観測禁止区域―少年は境界を超える―   作:むーんしゃいん

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006 勇気ある決断

 部隊は森林を抜ける。視界が開ける。草原を見渡す。山岳は遠い。

 

 先行していたリオは一歩、引いた。

霧の匂いが、森とは違う。

 

「ここからは、ゴブリンや亡者が出ます。先行をお願いします」

――ゴブリンは専門外だ。

 

 レオンは、肩を強張らせる。

「行くぞ」

 レオンとガルドを先導に進んでいく。

 

 薄い霧が草原の草にだけ沈んでいた。

風はない。だが草葉がわずかに揺れている。

 

リオは足を止めた。

 

「…境界が、ずれています」

 

先行するレオンが振り返る。

 

「霧だろ」

 

リオは答えない。赤い視線を落とす。

地面の魔力の流れが、一定ではない。

 

通常の危険域は層になる。

だが、ここは違う。

流れが絡んでいる。

 

――重なっている。

 

 リオが胸元のクリスタルに触れた。

淡い光が揺れる。反応が遅い。

 

「進むと、囲まれます」

 

レオンが眉をひそめた。

「根拠は?」

レオンの声色は硬い。

 

リオは言葉を選ばない。

 

「感覚です」

 

空気が止まる。

疑念が一瞬だけ部隊を覆う。

 

その瞬間だった。

 

霧が動いた。

 

横ではなく下から。

 

地面が膨らみ、黒い影が噴き上がる。

獣型の亡者が三体。さらに後方から二体。

 

伏兵。

 

レオンが即座に命じる。

 

「迎撃!」

 

 前衛が斬撃を浴びせる。

亡者には、まるで影響がない。

 

リオは静かに後退し、杖を地面に当てた。

 

魔力を流し込む。

結界ではない。

退路の固定だ。

 

流れの乱れを一点に絞る。

 

 

こちらは生。

境、固定。

 

 

霧の動きが変わる。

亡者はひるむ。

包囲の形が崩れる。

 

「右です」

 

リオの短い指示で部隊が突破する。

 

戦闘は三十秒。だが、十分だった。

 

魔物が引いたとき、リオは杖を離した。

呼吸は乱れていない。

 

ただ、クリスタルの光だけが弱い。

――わずかに。

 

誰もそれに気が付かない。

 

ガルドがリオに掴みかかる。

「お前、なぜ逃がしたんだ! 数を削れた!」

 

リオは答えない。

亡者を減らしても意味がない。

説いたところで分からない。

 

ただ、鈍色の赤い瞳でガルドを見つめている。

 

「ガルド。十分だ」

レオンが止めにかかる。

 

ガルドは、リオを突き放す。

半歩下がる。

 

風が変わる。

北東。

――嵐の予兆だ。

 

リオは草原の先を見た。

 

「撤退しましょう」

 

即答だった。

 

ガルドが険しい視線を送る。

 

「お前…」

 

重い沈黙。

 

シオンが手を上げる。

 

「進む者。下がる者。各々判断すればいい」

 

「私は案内人を信じる」

 

 シオンはリオを指さす。

 

 一陣の風が草原を去る。

シオンが観る魔力の温度が0.4エルあがる。

危険な兆候だ。

 

 レオンは、短く息を吐いた。

「…想定より、きついな」

 それだけ言うと、もう次の指示を考えていた。

 

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