白馬姉「私の弟は最強なんだ!」   作:ボックス

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 その日、華雄は神を見た。

 彼女は力の信奉者だ。それは戦闘スタイルや、戦術選択肢が突撃一択である事から見ても明らか。

 そして、ここ数日は趙雲との組手から頭角を現し始めた本能型としての動き方に体を慣らしている影響から余計に獣染みた部分が確立されようとしていた。

 

 そんな獣の本能が、反応した。

 

 風になびく鮮やかな赤毛。その下の、柔和にも思える笑みが浮かぶ顔立ち。

 黒い漢服に身を包みながらも、服の上からでも分かる肉体の逞しさ。

 何より、力という概念がそのままに人型に圧縮されたような独特な雰囲気。

 

 自然と、華雄は相対した公孫越の前で膝をついていた。

 もっとも、困ってしまったのは膝をつかれた側だったが。

 

「あー……どうするべきだ?」

「とりあえず、立たせれば宜しいのでは?」

「……それもそうか」

 

 趙雲の言葉を受けて、茫然と自身を見上げてくる華雄に近づいた公孫越。

 そのまま無造作に腕を掴むと彼女の体を引き上げた。

 

「それじゃあ、話し合いか。つっても、あっち(連合軍)は大分削れてるがな」

「加えて、伯珪殿の異民族を利用した策もそろそろ発動する頃合いでは?」

「ああ。つまり、あそこから更に人が減る」

「いやはや何とも、連合も災難というものですなぁ」

 

 同情、というよりは失笑。自身がこれほどの逆境であったのなら趙雲は逆に燃え上がったかもしれない。

 だが、相手は甘い汁を啜ろうと便乗した者たちの集まり。少なくとも、彼女の目からはそう見える。故に、どれ程ズタボロになろうとも打ちのめされようとも、自業自得にしか見えないのだ。

 

 最早反董卓連合は詰んでいる。

 そのトドメである異民族からの襲撃だが、その手法は特別なものは無かったりする。

 まず、公孫賛が通じているのは()()()()()。主に、鮮卑や烏桓がこれに該当する。

 一方で、西部異民族はというと、こちらは羌、或いは西羌と呼ばれる者たち。

 彼らの一部は、涼州の馬騰や韓遂と通じて勢力を保ったりしているが全員が全員そうではない。

 やり方は簡単、規模の大きな鮮卑を利用して、異民族内への噂という形で情報を流す。ただそれだけでいい。

 

 異民族は、寝首を掻く事に躊躇いは無い。彼らは彼らの理があり、生憎と儒学を崇めてはいないのだから。

 無論、噂だけでは動かないだろう。彼ら独自でも調べる事になる。そして知るのだ。

 今の中華は、外に対して意識を向けられる程の余力がない事に。

 そうなれば、後は荒野を野火が広がるが如し。大挙して弱った獲物へと襲い掛かる。

 当然ながら大きな被害が出るかもしれない。しかしそれは、その地を治める為政者がヘマをしただけの事。

 冷酷と揶揄されるかもしれないが、公孫賛はあくまでも幽州の州牧。涼州や益州を豊にし、守っていくのはその地の州牧や代表者の仕事なのだ。

 

「して、越殿。これから如何様に?」

「早晩、奴らは決戦を仕掛けてくるさ。まあ、一騎討だろ」

「でしょうな。当てにしていた兵数が望めない以上、相手の将を削るのは常套手段ですからな」

「ああ。んで、そっちは俺が出る。子龍。お前は、白馬を率いて裏を荒らしてこい」

「では?」

「おう。()()()()()()()

「御意に」

 

 胸に手を当てて頭を下げる趙雲。

 よし、と頷き公孫越は次の為に未だに呆けている華雄の頬を空いた手で軽く数度叩く。

 

「おい、良いか?」

「……はっ!な、なんだ!?どうした!?」

「華雄。お前も子龍と一緒に、裏荒らしに回ってくれ」

「……?」

「とりあえず、俺が一騎討してる間に他の奴が逃げ出さない様に見張ってりゃ良いのさ」

「成程!……私ではダメか?」

「俺に勝てるなら良いぞ?」

「…………分かった」

 

 常の彼女ならば、嬉々として斧を片手に斬りかかったかもしれない。

 だが、彼女の本能が既に序列を決めてしまったのだ。目の前の雄には、逆らってはいけない、と。

 

 大人しく華雄が頷いた事を確認し、公孫越は外へと目を向けた。

 

「さっさと終わらせて、帰るとしようか」

 

 瓢箪を呷り、中身を干す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 詰んでいる。反董卓連合の共通認識である。

 つい先ほど、馬騰からの名代として派遣されていた馬超が妹と軍を引きつれて涼州への帰路を駆けだした。同じく、劉璋側から派遣された黄忠も同じく益州への帰路につかざるを得なくなった。

 

 兵数、四万。最早、何のために連合を組んだのかも分からない一諸侯程度の数しか残っていない。

 

「――――今、何とおっしゃったのかしら?」

 

 底冷えするような声が、天幕内に響く。

 連合が会議をする為に設けられたそこは、お通夜のような雰囲気。

 そんな天幕内で氷柱を背筋に差し込む様な冷やかさと共に、袁紹は改めて口を開いた者へと水を向けた。

 

「これ以上は、無駄。と言ったのよ」

 

 凛と見返すのは、曹操。

 そもそも、面と向かってこの場の袁紹へと意見を言える者など彼女しか居ない。

 

「おめおめと逃げ帰れ、と?」

「各個撃破を受けた時点で、私達の兵数は半分程度になったでしょう?加えて、涼州と益州が抜けた今、更にその数は減った上に昨晩の襲撃で真面に戦える兵は総数の半分居るかどうかよ。そんな状態で、精強な騎馬を持つ幽州軍ともともと強い董卓軍を相手にとれると思うの?」

 

 怒りに震える袁紹に対して、曹操は現実をもって迎え撃つ。

 最早、連合にとって幽州の戦力は化物のソレだ。特に騎兵は、恐怖の象徴になっている。

 加えて、董卓軍。

 将が粒揃いの上に、兵も涼州出身が多い事から精強だ。

 諸侯単独でぶつかれば、勝利する事は難しい。だからこその連合であるのは、再三再四述べてきた。

 

 幸い曹操は、自身の手勢はそれ程削られていない。少なくとも、他諸侯と比べれば損害もまだ何とかなるレベルだ。

 だが、袁紹は違う。

 

「……できませんわ」

 

 拳を握り怒気のままに彼女は立ち上がる。

 今回の襲撃で被害が大きかったのが、袁紹軍だ。数が多い上に兵の質がそれほど高くない為に、大きな被害を出した。

 因みに、ついで被害が多いのは劉表、袁術。後者は、張勲が早めに動いたおかげでどうにか傷口を塞げたが結果として孫呉の力を増してしまうという結果も出てしまっていたりする。

 

「このまま、引き下がれるものですか……!三公を輩出した名門、袁家の当主たるこの袁本初が!目的を果たす事はおろか、真面に戦う事も無く逃げ出すですって!?出来るものですか!出来る訳がないでしょう!?」

 

 思い切り机を叩く袁紹の怒りは激しい。

 

 公孫賛にお断りを入れられてから、彼女のやること成す事全てが上手くいかない。

 大軍をもって押し潰す。力押しにはなるが、数というのはそれだけで強力な武器となる。

 特別学んだわけではないが、袁紹は無意識的に自分の一番の武器が数であると理解している。そして、その手法をいかにして活かすのかも。

 だからこその、反董卓連合だ。

 数を揃えられれば、数に劣る董卓軍の敗北は必至。加えて、彼女らが劣勢になれば中央側も自分達の身を守る為に董卓陣営を切り離しにかかった事だろう。

 

 しかし、蓋を開けてみればどうだ。

 数の利を生かす事も出来ずに各個撃破。物資は奪われ、士気は地を這うどころか埋没して戻ってくる気配も無い。

 加えて、異民族の涼州益州への襲撃。タイミングが良すぎる事から幽州側の何かしらの策略であると読んだ者も居た。

 これを利用して、幽州討伐を画策できなくもない――――が、現状それは難しい。

 中華のほぼ中央に位置する司隷と違って、幽州は北方。中華の構造を加味すると、攻め込める方角は南と南西から。

 だが、その内南西部は并州に隣接しており、ここは漢の支配が確立できていない土地。青州と似たようなものだが、兎に角不用意に侵入できる場所ではない。

 結果、攻め入る事が出来るのは、南側。幽州側からすればこれほど守りやすい状況は無い。

 何より、今回の連合各個撃破で幽州騎馬の恐ろしさは骨身に刻まれた。将が乗り気でも、士気は振るわない事だろう。

 

 怒気を纏ったまま、袁紹はジロリとこの連合の末席に座る者へと目を向けた。

 

「劉備さん」

「は、はい……!」

「貴女方には、この戦いの先鋒をお任せいたしますわ。栄誉な事でしょう?」

「え…で、でも「()()()()?」ッ…………はい……」

 

 連合軍内でも最下位の地位である義勇軍に、連合トップの袁紹の命令を突っぱねるような力はない。

 そして、周りが助け舟を出す事も、無い。

 既に自分達も削られているのだ。そこから更に兵を他所に回すなど自殺行為でしかない。

 

「華琳さん。貴女方は、次鋒です。よろしくて?」

「…………ええ」

 

 最早止められない。負けると分かっていても、軍を引けば逃亡者呼ばわりを受ける事になる。

 

 そして、終わりの時はやって来た。

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