【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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ドブカスが頭に残り続けて
活躍する姿をもっと見たかったので勢いで描きました。
好評なら続くかもしれません。
ヒロアカも呪術廻戦もにわかです…本文内容が雑、駄文と思います。すいません。
評価付与、感想もらえれば嬉しいです!
多分続きへの活力になります…


入学編〜USJ編 プロローグ
第1話:プロローグ「死に際でも愛想がない」


 畳の匂いがした。

 

 禪院直哉が最後に感じたのは、それだった。

 

 禪院本家の奥座敷。代々の術師が血を繋いできた旧家の、その最奥にある一室。外では何かが燃えている音がする。遠くで誰かが叫んでいる声もする。だが直哉にはもう、そちらに意識を向ける余力が残っていなかった。

 

 天井の木目が、ぼやけた視界に映っている。

 呪力は枯れた。術式は封じられた。体のどこをどう動かそうとしても、もう言うことをきかない。血の匂いが畳に染みていく感触だけが、妙にはっきりと伝わってくる。

 

(……畳の上で死ぬんか、俺)

 

 想像していた死に場所ではなかった。渋谷の廃墟でもなく、野外の戦場でもなく、よりにもよって本家の座敷だ。呪術師として死ぬなら、もっと派手な場所でと思っていたわけではないが、これはこれで締まらない終わり方だと思った。

 

 禪院家の跡取り。投射呪法の使い手。嫡男として生まれ、術式も持たずに産まれた妹を切り捨て、父親の都合のいい駒として生き続けた。それが禪院直哉という男の生涯だった。

 

 後悔があるかと問われれば――ない、とは言い切れない。

 だが認める気もない。そんな感情を抱えるほど、自分はやわな育ち方をしていない。

 禪院家がどうなるかも、もう知らない。真希がどう生きるかも、自分には関係ない。そもそも死んだ後のことを心配してやる義理も趣味もない。

 

(……まあ、ええか)

 

 意識が薄れる中で、直哉はそう結論づけた。未練がましく何かにしがみつく趣味はなかった。ただ、強いて言うなら。

 

(もうちょい、暴れたかったな)

 

 それだけだった。

 畳の冷たさが消えた。

 禪院直哉の意識は、暗闇の中に落ちていった。

 

 

気づいたときには、産声を上げていた。

 

 最悪だった。

 

 意識だけははっきりとあるのに、体が全く言うことをきかない。ぼやけた視界に映るのは白い天井と、泣き叫ぶ自分の小さな手。周りから「おめでとうございます」「元気な男の子ですよ」という声が聞こえてくる。

 

(……転生、か)

 

 直哉は泣きながら状況を把握した。泣いているのは自分の意志ではなく、体が勝手にそうしているだけだ。赤ん坊の体は制御できない。それが腹立たしくて、直哉はさらに盛大に泣いた。傍から見れば元気のいい赤ちゃんにしか見えなかっただろうが、本人は心の中で延々と舌打ちを繰り返していた。

 

 名前は、禪院直哉のままだった。

 

 両親の顔を見たとき、直哉は内心で「知らん顔や」と思った。前世の禪院本家の血筋ではない。だが苗字が「禪院」であることは、母親が呼ばれる声ですぐに把握した。

 

(禪院……また禪院か)

 

 それが偶然なのか必然なのか、直哉には「まあそんなもんやろ」という感想しか湧かなかった。どこに生まれ直そうと、自分は自分だ。名前が同じなら、むしろ都合がいい。

 

 それよりも気になることがあった。

 

 頭の中に、この世界についての知識があった。漫画かアニメか。そういう類のものを知っている感覚だ。「僕のヒーローアカデミア」という作品の世界。個性というものが存在し、ヒーローとヴィランが存在する世界。

 

 そしてもう一つ。

 

 体の奥底に、何かが眠っている感触があった。

 前世と同じ、あの感覚だ。

 

(……投射呪法、あるんか)

 

 産声を上げながら、直哉は確信した。この体に、術式が宿っている。前世から引き継いできた、禪院家最大の術式が。

 赤ん坊の体でそれを確かめる方法はまだない。だが確かにある。それだけは分かった。

 

(……ほな、やり直しや)

 

 直哉は泣くのをやめようとして、やめられなかった。体がまだ言うことをきかない。腹が立ったので、さらに大きな声で泣いた。

 

 

転生先の禪院家は、静岡県の中部、山と茶畑に囲まれた土地に構える旧家だった。

 

 代々大地主として地域に根を張り、今は不動産業と資産運用で財を成している。屋敷は広大で、純和風の母屋の他に離れや蔵まである。敷地内には庭師が手入れをする日本庭園まであった。

 

 要するに、金はある。

 

 だが前世の禪院本家と決定的に違うことが一つある。ここには呪術師がいない。呪霊もいない。そもそもこの世界に呪術など存在しない。

 

 両親は普通の人間だ。父親の禪院康正は資産家の息子として生まれ、今は家業を取り仕切っている。無口で、息子に対して必要以上のことを言わない人間だった。母親の禪院律子は旧家の出身で、穏やかな性格の女性だ。二人とも直哉に対して特別な期待をかけるでもなく、かといって放置するでもなく、ある種の淡白な愛情を持って接してきた。

 

 干渉しない。それが禪院家の親の流儀らしかった。

 

 直哉にとっては、むしろ都合がよかった。

 

 

 三歳になった頃から、直哉は人知れず鍛錬を始めた。

 

 縁側で一人座り、右手の人差し指で縁側の板に触れる。呪力を指先に集めて、ゆっくりと流し込む。

 

感触があった。

 

 地面に「ルール」を刻み込む感覚。一秒を二十四のコマに分割する感覚。紛れもなく、投射呪法だ。術式の感触は前世のそれと変わらない。呪力の量も、前世とほぼ同じだけある。生まれ持った器ごと、そのまま持ち越してきたらしい。

 

(……呪力はあるな。ほな問題は術式の精度や)

 

 呪力はある。だがこの新しい体に、投射呪法を使いこなすための感覚はまだ馴染んでいない。前世で積み上げてきた動きの記憶、実戦の中で磨いてきた技の精度――そういったものを、一から体に叩き込み直す必要がある。

 

(……鍛え直しや。手間やな)

 

 文句を言いながらも、直哉は翌日から本格的に鍛錬を始めた。

 

 文句を言いながらも、直哉は翌日から本格的に鍛錬を始めた。三歳児が縁側で一人黙々と何かをやっている光景は、傍から見れば不気味この上なかっただろうが、両親は「あの子はおとなしいから助かる」と思っていたらしく、特に何も言わなかった。

 

 放任してくれる親で助かった、と直哉は思った。過干渉な親やったら、それはそれで面倒やった。

 

 

 六歳になったとき、直哉は個性検査を受けた。

 

 医者に連れて行かれ、足の指の関節の本数を確認され、検査を受ける。結果は「個性あり」。診断書には「投射強化」と書かれた。一秒を細分化して動きを制御する身体増強系の個性、という解釈に落ち着いたらしい。

 

 実態とはかなり違うが、直哉は訂正しなかった。

 

「……まあ、ええか」

 

 診察室を出ながら直哉は呟いた。横を歩く母親が「何か言った?」と聞いてきた。

 

「なんでもないです」

 

「そう」

 

 それだけの会話で終わった。

 

 問題は個性の「強さ」だった。検査の過程で医者が直哉の身体能力を測ったとき、六歳児とは思えない数値が出た。医者が眉をひそめ、検査機器を疑い、もう一度測り直した。結果は変わらなかった。

 

「……お子さん、個性の制御はできていますか?」

 

「してますよ」

 

「そ、そうですか……これは将来、ヒーローの素質がありますよ。興味はありますか、ヒーローに」

 

「まあ、考えてみます」

 

 その日の帰り道、直哉は車の後部座席から窓の外を眺めながら、ヒーローという職業について考えた。

 

 この世界で強さを活かせる場所。ヴィランと戦える立場。法律の範囲内で暴れられる職種。

 

(……悪くはないな)

 

 それが、直哉のヒーロー志望の動機だった。崇高でも何でもない。ただ、戦える場所があるなら使う。それだけの話だ。

 

 

 小学校の六年間は、概ね平穏だった。

 

 直哉は目立つことを避けた。クラスメイトとつるむ気はなかったし、教師に気に入られようとも思わなかった。授業は適当に聞いて、放課後は屋敷の庭で鍛錬する。それだけの日々だった。

 

 ただし、一度だけ問題が起きた。

 

 小学四年の時、クラスの男子が絡んできたことがある。個性自慢の多い年頃で、そいつは物を燃やせる個性を持っていた。

 

「禪院って個性地味だよな。動きが速いだけじゃん。かっこわるくね?」

 直哉は相手を一瞥して、答えた。

 

「……人の心とかないんか?…お前」

 

「は? 俺が何したって」

 

「いや、そういう話やなくて」直哉は心底呆れた顔で続けた。

 

「そんな個性自慢して恥ずかしくないんかって聞いとるんや。燃やせるだけやろ。使い道、火起こしくらいしかないやん。それ、得意げに言える? 普通」

 

 男子が顔を赤くして「んだと!」と叫んだ。

 

 その後どうなったかは省略するが、直哉が怪我をすることはなかった。相手の方が保健室に行った。教師が飛んできて「禪院くん、やりすぎです!」と泣きそうな顔で言った。

 

「向こうから来たんで」

 

「そ、それはそうかもしれないけど……!」

 

「先生、これ俺が悪いんか?」

 

 教師は何も言えなくなった。それ以来、直哉に絡む者はいなくなった。至って平和だった。

 

 

 中学に上がってからも、基本的なスタンスは変わらなかった。

 

 表向きは「個性がそこそこ強い、無愛想な優等生」。裏では毎日呪力制御と術式の鍛錬を続ける日々。

 

 投射呪法の精度は着実に上がっていた。一秒を二十四のコマに分割する感覚は、前世のそれにかなり近いところまで回復していた。相手の動きをコマ単位で「固定」し、その隙に攻撃を叩き込む。あの感覚が戻ってきている。

 

 呪力量も、前世と同じくらいあった。まだ前世の全盛期には遠く及ばないが、純粋な戦闘力なら一般的なヒーローと戦うなら十分すぎる水準には達していた。

 

 ただし、前世で使えた技の全ては使えなかった。

 

 反転術式は、まだ掴めていない。負と負の呪力を掛け合わせて正の呪力に昇華するという知識自体は理解しているのだが、今の現状ではその感覚に触れることすら出来ていない。実戦においては全く使い物にならない水準だ。

 

 拡張術式も同様で、投射呪法を応用した技の数々は、基礎となる呪力操作の精度と量がまだ足りなかった。

 

 領域展開は、考えるのも早い。あれは呪力の桁が違う。今の直哉では展開するだけの器がない。

 

 簡易領域も、まだだ。「落下の情」に近い感覚は掴みかけているが、実戦で使えるレベルではない。

 

(……順番にやっていくしかないな)

 

 直哉は焦らなかった。前世でもそうだった。積み上げてきたものが力になる。それは転生しても変わらない。

 

 

中学三年の春、直哉は進路について考えた。

 

 選択肢は一つだった。雄英高校、ヒーロー科。

 

 理由は単純だ。この世界で戦うためには、ヒーローという立場が最も都合がいい。ヴィランと戦える大義名分が生まれる。それ以上でも以下でもない。

 

 担任に進路希望を伝えると、教師は微妙な顔をした。

 

「雄英……それはまた高い目標だね。禪院くんの個性なら可能性はあると思うけど、今年の倍率は相当なもので」

 

「受かりますよ」

 

「え?」

 

「落ちる気がしいひんので」

 

 根拠を問われれば説明に困る発言だったが、直哉の目が本気だったので、教師はそれ以上何も言わなかった。

 

 親への報告は、もっと簡単だった。夕食の席で直哉が「雄英受けます」と言うと、父親が「そうか」と言い、母親が「頑張りなさい」と言った。それで終わりだった。禪院家の夕食は、いつも静かだ。それが直哉には、ちょうどよかった。

 

 

雄英高校の受験当日。

 

 直哉は会場に到着し、周囲を眺めた。

 

 様々な個性を持った受験生が、ざわざわと辺りを歩いている。爆発でも起こせそうな手をした金髪の少年が、腕を組んで周囲を睥睨している。丸い顔で、赤みがかった茶色の瞳の少女がきょろきょろと辺りを見回している。少し猫背気味の、緑のくせっ毛の少年がぶつぶつと何かを呟きながらノートを捲っている。

 

 直哉はそれらを一通り眺めた。

 

(……まあ、それなりにおるな)

 

 強い弱いの感覚は分かる。だがそれで相手を羨ましいとも思わないし、舐めてかかる気もない。ただの情報として処理するだけだ。

 

 筆記試験は問題なく終えた。中学三年間、勉強は最低限だけやってきた。前世の記憶と合わせれば、標準的な問題を解くのに支障はない。

 

 実技試験の会場へ移動する道すがら、直哉は周囲の受験生たちを観察した。

 さっき見た緑のくせっ毛の少年が、移動中もまだノートを見ながら歩いている。前をよく見ていないのか、段差に気づかずつまずきかけた。

 

 その瞬間、隣にいた茶色の瞳の少女が素早く手を伸ばし、少年の腕を掴んで支えた。

 

「危な! 大丈夫ですか?」

 

「あ、ありがとうございます……! すみません、ぼーっとしてて」

 

「ノートまで落としとったよ、ほら」

 

「あ、ありがとうございます……! あの、緑谷出久っていいます」

 

「あたし麗日お茶子! よろしく!」

 

 直哉はその一連を横目に見ながら、特に何も思わなかった。

 ただ、緑谷と名乗ったくせっ毛の少年が、さっきまでノートに書いていた内容が少し気になった。横を通りすがりに一瞬だけ視界に入ったが、ヒーローの個性分析が細かく書き込まれていた。しかも量が尋常じゃない。

 

(……気持ちの悪い熱量しとるな)

 

 悪口のつもりではなかった。ただ事実として、あのノートの使い込み具合は普通ではない。それだけのことだ。

 

 麗日と名乗った少女が、ふと直哉の方を見た。

 

「あ、あなたも受験生ですか? よかったら一緒に」

 

「いや」

 

「え?」

 

「一人でええんで」

 

 麗日が少しだけ口をとがらせた。緑谷が「あ、あはは……」と苦笑いをした。

 

 直哉はそのまま前を向いて歩き続けた。

 

 別に愛想を悪くしようとしているわけではない。ただ、試験前にぺちゃくちゃと話す気にならないだけだ。試験は試験だ。馴れ合う場所ではない。

 

 

実技試験が始まった。

 

 号令と同時に、受験生たちが各々の個性を解放して走り出す。爆発で飛び出す者、壁を走る者、様々な個性が入り乱れる中、直哉は一拍置いてから歩き出した。

 

 呪力を全身に巡らせる。

 

 十二年間積み上げてきた呪力操作の精度は、今や前世に近い水準に達している。体の隅々まで呪力が満ちる感覚。それだけで、禪院直哉の身体能力は人間の理論的な限界を大きく逸脱する。

 

 最初の一体。二ポイントのロボットが向かってきた。

 

 直哉は足を止めず、投射呪法を起動した。

 

 一秒が二十四のコマに分割される。ロボットの動きが、コマ送りのように「見える」。次の動作が文字通り「固定」される。直哉は半歩だけ横に動き、右腕を振り上げ、呪力を乗せた拳をロボットの胸部コアに叩き込んだ。

 

 轟音。金属の外装が陥没し、内部機構が砕ける。ロボットが沈む。

 

 歩みを止めず次へ。

 

 三ポイント。四ポイント。三ポイントが二体同時に来た。

 

 直哉は立ち止まり、投射呪法で二体の動きを同時に固定する。右の一体へ踏み込んでコアを砕き、返す動きで左の一体の側面に回って同様に処理する。二体同時に沈んだ。時間にして三秒もかかっていない。

 

 そのまま無言で進み続け、現れるロボットを順番に解体していく。派手さは一切ない。爆発も炎も出ない。ただ呪力を纏った拳と蹴りで、ロボットが静かに沈んでいく。

 

 傍で戦っていた受験生たちが、何事かという顔でこちらを見ていた。直哉はそれらの視線を無視した。

 試験開始から約二分が経過したところで、遠くに巨大な影が現れた。

 

 ゼロポイントのロボット。

 

 高さ数十メートルはある鉄の巨人が、仮想都市を踏み荒らしながら進んでくる。受験生たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。

 

 直哉はそのロボットを見上げて、少し考えた。

 

(……点数にはならんか。けど)

 

 ゼロポイントのロボットの足元付近に、瓦礫で動けなくなっている受験生の姿が見えた。小柄な体格の少女だ。さっきの麗日だった。逃げ惑う人波に気づかれず、助けを求めて手を伸ばしている。

 直哉は舌打ちした。

 

(……ヒーロー試験やしな。見捨てたら印象が悪い)

 

 下心全開の動機だったが、直哉は走り出した。呪力を両足に集中させ、一気に加速する。人間の目には残像しか映らない速度で、直哉は瓦礫地帯に飛び込んだ。

 

「動けるか」

 

 麗日が驚いた顔でこちらを見上げた。

 

「あ……さっきの! 足が挟まって」

 

「分かった」

 

 直哉は瓦礫を一つ一つ持ち上げて脇に投げた。呪力で強化した腕力で、百キロを超えるコンクリート塊が飛ぶ。十秒もかからず、麗日を埋めていた瓦礫が除去された。

 

「立てるか」

 

「た、たぶん……ありがとうございます! あの、名前」

 

「禪院や、ええから逃げろ」

 

「で、でも禪院くんは」

 

「俺はええんで」

 

 それだけ言って、直哉は立ち上がり、ゼロポイントのロボットを見上げた。

 

(……試しといたるか。今の術式がどこまで通用するか)

 

 直哉は地面に人差し指で触れ、投射呪法を最大出力で起動した。一秒を二十四のコマに、ではない。もっと細かく、もっと深く。術式の密度を極限まで高めて、拳に呪力を圧縮して乗せる。今の直哉が絞り出せる最大威力の一撃だ。

 

 地を蹴って、ロボットの膝関節に向かって一直線に突進する。呪力全開の一撃を、関節の内側に叩き込んだ。

 

 轟音。地面が揺れる。膝部分の金属が大きくひしゃげ、脚部の動きが著しく鈍った。倒れはしなかったが、歩行速度が大幅に低下する。

 

(……足りんな)

 

 直哉は内心で評価した。今の出力では、あれを完全に止めるには不十分だ。呪力がまだ前世に届いていない。

 

 その時、上空から何かが落ちてきた。

 

 緑谷出久だった。右腕に何か途方もない力を集中させながら、ゼロポイントのロボットの頭部に向かって真っ直ぐ落下してくる。

 

 直哉はそれを見て、目を細めた。

 

(……なんや、あの力…そうか…あれが原作のか)

 

 やはり規格外のものを、あの緑谷という少年は腕に宿している。

 

 緑谷の一撃がロボットの頭部を直撃した。轟音と衝撃波。ロボットが大きくよろめき、直哉が損傷させた膝から崩れるように倒れていく。

 

 巨大な鉄の体が地面に落下する轟音が響き渡り、砂煙が舞い上がった。

 

 受験生たちの歓声が上がった。

 

 直哉は砂煙を払いながら、緑谷が落下していく軌跡を目で追った。腕がおかしな方向に曲がっている。全力を出しすぎて、自分の体が耐えられなかったのだろう。麗日の個性で受け止められて、ゆっくりと着地した。

 

(……馬鹿やな。自分の体も制御できひんのか)

 

 そう思いながらも、直哉はその力の規格外さを素直に認めた。あれはただの個性ではない。何か別の何かだ。

 

 そしてもう一つ、気になったことがある。

 

 麗日が緑谷を受け止めた瞬間、直哉は麗日の個性をはっきりと確認した。触れたものの重力を操る系統の個性だ。制限はあるだろうが、使い方次第では相当に化ける。

 

(……まあ、入学してから見りゃええか)

 

 試験終了の号砲が響いた。

 

 

試験の結果は、二週間後に届いた。

 

 合格通知。

 

 直哉は封を開けて確認し、そのまま文机に置いた。受かって当然だと思っていたし、実際受かった。それだけのことだ。

 

 夕食の席で父親に見せると「そうか、よかった」と言われた。母親は少し目を潤ませて「おめでとう」と言った。

 

「どうも」

 

 直哉はそれだけ答えて、飯を食い続けた。

 

 自室に戻ってから、クラス分けの書類を改めて確認する。

 

 雄英高校、ヒーロー科一年A組。

 

 試験会場で見かけた連中の何人かが、同じクラスに来るはずだ。あの爆発の金髪。緑谷出久。麗日お茶子。推薦で来る連中も含めれば、どんな顔ぶれになるか。

 

(原作とどこまで同じかやな…使えるやつと使えないやつの仕分けは、入学してからやな)

 

 窓の外、静岡の夜の山並みを眺めながら、直哉は呟いた。

 

 誰かのために戦いたいとか、ヒーローに憧れているとか、そういう感情は一切ない。

ただ、戦える場所があるなら使う。強くなれる環境があるなら使う。術式を前世の水準まで取り戻す。それだけだ。

 

 禪院直哉は、前世と全く変わらぬ思考と性格のまま、新しい舞台に向けて静かに準備を整え始めた。

 

 性格は転生しても変わらない。

 

 これから先、どれだけの修羅場を潜ろうとも、どれだけの仲間と呼べる存在が増えようとも、この男の根っこにある「ドブカスさ」が消えることは、おそらく永遠にない。

 

 それが禪院直哉という人間だった。

 

 

 




次話予告:雄英高校、個性把握テスト。
担任は全身を寝袋につつんだ奇人らしい。直哉は「胡散臭い」と一瞬思うが、その実力を感じ取って黙る。クラスメイトの爆豪勝己とは初日から険悪な空気が漂い始め、緑谷出久の「あの力」の正体が直哉の頭から離れない。

呪術廻戦から直哉以外で原作キャラを登場させますか?(呪術側オリキャラ含めて)

  • 登場させる
  • 登場させない
  • それよりドブカス(人の心とかないんか?)
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