプレゼンすると彼はなのはを中に招き入れてゲンコツをお見舞いした
「お前が楽をする為の力じゃない!」
「ごめんなさい」
彼だって楽をする。シグナムと出会った時は帰宅するのに遅れそうになったから『四次元マンション』を使ったが緊急措置である。しかし彼女は常に楽を求めてしまったから怒ったのである
「とりあえず訓練場所としては貸すから」
「いいの?」
「外だと誰かに見られるのはマズいし」
なのはの場合は、家族の目があるせいで訓練する場所の確保に困っていた。屋外ならなおのこと気になるので彼の提案は渡りに船であった
とは言っても入退室には誠が必要なので早朝や放課後、休みの日限定だが悩みの種が減ったことに彼女は喜びレイジングハートからも礼の言葉を述べられた
「向こうは隠れながら蒐集してるのか?」
「リンディさんの話だと現場に到着する頃には逃げちゃって、あとはダミーで騙されて」
「それって確実に仮面の男が入れ知恵をしてるな」
「お兄ちゃんにも確かめてもらったけど」
シグナムと出会った時に彼女が剣道場の非常勤講師をしていると口にしていたので、恭也に尋ねてもらったが休職中で記されていた住所には他人が住んでいた
【後手を踏み続けるのはマズイですね!】
「耳の痛い話だねジャックさん………みみ?」
そのとき誠の体に電流が走る。それは相棒と出会う前に仮面の男と対峙したときのことだった
「(釘で目を潰して耳を削いだよな?)」
釘パンチの後に2つの耳を顔から引き千切った。重傷を負った身体を短期間で治す高度な医療があったとしても、失った器官をすぐに再生することは出来るのか?
「どうしたの?」
「なぁ仮面の男に耳ってついていたか?」
「耳?」
その問い掛けに彼女は両手で自身の耳を掴んで首を傾げていたが、レイジングハートが肯定してくれた。その言葉に誠は手を顎に当てて考え込む
「あの時の戦闘を見返す必要があるな、大事なことを見落としている可能性がある」
「何か分かるの?」
「それを調べるんだ!」
先日の映像を確認するためにリンディが借りている部屋に向かうのだが『四次元マンション』で繋いでいないので外に出ると彼女から通信が届く
『ようやく通じた!』
「どうしたんですか?今からエイミィさんの方に…」
『プレシアさんとフェイトさんが仮面の男に襲われて魔力を―――』
リンディが言い切る前に、誠は身体強化を施すと隣りで現状を理解していない彼女をお姫様抱っこで持ち上げるとアスファルトを砕き電光石火のスピードで目的地に向かった。道中でなのはが叫んでいたが気にすることなく鍛え上げた筋肉に鞭を打つ
「師匠!」
「フェイトちゃん!」
道中で水上を走りズボンが濡れていたが、彼は泣いているアリシアの横でソファで寝かされていたプレシアに駆け寄った。
「ごめんなさい……私もフェイトも不意をつかれて」
「喋らなくていいですから」
「ママ…死んじゃやだよ」
「大丈夫よアリシア!……ねぇフェイトは無事?」
その言葉に頷くと安心したプレシアは目を閉じた。心音や呼吸する音が聞こえるので命に別条はない、フェイトの方も同様でなのはが手を握って涙を流している
「アリシアちゃんと……コンビニに行って」
「アースラで回復させることって?」
「魔力を蒐集されただけなら寝て休んでいれば回復するから」
誠の住む部屋で4人暮らしは不自由なのでテスタロッサ家の3人はリンディのはからいによって、地上拠点の隣に部屋を借りて荷解きをしていた。エイミィたちが出掛けた直後に2人は襲われたのである
「エイミィさん少し席を外します」
「ちょっと誠君!」
彼女の制止を振り切って彼は外に出ると屋上まで浮遊し降り立った
【マスター?】
「怒りは簡単に引き出せる身近なエネルギーなんだ!でも自分の大切な人を無差別に傷つけてしまう諸刃の剣だって」
それは木刀を振い始めた頃に恭也から言われたことだった。怒りに身を任せれば能力以上の力を引き出して敵を叩きのめすことが出来るが剣の道に反する行為である。別に誠は剣道家でもなければ彼の弟子でもない
「言いたいことは分るよ!『心』が重要なんだって」
【デバイスの私に『心』は分かりませんが、マスターの気持ちは分かります】
「ジャックさん、俺は不器用で恭也さんのように振舞えない……だから」
彼は雄叫びをあげながら全力全開で魔力を開放した。近くにいた鳥たちは逃げるように羽ばたき犬猫も狂ったように騒ぎだす。誠の叫びに呼応するように地球が震えるように感じた。この瞬間だけは感情的になろう!今は怒りを外に放出させて冷静になろう
【落ち着きましたか?】
「大丈夫だ!すっとした。柱の男に感謝をしないと」
【誰ですか柱の男って?】
「戦闘潮流は男のバイブルなんだよ」
彼が好きなのは2部と7部である。しばらくするとアースラ組の2人が降りてきたので部屋に戻った
「アルザス地方?」
「そこには竜を使役するル・ルシエという少数民族がいたの」
「過去形ってことは…」
「そこも襲撃されて竜の巫女を人質にとられてしまって、守護竜たちも殆ど消されてしまった」
以前よりも苛烈に、そして手段を選ばない蒐集に全員が憤りを隠せなかった
「エイミィさん仮面の男との戦闘映像を出せます?」
「こんな時になにを!」
「任せて!モニターに出すよ」
彼女がパネルを操作するとフェイトと戦うシーンが再生された。やはり顔には耳が2つある
「いったいこれを見て何が分かるんだ!」
大声で叫ぶクロノを無視しながら映像を何度も巻き戻して再生を繰り返す
「やっぱり変だ」
「何がだ?」
「俺は右目に釘を刺した!なのに何で右からの攻撃を簡単に躱すことが出来るんだ?」
映像に映る仮面の男は右側面から高速で飛来するフェイトの攻撃を楽に避けている。まぐれと思いきや何度も容易く
「そんなの治して…」
「釘バットに使っていた釘って、春に打ち込んで少し錆びていたんだ」
梅雨の時期や湿度の高い8月に屋外に出していたので釘には茶色い錆が浮かんでいたのだ
「粘膜にそんなヤバい代物を刺して簡単に治せるほど医学は発展してるのか?それに耳だって1から再生してる」
「ロクゴウ君まさか?」
「仮面の男は複数いる。俺が倒したのはその1人ってことだ」
彼の導き出した結論は分かったが、次へ進む道が分からなくなってしまう。仮面の男が個人ではなく組織で動いていることが分かっただけでも前進した
「僕はもう1度グレアム提督のところに行きます!」
クロノが姿を消してしまい解散となった。もしもの為になのはを自宅まで送り届けると彼は広くなった自宅に戻った
「ジャックさん」
【なんでしょうマスター】
「俺の生き様を最期まで見届けてほしい」
【承知しました。主様】
覚悟を決めた誠に迷いはない!クリスマスが近づく世の中サンタクロースに願うプレゼントは大切な人たちが笑って暮らすこと、赤いバリアジャケットを纏う彼はサンタになれるだろうか?
ゲームに登場したシュテルたちを出したいけど、StrikerS編まで考えると難しい
感想ありがとうございます(おまちしてます)
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