東京・霞が関。
官庁街の一角にそびえ立つ巨大ビル――世界的製薬企業《アンブレラ》本社。
その地下39階。
一般社員は存在すら知らない極秘会議室で、幹部のみを集めた特別会議が行われていた。
表向きの議題は、地球環境対策。
だが――。
「増え続ける人口を、いかに減らすか」
「我が社の関与を悟られずに実行する方法は?」
議論されている内容は、常人には理解すらできない狂気に満ちていた。
重苦しい沈黙の中、1人の男がゆっくりと手を挙げる。
「今こそ、
男の声と同時に、会議室の大型スクリーンに映し出されたのは――
三万倍に拡大された、禍々しいウィルスの姿。
このウィルスを知らない幹部はいない。
それどころか近年、先進国への売り込みすら始まっている“商品”だった。
「
人間冷凍装置、抗ウィルスの準備も整っています。
あとは――順序を間違えないことだけです」
賛同者は多くない。
だが、人口爆発、森林破壊、海面上昇、異常気象……。
このままでは世界が滅亡する。
その恐怖が、反対の声を押し殺していた。
男の正面に座る代表取締役は、無言のまま議案書に判を押す。
その瞬間――人類が破滅へ向かう、最初の一歩が刻まれた。
アンブレラ本社地下4階から53階。
そこには、ごく一部の社員しか知らない極秘研究所が存在する。
社運のすべてを賭け、莫大な資金が投入されたウィルス。
通称――《J-ウィルス》。
その真の危険性を知る者は、研究所職員の1%にも満たない。
理由は単純だ。
知れば、パニックが起きる。
だが――その危険な保管エリアに、侵入者がいた。
完全防護服に身を包んだ人物が、機械式マジックハンドを使い、試験管をジュラルミンケースへと詰めていく。
青と緑の試験管を4本ずつ。
作業を終えたその人物は、青い試験管を一本だけ取り出し――
無造作に、放り投げた。
試験管は弧を描き、机の角に衝突。
砕け、中身が床へと広がる。
青い液体は、空気に触れた瞬間――気化を始めた。
その異常を最初に検知したのは、この研究所を統括する人工知能だった。
《危険物質漏洩を確認》
次の瞬間、すべての出入口が封鎖される。
「な、何だ!? 扉が開かない!」
研究員たちはパニックに陥る。
どれだけ操作しても、扉はびくともしない。
そして数分後――彼らを絶望へと突き落とす“処置”が実行された。
天井の通気口から、薄い青色のガスが静かに流れ出す。
青酸ガスだ。
人体に極めて有害な致死性ガス。
「やめろ……! 開けてくれ!」
「ここから出してくれぇっ!」
扉を叩き、操作盤を叩き壊し、必死に逃げ場を探す研究員たち。
だがガスは容赦なく肺へと侵入し、身体の自由を奪っていく。
1人、また1人と床に崩れ落ちた。
「やめてえええぇ!! 止めてええぇ……!」
監視カメラへ向けられる最後の懇願。
だが人工知能は、それを単なる音声データとして処理し――施設全体へガスを拡散した。
やがて、悲鳴は完全に途絶える。
研究所に残ったのは、静寂だけだった。