前衛都市エレガストは春の陽射しに照らされている。
北門市場には露天商が軒を連ね、呼び込みの声と金属音が絶えない。
だがい、いまだに冬を孕む北風が吹き込み、肌を突き刺す。
黒装束のリオの横を、真新しい甲冑のレオンが歩く。
「リオさん、安い店はないのか?」
レオンは布財布を握り、リオを見る。
肩は強張っていた。
「大量注文なら値は下がるのですが」
リオは最安値の露店で足を止める。
一日一人あたり、魔導乾パン二枚。肉ジャーキー三枚。
干し果物一握り。漬物瓶詰一瓶。
乾燥パン二枚で五
値段はすでに把握している。
恰幅の良い店主のリドがリオを一瞥し、他の客と会話を続けている。
リオはレオンに静かに尋ねる。
「ちなみに予算はいくらほどですか?」
レオンは財布に入った金貨五枚を見せる。
「五金貨でどうだろ」
リオはわずかに瞳孔を開く。
三日なら十三
肩をすくめるだけで、言葉はいらない。
「はぁ…、今回だけですよ」
自身の財布から五金貨を出す。
「リドさん。これで五人分十金貨でお願いできませんか?」
「三日分を十金貨か。んーん…出来ない事はないが、厳しいぞ?」
リオは店主リドの耳元に口を近づけた。
「彼らには良い経験になるのではないでしょうか」
リオは少し口角を上げる。リドは目頭を押さえ、苦笑した。
「リオは良い子だな」
だがその瞬間、隣の客が同じ乾燥パンを奪い取ろうと手を伸ばす。
リオは軽く咳払いし、視線を送るだけでその手を止めさせる。
店主は微かに顔をしかめる。
背後の人々は気にせず談笑しているが、リオはほんのわずかに眉をひそめる。
その時、なじみの声が耳に届く。
「リオ!」
声の方を見ると、露店の間をすり抜けて、小柄なシェルパ仲間の少女が手を振っていた。金髪に濃い緑色の瞳。パックフレームには薬草と乾物が小分けに詰められている。
「エリナ…?」
リオは、わずかに息苦しさが和らぐ。
「偶然だね。前線巡回?」
エリナは荷物のバランスを軽く調整しながら、リオに視線を送る。
「そうだ。三日分の補給を用意していてね」
言葉は短く、事務的だ。
だが、目は微かに柔らかい。
エリナは小さく笑った。
「そっか…じゃあ、私も手伝おうか?」
リオは首を横に振る。
「大丈夫だよ。すぐ終わる」
「エリナさんは、もう上がりですか?」
「そうだよ。危険域の天候は良かったし。ただ、悪化する予想は出てるよ」
「でも、大丈夫!明けない夜はないんだよ」
エリナは、自信満々に胸を張る。
「じゃあ、またね。気を付けてね」
エリナはパックフレームを軽く揺らし、露店街の人混みに消えていった。
リドを待っている間、しびれを切らせた四人は各々露店を見ている。
リオも、新しいハチェットに視線を送る。
「これ可愛い」
ミリナが土産物店の銀細工のイヤリングを見ている。
シオンも華奢な指先でイヤリングをいじる。
レオンがミリナたちの様子を見て近づく。
「おれが買ってやるよ」
リオの瞳孔がわずかに開く。
「いいのですか?」
レオンは胸を張って、財布から二金貨を払った。
「リオちゃん。用意できたぜ」
店主のリドがリオを呼ぶ。
リオは荷物をパックフレームに均等に詰めていく。
「それとこれ持っていきな」
店主リドがリオに蜂蜜漬け果実の小瓶を手渡す。
「リドさん。悪いよ」
「いいんだ。ただ約束してくれ」
「あいつらに食わせてやるなよ」
リオは、息を吐き苦笑する。
「約束します」
リオはさほど力を込めず、パックフレームを担ぐ。
――軽い。