これまでプレシア・テスタロッサの人生は波乱万丈だった。事故で娘を失い狂気に満ちた研究に心血を注いで最期は全てを失ったと思えば目を覚まして1時間もしないうちにアリシアは生き返り自身の病も治った
「ママ抱っこ〜」
甘えてくる娘を膝の上に乗せて頭を撫でてから櫛で髪の毛を梳かしていく二度と叶わないと思っていた母娘の触れ合いは失っていた時間を取り戻す
「……すぅ…ん」
3時のおやつを食べた後に母親の体温に心地良い感覚に陥ったアリシアは瞼は落ちてしまい赤ちゃんのように寝息を立てる。背中を軽くポンポンっと叩きながら胸に伝わる鼓動は母親の活力となって奮い立たせる
「そろそろ帰ってくるわね」
時計の針はもうすぐ4時を示す頃だった。自分たち母娘を救ってくれた少年が授業を終えてスーパーに寄ってから帰宅する。彼を弟子にしてから2週間以上経過したが自身の想像を超えた魔力の使い方を披露している
「こんな格好で料理をするなんて変ね」
買い物帰りに立ち寄った本屋で見かけた雑誌のことを思い出し、抱いていたアリシアをソファの上に寝かしてブランケットを掛ける
「世界が違えば文化も違うものだわ」
かつて暮らしていた世界ではこんな趣向は存在しなかった。何故この世界の男性はこんなことで興奮するのだろうか?別れた元夫にも問いただしてみたいが通信手段が無い、タンスの中から必要な衣服を取り出した彼女は着替えを始める
「(なんか毎日が充実してるな)」
ランドセルを背負う誠だがスーパー帰りなのに買い物袋を持っていなかった。余計な荷物は『四次元マンション』の中に入れてしまえば手ぶらになる。容量の制限はあるが重量は関係無いのでスキルを日常の生活を楽に暮らす為に使っている。命の危険があるとしたら高町兄妹とのトレーニングぐらいだけなので今までより気分は楽である
「(しかし『縮小』って戦闘向きじゃないよ)」
プレシアの授業を受けてから彼は新たな魔法を体得した。読んで字のごとく物体の体積を小さくするもので直径3メートル以上の大岩がパチンコ玉のサイズまで『縮小』し元のサイズに戻すことが出来るが『拡大』が出来ない、云わばドラえもんのスモールライトである
だがこれで『四次元マンション』に大型の荷物を搬入することが可能になった。今まで壁や地面に作る入口のサイズを大きくすることが出来なかったが、物体を小さくすれば分解することなく入れることができる
「(引越しするには便利な能力だよな」)」
なお生き物を『縮小』することは不可能で、高町家が経営する翠屋のケーキを手に持ったアリシアは小さくなってお腹いっぱい食べる夢が無残にも砕け散ってしまい、プレシアから『拡大』を覚えるようにハッパをかけられた
「(今日は何を教えてくれるんだろう……ん?)」
5月下旬に起きた自然災害で海鳴市は被害を受けたが行政と民間が迅速に動き復旧が進んでいる。しかし未だに手つかずの場所もあり道が荒れている場所もある
「あかん……やってもうた」
少し沈んだ調子で関西弁を喋る少女は足元を見て溜息を吐いてしまう。車椅子に身を収める彼女は力を籠めて車輪を回そうとするが溝にハマった車輪はビクともせずに動かない、
「やっぱシャマルについてきてもらうべきやったわ、すぐそこやから油断してもうた」
少し声の大きな独り言を口にした少女はポケットから携帯電話を取り出して起動ボタンを押すがディスプレイが暗いままである
「うそ!こないなときに故障なんて………どないしよう」
ムンクの叫びのように絶望した表情を作り天に向かって声を高々にあげる
「(遅くまで帰らんかったら流石に気付くと思うんやけど、このままで待つんのはちょっと……誰かに手を借りんと…)」
左右に視線を向けるが誰もいなかった。数えるのを忘れた特大の溜息を吐いて車椅子の中で頭を抱える彼女は目頭に涙を浮かべていると
「掴まってて!今出すから」
後ろから声を掛けられ”ビクッ!”と身を縮こませると浮遊感が体を包み込む
「ちょ……わっきゃ」
叫んでから数秒後すぐに浮遊感は無くなり車輪が地面に接地されたことを実感する。彼女は後ろを振り向くとランドセルを背負った男と目が合う
「いきなりでごめんね!前の方から声を掛けるべきだったかな」
「いえ! 助けてくれはってありがとうございます」
脱輪していた車椅子を戻して平坦な道まで送ると、彼女は器用に回転して誠の方を向いて頭を下げて改めてお礼の言葉を口にした
「(骨折?いやギブスはしていないし)」
「どうしたんですか?じろじろ見て」
「怪我をしてるのか?」
少しデリカシーの無い言い方だと思ってしまった。もう少しオブラートに包むべきたと悔やんだ!しかし彼女は彼の質問に対して慣れているような口ぶりで
「あっ!いや…下半身が麻痺してもうて、わたし生まれつき不自由なんよ」
「……ごめん」
「謝んなくてええんや!もう慣れてるさかい、それに今日はかっこええヒーローに助けてもらうことが出来たんやし」
その言葉を放つ口は僅かながら震えていた。不自由な暮らしを受け入れているが100%許容しているわけではない、自分の足で立って歩きたい願望があるのだと思う
「送ってくよ!またさっきみたいなことがあったらマズイでしょ」
「大丈夫やて、いざとなったら携帯で…」
「壊れているのに?」
「………聞こえてはった?」
彼女の言葉に大きく頷いた彼を見て赤面しながら”お願いします”と口にするのであった
「六合塚 誠君か変わった名前やね」
「クラスだと『ロクゴウ』って呼ばれてる」
「わたしはあだ名で呼ばれたことあらへんし、憧れるわ」
「八神はやてだから『ヤガミン』は?」
車椅子の少女は八神はやてと名乗り彼と同い年というのが判明した。学校へ登校することが出来ない寂しさを憂いでいたが家族と慌ただしく毎日騒いでいるので問題無いと豪語している
「しかしホンマに助かった」
「困ったときはお互い様でしょ」
「じゃあ誠君が困ったときは家族総出で助けるで」
「首を長くして期待してるよ」
何気ない会話で笑いながら歩いていると
「はやてちゃ~~ん」
前方から金髪の女性が駆け寄ってきて彼女の名前を叫び車椅子の前で止まった。長く走っていたのか肩で息をしながら呼吸を整える度に胸が揺れている
「やっぱり私も一緒に……えっと…その子は?」
「わたしを助けてくれた誠君や!」
「家族の人?」
彼の言葉に頷いたはやてを見て金髪の女性と位置を入れ替えた。身内が来たのなら自分はお役御免と理解したので別れの挨拶をしようとするがイタズラ心が芽生えた
ランドセルを地面に置いて中身を探しているフリをしながら、2人の死角で『四次元マンション』の入り口を作って手を差し込んだ
「ちょっと手のひらを出して」
「こうか?」
彼女が両手を広げたので誠は握り拳を作って乗せると
「(戻れ!)」
「えっ……ちょっとなに!」
手のひらの上にクレーンゲームで獲得した『のろいうさぎ』が姿を現し2人が驚いた表情で彼のことを見つめている
「種も仕掛けもある手品ってね、ダブってるからあげるよ」
「ありがとう」
「……………………」
手を振りながら彼を見て彼女は影が小さくなるまで同じように手を振り続ける。しかし金髪の女性は誠のことを訝しげに見つめ眉間に皺を寄せているのであったが誰も気づいていない
「遅くなりました!」
自宅のドアを開けると台所からまな板と鍋の沸騰の音が聞こえてくる。プレシアが調理場に立っていると思った彼はスーパーで購入した食品を入れた袋を取り出す
「いったい何をつく……うぇ!」
「あらおかえりなさい」
確かに台所でプレシアが料理を作る為に立っていたが格好が裸エプロンだった!
裸エプロンそれは男の憧れ
裸エプロンそれは人類の叡智
裸エプロン嫌いな奴がいたらそれは異端者
「もうすぐパスタが出来るからアリシアを起こして」
「いったい……どうして」
「?この世界ではこれが正装なんでしょ?」
彼女に間違った知識を与えたのは誰だ!美味い酒を飲みながら朝まで裸エプロンについて語り合おうではないか
背中側から見るとブラジャーはしていないが薄いレースのパンツは穿いているので、厳密には裸エプロンではなく下着エプロンであるが誠にとって些末な問題でしかない、
「(神様ありがとう!)」
多分この世界に来て初めて神に感謝したと思う。しかし毎日これだと有り難みが薄れてしまうので、改めて正しい知識を伝えると
「そう……でもどうして興奮してるの?」
「プレシアさんが魅力的だからです!」
全部が見えないから興奮する
隠れているから扇情的である
敢えてパンツのみだから最高なのだ!
「今日も食べてから授業をするから」
「分かりました」
彼女に弟子入りして本当に良かった!最高の師匠だと断言出来る。確かに授業は苛烈で大変だけどメリハリがある。気持ちを切り替えることが出来る。目の保養になる
彼の実力は更にレベルアップするのであった
プレシアの裸エプロン最高です
嫌いな人なんていないよね?(真顔)
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