暇だ。とてつもなく暇だ。
放課後がここまで暇なものだとは知らなかった。瑞希はそもそも学校に来ないし、杏と彰人は歌の練習しにいったから、暇を持て余している。
「セカイでも行くかー…」
セカイにはミクが居る。ミクなら暇つぶし相手にピッタリだろう。どうせ他のセカイに行けるらしいゲートも開いていないと思うしな。
《♪〜〜》
自分の身を包む眩い光には未だ慣れない。そんな事を思いつつ目を開くとあっというまにセカイに到着していた。やっぱりどうなっているのか仕組みが全く理解できない。
「やっほー!やっぱり来てくれたね!」
「暇だったからね」
このセカイの唯一の住人と言ってもいいネオングリーンの少女。初音ミクが俺を出迎えてくれる。俺が居ない時はどうやって暇を潰しているのか少し気になる。
「ちょうど良かった」
「ついさっき新たなセカイに行けるようになったよ」
先程までの自分の考えは一瞬で覆されてしまったようだ。自分のセカイが出来てからまだ数日しか経ってないのに、他の人がセカイを出来るなんて思わない。
「教室のセカイだけど、早速行ってみる?」
「想いの持ち主に会えるかは分からないけどね」
そんな事を言っているミクだが、俺のなかで答えはもう決まっている。どうせ他のセカイに行ったとてそこまで面倒な事に巻き込まれないだろう。(特大フラグ建築)
《♪〜〜》
ゲートをくぐった時にも自身を包む眩い光。そろそろ失明しそうだと腹の中で毒づきながらも新しいセカイに到着する。
「綺麗な星空だ」
「おや、君は…仲介者かな?」
比喩なしにとんでもない綺麗な星空が広がる「教室のセカイ」。どうやら最初に出された場所は学校の屋上に似通った場所だった。そしてすぐ、自分のセカイのミクとは少し違ったミクに話しかけられる。
「ミクか…」
「流石だね、もう慣れてるみたいだ」
慣れてるみたいだという皮肉…?を言ってくるミク。謎のセカイに2回も入ったら慣れるものだろう。
「想いの持ち主もそろそろ来るはずだから」
「教室はこっちだよ」
ミクに手を引かれ教室まで連れて行かれる。教室の中からは1人の人影が見え、とても上手いベースの音が聴こえてくる。俺の知り合いでベーシストと言えば志歩しか居ないが果たして志歩の演奏なのだろうか。
「ルカ、仲介者が来てくれたよ」
「あら、いらっしゃい」
ピンク色の髪を揺らしながらベースを演奏する、ルカこと巡音ルカ。彼女ももちろん有名なボーカロイドの1人だ。
「そろそろ、想いの持ち主が来そうね」
「さっきから言ってるけど、想いの持ち主って誰?」
そこが1番気になるポイントだ。でも、仲介者と俺のことを呼ぶのだからまさか知らない人の仲介はさせないだろう。
「ここって…一体?」
「いっちゃん、まってよー!」
教室の外から聞き覚えのある騒がしい声がする。「いっちゃん」という呼び名が聞こえた瞬間に少し頭痛がする。
「ようやく来たみたいだね」
「"想いの持ち主"が」
一歌と咲希がどうやら想いの持ち主らしい。でも、一歌と咲希がそうなら志歩と穂波も同じはずだ。
「はぁ…ここはどこなの?」
「早く、帰りたいんだけどな…」
教室の扉を開けながら一歌たち4人が入ってくる。やっぱり俺の思ったとおりで、志歩と穂波も想いの持ち主だったらしい。
「う、海都くん!?」
「お兄ちゃん!?何で居るの!?」
俺が居るのをみて、驚く穂波と志歩。正直なところ何で居るかと聞かれたらセカイのゲートを通ってみたらここに飛ばされてミク達に仲介役を頼まれたとしかいいようがない。言っといてあれだが結構不思議な現象だ。
「話すと長くなる」
「海都は君たちの仲介役をしてもらうために呼んだんだ」
俺も聞かされてないことをスラリと言うミク。報連相はもう少しちゃんとしてほしいところだ。
「お兄ちゃんを巻き込まないで」
「大体こんな変な所で仲介なんてお兄ちゃんもお人好しすぎ」
志歩に正論を言われてしまう。兄より妹のほうがしっかりしてる兄妹なんて聞いたことがあるだろうか。いや、ありそうだな。
「ねぇ!しほちゃん、ほなちゃん、うみくん!」
「アタシたち、バンドを結成したんだ!」
「みんなも一緒にやろうよ!!」
咲希がとても楽しそうに話す。どうやら咲希と一歌でバンドを組むことにしたらしいが、2人だけではメンバーが明らかに足りない。
「はぁ、私はやるなら本気でってわかってるよね」
「それに早く(お兄ちゃんと)帰りたいからやらない」
志歩は早く帰りたいらしいがこのセカイのミクじゃ帰り方はそう簡単に教えてくれないだろう。
「帰り方は演奏したら教えるってのはどう?」
「……性格悪いね」
一匹狼だった志歩に言われてもあまり響かない。でも、ミクの行動は予想通りだった。
「さっさと終わらせよ」
「…!!、うん!!」
一歌はボーカル兼ギター、咲希はキーボード、穂波はドラム、志歩はベース担当と役割が決まっているが、俺が担当する楽器がない。どうやって5人で演奏するのだろうか。
「ベースなら私のがあるから」
「…ってかそのベース、俺が中学生の頃にプレゼントしたものだよね。まだ使ってたんだ」
「…うるさい」
志歩が使っているベースは志歩が中学生の頃の誕生日にプレゼントしたものだった。志歩が使っているものは基本的に物持ちが良かった気がするが、流石にそこまで持つとは驚きだった。
「じゃあ演奏しよう!……どうやって始めるんだっけ」
「はぁ…穂波、カウント」
久しぶりの演奏だからか、咲希は始め方を忘れたらしい。それに見兼ねた志歩が穂波にカウントを要求する。
「あ、うん!ワン、ツー、スリー、フォー」
穂波のカウントから演奏が始まる。正直、お世辞にも上手いとは言えない。咲希も一歌も穂波のリズムを作るドラムを聴けていない。譜面通りに弾く事に手一杯のようだ。
「ストップ、一歌と咲希はもっと穂波のリズムを聴いて」
「はぁ、だから嫌だったのに」
志歩はこういう馴れ合いでやるようなお遊びが嫌いだ。それ故に先ほどの発言が飛び出したのだろう。でも俺から言わせてもらうと一歌と咲希の演奏には何かポテンシャルを感じた。きっと、バンドとして成功も可能だろう。
「もう一回行くよ、穂波」
「う、うんワン、ツー、スリー、フォー」
志歩のアドバイスを聞いて火がついたのか、一歌と咲希の演奏が目に見えて変わった。そんな演奏を見せられて、元アイドルとして負けてられない。闘志に火がつくのがはっきりと分かる。
「!! ッー!!」
「♪―――!!」
志歩と一歌の演奏が更にレベルアップする。演奏中なのに切磋琢磨しているのが肌を通して感じる。
「すっごい演奏だったね!!」
「…久しぶりに歌ったから疲れたかな」
そんなこんなで演奏が終わった。全員活力を出し切ったらしい。とても疲れた表情をしている。
「よかったよね!しほちゃん!!」
「お兄ちゃんはともかく他は全然ダメ、演奏もプロレベルじゃないし」
共感を求める咲希に対し、志歩は冷たくただ淡々と現実を伝える。演奏がプロレベルではないのはしょうがないとは少し思う。
「で、帰り方を早く教えて」
「しほちゃん!やっぱりバンドやろうよ!」
早く帰りたいと言っている志歩にバンドの誘いをする咲希。流石にそう簡単にじゃあやろうというような志歩ではない。
「だって、みんな楽しそうに演奏してたじゃん!!」
「私は…いい、やらない」
みんな楽しく演奏出来た、ならバンドだって楽しく出来るはずだと考える咲希と、楽しく適当にやる演奏ではなく、ストイックにやるなら徹底的にと考える志歩の中ですれ違いが生じる。
「私も…いいかな」
「…ほなちゃんまで?」
咲希と話を終えてとっとと帰ってしまった志歩に続き、穂波もみんなでバンドをやるのは気が引けると話し出す。そして、帰ってしまった。
「みんなでバンドは出来ないのかな…?」
「咲希……」
穂波と志歩の対応に意気消沈する咲希とそれを見て自分に力が無いことに悔しがる一歌。
「…うみくんはやってくれるよね?」
その後、俺にターゲットを変更する咲希。自分の本心をさらけ出せば、一歌たちと音楽がしたい。それを言えばいいだけなのだが、ただ音楽を楽しむだけで過ごせる訳ではないというのは芸能生活から嫌というほど分かっている。
「…ごめん、俺も手伝いなら出来るんだけど」
「海都に無理はさせられないよ」
俺を庇ってくれる一歌。先ほど言った言葉に嘘偽りがあるわけではない。でも、もはや俺に前に出て何かするという勇気は無い。
「それで、一歌たちは諦めるの?」
「諦める訳には行かない、またみんなで集まりたいから」
「アタシも!絶対、みんなでバンドするもん!!」
少し落ち込みかけていた一歌たちに発破をかけるミク。それに感化されたのかやる気を出したみたいだ。
「君も、やってくれるよね?」
「仲介者、なんだろ?やるしかないよな」
俺にも発破をかけだすミク。それに乗らない俺ではない。それに幼馴染ということもある。
「ふふっ、君たちの頑張り期待してるよ」
そこからみんなそれぞれ解散になり、俺も自らのセカイに帰る。そうして、帰ってくると俺のセカイのミクがこちらに向かってくる。
「色々あったようだね、お疲れ様」
「あぁ、今日は帰って寝るよ」
そうして、セカイから脱出し自分の部屋に帰ってくると、志歩が居た。そして、嫉妬の目で俺のことを見てくる
「志歩…?」
「遅い」
そして抱きつかれ、ベットに2人で横になる。というかならされる。
「し、志歩さーん?」
「一回静かにして」
志歩は俺の胸元に顔を埋め、思いっきり息を吸い始める。そして首元に噛み付いてくる。流石にやり過ぎかもしれないが、今日だけは特別に許そう。
志歩とのじゃれ合い(?)の後2人でそのまま寝てしまった。そしてその様子を姉さんによって写真に収められ、朝志歩が不機嫌になってしまったとさ
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