白馬姉「私の弟は最強なんだ!」   作:ボックス

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 雨に打たれながら、曹操は己の得物を手に取っていた。

 彼女だけではない。曹操軍内でも武闘派の将のみがこの場には集まっている。

 

「ふぅ……ごめんなさいね。貧乏くじを引かせて」

 

 自嘲するように、曹操は呟く。

 兵を下げたのは、これ以上の犠牲を出さない為。将だけこうして集まったのは、そもそもの曹操の行動からだった。

 

 元は、彼女一人で戦うつもりだった。

 総大将として、この死地に皆を連れてきた責任を取るつもりだった。

 だが、残念ながら彼女の想定通りには進まない。

 

「何をおっしゃいますか、華琳様。私も、姉者も、例え死出の道であろうともお供いたします」

「そうです!私と秋蘭は、終生のその時まで貴女と共に在り続けます!!」

 

 まず、夏侯淵と夏侯惇。

 第一の家臣にして、曹操の両翼を務める彼女らは曹操が一人死地に赴く事を良しとしなかった。

 彼女らに加えて、三羽烏と称される、楽進、李典、于禁の三人もまた各々の得物を手にこの場にはせ参じている。

 

 曹操もまた生き様で人々を引き寄せる王の器だった。

 

 そして、

 

「おうおう、お揃いだな」

 

 軍馬を進めて鬼がやって来た。

 金棒を肩に乗せた公孫越は、自身と相対する六人を見やる。

 徐に、鞍から降りると己の足で彼女らの五メートルほど前まで進んで止まった。

 

「劉備は降伏した様ね」

「ああ。まあ、無駄死にするよりは良いんじゃないか?」

「…………どうかしらね」

 

 気楽に肩を竦める公孫越に、曹操は曖昧に笑った。

 心をへし折られて再起が出来なくなったまま生き続けることは果たして幸せな事なのか。

 少なくとも、曹操は負け犬になってまで生きていようとは思わない。

 

 得物である大鎌を構え、曹操は不敵に微笑んだ。

 

「ねえ、踊ってくださる?激しく、苛烈に、劇的に。火の花散らして舞いましょう?」

「熱烈だな」

 

 金棒を肩から降ろして、公孫越は視線を動かした。

 相対するのは曹操たち六人であるが、その少し離れた地点からも殺気を感じるのだ。それも、無数に。

 

 非戦闘員である軍師組と居た所で肉盾にもならない兵士たち。

 彼ら彼女らは、忸怩たる思いを抱えていた。

 兵たちは、己の弱さを。そして軍師組は、己が武威を持たない事について。

 故に、距離とりながらもその手には武器を握り、戦意を鈍らせる事は無かった。

 

 もしもの時には、自分達の身を犠牲にしてでも王を救う、その為に。

 

「――――んじゃあ、やるか」

 

 瞬間、公孫越の姿が掻き消える。

 目を見開いて武器を構える将たちの中で、目の良い夏侯淵が気付いた。

 

「上だ!」

 

 矢を番えて弓を引き絞りながら叫んだ。

 慌てて彼女らが見上げれば、頭上で金棒を回しながら跳躍により高所をとった公孫越の姿があった。

 

 刹那、空が閃いた。

 

 雷雲の中に溜まっていた雷が、遂に落ちたのだ。

 向かった先は、公孫越の頭の上で回されていた黒鉄の金棒。

 雷に打たれ――――奇跡が起きる。

 

 彼の愛用する金棒は、特殊な金属が用いられていた。

 その影響か、あるいはもっと別な超自然的な存在の思し召しか。

 

 雷を宿した金棒を掲げ、公孫越が降って来る。

 

「はーっはっはっは!!!」

 

 着弾の瞬間、世界が揺れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビリビリと空気を伝わる振動を覚え、趙雲はその大本であろう巨大な泥飛沫が吹き上がる地点を見つめて口角を上げた。

 

「ふっ……雷すら、あの方の味方、か。最早、天も貴殿らを見捨てたという事でしょうな」

「くっ………!」

 

 趙雲が馬上から見下ろすのは、巻かれたボリュームのある金髪に金の鎧が印象的な女だった。

 彼女こそ、この反董卓連合のトップであった袁紹だ。その右腕からは血を流して、だらりと下ろされており雨に濡れた宝剣が地面に転がっている。

 彼女だけではない。側面から攻撃を受けた袁紹軍は、壊滅の被害を受けていた。

 元より、公孫越の攻撃で大きな消耗をしている状態で、更に単経の補給路半壊による怪我人の増大と物資の枯渇が致命傷であったのだ。

 

 大将である袁紹だけではない。

 袁家の二枚看板と称された、顔良と文醜の二人もまた雨と血に濡れて地面を転がっている。

 彼女らのそれぞれの得物であった大剣と大槌は、何れも華雄の大斧によって叩き壊されており後は首を取るだけといった状況。

 

「……何故………!」

「ん?」

「どうして、こうなるんですの………!?」

 

 自身を見下ろしてくる趙雲を、袁紹は睨み上げる。

 

 上手く行くはずだった。忌々しい宦官を潰し、自身よりも目立った董卓を追い落とし、自分こそが天下を掴む。

 その筈だった。

 だが、彼女の思い浮かべた全ては、絵に描いた餅となる。

 

「貴殿が間違ったからでは?」

「間違い、ですって……?」

「何の罪も無い者に罪を着せ、己の欲の為に他者を貶めようとしたのです。であるのなら、その企みを挫く者が居てもおかしくはありますまい?」

「~~~~~ッ!!」

 

 袁紹の目の前が真っ赤に染まる。

 未だ無事であった左手で地面に転がった宝剣の柄を取り、その切っ先を自身を貶める不埒者へと向け、

 

「遅い」

「づっ!?あああああああ………!」

 

 神速の穂先が袁紹の左肩と、そこに繋がる二の腕を射貫いていた。

 痛みに剣を下ろし、筋肉が傷つけられた事によって腕がだらりと垂れ下がる。

 立ち上がろうとして、再び膝をついた袁紹は涙をその目に浮かべながら、それでも憎悪の籠った目で趙雲を睨み上げた。

 

「何も!何も間違ってなど居るものですか!!(わたくし)は、三公を輩出した名門、袁家の当主ですのよ!?その私に、言うに事欠いて、間違っているなどと……!撤回しなさい!不埒者!」

「……?確かに、袁家は名門でしょう。ですが、ソレが貴女を敬う理由となるのですかな?」

「何を――――」

「三公を輩出したのは、昔の話ではありませんかな?貴女が事を成したわけではない。袁本初殿、今の貴女の立場は単なる敗軍の将でしかない。天子の居られる都へと軍を向けた貴女を敬う理由があるのですかな?」

 

 淡々と、趙雲は告げる。

 彼女にしてみれば、袁家の名門としての誉れなど過去の栄光でしかない。そんなものを笠に着られたとしても先の通り今の袁紹は敗軍の将。何の脅しにもならない。

 既に、連合軍の大半が縛に落ちるか、物理的に首になって地に伏した。

 

 残るは、

 

「おや?」

「ふぎゃ!」

「きゃふん!」

 

 飄々とした趙雲を袁紹が睨み上げる場に、何かが投げ込まれた。

 見れば、袁紹と同じく巻かれた金髪の少女と、短い青い髪が印象的な女性だ。

 どちらも縛り上げられており、所々に傷や汚れが目立つ事から穏当な手段で捕らえられたのではない事だけは確かだった。

 

「袁家の片割れ、袁術とその腹心張勲よ。この二人の首をもって私たちは離反させてもらうわね」

 

 雨に濡れながら現れるのは、褐色の二人組。

 孫策、並びに周瑜の二人。

 思わぬ二人の登場に、趙雲は眉を上げた。

 

「フム、下剋上ですかな?」

「暴走する主家を止める事もまた、配下の務めというものだろう?こちらにも、養っていくための部下や民が居る。彼らへのいたずらな負担をかける政策を良しとする訳にもいくまい?」

 

 趙雲の問いに答えたのは、周瑜。

 もっともらしい事を言っているが、元よりタイミングさえあれば独立を視野に入れていたのだ。それが偶々この時であっただけの事。

 眉を上げる趙雲だったが、ここからは武人ではなく政治家の領分。

 

「それでしたら、そちらの袁本初殿。並びに、二枚看板の捕縛を願えますかな?貴殿らの取り扱いは、我々の領分ではありませんので」

「承った」

 

 負けを悟って寝返った、とも非難されかねない立場ではあるが、命あっての物種。

 瞬く間に、袁紹軍は拘束されていった。

 そして、

 

「終わったか?子龍」

「ええ、滞りなく。仲碕殿もご無事な様で」

 

 愛馬を後ろに引き連れた公孫越が金棒を肩に担いで合流してきた。

 彼がやって来た方向には、折れた大剣や穂先がドリルのような槍。弦が切れて折れた弓、そして地面に突き立ち刃の砕けた大鎌が雨に濡れている。

 

 こうして、嫉妬が生んだ戦争は幕を閉じる。

 大きな変化を齎して。

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