観測禁止区域―少年は境界を超える―   作:むーんしゃいん

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004 戦闘の余韻

 鈴の音が一定の間隔で森を削る。黒い装束に荷物を担いだリオを先頭に四人が続く。

 赤い縄を頼りに暗い森林地帯を進んでいく。湿った冷気が、肌にまとわりつく。

 

  一時間。誰も口を開かなかった。四人の浮かべる表情は重い。

 

 鈴の音が一度、低く濁った。

 リオの赤い瞳が灯る。

 

 遠い。だが、視るには近い。

 

 暗い森の隙間に、朽ちた家が浮かんだ。

 

 三十ミル先。

 朽ちた家。

 

 影が、二つ。

 

「止まって下さい」

 

 部隊は身をかがめる。

 家の影が、わずかに揺れた。

 風ではない。

 二つ、動いた。

 

「レオンさん。シオンさん。ガルドさん。あの影が見えますね?」

 

「…ああ、あの家にいる影が怪物なのか?」

 レオンが目を細める。人影が微動している。

 

「おれの剣が効くのか?」

 ガルドが意気揚々と剣を抜刀する。

 

「物理攻撃は効きません」

 リオが首を横に振る。静かに答える。

 

「じゃあ、どうしろと」

 レオンが焦る。

 

 シオンが気が付く。

「なるほど…。私の出番ね、魔法で化け物の境界を固定化するわ」

 シオンは汗ばむ皮手袋で、杖を握りしめる。

 

「そうです。では、戦闘準備を…」

 各々が役割を確認し、打ち合わせをしている。

 

 リオはイトヨリの赤い糸を取り出す。

「ミリナさんは、自分が良い。と言うまでここに居てください」

 ミリナの周囲をぐるりと取り囲むようにイトヨリの糸を張る。

 

「なぜ?私だけ?」

 ミリナは震える手で、疑問を呈す。

 

「神術は境界を開きます。今は危険です」

 リオの赤い瞳が見てきた者たちを語る。

 

「分かった…」

 ミリナは草むらで成り行きを見ることにする。

 

「自分は境界を維持します」

 リオは、荷物を降ろす。と杖を握りしめる。

 

 ガルドとレオンが家に近づく。

 二つの影は、こちらを見ているだけだった。

 逃げない。

 動かない。

 

「いまです」

 リオが、ひときわ鈴の音を響き渡らせる。

 

 響け、境の鈴。

 形を保て。

 

「よし、いくわよ!」

 シオンが魔法を演唱する。亡者二つを業火が包み込む。

 業火の中で、影だけが焼けなかった。

 

 亡者は業火の中、影が伸びた。

 形を保とうとしている。

 

「いまだ!」

 レオンとガルドが心臓を狙った。

一撃だけが、鈍く沈んだ。

 

 焼ける影が、一瞬だけ人の顔になった。

 誰の顔かは、分からない。

 

 三人とも、同じ夢を見た。

 

 亡者の輪郭が崩れた。

 焼けた影だけが、遅れて消えた。

 

 リオは、すぐさま、灰を撒き、境界を閉じる印を描く。祝詞を歌う。

 

 境を定める。

 名もなき影よ。還れ。

 

「なあ…」「ああ…」

「…何か見えたわ」

 レオンとガルド、シオンの顔は暗い。

 

 リオは赤い瞳で三人に視線を送る。

 

――境界に、慣れる者はいない。

 

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