ガンダムビルドダイバーズ 遥か遠き我が王国(エル・ドラド) 作:守次 奏
私は、原則としてGBNで売られた喧嘩は全て買うことにしている。
『オラオラァ! AVALON期待の新人だっていうからどんなもんかと思いきや、バイクに乗って逃げ回るだけが取り柄かよ!』
上空からの爆撃を回避しながら、私──ダイバーネーム、「リュセル」は小さく舌打ちをした。
敵はメッサーF02型、マインレイヤー装備。
GBNでは必須といえる飛行スキルと、自前のリフティング・フレアによる滞空能力を向上させたカスタムが施されているのだろう。
『しかもジェノアスなんて最弱のモビルスーツのカスタム機だ、AVALONの名も地に落ちたもんだなぁ、ええ!?』
対して私が操るのは、ジェノアスOカスタムを改造したジェノアスKカスタム。
色々な機体とミキシングしたから面影は頭部と肩と腕ぐらいにしか残っていないけど。
それにしても、よく喋る。
「品性が地に落ちたダイバーが、よくもまあ」
敵が言っていることを気には留めない。
ただ、言われっぱなしでは腹が立つのもまた確かだ。
そう、私はこのGBNでフォースランク不動の一位である「AVALON」の名前を背負っているのだから。
そこに新人だからとか、まだ可能性を買ってもらっただけだとかいう言い訳は通用しない。
少なくとも、この手でAVALONの一員となる座を射止めたのだから、こんな三下相手にいつまでも好きに言わせているわけにはいかないのだ。
機体を乗せているサブフライトシステムも兼ねた一輪駆動車、「メモリーホッパー」を敵に向けて反転させて、機銃で機雷を撃ち落とす。
そして、メモリーホッパーの両肩に装備しているミサイルポッドの引き金を引いた。
『チッ、小娘がちょろちょろと……!』
「その小娘一人仕留められない大人が随分と囀っているようですね」
『ほざけぇっ!』
安い挑発に乗ってくるとは、随分短気な相手らしい。
リフティング・フレアに点火したメッサーが高度を下げてビームライフルを撃ち放ってくるのを回避しつつ、メモリーホッパーを放棄。
跳躍して、私はすれ違いざまに空中のメッサーをドッズライフルで撃ち抜いた。
『クソッ、制御が効かねえ! メッサーの装甲を側面から撃ち抜いたってのか!?』
「D.O.D.S効果がデフォルトで付与されていますから」
『舐めるなァ!』
とはいえ、流石に重装甲のメッサーが相手では一撃必殺とはいかない。
半壊状態でなおビームサーベルを振りかざして襲いかかってくるメッサーを、私は冷静にもう一発目で粒子の渦に飲み込ませた。
内側から膨れ上がり、装備していた機雷にも誘爆したことで、メッサーはあえなく爆散する。
『畜生、このオレがぁぁぁっ……!』
「グッドゲームとは言いませんよ、喧嘩を売ってきたのはそちらですから」
そう、これは売られた喧嘩を買っただけの戦いだ。
私個人に対する罵倒はともかく、「AVALON」の名前を出して喧嘩を売ってきたのなら、買わざるを得ない。
チャンピオン──不動の個人ランキング一位、「クジョウ・キョウヤ」の名前に傷をつけないためにも。
【Battle Ended!】
システムがフリーバトルの決着を告げると同時に、私はジェノアスKカスタムを降りて、深夜の森林地帯に降り立った。
作り物の感覚だとしても、吹き抜ける夜風が涼しくて心地いい。
いくらかのダイバーポイントを得たことで、AランクからSランクへのゲージがほんの少しだけ上昇した。
「……だけど、まだまだ足りない」
そう、それでもまだ、足りない。
かつて、第二次有志連合戦と呼ばれる戦いがあった。
熾烈な信念と信念のぶつかり合いの中で、私は圧倒的な力で己の正義を貫こうとしていたチャンピオンに──キョウヤさんに憧れるようになったのだ。
結末はともかくとして、あれだけの力があれば、なんだってできそうだから。
そして、なによりも。
なによりも、格好いい。作るガンプラも、戦い方も信念も、なにもかもが。
「だから、私はならなければいけない……AVALONの名前を背負うに相応しいダイバーに」
過酷な入隊試験をクリアできたのは、僥倖だったといってもいいだろう。
それでも、まだ私はスタートラインへ立ったに過ぎない。
カルナさんとエミリアさんという副隊長格の方々も、いずれ追い抜いて、いつかはあの人の──キョウヤさんの隣に立つのに相応しい存在になるのだから。
そんなことを頭に浮かべながら、しばらく夜風に当たっていたときだった。
ざざ、と、頭にノイズが走ったような感じがする。
周囲の空間が微かに歪んで、破れていくような気がした。
頭で考えた瞬間には、光が、弾ける。
「……」
彗星のようにぱあっと瞬いた光が去って、なにもなかった場所に、女の子が立っていた。
「えっ、なんで……!?」
ただの女の子でないことは知識としてわかっている。
彼女はGBNで時折発生する電子生命体、「ELダイバー」なのだろうと。
だけど、問題は容姿の方だった。
「……?」
小首を傾げたその姿は、黒髪に青い瞳であることを除いて、私にそっくり……いや、双子の姉妹のように瓜二つだったのだ。
まるで、ドッペルゲンガーに遭遇した気分だった。
髪の毛と瞳の色は違えど、体格から顔つきからなにからなにまで自分と同じ存在に出会うことなんて、どんな確率なのかわかったものじゃないからだ。
「……あ。えっと……あなた、は」
「……Aug……L……aun……1……Sys……」
「……は?」
「A……L……1……Sy……」
誕生したときにバグかなにかを吸収してしまったのだろうか。
私とそっくりなELダイバーの女の子は、虚ろな瞳で、譫言のように同じ言葉を繰り返すだけだ。
かろうじて聞き取れるのは、「A、L、1、S」の四文字だけ。
「……アリス、と呼べばいいのでしょうか?」
ELダイバーの名前は大体自分で決めている……というか、決まっていることが多いから、この子は、名乗り続けているのかもしれない。
「ア、リ……ス……」
「やっぱり、名前でしたか。とりあえず……この時間ではELバースセンターも閉まっているでしょうから、私たちのフォースネストまでついてきてください」
「アリ、ス……」
自我の形成に著しい遅れが生じている以上、一刻も早くELバースセンターに運び込むのが筋なのだろう。
でも、深夜二時を回った今では流石に開いていない。
だから私は、このアリスと名乗ったELダイバーを、「AVALON」のフォースネストへと連れていくことを決めたのだ。
築地は二時から開いてるぜ!