ウォールナットの暗号化ログ   作:アラン・リコリス

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大人達の反撃その1

山梨県、某山中。

 

日本国の治安を裏から支配する秘密組織、DA(Direct Attack)の巨大な地下本部。

 

その最深部に位置する司令官室の巨大モニターには、現在、日本国の『表』の武力機関のトップたちの顔が、分割画面でずらりと並んでいた。

 

防衛省・統合幕僚長。

 

警察庁長官。

 

そして、海上保安庁長官。

 

普段であれば、彼ら表の組織のトップが、存在しないはずの影の組織であるDAの司令官と公式にリモート会議を行うことなどあり得ない。だが、本日未明に発生した「事態」は、楠木司令の胃袋を完全に崩壊させるほどに、常軌を逸していた。

 

「……どういうことだ」

 

楠木は、目の下に濃いクマを作り、ギリッ……と奥歯を噛み締めながら、画面越しの三人のトップを睨みつけた。

 

「関東近郊の廃演習場において、昨夜から今朝にかけて、大規模な軍事行動の痕跡……いや、地形そのものが変わるほどの破壊活動が確認された。ラジアータの衛星画像によれば、貴方たちの管轄する部隊が、一斉に、かつ当組織(DA)に一切の事前通達もなく展開していたようだが」

 

楠木の追求に対し。

 

画面の向こうのトップたちは、示し合わせたように極めて涼しい、そしてどこか『やり遂げた男たちの清々しい顔』で答えた。

 

「演習です」

 

統合幕僚長が、お茶をすすりながら淡々と答えた。

 

「は……?」

 

「陸上自衛隊および海上自衛隊の、練度向上のための『対テロリズム・市街地掃討合同演習』です。元々あそこは自衛隊の演習場ですからな。実弾を使用する訓練スケジュールが、たまたま昨夜組まれていた。それだけのことですが、何か問題でも?」

 

「たまたまだと!? では、警察庁はどうだ! SATのみならずSIT、機動隊の装甲車両まで数十台規模で展開していたようだが!」

 

「適切な警察力の行使です」

 

警察庁長官が、ふんぞり返って答えた。

 

「近隣住民から『夜中に山から大きな音がする』という通報(※自衛隊の戦車砲の音)がありましてな。我が国の優秀な警察官たちが、不審火および騒音の確認、並びに付近の交通整理という『適切な警察業務』に当たったまで。……貴方方DAの、秘密の暗殺業務には一切迷惑はかけておりませんよ?」

 

「……では、海上保安庁はなんだ! あそこは山奥だぞ! なぜ海保の特殊部隊(SST)までヘリで空から降下している!!」

 

「山に落ちた海鳥の保護活動です」

 

海上保安庁長官が、一切の躊躇なく、真顔で言い切った。

 

「…………はい……?」

 

楠木の口から、完全に魂の抜けた、間の抜けた声が漏れた。

 

海鳥。山奥に。SSTがフル武装で。

 

もはや、言い訳を取り繕う気すらない。完全にDAをコケにしている。

 

「……貴様ら」

 

楠木は、バンッ!とデスクを叩き立ち上がった。

 

「真島だろ! あの演習場に潜伏していたのは、旧電波塔と延空木を破壊したテロリスト、真島の残党だ! 奴らを狩るのは、我々DAの専権事項の……」

 

「おや、楠木司令。それはおかしいですな」

 

統合幕僚長が、ニヤリと笑った。

 

「真島などというテロリストは、昨夜の演習場には『一人も存在していません』でしたよ。我々が実弾射撃の的にしたのは、あくまで訓練用のポップアップ・ターゲット(動く的)と、不法投棄されたゴミ(武器を持った密入国者)だけです」

 

「そうそう。我々警察が保護したのは、山でサバイバルゲームをしていて迷子になった、身元不明の哀れな民間人数十名だけですから。……DAが出張るようなテロ事件など、日本国には一切発生しておりません」

 

警察庁長官も、白々しく同調する。

 

「なっ……」

 

楠木は、絶句した。

 

彼らは、DAの存在意義そのものを、合法的なお役所仕事のロジックで『完全否定』しに来たのだ。

 

「いつまでも、後ろの連中(女子高生)にデカい事件の主役を取られてたまるか」

 

「俺たちをただの事後処理班(お掃除係)扱いしてきた恨み、思い知らせてやる」

 

三人の長官の目には、テロリストを憎む正義感など微塵もない。

 

ただひたすらに、DAという影の組織に対する、長年の嫉妬、ルサンチマン、そして『国家の正規部隊としての、本気の意地(大人気ない腹いせ)』だけがギラギラと燃え盛っていた。

 

「……本日の会議はこれまで。我々は事後処理(祝勝会)で忙しいのでな」

 

「いやぁ、たまには各省庁で連携を取るのも良いものですな! ガッハッハ!」

 

ブツンッ。

 

一方的に通信が切断され、巨大モニターが暗転した。

 

「……………………」

 

静寂に包まれた司令官室で。

 

楠木は、プルプルと震える手で引き出しを開け、リリベルの虎杖司令から送られてきた『最強の胃薬』のボトルを取り出した。

 

そして、中の錠剤を手のひらにジャラジャラと出し、水も飲まずに一気に口の中に放り込み、ボリボリと噛み砕いた。

 

「……日本の治安維持組織は、完全に狂っている……ッ!!」

 

楠木の血を吐くような絶叫が、山梨の地下施設に虚しく木霊した。

 

 * * *

 

時間を、昨夜の真夜中へと巻き戻す。

 

関東近郊、廃演習場。

 

テロリスト・真島は、部下のジンが死に物狂いで掻き集めた資金で、海外の民間軍事会社(PMC)の傭兵部隊を約百名ほど応援として雇い入れ、万全の態勢を整えていた。

 

「へっ……。来るなら来い、DAの犬ども。今度こそ、お前らのその赤い制服を、完全にハチの巣にしてやるからな……」

 

真島は、アサルトライフルを構え、異常聴覚を澄ませていた。

 

PMCの屈強な傭兵たちも、最新鋭のナイトビジョンを装備し、塹壕を掘って完全な迎撃態勢を敷いている。これだけの火力と人数があれば、たかが数十人の女子高生(リコリス)の部隊など、一網打尽にできるはずだった。

 

――そう、彼らは『リコリス』が来ると思い込んでいたのだ。

 

だが。

 

彼らの耳に届いたのは、少女の足音ではなく。

 

上空から響く、空気を切り裂くような、複数の大型輸送機の爆音だった。

 

「……あ? なんだ、飛行機……?」

 

真島が見上げると、月明かりを背にして、航空自衛隊の『C-2輸送機』の編隊が、演習場の上空を通過していくのが見えた。

 

次の瞬間。

 

空から、無数の黒い影が、パラシュートを開いてボロボロと降ってきた。

 

『降下! 降下! 降下!』

 

「な、なんだぁっ!?」

 

「空挺部隊だ!! 自衛隊の、第1空挺団だ!!」

 

PMCの傭兵の一人が、ナイトビジョン越しにその姿を確認し、絶叫した。

 

日本唯一の落下傘部隊であり、自衛隊最強の精鋭集団と謳われる『第1空挺団』。彼らが、重武装のまま、真島たちを包囲するように次々と山肌に降下してくる。

 

「じ、自衛隊だと!? なんでこんな山奥に空挺部隊が降ってくるんだよ!!」

 

真島がパニックに陥りかけた、その直後。

 

ドドドドドドドッ!!

 

演習場の周囲の森をなぎ倒し、地響きを立てて現れたのは、陸上自衛隊・富士教導団の『10式戦車』の車列。

 

さらに、中央即応連隊の『16式機動戦闘車』が、八輪のタイヤで軽快に斜面を駆け上がり、真島たちのアジトに105ミリ砲の砲身をピタリと向けた。

 

「せ、戦車……!? 装甲車!? おい、冗談だろ!?」

 

真島の顔から、完全に血の気が引いた。

 

だが、地獄のパレードはまだ終わらない。

 

『こちらSAT! 突入準備よし!』

 

『機動隊、大盾展開! 催涙ガス弾、装填!』

 

正面ゲートの方向からは、無数の赤色灯を回した警察車両と、重装甲の特殊車両が雪崩れ込んできた。警視庁SAT、SIT、そして無数の機動隊員たちが、アリの群れのように山を覆い尽くしていく。

 

極めつけは、上空でホバリングする海上保安庁および海上自衛隊のヘリコプターから、ファストロープで次々と降下してくる黒ずくめの特殊部隊員(SSTおよびSBU)たちだ。

 

陸、海、空、そして警察。

 

日本国の『暴力装置の最高峰』が、この名もなき廃演習場に、一切の手加減なしのフルスペックで大集結したのである。

 

「お、おい! 真島!! 話が違うぞ!!」

 

PMCの傭兵隊長が、顔面を蒼白にして真島に詰め寄った。

 

「お前、相手は『秘密組織の女子高生』だって言ったじゃねぇか!! なんだこれは! 日本軍の総力戦じゃねぇか! 俺たちは戦争をしに来たわけじゃねぇ!!」

 

傭兵たちは、戦車の砲身と空挺部隊を前に、完全に戦意を喪失していた。

 

「お、俺だって知るかよ!! 治安出動はどうなってんだ!? 法律違反だろ!!」

 

真島が拡声器を手にして、狂ったように叫ぶ。

 

「おい、自衛隊!! お前ら、国内でこんな勝手な軍事行動……!」

 

『――状況開始(演習スタート)!!』

 

真島のコンプライアンスの指摘など、完全に無視された。

 

ズドォォォォォォォォォォンッ!!!!!

 

富士教導団の10式戦車が、一切の躊躇なく、真島たちのアジトのバリケードに向けて120ミリ滑腔砲をぶっ放した。(※一応、彼らなりの配慮として『演習用の訓練弾』ではあったが、その運動エネルギーだけでもコンテナを吹き飛ばすには十分すぎた)。

 

「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

凄まじい爆発と土砂の雨。

 

真島の自慢の『異常聴覚』は、戦車砲の直近での炸裂音と、空挺部隊が撃ちまくるミニミ軽機関銃の制圧射撃、さらには警察が投げ込む閃光音響弾(スタングレネード)の嵐によって、一瞬にして完全に破壊された。

 

「耳がぁぁぁっ!! 音が、音が多すぎるぅぅっ!!」

 

ピーーーッ、という強烈な耳鳴りしか聞こえない。

 

足音で敵を察知する? 心音で嘘を見抜く?

 

そんな繊細な暗殺者の技術など、この『圧倒的な国家の蹂躙(質量)』の前には、ただの紙くず同然だった。

 

『空挺、前へ! SATに獲物を取られるな!!』

 

『機動隊、押し込め! 海自の連中より先に制圧しろ!!』

 

しかも、恐ろしいことに。

 

突入してきた部隊員たちは、テロリストを倒すことよりも、『他の省庁の部隊に手柄(的)を取られないこと』に必死だった。

 

彼らにとって、この演習場は、長年溜まりに溜まった『DAに対する鬱憤』を晴らすための、壮大なサバイバルゲームのフィールドと化していたのだ。

 

「ふざけんな! やってられっか! 俺たちは降伏する! アイ・サレンダー!!」

 

PMCの傭兵たちは、早々に武器を窓から投げ捨て、両手を挙げて塹壕から飛び出した。

 

『よし、民間人(不法投棄ゴミ)の保護完了! 次、奥の建屋をSATで制圧する!』

 

警察の機動隊が、泣き叫ぶ傭兵たちを次々と乱暴に(しかし嬉々として)手錠をかけて連行していく。

 

「ジ、ジン!! 逃げるぞ!! ここは地獄だ!!」

 

真島は、完全にフラフラになりながら、部下のジンの首根っこを掴んで裏口へと走った。

 

「ま、真島さん……っ! 俺の、俺の稼いだ軍資金が……武器が……っ!」

 

ジンが泣き叫ぶが、真島にはもうどうでもよかった。

 

天秤のバランスを正す? そんな高尚な理念は、戦車と空挺部隊の前では何の役にも立たない。

 

ただひたすらに、大人たち(官僚)の意地と嫉妬のサンドバッグにされているという、テロリストとしてのプライドを木端微塵に砕かれる屈辱。

 

「くそぉぉぉっ!! DA!! あの金髪のガキィィッ!! お前らが大人しく出てこないから、こんな理不尽な目に……っ!!」

 

真島が、裏口から山林へと逃げ込もうとした、その瞬間。

 

『――目標(ポップアップ・ターゲット)、逃走を開始。……各員、制圧射撃、撃て』

 

真島の背後の稜線に展開していた、陸上自衛隊・特殊作戦群の狙撃手たちが、一斉に引き金を引いた。

 

ズドドドドドドドッ!!!!

 

真島の足元の土が、雨あられのように弾け飛ぶ。

 

「ひぃぃぃっ!?」

 

真島は、無様に地面を転がり、斜面を転落していく。

 

頭上を、アパッチ・ヘリコプターが爆音を立てて通過し、サーチライトが逃げ惑う真島の無様な姿を煌々と照らし出した。

 

「うおおおおおおっ!! 俺はテロリストだぞ!! 真島だぞ!! もっと真面目に戦えぇぇぇぇっ!!」

 

真島の魂の絶叫は、戦車砲の轟音と、警察と自衛隊の『お祭り騒ぎ(鬱憤晴らし)』の歓声にかき消され、誰の耳にも届くことはなかった。

 

その直後、真島の逃げ込んだ斜面のすぐ横に、16式機動戦闘車の105ミリ砲弾(訓練弾)が着弾した。

 

ドゴォォォォォォォンッ!!!

 

凄まじい爆風が山をえぐり、土煙が数百メートルの高さまで舞い上がった。

 

その土煙の中に、真島が吹き飛ばされたのか、あるいは辛くも逃げ延びたのかは、誰にも分からない。

 

もしかしたら、彼は文字通り『粉微塵』になって、山林の肥料と化したのかもしれない。

 

だが、確かなことは一つ。

 

日本を揺るがした大テロリスト・真島一派は、DAの「リ」の字も関わることなく、ただの『官僚の憂さ晴らし大演習』の標的として、完全に、そして理不尽に壊滅させられたのである。

 

 * * *

 

それから、数時間後。

 

夜明け前の、廃演習場を見下ろす尾根の上。

 

「……各機、降下準備。光学迷彩、解除。……対象のテロリストの拠点を、隠密裏に急襲……」

 

ファーストリコリス・春川フキをリーダーとする、リコリスの精鋭部隊十数名が、音もなくステルス輸送ヘリからファストロープで降下していた。

 

楠木司令からの「真島らしき拠点を発見した。警察や自衛隊に気づかれる前に、迅速かつ秘密裏に制圧せよ」という(遅すぎる)命令を受け、彼女たちは完全武装で駆けつけてきたのだ。

 

「フキ先輩。ラジアータの反応によれば、この下の盆地が敵のアジトのはずっス」

 

相棒のサクラが、暗視ゴーグルを下ろし、アサルトライフルを構えながら囁く。

 

「よし。真島がいる可能性が高い。各員、気を引き締めろ。……行くぞ」

 

フキがハンドサインを出し、リコリスたちは音もなく斜面を滑り降り、盆地へと足を踏み入れた。

 

――そして。

 

彼女たちは、その場で完全に『石化』した。

 

「……………………は?」

 

フキの口から、間の抜けた声が漏れる。

 

彼女の暗視ゴーグルに映し出された光景。

 

そこは、テロリストの秘密拠点などというレベルのものではなかった。

 

見渡す限りの地面が、戦車砲と爆薬によってクレーターだらけに抉り返され、森の木々はなぎ倒され、かつて施設だったコンクリートの残骸が、くすぶる煙を上げている。

 

まるで、隕石が落ちたか、あるいは第三次世界大戦の最前線のような、完全な『焦土』が広がっていたのだ。

 

そして、その焦土の中心で。

 

「いやぁ、陸自の皆さん! さっきの戦車の突入、見事でしたな!」

 

「ハッハッハ! SATの皆さんのブリーチングも鮮やかでしたよ! どうです、今度うちの第一空挺団と合同で、一杯やりませんか?」

 

「おお、それはいい! 海保のSSTの連中も呼びましょう!」

 

迷彩服の自衛隊員たちと、特殊装備の警察官、海保の隊員たちが。

 

銃を置き、テロリストから押収した(と思われる)高級なレーションや缶コーヒーを片手に、肩を組み合って、楽しそうに『演習成功の打ち上げ(バーベキュー)』を行っていたのである。

 

「……えっ? な、なんスか、これ……」

 

サクラが、ライフルをだらりと下げ、信じられないものを見る目で呟いた。

 

「フキ先輩……。自衛隊と、警察のSATが……なんか、合同でキャンプファイアーみたいなことしてるっスけど……。テロリストは……?」

 

フキは、震える手で暗視ゴーグルを外し、その『日本の正規軍による、大人気ないオーバーキルの惨状』を、裸眼でしっかりと確認した。

 

ズラリと並ぶ10式戦車。

 

山のように積まれた、PMCの傭兵たちが泣きながら置いていった武器の山。

 

そして、「女子高生(DA)に仕事を取られずに済んだ」という、達成感に満ち溢れた大人たちの、清々しい笑顔。

 

フキは、すべてを理解した。

 

DAが影からこの国を支配し、美味しいところ(手柄)をすべて独占してきた結果。

 

表の組織の大人たちが、ついに限界を迎え、DAに対する『当てつけ(本気)』を物理的な火力として爆発させたのだと。

 

(……勝てない)

 

フキの背筋に、冷たい汗が流れた。

 

リコリスがいくら優秀な暗殺者であろうと、銃の扱いに長けていようとも。

 

国家の正規の『暴力装置』が、メンツと嫉妬のために本気で結束し、戦車や戦闘ヘリを持ち出して「これは演習だ」と言い張られたら、もはや手も足も出ない。

 

「……フキ先輩? 突入、しないんスか?」

 

サクラが恐る恐る尋ねる。

 

「……するわけないだろバカ。あんな狂った大人たち(戦車の群れ)の中に、ハンドガン一丁で飛び込んでみろ。『あっ、すいません間違えて演習用の的撃っちゃいました』で、粉微塵にされるぞ」

 

フキは、クルッと踵を返した。

 

「撤収だ。……我々は、何も見なかった。……真島は、山火事か何かで自滅した。それで報告書をでっち上げろ」

 

「り、了解っス……」

 

リコリスたちは、来た時以上の速さで(そして本気の恐怖を抱きながら)、音もなく山を駆け上がって逃げ帰っていった。

 

国家の防衛を巡る、影と表の醜い(そして火力過多な)意地の張り合い。

 

その最大の被害者が、真島という哀れなテロリストであったことは、日本国の極秘事項として、歴史の闇に永遠に葬られることとなる。

 

 * * *

 

その数日後。

 

和風喫茶『リコリコ』。

 

「いらっしゃいませーっ! あ、フキ! サクラちゃん! いらっしゃーい!」

 

千束が、満面の笑顔で店に入ってきた二人のリコリスを出迎えた。

 

「……おう」

 

フキは、死んだような目でカウンターに座った。

 

「どうしたのフキ、なんかゲッソリしてるね。また楠木司令に怒られた?」

 

千束がパフェを出しながら首を傾げる。

 

「……怒られたんじゃない。私が、司令に胃薬を差し入れたんだよ。……千束、お前、この国の大人たちを怒らせるようなことは、絶対にするなよ。……あいつら、本気出すと『戦車』で殴りに来るからな」

 

「えー? 戦車? 何言ってるのフキ、日本は平和だよー!」

 

千束はケラケラと笑う。

 

その奥の隠し部屋で、クルミだけが、防衛省のハッキング映像を思い出しながら、腹を抱えて笑いを噛み殺しているのだった。

 

日本の天秤は、今日も斜め上の方向で、物理的な質量(戦車)によってバランスを保ち続けているのである。

 

 

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