ストレンジャーの奇妙な冒険 — Doggy god’s street   作:ヨマザル

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別離

 図書館の空気は、

 朝と昼の境目のように静かだった。

 

 カリは新聞の束を抱え、

 閲覧席に腰を下ろした。

 指先がまだ少し震えている。

 紙の匂いが落ち着く。

 深呼吸。

 最近の事件を、丹念に追っていく。

 

 ──「ニューヨーク州モントーク:UFOの目撃談相次ぐ」

 ──「フリーランスライターが、メイン州サイレントヒルでUFOに攫われたと主張」

 

「何だそれ?」

 あきれ顔になったカリは、次の記事を読み、眉をひそめる。

 ──「インディアナ州、ホーキンズ研究所:ホワイトハウスが制限区域に指定」

 

 丹念にその記事を読んでから、新聞記事の検索を再開する。

 やがて、ある日の第一面の隅に、

 小さな記事を見つけた。

 ──「研究施設職員、相次ぐ不審死」

 ──「米軍関係者、現場周辺で目撃」

 ──「遺体の損壊激しく、身元特定難航」

 

 眉がわずかに動く。

 ページをめくる。

 ──「研究員カミンスキー博士、死亡認定へ」

 ──「同僚の失踪と関連か」

 

 胸の奥が、

 ひどく静かに痛んだ。

「……あんた……

 やっぱり死んでたんだ」

 

 独り言は紙の上に落ちて消えた。

 別の欄に、妙な記事があった。

 ──「研究施設周辺で“触手のようなもの”を見たという証言、散歩中の58歳英語教師が」

 ──「壁の隙間から“生き物の目”のようなものが覗いていたと、近所のうわさに」

 

 カリは眉をひそめた。

(……触手? 目?)

 

 ページをめくると、さらにくだらない記事。

 ──「吸血鬼の噂、再び」

 ──「夜間に人影が壁を這うのを見たという住民の証言」

 カリは鼻で笑った。

「……吸血鬼ね。

 ほんと、暇な人たち」

 だが、

 胸の奥がわずかにざわついた。

(……壁を這う影……

 太陽の光で倒れた……

 あの動き、声とニオイ……

 あの……“芽”みたいな、“触手”みたいな……)

 

 思考がそこまで進んだ瞬間、

 カリは自分で首を振った。

(……なぁんてね。

 吸血鬼なんて、馬鹿らしい)

 記事を閉じた。

 

 席を立つ。

 窓の外はもう昼に近い。

 街の音が、

 いつもの日常に戻っていた。

 カリは肩を回し、

 深く息を吐いた。

「……戻るか。

 みんな、心配してるだろうし」

 足取りはまだ少し重かったが、

 迷いはなかった。

 

 カリは扉を押し開け、

 光の中へ歩き出した。

 

 

 ────────────

 

 礼拝堂の蝋燭が、細く揺れていた。

 金髪の男と、黒衣の聖職者が並んで立っていた。

 ステンドグラスの向こうで、

 朝の光がわずかに差し込んでいる。

 だが、

 金髪の男は決してその光が届かない位置に立っていた。

 

 聖職者が静かに言った。

「……この間、君が『トモダチ』になった男、結局……米軍に消されたらしい」

 蝋燭の火が、わずかに揺れた。

「ケッサクな話なのが、そのとき、君の『肉の芽』が『トモダチの友達』に乗り移ったらしい」

 

 金髪の男は、

 ゆっくりとワイングラスを傾けた。

 赤い液体が、

 唇に触れた瞬間──

 白い犬歯が、

 ほんの一瞬だけ覗いた。

 聖職者は気にもとめなかった。

 金髪の男は目を細めた。

「ああ、感じていたよ。その男も『トモダチ』になってくれたようだ」

 

 聖職者は蝋燭の火を見つめた。

「その新しい『トモダチ』……博士は……自分の“肉の芽”に興味を持った。

 だから、君は……」

 

 金髪の男は肩をすくめた。

 その拍子に、

 手に持っていたグラスが小さく割れた。

 細い破片が掌を切ったが──

 血は一滴も落ちなかった。

 傷口は、自動的に縫い合わされた。縫い目は瞬時に消える。

「少し試しただけだ。

 屍生人(ゾンビ)を動かし、

 ついでに“あの女”に向かわせた」

 

 火が揺れ、影が壁を這った。

 聖職者は男の横顔を見上げた。

 その 首元には星型の痣。

 耳には三連のホクロ。

「……だが、スタンド使いではなかった。

 興味は失せたよ」

 聖職者は静かに頷いた。

「無駄骨だったな」

 金髪の男は、

 ほんのわずかに笑った。

「無駄骨でも……

 興味深い“試み”ではあった」

 

 蝋燭の火が、

 その言葉に応えるように揺れた。

 聖職者が問う。

「……で、次は?」

 

 金髪の男は答えない。

 ただ、

 ステンドグラスの光が届かない影の中で、

 赤い液体をもう一度口に含んだ。

「ところで──」

 

 その先は、

 蝋燭の揺れに飲まれた。

 礼拝堂は静寂に戻り、

 影だけがゆっくりと伸びていった。

 

 

 ────────────

 

 ニューヨークの裏路地は、

 昼でも薄暗かった。

 ゴミ箱の影が伸び、

 遠くでサイレンが鳴る。

 その奥から、

 ひとつの影が歩いてきた。

 

 Dawg(ドーグ)だった。

 足取りは迷いがなく、

 風の匂いを切り裂くように進む。

 

 路地の奥で、

 三匹の野良犬がこちらを見た。

 一瞬、身構え──

 次の瞬間、

 耳を伏せて頭を下げた。

 

 Dawg(ドーグ)は立ち止まらない。

 ただ、横目で一瞥しただけだった。

 それだけで十分だった。

(……帰ったぞ)

 声にはならない。

 だが、路地に潜む臣下(なかま)達に緊張が走るのが、わかった。

 

 Dawg(ドーグ)は路地を抜け、

 ビルの影の中へ消えていく。

 その背中は、まるで──

 帝王が、自分の王国に戻った

 そんな様子だった。

 

 影が伸び、

 街のざわめきに溶けていく。

 風がひとつ抜けた瞬間、

 Dawg(イギー)は小さく鼻を鳴らした。

(……しかしアイツも、なかなかの bitch(ビッチ) だったな)

 誰にも聞こえない、

 風に紛れた独り言。

 それだけ残して、

 Dawg (イギー)は街の奥へ消えていった。

 

 その背後で砂が動き、Dawg (イギー)の足跡を消していった。

 

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