「…はぁ〜」
雪がちらつく寒い夜だった。久々に我が家へ帰宅することが出来た彼は食洗機の中に放置されていたグラスの埃を払って水洗いをすると、かつて共に戦った仲間から贈られた洋酒と気の抜けた炭酸水を冷蔵庫から取り出した
長年使っているせいか座っている椅子の金属部分が錆びついて不快な音を奏でるが気にすることはなくなった。彼は机の上に置かれた写真立てに飾られた集合写真に目を向けた
「もうあれから22年か…」
一気にグラスの中を空にして目を閉じると昔のことが思い浮かぶ、あの時も今日と同じ雪が舞い落ちそうな曇天が空を覆っていた
仮面の男から襲撃を受けた親子はフェイトの方が早く回復した。どうやら肉体と同じように加齢による衰えは魔力回復にも及んでくる。現在は高町なのはと共に『四次元マンション』にて母親の下でトレーニングに励んでいる……そして彼は
「どこに行くんだい?私の散歩コースはこっちだよ!」
「へいへい」
「返事は1回」
アルフの散歩をしていた。なのはをお姫様抱っこした時に無茶な動きをしたせいで体が悲鳴をあげてしまった
「私そんなに重くないよ!」
体重は自己申告なのでサバを読むことは出来る。休養を兼ねての散歩でありフェイトからアルフのことをついでに頼まれたのである。もちろんビニール袋とスコップは手に持っているので周囲から怪しい目で見られることもない
「(なぁ少し聞いてもいいか?)」
「(答えられる範囲で)」
子犬モードのアルフからの念話に反応した彼を見て彼女は歩幅を狭めてゆっくり歩きはじめた
「(どうして鬼ババァたちのことを助けたんだ?)」
「(鬼ババァって)」
せめて熟女と呼びなさい!それが出来ないのであれば魅惑のお姉さんだ!
「(別に助けようとして動いた訳じゃないし、命の珠がアリシアに反応して拾ったジュエルシードで師匠の病気が治っただけだ)」
「(ロストロギアを簡単に手渡す方がおかしいって!治ったなら追い出すだろ?全くの赤の他人だ!見捨てても咎める奴なんていない)」
「(魔法を習いたい目的もあったしギブアンドテイクかなって)」
「(ってか!あたしと戦った時はズブの素人だったのか、大変だったんだぞ臭いが染みついて入浴剤を全部使ってボディソープも空になったんだ)」
当時のことを思い出して怒りがこみ上げてくるが既に謝っているので怒るに怒れない、拠点として使っていたホテルの風呂場は、シュールストレミングと入浴剤の混ざった臭いのせいで使えず銭湯へ繰り出していた
「(あの臭い缶詰ってまだあるか?)」
「(食べるの?)」
「(食うかボケ!筋肉狼にも効いたんだ持っていて損はないだろ)」
対人・対獣に効果抜群なシュールストレミングを一家に1グロス!【夜天の魔導書】の騎士たちに襲われたら投げつけよう
「あっ!ロクゴウ君」
もう彼のことを「くにづか」と呼んでくれる人は存在しないのか?下の名前を間違えないでくれるだけでもありがたいと思おう。声が聞こえる方に顔を向けると月村すずかとメイドのファリン・K・エーアリヒカイトが近寄ってきた
「お嬢様、殿方の名前は正しく」
「もういいですよ、訂正しても無意味なので」
苦しくないけど涙が出ちゃう。だってメイド服の美少女を拝めるだけで明日も頑張ることが出来るから
「犬なんて飼ってたっけ?」
「近くにテスタロッサ家という人たちが越してきてね、荷解きが大変だったから代打起用」
「へぇ~」
「そこの女の子が近いうちに俺たちの所に編入するから、高町に聞いてみるといいよ」
立ち話が長くなりそうだったがファリンが制してくれた。月村は図書館で友達になった女の子が入院した知らせを耳にしたので、お見舞いに向かう途中だった
「足の病気で不自由なんだ」
「その子って関西弁で話す?」
「知ってるの?」
どうやら件の相手は彼が以前助けた『八神はやて』だと判明した。彼女から一緒に行こうと誘われたがアルフを病院に連れていくことは出来ない、彼も女子会を邪魔するほど野暮なことはしない
別れの挨拶をする時にメイド服の彼女に頼みこんで1回転してもらった。ロングスカートが髪の毛と共に軽く揺らめく姿は神々しい、多分だけど黄金長方形の軌跡で回転していると断言できる
「(あんな子が好みなのか?)」
「(否定はしないが少し違う、好みの1つだな)」
クマ吉くんから『変態という名の紳士』を襲名しても問題無い素質の持ち主だと思う
「(あの小さい子から血の匂いがしたんだが)」
「(乾燥しているし鼻血でも出したんだろ)」
「(そうか?)」
散歩を再開した誠だが強い力で引っ張られペットショップに辿りつくと、1番高いドッグフードをねだられてしまった。渋る彼にアルフは
「(フェイトと一緒にメイド服は?)」
「(交渉成立だ!)」
主を取引の材料にしたヤンキー使い魔、己の欲望の為には手段を選ぶことはしないのであった
「ありがとうございます。母さん」
「成長したわねフェイト」
トレーニングを終えた娘に飲み物を渡すプレシアはハンカチを取り出した。もう少し近くに寄るように手招きをするとフェイトの顔に付着した汚れを優しく拭き取る
「なんかくすぐったいな」
「フェイト…素敵な友達ができたのね」
「はい…なのはと出会って、光が差し込んで」
「大事にしなさい、私みたいにならないこと」
仕事に明け暮れ旦那と離婚し孤独な日々を過ごしてしまった。フェイトやアリシアにはそんな轍を踏んでほしくない、誰かと結ばれいずれ母親になる。そのときは自分はお婆ちゃんになるけど孫バカになってしまうんだろうと思ってしまう
「それで彼女はいつまで目を回しているのかしら?」
「さぁ?」
高町なのは天井に頭をぶつけてしまい目をグルグルと回転させて伸びているのであった
「トレーニングは順調?」
「問題無いわ!それにしても日本の漫画には驚かされるわね」
「この詠唱を考えた人って凄いよ」
彼女たちから見て漫画やアニメで用いられる魔法の詠唱呪文は目から鱗が落ちるものだった。韻の踏み方はもちろんのことで、文字に秘められた意味を理解することで威力を高めることが出来る
この部屋には誠がゲオのレンタルコミックで借りた漫画が散乱し、騎士たちとの戦闘で使えそうな魔法を模索しながら手札を増やしていった。ちゃんと経費で落としてくれた
「世間はもうすぐクリスマスなのに、俺たちにサンタクロースはやってくるのかな?」
「サンタクロース?」
どうやら赤い服の夜勤労働者のことを知らないみたいだ!彼はフェイトに簡単な説明をする
「これが全部終わったらみんなで祝おうよ!」
「年内で終わってくれれば最高だな」
「アリシアは何を欲しがるかしら?」
「今度はペットが欲しいって言うかもね」
物騒でクソったれな事件を片付けて、皆でドンチャン騒ぎで楽しもう。頑張った人たちにはご褒美が必要なのだ!
「ところで高町はなんで倒れているんだ?」
結局のところ彼がまた彼女を家まで送り届け、恭也からケーキの詰め合わせを貰ったのでテスタロッサ家にプレゼントしたらサンタ認定されてしまった
【バリアジャケットが赤ですから】
「俺にプレゼントくれる人はいるのかな?」
出来ればミニスカサンタが来てほしいと願うのであった
フェイトの編入は問題なく行われた。年末ギリギリの美少女転校生にクラスは大いに沸いたが、月村とバニングスが場を治めてくれたので騒動にはならなかった
仲良しトリオに彼女が加入しカルテットになった。クラスの面々もフェイトが日本に馴染めるように奮起した。こういった時の団結力はどこにも負けない自信があるのだ!
「クリスマスも病院なのか」
「うん…それでね、お見舞いも兼ねてはやてちゃんにプレゼントをあげようと思うの」
八神はやての病状は深刻でクリスマスと大晦日と正月を病院で迎えることになった。月村は彼女に元気になってもらおうと考えている
「ロクゴウ君も面識があるでしょ」
「荷物持ちとして従事させてもらいます」
クリスマスイブの日に向かうことが決まり、月村・バニングス・高町・フェイトに誠を加えた5人が病院へ向かうことになった。5人は多いと思うが
「賑やかな方が良いでしょ!」
アリサの鶴の一声で決まってしまった。なお贈るプレゼントは今日の放課後に女子4人で決めることとなり、ハブられた誠はジャックドールに慰めてもらうのであった
近づくクリスマスイブは波乱を巻き起こす一大イベントになる。彼女たちの邂逅は忘れもしない長い夜を迎えるのであった
フェイトがある漫画の影響で新魔法を覚えます
私の好きな詠唱呪文です
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