白馬姉「私の弟は最強なんだ!」   作:ボックス

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 反董卓連合の結成。盟主を袁紹とした彼らだが、そこには大きな弱点が二つ露呈していた。

 

 一つ目、彼女らが連合軍である事。

 如何に同盟を結んでいるといっても、個別に向かってしまえば各個撃破されるのは目に見えている。そんな事になれば、そもそも連合を組んだ意味がない。

 さりとて、距離を取って連動して動こうとしても欲が頭をちらつくのが人間というもの。互いが互いに足を引っ張る構図になるのは想像に難くない。

 

 二つ目は、一つ目に重なるが連合として集まらねばならないという点。

 当たり前だろう、という話だがつまりは自分達の領地から行軍せねばならない、という部分がネックとなる。

 況してや、今回の戦は()()()。数の上で大勝している上に、相手には逃げ場がない。

 そんな認識が兵たちの間には蔓延っていた。救いようのない場所では、将にすらそういった気の緩みが見て取れる諸侯も居るほど。

 

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――――見つけたぜ」

 

 ぺろりと舌なめずりを一つ。

 崖の上に立つは、一匹の鬼。金棒を肩に担ぎ、筋肉の塊に思える巨躯の軍馬に跨った鬼だ。

 その背後には同じく目にギラギラと怪しい炎を滾らせた騎馬隊が揃っている。

 

「さあ行くぞ。蹂躙だ!!」

「「「オオオオオオオオォォォォ!!!!!」」」

 

 鬨の声と共に、軍馬は一斉に()()()()()()

 馬蹄によって崩れた崖の一部が砂利となって、行軍している兵士たちへと降り注いでいく。

 当然、コレに気付いた兵は上を見上げ、そして目を見開いた。

 

「て、敵襲だーーー!?」

 

 叫びは、混乱を生む。

 そして、その混乱は致命的な隙を生んでいた。

 

 突如としての急襲を敢行した公孫越と彼の率いる騎馬隊。

 崖を駆け下ったというのに、脱落者は一人として居らず瞬く間に混乱状態であった部隊を轢殺していった。

 どうにか逃げようとした者たちも追い付かれて轢き殺されるか、或いは抜け目のない騎射によって射貫かれて地面に転がる肉塊と化した。

 生き残りが居ないことを確認して、公孫越は馬を止める。

 

「よぉし!物資を頂いて、撤収だ!しっかり休んで、次を潰すぞ!」

「「「ハッ!!!」」」

 

 士気は高い。当然である。

 彼らがこうして反董卓連合に加盟した諸侯の軍を潰したのは、既に数えて十を上回るのだから。

 

 

『集まる諸侯を個別に討つ。集まって強大なら、その前に散らして小分けに討ってしまえば良いんだ』

 

 

 (公孫賛)の言葉である。

 彼女は言った。諸侯は、盟主である袁紹を立てる為に一度集まらねばならない、と。互いが互いに監視する為にも集まるのだ、と。

 この行軍を、討つ。

 予め大道を潰した上で軍路を固定。その上で、幽州でもっとも機動力があり突破力の高い公孫越をこの任務に割り振った。

 因みに、副長に割り振られていた趙雲はこの場には居ない。

 彼女は彼女で部隊を率いて一足先に決戦の地と目された汜水関へと派遣されている為だ。

 

 幽州軍の董卓側への助勢。それは、多くの諸侯にとっては失笑ものの判断であった。

 当然だろう。袁紹を中心とした反董卓連合の方が、遥かに勝ちの目があるのだから。

 一方で、公孫賛の為人を知る者たちは言い様の無い感情を覚えていた。

 曹操は眉をひそめた。劉備はオロオロと視線を彷徨わせ、諸葛亮は警戒を露とした。

 

 そして、袁紹は激怒した。それこそ、冀州の軍をそのまま幽州に向けてしまいそうなほど。

 

 どうにかこうにか、軍師の田豊などがこれを諫めたが不吉な気配はぬぐえない。

 その予感の中で、この件は起きていた。

 

「大将!物資の回収が終わりやしたぜ!」

「よしっ!撤収!」

 

 部下の報告を聞き公孫越はすぐさま行動開始。

 これはまだまだ下準備の段階。

 連合の悪夢は、序章に過ぎない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって汜水関。

 洛陽に向かうには避けては通れない関の一つであり、攻め寄せられる側である董卓軍側からすれば死守せねばならない場所の一つ。

 

「ぐぬぅ……!また、敗北か……!」

「ふふふ。こちらも、そう易々と勝ちを譲る訳にはいきませんので」

 

 得物である大斧の石突を支えに膝をついた女性を前に、趙雲は胸を張る。

 苦々しく敗北をかみしめながら、華雄は立ち上がった。

 

「しかし、子龍。お前よりも強い者が幽州軍には居るのか?」

「無論。私など歯牙にも掛けず一蹴する御仁が居りますとも」

「にわかには信じがたいな……」

 

 眉根を寄せる華雄に、趙雲は笑みを浮かべる。

 

 事の発端は、援軍としてやって来た趙雲に対して実力を測る為に華雄が手合わせを提案した事にある。

 最初の一回は、瞬殺だった。開始の合図と共に、趙雲の振るう槍の穂先が華雄の喉に突きつけられていたのだ。

 距離は凡そ五メートルあった。そしてこの間に、華雄は一度だけ瞬きをした。その瞬きの間に五メートルの距離は踏み潰されて敗北を与えられたのだ。

 

 その後、何度も何度も華雄は趙雲へと挑んだ。

 最初の一回で慢心と侮りを捨てた彼女は、しかし今日にいたるまで一度として勝ててはいない。

 

 趙雲の槍は、速い。それに加えて、彼女は相対する相手の意識の間隙を突くのが上手かった。

 人間の集中力というものには、ムラがある。それは、永遠に息を止める事が出来ない様に当然のことでもある。

 100を最大にすれば、通常の人間の集中力は80前後。更にこれが無意識のうちに上下する。因みに100やそれ以上は火事場の馬鹿力や走馬灯などの命の危機に陥った状態である。

 

「華雄殿は、もっと単純に考えるべきかと」

「むぅ?単純、だと?」

「貴殿は私と相対した時、いかにしてこの速度に対応するかを考えておられる。その思考こそが、貴殿の動きの鈍さを生んでいるとお見受けしました」

「思考……」

 

 趙雲の指摘に、華雄は考え込む。

 彼女は、言い方は悪いがそこまで優秀な頭をしていない。端的に言えば、単純な馬鹿である。

 当然というべきか、彼女の思考の速度が本来の体の動きについて行かない。そうなれば、自然と動きに無理が出来、油を差していない機械のようにぎこちなさが出てしまう。

 顎を撫でた華雄は、徐に目を閉じた。

 

「ほう……」

 

 目の前の華雄の変化に気付いたのか、趙雲は興味深そうに目を細める。

 気配が、引き締まった。先程までの何処か集中しながらも乗り切れなかった雰囲気が、鋭く尖ったものへと変わる。

 オモシロイ。趙雲は、槍を構えた。

 

 華雄の目が、ゆっくりと開かれる。

 

「……来い」

「…………フッ!」

 

 鋭い呼気と共に、槍の穂先が空気の壁を突き破る。

 意識の間隙を突き、その間隙を正確に穿つ神速の槍。

 

 瞬間、激しい金属音が響いて火花が散った。

 

 斧を叩きつける様に振るっていた華雄。そこから、腰の回転と腕力を存分に活かしてギロチンの歯車の様に前進しながら突っ込んでくる。

 出鱈目な攻撃を前に、趙雲は笑った。

 楽し気に、同時に獰猛な肉食獣の笑みである。

 

 迫る縦回転をバックステップを刻みながら回避する趙雲。

 二度回避した所で、彼女は自身から右側へと跳んだ。直後に、斧の刃が地面を咬むように叩く。

 跳んだ衝撃を地面を滑りながら殺しつつ、放たれるのは神速の突き。

 これに対して、華雄は叩きつけた斧の刃を軸にして体を空へと大きく投げ出した。

 遠心力によってすらりとした足が空へと投げ出され、先程まで彼女の体があった場所を槍の穂先が突き穿つ。

 

「セアッ!」

「ふっ……シッ!」

 

 振り上げた足のベクトルを無理矢理に動かして上から下へと引き裂くような蹴りを放つ華雄。

 これに対して、趙雲は笑みを浮かべると呼応するように右足を鋭く振り上げた。

 肉がぶつかり合ったとは思えないほど鋭い音が響く。

 衝撃と共に距離が空き、そして二人はどちらともなく得物を下ろした。

 

「どうだっただろうか?」

「良い動きであったと思いますぞ」

「そうか。私としても、かなりの手応えだ。何も考えずに武に身を任せるのは心地いいな」

 

 満足げに頷く華雄に、趙雲もまた頷いた。

 彼女の見立てでは、華雄は典型的な本能型の武将だ。それ故に、趙雲は彼女の枷を取り払う事にしたのだ。

 

 結果として、その試みは半分成功。華雄の攻め手は激しさを増して、武人としても一皮むけた事だろう。

 半分失敗は、猪武者具合に拍車がかかってしまっている点か。

 

 都で幼馴染の為に胃壁をすり減らしながら脳細胞をフル回転させる眼鏡軍師が吐血しかねないが、そんな事は趙雲の知った事ではない。

 

 この一件から、凡そ五日後の事。

 ついに連合軍は汜水関へと辿り着く。

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