進撃の巨人---lostpeople 作:mokahurapeto-no
「どうしたんだエレン。顔色が悪いぞ?」
「いや、大丈夫だ。じゃなくて大丈夫。」
親父は俺のおでこに手を置き、自分のおでこと比べる。
「やっぱりちょっと熱いかもな。」
「本当に大丈夫だよ!父さん」
「まあ、お前が大丈夫なら別にいいんだが。」
口調がまずい。
まだ、前の記憶のままになっちまってる。
「父さん。空見ようよ。あそこの空き地で見れるから!」
「空?お前も物好きだなー、よし、見に行こう。」
家から五分ほど歩き空き地につく。
父さんは間隣りにいるのに、やけに遠く感じた。
何か隔たりがあるみたいに。
二人でぼーっと、雁首揃えて空を見ていた。
風の音、
目の前に広がる蒼、
茂みがそよぐ音、
俺は思った。
これが欲しかったのかもしれない。
俺は今一番自由だ。
「エレン。私も昔空が好きでな。良く見ていたんだ。」
「一人で?」
「...さあ、忘れちゃったな。ずいぶ「フェイ」ん」
は?
「フェイおばさん、でしょ?」
「おま、えがなんで...」
「フェイおばさんに、クルーガーに、亡くなった同胞たちに」
報いるために、
「進み続けるんだ。」
はあ、はあ、はあ、はあ
「死んでも」
はあはあはあはは
「死んだ後も」
はっっはっはっ
「これは「やめろ
「父さんが始め「やめろっ」た」
「物「やめろっっ!!!」
父さんは滝汗を流し、俺の前にひざまずいた。
「...っなんで知っているんだっ!!」
「見たから、もう」
「どういうことだ...」
「俺は未来から来た。
人類の八割を踏み殺し、戦力低下させ、
パラディ島は和平を結んだ。
よかったな。
これが俺たちが進み続けた結果だ。
躯になった同胞たちもさぞ喜んでいるだろう。」
沈黙。
風の音だけが鳴っている。
父さんはうつむいたまま、動かない。
やがて、かすれた声が落ちた。
「……何人、死んだ」
「数えるのやめた」
「……」
「八割だ」
草が揺れる。
それだけがやけに大きく聞こえる。
父さんの指が、土を強く握った。
「お前が……やったのか」
「ああ」
「お前が……全部……」
「ああ」
嘘は吐けなかった。
吐く意味もない。
「……そうか」
父さんは、しばらく空を見上げた。
さっきまで俺たちが見ていた、あの青を。
「エレン」
「なんだ」
「お前は……後悔してるか」
言葉が詰まる。
後悔?
そんなもん――
「……分からない」
「助けたかった」
「守りたかった」
「でも……止まれなかった」
喉が痛い。
「気づいたら、踏んでた」
父さんの肩が、わずかに震えた。
「……私と同じだな」
「え?」
「私も止まれなかった」
ゆっくりと、俺を見る。
「妹が殺された日から……私はずっと、前だけを見ていた」
「振り返ったら、壊れてしまいそうだった」
フェイ。
その名前が、胸に刺さる。
「だから進んだ」
「間違ってても、罪でも、地獄でも」
「進むしかなかった」
父さんは小さく笑った。
「……親子だな、私たち」
その笑顔が、やけに寂しかった。
「なあ、エレン」
「未来は……変えられるのか」
俺は空を見る。
雲一つない、青。
――前の世界では、決まっていた。
――でも今は違う。
「分からない」
「でも」
拳を握る。
「もう一回、同じことはやらない」
「もう、誰も踏みたくない」
「……だから父さん」
父さんを見る。
「地下室へ今日行こう」
空気が止まった。
「全部教えてくれ」
「外の世界も、マーレも、あんたの過去も」
「何も知らないまま進んだから、ああなった」
「だから――」
「今度は、知ってから選ぶ」
風が吹いた。
草が波みたいに揺れる。
父さんは長く目を閉じて――
「……分かった」
ゆっくり立ち上がった。
「全部話そう」
「お前に、全部託す」
その言葉が、
やけに重くて。
やけに、怖かった。
遠くで、鐘が鳴る。
壁門の方角から。
――ゴン。
嫌な音だ。
俺は知っている。
あと数時間で、
ベルトルト・フーバー が壁を蹴る。
地獄が、始まる。
でも――
今度は。
「間に合う」
小さく、そう呟いた。