観測禁止区域―少年は境界を超える―   作:むーんしゃいん

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境界での日常
001 危険域ギルドでの朝


 春の陽が危険域ギルドのダイニングテーブルを射抜く。

 万年筆の走る音が、都市の喧噪に溶ける。

 暖炉の熾火が、室内に鈍い熱を落とす。

 

 リオはカウンターのスツールに腰を預け

他の案内人(シェルパ)たちの装具を無言で観察している。

 

 肩まで伸ばした白髪、光の無い赤い瞳。

 黒装束の刺繍が、組織の所属を無言で示す。

 微かに消毒液の香りが高度応急処置キット(AFAK)のポーチから漏れ出す。

 

――痛い。

 

 頭の奥が脈打つ。

 視線だけが働き、顎が動かない。

 

 リオは、高度応急処置キット(AFAK)から蒼い魔導薬を取り出し、

慣れた手つきで口に入れる。

 

 味はない。体内の魔力を保つための、いつもの薬だ。

重たい眠気が残る。リオはあくびを漏らした。

 

 常備薬のタブレットは、もう三つしか残っていない。

――魔導ギルドに行くか。

 

 受付では二人の受付嬢が顧客と会話をしている。

受付嬢リオの語尾が荒くなる。

リオの顧客は首を横に振らない。

 

 王国へ向かう客の列がゆっくりと伸びていく。

 

 リオがこちらに来い、と手招きして呼んでいる。

 リオの指先がわずかに強張った。

 

「何か用ですか?」

 

 受付の書類が放置されている。

 計画書の上に万年筆が転がっている。

 契約書には押印も署名もされていない。

 後ろにいる商人が舌打ちをする。

 

 ブロンズの背の高い剣士が後ろに下がる。

 汗とコロンが混じった匂いが鼻につく。

 

 リオは前髪を掻き分け、リオに目配せをした。

 

「リオさん。冒険者ギルドからのパーティーを案内したことは?」

 

 リオは視線を落とす。

 指先で唇に触れる。

 数拍の後、答えた。

 

「何度かあります」

 

 リオが整った眉をひそめる。

 リオがリオの耳元に近づく。

 

「あそこに座っている冒険者パーティーが帝国ルートに行きたがっています」

 

 剣士二人に魔術師、治癒師の4人が、こちらに視線を送る。

 リオは腕を組む。

 この条件なら、中級シェルパが一人、下級シェルパが二人か三人が妥当だ。

 

「それなら、小隊組めばいいのでは?」

 

 リオが首を振る。

 リオは目を細めた。

 四人は暢気に談笑している。

 

「案内人を一人だけを所望しています」

 

――単独指名か。性に合わない。

 

「埋め合わせはしてもらいますよ…」

 

 リオはリオを凝視する。

リオはリオに両手を添える。

 

「分かってるって。いつも、ありがとうね」

リオは契約書に捺印と記銘を済ませる。

 

 リオに書類を差し出す。書類の縁をなぞる。

 

 書類の三日の文字に視線を落とす。

三日。――短い。

 

 リオは四人に近づき事情を説明する。

 リオも追随し、話を聞く。

 

 リーダーの剣士レオンがリオに深々とお辞儀をする。

 

「リオさん、よろしくお願いします」

リオも深々とお辞儀を返す。

 

 盾戦士ガルドは、椅子の背にもたれ、短く息を吐いた。

 

「…あーあ、手間ばかり増える」

 リオをじっくり見ようとすらしなかった。

 

 治癒師ミリナが盾戦士ガルドとリオに目配せをした。

「まあまあ、ガルドさん。案内人さんがいれば心強いですよ…あはは…」

 ミリナの顔は困ったように少し眉をひそめる。

 

 魔導士シオンがリオの顔を見つめている。

「…どこかで見た顔だな?」

 

 リオは肩をすくめた。

 

「どうでしょうか?」

そう言い切る声だけが、わずかに硬い。

 

「運ぶのは三回分の食料でいいのですか?」

 

 リオは確認するように言った。

 

「そうですがなにか?」

 リーダーの声は軽い。

 

「帝国ルートでは最短で三日です。ですが――」

 言葉を選ぶ。

 

「通常は十日を見ます」

 一瞬だけ、空気が止まった。

 

 だが、

「三日で十分でしょう」

 あっさりと返された。

 

――経験のない者ほど、あの地を軽く見積もる。

 

「そうですか」

 リオはそれ以上は言わなかった。

 

 計画書の最終確認欄に署名をする。

 インクが紙に沈む。

 契約書を折り、胸ポケットに押し込む。

 

 椅子の脚が床を擦る。

「北門前の市場に行きましょう」

 リオは扉を押し開けた。

 

 外の風は陰湿で生ぬるい。

 リオはわずかに指を強張らせた。

 

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