ガンダムビルドダイバーズ 遥か遠き我が王国(エル・ドラド)   作:守次 奏

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私が後見人になんてなれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)

『原則的にELダイバーの後見人ってのは、よほどの事情がない限り発見者が望ましいとされてんだよ』

 

 目つきの悪い紫ハロが、アリスの検査を終えて言い放ったことを思い出す。

 確か、その理由については、刷り込み効果がどうとか、倫理的、人道的な観点からどうこうみたいな話が付け加えられていた。

 なにが人道的なのかは全くわからないし、なんなら私にはELダイバーの世話をする心の準備なんて、全くできていなかったんだけど。

 

「すごいです! これが現実世界……まるで地球と火星みたいですね、ケイコ!」

 

 ケイコ。ジョウマエ・ケイコ。

 それがリアルにおける私こと、リュセルの名前だ。

 なんの面白みもないから気に入ってるわけでもない名前を呼んだ当の本人こと、「モビルドール」として現実にやってきたアリスは、ダイバーギアの上で飛び跳ねていた。

 

「……ヴェイガンのコロニーみたいな部屋で悪かったですね」

 

 私なりに整然と片付けているつもりでも、ガンプラを作っていると自然にパーソナルスペースは広がっていくものだ。

 積みプラの箱だとか工具箱に塗料箱……とにかく、ものが多くなって部屋が狭くなるのは確かだろう。

 それでも、女子として最低限の面子を保つために部屋はなるべく綺麗にしているのだけれど。

 

「そうですか? アリスはケイコの部屋も趣があっていいと思います!」

「……どこで覚えたんですか、そんな言葉」

 

 キョウヤさんの手で、じっくりとガンダムAGEに漬けられたことで、アリスは「フリットのような救世主になる」ことを目標として活動するようになった。

 その過程でいろいろな言葉を学習した……と、いうよりは、データ上からラーニングもしたのだろう。

 ELダイバーとAIになんの違いがあるのかと喚き散らす団体を思い出すけれど、少なくともAIは、こうして現実世界にプラスチックの体で受肉して、動き回ることはできない。

 

 そういう意味では確かに、アリスは「生きている」のだ。

 急遽運営から支給されたプラネットコーティングの充填機やらなにやらを部屋の空きスペースに配置しながら、小さく息を吐く。

 ペットすら飼ったことがないのに、明確に自我を有した同居人ができるなんて、思いもしなかったから。

 

「……アリス、私は学校に行ってきます。大人しくしていてくださいね」

「学校! アセムが通っていた施設ですね! と、いうことはケイコにもゼハートのような親友が……!」

「……現実って、単純じゃないんです。とにかく、行ってきますから大人しくしていてください」

 

 一人で盛り上がっているから、アリスはしばらく放っておいても大丈夫だろうと判断して、私は部屋を出た。

 最近のGBNでは、ELダイバーをちゃんと「ダイバー」としてスキャンできるようになったらしく、ELダイバーがガンプラを操縦する、という光景も珍しくなくなっている。

 新たな概念である「機動躯体」としてのガンプラをアリスが所望している以上、帰りにAGE-1と、専用ダイバーギアも買わなければいけない。

 

 余計なタスクが増えた。

 とはいっても、私の放課後なんて真っ直ぐ家に帰って、GBNにログインするだけだから、大して変わらないのだけれど。

 それでも、できることならアリスはキョウヤさんやエミリアさん、カルナさんの誰かに引き取ってほしかった。

 

 ──私は、一人でいることに慣れすぎたから。

 かつかつと、ローファーの踵で三和土を鳴らして、靴に足を入れる。

 そして、アリス以外は誰も待っていない家の玄関を開けてから外に出てすぐ施錠した。

 

 幾度となく、繰り返してきたことだった。

 

 

 

 

 

 

 学校のことは、好きじゃない。

 お台場の沿線に建てられた巨大な校舎を見上げながら、私はぐっと溜息を飲み込んだ。

 両親に全く似ていない白髪と赤い瞳のせいで、遠巻きに見られているような気がするから。

 

 多くの生徒たちが踵を打ち鳴らして、話し声を立てながら校舎へと歩む中で、私だけ、時間が遅延しているような感覚に襲われる。

 できることなら早く終わってほしい。

 何事もなく、可能な限り平穏に。

 

 けれど、身構えていたって死神は気まぐれにやってくるものだ。

 あれはハサウェイ・ノアが自分を鼓舞するためだけに言ったことだから、仕方ないけど。

 つまるところ、私はすれ違った女子生徒から、あからさまに肩をぶつけられたということだった。

 

「あら、ごめんなさい。ジョウマエさん」

「……ツキムラさんでしたか。これで何度目ですか」

「何度目だなんて、ひどいわ。アタシはただ友達と話すのに夢中で気づかなかっただけなのに」

 

 ツキムラ、と私が呼んだ女子生徒──フルネームは確かツキムラ・ルナだったか──は、あからさまに目を潤ませて抗議してくる。

 抗議に同調する形で、ツキムラさんご自慢のご友人たちがそうだそうだとシュプレヒコールを上げるまでが、ワンセットだ。

 ……よくもまあ、飽きずに何度も。

 

「そうですか、私は急いでいますので」

「あら、ジョウマエさんに急ぎの用事なんてあったのね」

「……用事はないですが」

「可哀想。今度一緒にカラオケでもいきますか〜?」

 

 なんて、冗談だけど。

 そう言い残して、ツキムラさんとその取り巻きは去っていった。

 私は確かに一人ぼっちだけれど、誰かに憐れまれる謂れはない。

 

 そう考えると、腹が立つ。

 皆、ツキムラさんの外面に騙されているだけだ。

 GBNでの彼女、「ルーナ」を知っている身からすれば、あれは何重にも猫を被っている状態なのだから。

 

 ……こんな学校だから、サボっても別に心が痛んだりはしないのだ。

 元お嬢様学校の女子校。

 五年前に共学になったばかりの、歴史の浅い学園。

 

 私がここに通っている理由は、単にガンダムベースが近いからだった。

 教室に入っても、感じる温度が変わったりはしない。

 がらりとスライド式のドアを開けて入った教室では、クラスメイトたちがやいのやいのと喧騒を湧き立てていた。

 

「それでさー、あーし思ったのよ。GBNで勝つ方法三選! みたいな動画とか見れば少しは勝率も上がるんじゃないかって」

「ヴィヴィちゃん、その手の動画は大体カスだよ」

「かずえっち、辛辣ぅ〜」

 

 GBNは今をときめくVRMMOの金字塔だ。

 このクラスでも少なからず流行っている。

 輪ができているところもあるけれど、私はそこに乗っかることも嫌悪することもできず、中途半端に漂うばかりだ。

 

「……」

 

 アセム・アスノのように楽しい学園生活なんて、最初から期待してなかったから、いいんだけど。

 GBNの話題が出ると、少しだけそこに乗っかりたくなる自分がいることもまた事実で。

 でも、乗っかってどうするんだ、と、囁く自分がいることもまた、事実だった。




【機動躯体】
アルスショック以降に生まれた新しい技術。これまではビルドデカールによりELダイバーを「ガンプラである」と定義づけた上でGBNにログインさせていたため、どうしてもモビルドールになるかあるいはガンプラの姿でリアルを過ごすかしかなかったものの、数々の変態たちの研究によりアップデートされたビルドデカールver.2.0を使用することで現実のダイバー同様にモビルドールを「ダイバー」として読み込ませることに成功した。そのため、「モビルドールのELダイバーが使うガンプラ」という意味で定着してきた言葉である。なおこの技術の設立及び普及の背景には壮絶な政治的・経済的闘争があったとされるがそれを知るものは少ない。ビルドデカールver.2.0はシバ・ツカサ及びナナセ・コウイチのお手製でしか再現できないため、現在注文が渋滞中である。
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