ヤンデレ・曇らせ短編集   作:ヒオキ

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初めての小説です。至らないところあると思いますが、お願いします!


変わりゆく貴方

彼女に優しくしたのは下心でしかなかった。

高校生。そう言ったことに興味津々だ。

だが、仲のいい女友達がいるわけでもなく、かと言ってネットで出会いを求める勇気もない。

 

悶々とした欲望を持て余していた時、ふと隣の席の彼女が目についた。

髪はボサボサで常に俯いてる。

友達と話してる姿を見たことはない。

 

その日もいつも通り、髪をすだれのように俯いていた。しかし、その机には教科書が広げられてない。現代文の授業なのにノート一冊だけがある。

 

忘れたのだろう。現代文の教師は兎に角、音読させるため教科書は必須だ。忘れたのなら他クラスの友達から借りればよいのに。

教師が今日も音読するように席順表を見る。

そして、残念なことに教科書を忘れた彼女が当てられた。

 

彼女はピクッと震える。

 

忘れました、とは言わない。ただ黙っている。

教師が苛立って早く読むように催促する。俺は少し腰を浮かして自分の教科書を隣の彼女に渡す。そして、読むように言われた箇所を指差す。

 

彼女はこちらを一瞬見て、小さい声で音読した。

教師は満足して授業を続ける。彼女は体をこちらに向けて頭を下げた。その時、長い前髪から瞳が少しだけ見えた。綺麗な栗色だ。

 

彼女はすぐに教科書を返そうとしたが、俺は首を振って、そのまま机に突っ伏した。もうすぐチャイムが鳴るし、貸し続けても問題ない。

 

授業が終わり、彼女が席から立って教科書をおずおずと渡した。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「ああ、いいよ。あいつ音読ばっかでうざいよな」

 

俺は軽く笑う。普通の女の子だったら緊張してもう少しぶっきらぼうに答えてしまうが目の前の彼女は明らかに芋っぽくて緊張しない。

 

「なにか、お礼します・・・」

 

「お礼?」

 

教科書を貸しただけで大袈裟だ。

 

「なんでも」

 

きっと友達に何かを借りるなんて事をしたことが無いのだろう。なんでもするなんて女性が言うべきじゃ無いこと言う目の前の彼女はとことんズレていると思った。

 

でも、なんでもと言う言葉が自分の中で反響する感覚があった。全然可愛くないけど絶好の機会かもしれない。

 

「ならさ、今日一緒に帰ろうよ」

 

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結果としてそんな事は出来なかった。

思えば当然だ。いくら年頃だとしても同級生にやらせて欲しいなんて言えるわけがない。

羞恥心を捨てれるほどバカではない。

だから、彼女とは本当に帰るだけで終わった。

ずっと黙ってるのもおかしいから雑談も自然とした。

 

彼女は小説が好きらしい。

俺は小説なんて年に数回読むぐらいだが、彼女は暇さえあれば読書をしてるらしい。

 

「ふぅん、ちなみにおすすめの小説とかある? 今度読んでみるよ」

 

「え、えっと。うーん、なんだろう。難しいです」

 

彼女は1分ほどうんうんと唸って、ぼそぼそと呟いていた。

 

「じゃ、じゃあ『恋愛曲線』っていうのはどうです?」

 

「恋愛小説? 面白いの?」

 

「恋愛小説ではないけど、面白いと思います。特に最後があっと驚く感じがあって。ネットで無料で読めますし、短いので」

 

「へー、読んでみよっかな」

 

こんな事を話してるといつの間にか彼女の家に着いていた。普通の一軒家だ。

 

「その、着きました。これでいいんですか?」

 

彼女がゆっくりと見る。不安げな眼差しだった。こんなことがお礼になってるなんて信じられないとでも思っているのだろうか。

実際、お礼にはなっていない。でも、教科書を貸すのなんて恩にすらならないのだから、別にいい。

 

「うん、ありがとう。じゃあ、俺こっちだから」

 

「はい、本当に今日はありがとうございました」

 

彼女は頭を下げた。

 

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それから半年が流れた。

俺は何故か今も彼女と一緒に帰ってる。最初一緒に帰った日の夜になんとなく彼女から勧められた小説を読んだ。

面白かった。

是非とも感想を彼女に伝えたいと思ったし、別の面白い作品も教えて欲しかった。

だから、翌日も彼女と一緒に帰った。

また、作品を教えてもらい、読み、感想を伝えた。

 

いつの間にか彼女と一緒に帰るのが普通になっていた。

半年の間、彼女との間に些細な出来事がいくつかあった。

 

彼女に嫌がらせをしている女子生徒がいた。

一軍女子が根暗な奴を小馬鹿にして、周りから嘲笑を誘っていた。わざとぶつかり彼女の教科書や筆箱を床に落としたり、グループワークで彼女をはぶり孤立する様を見たり。

別に助けるという意識もなく俺は彼女の近くに行った。

落としたものを一緒に拾ったり、一緒にペアを組んだりした。

つまらなくなったのだろうか、彼女への嫌がらせは自然と消えた。

 

彼女にありがとう、と言われた。またお礼をしたいと言ってきた。

別に大したことはやってないから、面白い小説を教えてとだけ言った。

 

一緒に帰ってる時、彼女の妹と会ったことがあった。

妹は彼女とは打って変わって髪を染め、メイクをして、露出のある服装をしていた。

妹は姉である彼女を一瞥して睨むようにすれ違った。

嫌われてる、と彼女は呟いた。

彼女曰く、こんな醜い自分が姉であることが恥ずかしいとのこと。

ある日、俺は彼女を自分の家に招き、俺の姉と合わせた。そして、姉に彼女を可愛くして欲しいと頼んだ。

姉は高級プリンを献上する事を条件にそれを承諾した。

 

姉は美容師の専門学校に通ってるので適任だと考えた。

俺は姉から家を追い出された。神聖な女子の会話に男は邪魔とのこと。

 

2時間ほど経って帰ってこいと姉から連絡がきた。

 

彼女は見違える姿に変身していた。髪は清潔感を伴ったヘアスタイルになり、ナチュラルメイクを施され、服装も白を基調とした清楚かつ可愛らしい格好となっていた。

 

早速、彼女を連れて妹に会おうと提案した。

彼女は恐る恐る家に向かい妹と対面した。妹は驚き、そして、ふっとそっぽを向いて「可愛いじゃん」と呟いた。

 

それ以降、妹との会話が増えて昔みたいに仲良くなったらしい。

 

また、ありがとう、と彼女に言われた。今度こそお礼がしたいと言われた。

彼女は以前とは違いとてつもなく美人である。

美人と話すのに慣れていない俺は緊張して、ただいらない、と言って笑うので精一杯だった。

 

変わった彼女を見てクラスメイトはみんな驚愕していた。女子は彼女に話しかけ可愛いやメイクが上手などと褒めていた。男子は今まで眼中に無かったクラスメイトがとてつもなく美人なのに気付きお近付きになろうとしている。

 

彼女の周りには人が沢山いた。

 

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「今度ね、クラスの子達とカラオケに行くの。私、初めて行くからすっごく緊張してる。上手くできるかな。人前で歌うなんて緊張しちゃうよ」

 

「大丈夫でしょ。みんなは君と遊べるってだけで嬉しいんだし、もし上手く歌えなくても新しい一面が見れたって思われるだけだよ」

 

「そ、そうかな。ありがとう」

 

今日も彼女と帰る。半年前と比べて口調も砕けて、笑顔も増えた。

彼女がこんなに変わるなんて思わなかった。

 

「そうだ。ねぇ駅近の本屋さん行こうよ。この前面白い本見つけたんだ」

 

彼女は手を合わせ、俺を見る。栗色の瞳が輝いている。

 

「んー、今日はいいかな」

 

「え、なんか用事あった?」

 

「うん」

 

嘘だ。用事なんてない。

 

「なら、明日行こうよ」

 

「明日も無理かな」

 

俺は昨日の出来事を思い出す。

休み時間にサッカー部のキャプテンを務めてるカーストトップの男子生徒に呼び出された。

俺みたいな日陰者なんて関わる縁なんてないのに。

彼はもう彼女と一緒に帰らないで欲しいと頼んできた。

どうやら彼は彼女のことが好きらしい。是非とも付き合いたい。だから、彼女の放課後を俺なんかが消費するのはやめてもらいたいという旨だ。

 

それはそうだ。今や彼女はクラスメイトから好かれている中心人物。俺なんかと過ごすなんてナンセンスだ。

 

「どうしたの?」

 

彼女は不安げに見つめる。

 

「もう帰るのやめよっか」

 

彼女の目がゆっくりと見開かれた。

 

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自分が嫌で嫌で仕方がない。

醜く、愛嬌もなく、勇気もなく、人とまともに話すことすら出来ない。変わりたいと思いながら変わろうとする行動を少しもしない怠惰で愚図で愚かな自分が嫌いだ。

 

だから、妹にこれが姉なんて妹として恥ずかしいなんて言われるんだ。

 

本の世界に逃げ込む事しかできない。

 

でも、彼はそんな私を助けてくれた。教科書を忘れましたすら言えない私にただ微笑んで教科書を貸してくれた。

 

お礼をしたいと言うとただ一緒に帰りたいと言った。

 

そして、私なんかと話をしてくれた。しかも、本の話を。

 

きっとあの時の私は吃って、早口で気持ち悪かったはずなのに、ただ話を聞いてくれた。

 

嫌がらせから私を助けてくれた。落ちたものを一緒に拾ってくれた。一人ぼっちの私とペアを組んでくれた。

 

身だしなみなんて整えた事のない私を変えてくれた。そのおかげで妹とまた仲良くなれた。

 

クラスメイトは変わった私を見て打って変わったように親しげに話しかけてくれた。

ちょっと変わりようが怖かったけど、初めてこんなに人に囲まれたのは初めてだった。

 

自分は変わった。

 

彼のおかげだ。まるで絵本の中の王子様みたい。

 

彼と帰る日々がどんどんかけがえの無いものになる。

クラスのみんなは私と帰りたがる。

でも、私は彼と帰る。

みんなと帰ればいいのに、と彼は言うけどそんなの嫌だ。

 

私が変わるきっかけを与えた彼と過ごす時間を無くすなんて考えられない。

 

ねぇ、私可愛くなったよね。

少し前、長い髪が好きだって貴方が言ったから今髪を伸ばしてるんだよ。

よく笑う子が好きって言ったからなるべく明るく笑うようにしてる。

 

私、貴方のためなら何にでも変われそう。

貴方の理想の女の子になる。

だから、変わらず優しい眼差しで私を見つめていて。

 

そう願ってるのに。

 

「ごめんね。いきなり帰ろうなんて言ってさ」

 

うるさい。

 

「たまたま部活休みだったからさ、チャンスだと思ったんだよ」

 

黙れ。喋るな。

 

「てかさ、この後、暇? この前美味しいカフェ見つけたんだよ。一緒に行かない?」

 

彼は自分から話さない。

彼は常に私の話を聞く。

彼は大きな声を出さない。

彼は歩くのが遅くない。

彼は話しかける時、必ず目を見る。

 

うるさい。うるさい。

なんで、こんなことになってるの?

なんで、一緒に帰ってくれなかったの?

なんで、こんなやつと一緒に帰れなんて言ったの?

私嫌われるようなことしちゃったかな?

貴方に避けられるようなことしちゃったかな?

貴方が過ごしたいと思えるように変わったよ。

なんで、一緒に帰ってくれないの?

 

「いやー、てか本当に変わったよね。ちょっと前まではあんま目立たなかったのに。いつの間にかちょー可愛くなっててさ」

 

変わった?

 

ああ、そうか。

 

変わったからか。

 

変わったから、こんな奴が私と貴方の大切な時間を壊すんだ。

 

なんだ、そんな事か。

 

なら簡単だ。戻ればいい。変わる前になれば全部元通りだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

彼女が学校を休んで1週間。

連絡を入れても全く返事が返ってこない。

あの日、一緒に帰った男子に事情を聞くと何も知らないと言われた。

ずっと、無言で俯いていたらしい。

しかし、今朝、今日学校に行くとの返事がきた。

 

いつも通りの教室で隣の席を眺める。

 

ふと、ガヤガヤしていた教室が静かになった。いつの間にか一人の女子が彼女の席に座っていた。

その女子は髪をボサボサに短く切って、制服はシワだらけでじっと下を見ていた。

 

まるで昔の彼女のようだ。

 

俺はその姿を見つめていた。

目を逸らそうにも釘付けになってしまう。

女子はゆっくりとこちらを見た。

前髪から見える瞳は栗色だった。

 

「髪切ったの」

 

1週間前まで伸びていた艶やかな髪は見る影も無かった。

 

「メイクもしてない」

 

肌はガサガサで唇は青白い。

 

なんでこんな姿になっているのか理解が出来ない。クラスメイトも動揺している。

変わった。

 

「私、変わってないでしょ?」

 

彼女は席を立つ。俺に近づく。

 

「私、すっごく醜い。誰も私に近寄らない」

 

彼女が顔を近付ける。その瞳には引力があった。

決した、離さない意思が宿っていた。

 

「だから、貴方だけが見れる」

 

「貴方だけを見れる」

 

ゆっくりと彼女はささやく。咀嚼するように確かめるように粘ついた喋り方。

こんな姿になって彼女はどれだけ多くのものを捨ててしまったのだ。

 

何が彼女をそうさせてしまったんだ。

本当に気付いていた。それはきっと

 

「もしかして、申し訳ないって思ってる?」

 

彼女がこちらを見透かす。口を歪める。笑っているというには不気味すぎる。

 

「そう思うならお願いを聞いて欲しいな」

 

最初はこちらが願いを言った。

今は彼女が願いを言う。

なんだか最初の時に戻ったみたいだ。

彼女は俺の手をゆっくりと握りしめた。

 

彼女の手は熱く、鋭かった。

 

「今日一緒に帰ろ」

 

変わってしまった彼女は願いを口にした。

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