観測禁止区域―少年は境界を超える―   作:むーんしゃいん

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002 偶然の再開

 前衛都市エレガストは春の陽射しに照らされている。

 北門市場には露天商が軒を連ね、呼び込みの声と金属音が絶えない。

 だがい、いまだに冬を孕む北風が吹き込み、肌を突き刺す。

 

 黒装束のリオの横を、真新しい甲冑のレオンが歩く。

 

「リオさん、安い店はないのか?」

 

 レオンは布財布を握り、リオを見る。

肩は強張っていた。

 

「大量注文なら値は下がるのですが」

 リオは最安値の露店で足を止める。

 

 一日一人あたり、魔導乾パン二枚。肉ジャーキー三枚。

干し果物一握り。漬物瓶詰一瓶。

 

 乾燥パン二枚で五銀貨(iC)。肉ジャーキー三枚で十五銀貨(iC)

 値段はすでに把握している。

 

 恰幅の良い店主のリドがリオを一瞥し、他の客と会話を続けている。

 

 リオはレオンに静かに尋ねる。

「ちなみに予算はいくらほどですか?」

 レオンは財布に入った金貨五枚を見せる。

 

「五金貨でどうだろ」

 リオはわずかに瞳孔を開く。

 三日なら十三金貨(iG)が相場だ。

 肩をすくめるだけで、言葉はいらない。

 

「はぁ…、今回だけですよ」

 

 自身の財布から五金貨を出す。

 

「リドさん。これで五人分十金貨でお願いできませんか?」

 

「三日分を十金貨か。んーん…出来ない事はないが、厳しいぞ?」

 リオは店主リドの耳元に口を近づけた。

 

「彼らには良い経験になるのではないでしょうか」

 リオは少し口角を上げる。リドは目頭を押さえ、苦笑した。

 

「リオは良い子だな」

 だがその瞬間、隣の客が同じ乾燥パンを奪い取ろうと手を伸ばす。

 リオは軽く咳払いし、視線を送るだけでその手を止めさせる。

 店主は微かに顔をしかめる。

 

 背後の人々は気にせず談笑しているが、リオはほんのわずかに眉をひそめる。

 

 

 その時、なじみの声が耳に届く。

 

「リオ!」

 

 声の方を見ると、露店の間をすり抜けて、小柄なシェルパ仲間の少女が手を振っていた。金髪に濃い緑色の瞳。パックフレームには薬草と乾物が小分けに詰められている。

 

「エリナ…?」

 リオは、わずかに息苦しさが和らぐ。

 

「偶然だね。前線巡回?」

 

 エリナは荷物のバランスを軽く調整しながら、リオに視線を送る。

 

「そうだ。三日分の補給を用意していてね」

 言葉は短く、事務的だ。

 だが、目は微かに柔らかい。

 

 エリナは小さく笑った。

「そっか…じゃあ、私も手伝おうか?」

 

 リオは首を横に振る。

「大丈夫だよ。すぐ終わる」

 

「エリナさんは、もう上がりですか?」

 

「そうだよ。危険域の天候は良かったし。ただ、悪化する予想は出てるよ」

 

「でも、大丈夫!明けない夜はないんだよ」

 エリナは、自信満々に胸を張る。

 

「じゃあ、またね。気を付けてね」

 エリナはパックフレームを軽く揺らし、露店街の人混みに消えていった。

 

 リドを待っている間、しびれを切らせた四人は各々露店を見ている。

リオも、新しいハチェットに視線を送る。

 

「これ可愛い」

 ミリナが土産物店の銀細工のイヤリングを見ている。

 シオンも華奢な指先でイヤリングをいじる。

 

 レオンがミリナたちの様子を見て近づく。

 

「おれが買ってやるよ」

 

 リオの瞳孔がわずかに開く。

 

「いいのですか?」

 レオンは胸を張って、財布から二金貨を払った。

 

「リオちゃん。用意できたぜ」

 

 店主のリドがリオを呼ぶ。

 リオは荷物をパックフレームに均等に詰めていく。

 

「それとこれ持っていきな」

 店主リドがリオに蜂蜜漬け果実の小瓶を手渡す。

 

「リドさん。悪いよ」

 

「いいんだ。ただ約束してくれ」

 

「あいつらに食わせてやるなよ」

 リオは、息を吐き苦笑する。

 

「約束します」

 

 リオはさほど力を込めず、パックフレームを担ぐ。

 

――軽い。

 

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