ガンダムビルドダイバーズ 遥か遠き我が王国(エル・ドラド)   作:守次 奏

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AGE漬けの24時間

「──そういった経緯で、このELダイバーを保護いたしました、隊長」

「そうか、ご苦労だったね、リュセル。しかし、あまり安い挑発には乗るものじゃないよ」

 

 巨大な古城を思わせる「AVALON」のフォースネストに帰還した私は、チャンピオンこと、クジョウ・キョウヤさんにことのあらましを報告していた。

 キョウヤさんがどうしてこんな時間にもログインしているのかはわからない。

 でも、この人は大体いつもフォースネストにいるから、なにかあったときに頼りになる。

 

 それこそ、今のような緊急事態とか。

 アリスはその後、バグの影響なのかうつらうつらと船を漕ぎ始めて、意識がはっきりしない状態だった。

 これが消えかけているとかなら大惨事だ。でも、側から見ているだけではなにもわからないから困る。

 

「すみません。ですが、AVALONの名を背負う者としては」

「君はまだ四角四面なところがあるね。確かに僕たちのフォースはGBNの頂点だ、だからこそ、色々とあることないことを言われるものさ。一つ一つに構っていたらキリがない」

「……申し訳ございません」

「謝ることはないさ、君がそれだけこのフォースを大切に思ってくれているのは、僕としても嬉しいからね。さて……」

 

 キョウヤさんは柔らかく微笑むと、虚ろな目をしているアリスの方に視線を向けた。

 柔和な表情が一転、険しいものへと変わる。

 ELダイバーとその存在を巡っては、「AVALON」にはなにか大きな確執があるという噂だ。

 

 俗に第三次有志連合戦と呼ばれているレイドバトルの後にGBNを始めた私には、特段彼女たちを嫌悪する理由も、愛好する理由もないのだけれど。

 

「自我の形成に遅れが生じているELダイバーか……このような事態に遭遇したのは僕も初めてだよ。正直なところ、どうすればいいのかわからない」

「隊長が仰る通りだと思います。しかし、私にもどのように対処するのが望ましいのかわからず……」

 

 ELバースセンターが開いてさえいれば、連れていくのが最適解だとわかっていても、開いてないものは開いてないのだから仕方ない。

 とりあえずは、最近目立ち始めているELダイバーへの嫌悪を撒き散らすような勢力から隔離できたのは大きい。

 それはそうとして、このまままさか、ELバースセンターが開くまでなにもせずに待っていろというのは結構な苦痛だ。

 

「ふむ……そうだね、ならばアリスくんには『アレ』を見せることにしよう」

「『アレ』ですか……?」

「僕のとっておきさ。エミリア、準備はできているかい?」

「抜かりなく」

 

 キョウヤさんの言葉に、三角フレームの眼鏡をかけた女性──副隊長の一人であるエミリアさんが一礼する。

 いつの間に入ってきていたのだろう。

 相変わらず、謎の多い人だ。

 

「さて……今ログインしている他のメンバーにも招集をかけた。それでは始めよう。リュセル、アリスくんと共にソファにかけるといい」

「は、はい……」

「A……L1……S……アリ、ス……」

 

 botのように自己紹介を繰り返しているアリスの手を引いて、ソファに腰掛ける。

 キョウヤさんの私室は応接間も兼ねているから、こうして多人数が集まれるだけの設備が整っているのだ。

 こんな時間にぞろぞろと結構な人数が集まってくるのも、大分異常な気がするけれど。

 

「さて、『第五十七回、機動戦士ガンダムAGEを通しで見ようの会』の始まりだ。フリット編から三世代編の最終話までノンストップで上映するから、その頃にはELバースセンターも開くことだろうし、なによりもアリスくんにも満足してもらえるはずだ」

 

 なに一つ疑うことなどないとばかりに、きっぱりとキョウヤさんは言い切った。

 今から、ガンダムAGEを、全四十九話。

 作品の評価については賛否両論あるけれど、私は好きだからそこに問題はない。

 

 問題があるとすれば、今が深夜二時だということだ。

 

「初見のアリスくんには視点が絞られた『Memory Of Eden』から見てもらうという選択肢もあるが……やはり、一人のファンとしては『原液』を摂取してほしい。その上で好悪を決めるのが筋だと思っている」

「一部の隙もない完璧な理屈ですね」

 

 突如としてキョウヤさんがぶちまけた長広舌に、エミリアさんが一瞬で同意を示す。

 いや、問題は作品の評価とかではなく。

 今から、全四十九話をぶっ通しで。

 

「えっ、これ終わるまで私もログアウトできないやつですか、隊長」

「? その通りだが……」

「……あっはい」

「さて、アリスくん。君は幸せ者だね、ガンダムAGEの物語をなんの偏見も前情報もなく、純粋に摂取できるのだから……さあ、上映を開始しよう」

 

 パチン、とキョウヤさんが指を鳴らすと同時に、私室の照明が落ちて、巨大なスクリーンが天井から降りてくる。

 

「今日もやっているのかい、キョウヤ」

「ちーっす、バーで暇そうにしてたんでロンメル隊長連れてきました!」

「カルナ、ちょうどいいところに来てくれたね。大佐もようこそ、歓迎するよ」

 

 大きな白いフェレットのダイバールックをしている「ロンメル」さんと、ツンツン頭の副隊長、カルナさんが入室すると同時に、一話の冒頭が流れ出す。

 誰も、なにも動揺していない。

 と、いうことは、これが「AVALON」では日常茶飯事なのだろう。

 

「これが……トップフォースの日常……」

「ア……リス……」

 

 私は明日の学校をサボることが確定したことに内心で溜息をつきながら、諦めてアリスと共にガンダムAGE上映会に参加するのだった。

 

 

 

 

 

 

「……と、いうことがありまして……」

「マジかよ、イカれてやがんな」

 

 翌日、ガンダムAGE上映会を終えた私がそのままELバースセンターに駆け込むと、目つきの悪い紫ハロがあんまりにもあんまりなことを呟いた。

 確かになにかがおかしいとは思うけれど。

 アリスは今、構成プログラムにバグがないかどうかの検査中だ。それも、もうすぐ終わるという。

 

「あー、なんだ。テメェが言ってた自我が薄いだのなんだのってのは冗談か?」

「……事実です。出会った当初は」

「……そんでガンダムAGEに漬けられてああなったってのか、珍しい感情の芽生え方してんな……」

 

 目つきの悪い紫ハロは、検査室をガラス越しに覗き込んで溜息をついたように見えた。

 私も、同じような心境だ。

 なぜなら。

 

「検査が終われば、アリスは救世主を目指して戦えるんですね! アリスの機動躯体はガンダムAGE-1がいいです! フリットと同じ機体です、リュセル!」

 

 別人のように明るい笑顔を浮かべて、ぶんぶんと手を振っているアリスは、キョウヤさんの目論見通りAGEのオタクとして出来上がってしまったからだった。




名物の目つき悪い紫ハロさん

機動躯体の解説については後ほど
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