鈴の音が一定の間隔で森を削る。黒い装束に荷物を担いだリオを先頭に四人が続く。
赤い縄を頼りに暗い森林地帯を進んでいく。湿った冷気が、肌にまとわりつく。
一時間。誰も口を開かなかった。四人の浮かべる表情は重い。
鈴の音が一度、低く濁った。
リオの赤い瞳が灯る。
遠い。だが、視るには近い。
暗い森の隙間に、朽ちた家が浮かんだ。
三十ミル先。
朽ちた家。
影が、二つ。
「止まって下さい」
部隊は身をかがめる。
家の影が、わずかに揺れた。
風ではない。
二つ、動いた。
「レオンさん。シオンさん。ガルドさん。あの影が見えますね?」
「…ああ、あの家にいる影が怪物なのか?」
レオンが目を細める。人影が微動している。
「おれの剣が効くのか?」
ガルドが意気揚々と剣を抜刀する。
「物理攻撃は効きません」
リオが首を横に振る。静かに答える。
「じゃあ、どうしろと」
レオンが焦る。
シオンが気が付く。
「なるほど…。私の出番ね、魔法で化け物の境界を固定化するわ」
シオンは汗ばむ皮手袋で、杖を握りしめる。
「そうです。では、戦闘準備を…」
各々が役割を確認し、打ち合わせをしている。
リオはイトヨリの赤い糸を取り出す。
「ミリナさんは、自分が良い。と言うまでここに居てください」
ミリナの周囲をぐるりと取り囲むようにイトヨリの糸を張る。
「なぜ?私だけ?」
ミリナは震える手で、疑問を呈す。
「神術は境界を開きます。今は危険です」
リオの赤い瞳が見てきた者たちを語る。
「分かった…」
ミリナは草むらで成り行きを見ることにする。
「自分は境界を維持します」
リオは、荷物を降ろす。と杖を握りしめる。
ガルドとレオンが家に近づく。
二つの影は、こちらを見ているだけだった。
逃げない。
動かない。
「いまです」
リオが、ひときわ鈴の音を響き渡らせる。
響け、境の鈴。
形を保て。
「よし、いくわよ!」
シオンが魔法を演唱する。亡者二つを業火が包み込む。
業火の中で、影だけが焼けなかった。
亡者は業火の中、影が伸びた。
形を保とうとしている。
「いまだ!」
レオンとガルドが心臓を狙った。
一撃だけが、鈍く沈んだ。
焼ける影が、一瞬だけ人の顔になった。
誰の顔かは、分からない。
三人とも、同じ夢を見た。
亡者の輪郭が崩れた。
焼けた影だけが、遅れて消えた。
リオは、すぐさま、灰を撒き、境界を閉じる印を描く。祝詞を歌う。
境を定める。
名もなき影よ。還れ。
「なあ…」「ああ…」
「…何か見えたわ」
レオンとガルド、シオンの顔は暗い。
リオは赤い瞳で三人に視線を送る。
――境界に、慣れる者はいない。