部隊は、帝都エルガストの門へと戻ってきた。
ガルドとミリナ、シオンが守衛室で簡易検査を受けている間、
隊長レオンと案内人リオの二人は、守衛隊長室に通された。
守衛隊長室は、国旗や師団旗、その間に家紋入りの症状が整然と並べられている。
――相変わらずだ。
守衛隊長はデスクの椅子に深く沈み、レオンとリオを立たせたまま待たせている。
「帝国ルートで亡者がそんなに出たのか?」
守衛隊長は眉をひそめる。詰問ではない、統計の整合を図る顔だ。レオンが肩を強張らせた。
「2体ほど排除はしました。しかし、残りは逃しました」
レオンは言葉を切り、わずかに視線を落とした。
「越境の際も、危険な状況でした」
リオは表情を動かさず述べた。感情ではなく報告書の調子だ。
「准尉の君が言うのなら、軽くはないな」
判が乾く前に、書類は処理済みに回された。
「ご苦労だった。追加の報酬として50金貨を出す」
守衛隊長は、慣れた調子で答える。
「また、接触者の経過観察のため1週間の外出禁止令を通達する」
守衛隊長が、リオとレオンに目配せをする。
「レオンは下がっていい」
レオンが部屋を退出する。
守衛隊長が静かにを語り出す。
「リオ君。ブロンド隊の件は聞いたか?」
リオは、褐色の男の穏やかな笑みを思い出す。
ブロンド隊。同じ正規シェルパの地脈型で、商人などからの信認は厚い。
リオの瞳孔がわずかに開く。
リオは次の言葉は知っている。
「お前が発った翌日、殉職したと思われる」
軽く触れてはいけない重い沈黙が続く。
「…どこで?」
リオが言葉を選ぶ。
「おそらくは、境界付近だ」
冷たい霧の中に、いまも取り残されているはずだ。
それでも、記録は殉職になる。
リオは、疑問を投げかける。
「上位シェルパが投入されるのですか?」
守衛隊長は、席の腰掛に背を預けた。
「帝国参謀本部の判断待ちだ。まだわからんよ」
――よくある話だ。
「君は実力だけでは特級シェルパだと思っている。なので、ある程度は信頼している」
特級シェルパ
――年間生存率が三分の一を切る。
リオは何も言わない。
「ただ、なぜか。君は正規シェルパだ。なぜだ?」
「私には
守衛隊長はパイプに火を入れる。煙が天井を登っていく。
「君は何者だ?」
硬質な声。疑念は消えていない。
リオは答えない。
「私は、この町のすべての市民の事は知っている」
「君は、記録が薄すぎる。まるで、途中で作られたようだ。」
「帝国から与えられた任務を全うするだけです」
「そうか…、下がっていい」
リオはお辞儀をし、守衛隊長室を後にする。
頭の奥がまた、針で刺すように痛んだ。
一瞬、視界が白む。音が遠のく。
四人は外で待っていた。リオは、背負子の荷物をレオンに託す。
「ご期待に沿えず。申し訳ありません」
任務失敗は、謝罪するものだとリオは記憶している。
リオが頭を下げる。意外な反応に四人は驚く。
「そんな、頭を下げないで」
ミリナがリオに手を握る。
「儲かればなんでもいい」
ガルドが言葉を足す。
「いや、結果的に君でよかったよ。ありがとう」
レオンも、リオと握手をする。
魔術師シオンは、リオに革袋を差し出す。
「ほれ。あんたに必要なものだ」
中には、三十個の魔法石が入っている。
「休憩中に錬成しておいた。
シオンは、旅の途中、リオが魔導ギルドに通っていたのを思い出していた。
「あ、ありがとう…。」
リオは革袋を胸ポケットに収める。
胸の奥に、冷えた感覚が落ちていく。
頭の痛みが、わずかに遠のいた。
リオは、
一路、危険域管理ギルドへと向かう。
中に入る。係員リオが書類整理をしている。
リオは、リオから報告書類を手に入れる。万年筆を走らせる。
万年筆のペン先がわずかに鳴る。
力の加減が分からない。
「あの人たち、何人か
リオは、リオに視線を向ける。
――野良は、境界を越えやすい。
事前共有があれば、接触は最小限にしていた。
「そう言いませんでしたか…?」
「聞いていない…」
「少なくとも渡した書類には明記されています」
リオのしたり顔に、リオは言葉を失う。
「次は楽な仕事を回しますから、許してください」
リオが、布袋にくるまれたチョコレートをリオに手渡す。
リオは包みを開く。
甘い匂いだけが分かる。口に含む。
味は、来なかった。
リオはもう一つ、確認するように舌にのせる。