ガンダムビルドダイバーズ 遥か遠き我が王国(エル・ドラド)   作:守次 奏

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アリスは学校を知りたい

「専用ダイバーギアとHGのガンダムAGE-1です、これでアリスもガンダムを動かせるはずです」

 

 学校の帰りにガンダムベースで買ってきた二つを机の上に置いて、私は目頭を押さえた。

 疲れた。

 なんでこんなに疲れることを週に五日も繰り返さなければいけないのだろう。

 

 子供の時点でこうなのに、大人になったらよりひどく理不尽な世界が待っていると思うと、ピーターパンに憧れる気持ちもわかってくる。

 行けるのなら誰だって行きたいのだ、ネバーランドに。

 孤立している私に唯一話しかけてくる変人のクラスメイトが言っていたことを思い返しつつ、目薬をさした。

 

「これでアリスもなれるんですね、救世主に!」

「ゲート処理しかしてない素組みでよければですが」

「素組み……アリスもGBNで聞いたことがあります! ガンプラは塗装したり改造したりするものだと!」

「別に塗装も改造も楽しむだけなら必要はないです。アリスはこのAGE-1を改造してほしいのですか?」

 

 特にプランもなにも考えているわけではないけれど、なんとなしに私は、アリスへと問いかけていた。

 もし改造するとなるなら、AGE-1のベーシックなスタイルを継承しつつエネルギーゲインを引き上げて、より複雑かつ多機能運用が可能なガンプラにしよう。

 頭の歯車を回しながら、私は考える。

 

「うーん……このガンダムAGE-1はフリットが乗っていたガンダムAGE-1ですよね、ケイコ?」

「そうですね」

「なら、アリスはアリスだけのガンダムが欲しいです! 救世主が乗ってるみたいな!」

「救世主ですか……わかりました。できる範囲で考えておきます」

「わーい! ありがとうございます、ケイコ!」

 

 口約束とはいえ、それ相応に手間がかかるタスクがまた増えた。

 ちゃんとお礼を言ってくれるから、嬉しくないわけじゃないけれど。

 喜ばれることは嬉しくて、感謝されることも同じだ。相手が人間であれ、ELダイバーであれ、それはそんなに変わらない。

 

「……はあ。まずは全体のバランスを見るためにも素組みします」

「はい! アリスもなにか手伝えますか?」

「危ないですよ。気持ちだけで十分です」

 

 ほとんどHGクラスのガンプラと変わらない背丈をしているアリスに、手伝ってもらえることは、残念だけど全くない。

 あるとするなら、明後日の方向に飛んでいったゲートやプラスチックの欠片が当たらないように気をつけてもらうことぐらいだ。

 ELダイバーの背丈では、ゲートの欠片一つとっても大怪我につながりかねないからだ。

 

 怪我という概念があるのかはわからないけど。でも、痛いのには違いあるまい。

 私はHGのガンダムAGE-1の箱を開けて、ランナーが収まっている内袋をハサミで切る。

 そして、タワーのようにランナーを積み上げつつ、説明書を黙読する。

 

「そういえば、ケイコは学校に通っているんですよね?」

「……どうしたんですか、急に」

「今日はGBNでキョウヤと一緒にガンダムAGEの『Memory Of Eden』を見ていました。だから、アセムが通っていた『学校』に、アリスも興味が出てきたんです。ケイコ。学校って、どんなところですか?」

 

 藪から棒にアリスが喋り出したかと思えば、またろくでもない内容だった。

 学校は楽しい場所なんかじゃないって、前もって教えていたはずなのに。

 というか、キョウヤさんは今日も日中にログインしていたんだ。なにをやって生計を立てている人なんだろう。

 

「……楽しい場所なんかじゃないです。ただ授業を受けて、家に帰るための場所です」

「本当ですか?」

「嘘なんて言っても、なにも得しないでしょう」

 

 人によっては違うのかもしれないけど、私にとっての学校は、そういう場所でしかない。

 それに、変に興味を持たれてアリスに「学校へ行ってみたいです!」とか言われても困る。

 ただでさえ学校では浮いてるのに、近頃扱いが難しいELダイバーの後見人までやっていることが知られたらどうなることか。

 

「ケイコを疑うわけじゃないです、でもその言葉って、本当の本当ですか?」

「だから嘘なんて言っても……」

「キョウヤは言ってました。楽しかったって。人によって評価が違うのが、アリスはとっても不思議です」

 

 それは、その人がどんな青春時代を過ごしたかによって印象が違うのは当たり前だろう。

 と、言ってもきっとアリスには伝わらない。

 だから、私は沈黙を選んだ。

 

 パチパチと音を立てて薄刃ニッパーでゲートを少しだけ残してカットして、片刃のニッパーで二度切りする。

 ガンプラを組んでいる間はいい。

 黙っていても、作業に集中しているだけだと思われるから。

 

 これが教室の空き時間に本を読んでいたりすると、根暗のレッテルを貼られるのだから、愚かしい。

 人はわかり合えない。

 だったら、最初からわかり合おうとしない方がきっといいに決まっている。

 

「それじゃあ、ケイコがAGE-1を組んでいる間に、アリスは少しだけGBNにログインしてきます!」

「別にいいですけれど……なにか用事が?」

「はい! お友達と一緒に少しだけ話してきます!」

 

 もうフレンドができたのか。

 最初は自我すら怪しかったのに、今では立派な……立派かどうかはともかく、AGEオタクとして、独り立ちして歩いているのだから、子供の成長は早い。

 子供なんて持ったこともないけど、きっとお父さんやお母さんが生きていた頃、私を見てはこう思っていたんだろうな、というのは予想がついた。

 

「……いいな」

 

 アリスがダイバーギアに乗っかって、ログインを終えたのを確認してから、小さく呟いた。

 こんなに近くにいるのに、テレスコープを通して見ているようだ。

 私の世界とアリスの世界はもう、乖離し始めている。

 

 やっぱり、後見人なんて引き受けない方がよかったのだろうか。

 一人に慣れすぎて麻痺していた思いが、だんだんと元の感覚を取り戻していくのが、痛かった。

 一人でいることに苦痛はないはずだったのに、それが今は、どこか息苦しい。

 

 ポリキャップを多用する昔のガンプラだから、組み立てるのに少し時間がかかるのは幸いだった。

 この、行き場のない感情を誤魔化せるから。

 私にはGBNがあって、ガンプラがある。

 

 それで十分だ。

 それで十分のはずなんだ。

 強く自分に言い聞かせて、パーツ同士を嵌め合わせる指に力を込めた。




そこのお前! 最近のガンプラは別に塗装しなくても普通に格好良く仕上がるぜ!
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