バイオハザード ラストリベリオン   作:GZL

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第6話 赤き告白

三又に分かれた狭い部屋。

 

クイーンの制御室へと続く最後の分岐点――そこに、葉子、憲之、毅の3人は逃げ込んでいた。

 

この部屋の扉は、電力が落ちても物理的に施錠できる。

 

逃げ込むには、最適の場所だ。

 

――もう一度言う。

 

逃げ込むには、だ。

 

外へ出ることは、ほぼ不可能だった。

 

分厚い扉の向こうから、絶え間なく叩きつける音が響く。

 

鈍い衝撃。

爪が引っかく音。

喉の奥で潰れたような呻き声。

 

3人が置かれている状況は、それだけで十分に理解できた。

 

 

 

 

 

葉子は壁にもたれ、噛まれた左手を抑えていた。

 

傷口がじわじわと熱を帯びていく。

 

脈打つような痛み。

 

苛立ちが募る。

 

しかも、先ほどの銃撃戦でライフルの弾は尽きた。

今やただの鉄の塊だ。

 

葉子はそれを床に叩きつけた。

 

「チクショウ!何なんだよ、あいつらは‼」

 

怒声が狭い室内に反響する。

 

毅が怯えた声で言った。

 

「あれが何なのか…あんたら知らないのか⁈」

 

憲之が、唇を震わせながら答える。

 

「ハイブの社員たちだよ…。見覚えがある。電力を落としたから、扉のロックが全部解除されて雪崩れ込んできたんだ…。けど…イカれてやがる!」

 

「でも最初、あんたらは社員は全員死亡したって……」

 

言葉が止まる。

 

憲之も理解できていなかった。

 

本社――アンブレラ社からは、確かに“全員死亡”との通達があった。

 

本社が誤情報を流すとは思えない。

 

だが、外にいるのは間違いなく社員たちだ。

 

しかも、人を喰らおうとしている。

 

静寂が落ちた。

 

その時、ガコンと扉の1つが開いた。

 

葉子は反射的に拳銃を向ける。

 

「待って!私たちよ‼後ろに奴らがたくさんいる!」

 

玲奈の声。

 

安堵が走る――が、すぐに背後から呻き声が迫る。

 

玲奈と竜也が飛び込む。

 

同時に、黒ずんだ手が扉の隙間から伸びた。

 

毅の腕を掴む。

 

冷たく、湿った感触。

 

「うわっ!?くそっ!」

 

引き剥がそうとするが、異様に強い。

 

一度掴まれれば、振り払うことは容易ではなかった。

 

「放して!」

 

玲奈が踏み込み、伸びた腕を拳で叩き潰す。

 

やっと毅の腕が解放され、扉が閉じる。

 

玲奈はすぐ別の扉へ向かおうとするが…。

 

「早く逃げないと……。こっちの扉は?」

 

「奴らでいっぱいさ!」

 

憲之が怒鳴る。

 

「ここで救助を待つべきだ!君たちみたいな部隊がまた送られてくるだろ?な?」

 

葉子と憲之は顔を見合わせる。

 

その反応に3人は訝しげな表情を向けた。

 

「時間がないんだ…」

 

「ど、どういうことだ?」

 

葉子が答える。

 

「私たちが入ってきたあの秘密の通路…。あと1時間で外界と完全遮断される」

 

「何だと⁈生きている俺たちを置き去りにするつもりなのか⁈」

 

「緊急事態なら、この施設は“存在しなかったこと”にする。会社の利益が最優先よ」

 

毅は壁に崩れ落ちる。

 

「嘘だろ…」

 

だが、玲奈の目に諦めはなかった。

 

クイーンの制御室を見つめる。

 

そして咄嗟に部隊が持って来た黒い鞄を掴み、光線が走った通路へ踏み込む。

 

「おい!何をする気だ⁈」

 

「クイーンを再起動させる。彼女なら脱出方法を知っているはず」

 

「ダメだ!奴は社員を皆殺しにした悪魔だ!」

 

玲奈は憲之の襟首を掴み、壁へ叩きつけた。

 

「任務だから止めたいの?…馬鹿じゃないの?今、私たちは生きるか死ぬかの境にいるのよ!死にたくないならあなたも手伝って!」

 

その眼に、憲之は逆らえなかった。

 

制御室で再び装置が起動する。

 

その最中で憲之はふと呟く。

 

「なぁ…一度シャットダウンさせた俺たちに助かる方法を教えると思うか?」

 

「それでも、聞くしかないわ」

 

玲奈は憲之を見る。

 

「クイーンの保護回路…外せる?」

 

「出来るが…」

 

「ならやって」

 

回路が切断され、そこに新たな装置が組み込まれる。

 

「高圧電流も流せる。このボタンを押せば…クイーンは消滅する」

 

赤いホログラムが一瞬浮かび、消える。

 

『…生きてたようね』

 

スピーカーから声が流れる。

 

葉子が暴れる。

 

「そのスイッチよこせ!このくそAI吹っ飛ばしてやる‼」

 

「落ち着け、葉子!」

 

竜也が問う。

 

「あいつらは何なんだ!それにここで一体何をしていたんだ!?」

 

『ここは新薬の研究、開発を行うアンブレラ社の秘密研究所よ。つい最近、アンブレラは新たなウィルスを開発した。それは医学の大発見でもあり、生物の全ての常識を覆すものでもある』

 

「ウィルス…」

 

『開発されたウィルスは日本が開発したウィルスから【J-ウィルス】と名付けられた。ついでに彼らが何なのかも説明してあげるわ。彼らはそのJ-ウィルスに感染した人たちよ。アンブレラは彼らを【アンデッド】と称していた』

 

「アンデッド…」

 

玲奈は無意識に呟いた。

 

『J-ウィルスは人間の脳髄に特殊な電気信号で刺激することで、肉体を蘇生させる。まあ、簡単に言うと…死者を蘇らせるのよ』

 

「し…死者を…?」

 

玲奈たちには信じ難い話だった。

クイーンの言う通り、医学の常識を覆す大発見ではあるが…。

 

『アンデッドは人間みたいに髪も爪も伸びるし、皮膚も剥がれる。けど、知能と思考は皆無に等しい。ただ1つ…単純で純粋な欲求だけを満たそうとする』

 

「欲求?」

 

『食欲よ』

 

背筋が粟立つ。

だから、奴らは人肉をも好むというわけだ。

葉子が問う。

 

「不死じゃないんだろ?」

 

『脳か脊柱上部を破壊するのが最も効果的。死者と言っても肉体は再生しない。足を破壊するのも効果的よ』

 

「頭を潰せばいいってことね…」

 

竜也は次の問いに入る。

 

「何故社員を皆殺しにした?ウィルスとは関係ないはずだ」

 

『あれは緊急措置よ。J-ウィルスが何らかの原因で施設内で漏洩した…。気化した時点でこの施設から人間を出すわけにはいかなくなったの。だから…全員殺したの』

 

「……ふう、ああそうかい…」

 

竜也は今にも爆発しそうになる怒りを抑え込む。

 

『現時点でウィルスを死滅させることは出来ない。そして、ウィルスを外部に漏らすことも防がなければならない。感染者を、ここから出すわけにはいかない』

 

「ちょっと待て!俺たちの中に感染してる奴はなんて…」

 

毅は自分たちは感染していないから出してくれと言おうとしたが…。

 

『感染者に噛まれる、または引っ掻かれるだけでその者も感染する』

 

葉子は顔を強張らせる。他の者も葉子の噛まれた左手を凝視した。

 

『3時間から2日。2度以上噛まれたら3時間以内に、確実に…アンデッドになる』

 

葉子は静かに息を吐く。

 

ここに逃げ込んで既に2時間は経過している。

残り1時間…。

 

『私の保護回路、外してるわよね?それはどうしてかしら?』

 

玲奈が答える。

 

「保険よ。最後の質問。脱出方法を教えて。さもないと電流であなたを吹き飛ばす」

 

『拒否権はないようね。左端のダクトから地下通路に行ける。そこから行きなさい』

 

ダクトの網を外し、真っ暗な通路を見詰める玲奈たち。

 

無限に広がる闇と冷たい空気に足が動かない。

 

そもそも…ハイブから生きて出す気のないクイーンの罠かもしれない。

 

それでも――選択肢はなかった。

 

玲奈は、闇へ足を踏み出した。

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