魔法少女を守る魔人に憐れみなんて要らないよ   作:足洗

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5話 切除

 

 

 

「“トリステラ”! 今一番勢いのあるマギユニですよ!」

「なに。その、マギユニって」

「魔法少女のユニットって意味です。近年の魔法少女はソロよりデュオとかユニットでデビューするのが多くなってる印象ですね」

「なるほど、セット売りの方が何かと都合がいいわけだ。客の側からすれば一つの箱から選べる品揃えは多いに越したことないもんねぇ」

 

 固定された右掌の表層にメスが走る。

 熱感の後、鋭い痛みが腕を伝い背骨を伝い脳天を衝いた。自然、奥歯を噛んでいる。切開され、皮膚を鉗子で摘まみ保持し、掻き分けられた肉の合間から骨が露出する。

 

「……前々から思ってたんですがヴィクトリア博士ってもしかして魔法少女お嫌いですか?」

「いやいや、そんな筈ないでしょ。彼女らが国民から稼いでくれたお金で私達は伸び伸び研究三昧させてもらってるんだよ? 嫌うだなんてまさか。あんまり興味ないだけ」

「そう、ですか? 勿体ないなー。良いですよ、魔法少女。歌やダンスなんかのパフォーマンスは勿論、特に衣装が。トリステラの東雲アリスや宝田りうのスタイリッシュスポーティーなのも良いですけど、僕のイチオシはなんたって薬師寺マコト! あのクラシカルなロリータにモダンなエッセンスを随所に盛り込んだリリィ、すっごく素敵なんですよねぇ。グリーンの羽衣で和のエッセンスも取り入れてて……ああいうのが似合う人って、なんだか無性に」

「羨ましい?」

「はい、羨まし……って、そ、そんなことないですよ!? ただ可愛いなぁって思っただけで……全然そういう趣味とかないですから僕!」

「そうなのー? マサやんのPCの検索履歴にやたらコスメとかレディースファッション系の単語が散見されてたんだけど、なんだ私の思い違いかー」

「勝手に覗かないでくださいよ!? 違いますから! ホントに! り、六王(りくおう)さんは信じてくれますよね!?」

 

 手術台に横たわる自分に、宮田正剛(まさたけ)助手が縋るような目で詰め寄る。マスク越しにも顔全体が羞恥に赤く染まっていることが見て取れる。

 返答に困り視線だけそちらへ向けると、宮田助手はすっと伏し目がちになる。西洋人形めいた造作の目元、大きな瞳。瞬きで長い睫毛が頻りに震えた。

 

「乙女チックやってるとこ悪いけどマサやん、電ノコ」

「は、はい! 今準備します……」

「まったく、そんなに入れ込むようなものかね、あれ。魔法少女専用の装身具(リリィ)はM粒子由来の特殊繊維をほんの一部分に編み込んだだけの謂わば廉価品だ。M粒子状態でデバイスに保存できるから早着替えには便利だろうけど。その意味じゃ魔力精錬金属製の装甲(サレナ)もねぇ。強度は確かに人後に落ちないが魔力の固定化が完璧すぎて弄る余地がないのがどうもね。つまんないんだよねぇ……だから私のイチオシは、やっぱり君だ。六王くん」

「……」

 

 ヴィクトリア・レクトール博士。魔性存在研究の第一人者は、柔和な笑みで己を見た。正確には、切開された己の掌、その傷口を。

 

「変異した部位は微少だね。これなら簡単に採集できる。お、筋繊維だ。綺麗に魔人化してるよ。ちょっと切り取らせて」

「っ!」

「いやぁ本当は麻酔とか打ってあげたいんだけど、君の体、医薬品どころか毒物まで無効化しちゃうんだもん。難儀だよね毎回。戦う度に無麻酔で体中切り刻まれるんだから」

「ぎ、が……!」

「本当、可哀想に」

「博士、どうぞ」

「はいはい。せめて手早く済ませてあげる。ありゃ、第三と第二中手骨も変異始めちゃってるなぁ。これはちょっと痛いと思うけど、我慢してね」

「……どうぞ。お気遣いなく」

 

 トリ博士はますます笑みを深くした。彼女はきっと実験用マウスを可愛がる性質なのだろう。

 ハンドガンタイプの電動ノコギリを握り、博士はトリガーを引く。高トルクモーターが唸り耳を劈くような甲高い叫びを上げた。

 

「あ、そうそう。さっき言ってた魔物……カテゴリーの上昇があったとかいう実に興味深い話。後で報告書提出してね。詳しい状況についても聞きたいからさ。ラボでお茶でもしながらゆっくりとね」

「じゃあお茶菓子は僕から。えへへ、六王さんが来られると思って今朝マフィンを焼いたんです。六王さん、甘いものお好きでしたよね?」

「ええ……後で、頂きます」

 

 天井から手術台に注がれる無影灯の白光の中、手術着に身を包んだ研究者達は自儘にひどく牧歌的な会話を続けた。

 レシプロソーの刃が高速で前後しながら容赦なく掌の内部へ、博士曰く変異した中手骨へ突き込まれる。

 

「────」

 

 俺はただ自ら喉を閉じ、そうやってひたすら溢れようとする叫びと激痛を飲み下す。

 それ以外にできることはなかった。

 

 

 

 

 

 

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