【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
心象風景に甚爾が現れたんなら、こんなのもアリだろうと…オリジナル展開マシマシとなっています。
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キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊など野の可能性がございます。
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その夜、直哉は眠れなかった。
正確には、眠ることを「不細工」だと恐れていた。
スターアンドストライプ戦の翌日。右腕の骨の軋みは反転術式で修復済み。呪力の消耗も、一晩の睡眠で七割は回復している。肉体的には問題がない。
だが、眼を閉じるたびに、何かが「来る」というドブカスな予感がある。
空写を微かに展開する。寮の廊下。相澤の気配。遠く、爆豪の深い眠りの気配。轟の寝息。全員、生きている。外の世界に脅威はない。
(……問題は、外やない。俺の内側にあるゴミ溜めや)
直哉はノートを叩きつけるように閉じ、窓の外を見た。月が白い。
甚爾との夢のあとから、自分の「内側」が変わり始めていることを、直哉は自覚していた。黒閃が開いた扉。領域への手触り。それは確かに「進化」なのだが、同時に、心象風景が「深くなった」ことでもある。
深い場所には、必ず不細工な何かが棲む。
(……来るなら来い。設計は組んどる。落とし前くらいつけさせたるわ)
扇子をパチンと閉じ、意識を泥の底へ沈めた。
直哉の意識が沈んでいく。
だが、落ちた先は、甚爾との戦いで見た「灰色の平原」ではなかった。
白。完全な、白。
四方も、上も、下も、境界線が存在しない。重力があるのかも分からない。音がない。気配がない。空写を展開しようとしても、術式が「構造」を掴む対象を見つけられず空転する。
(……反吐が出るほど何もないな、ここは)
直哉が一歩踏み出すと、足元に音が生まれた。コツン、という硬質な響き。地面があることだけは分かる。
「……久しぶりやな、俺」
声が、前から聞こえた。
直哉は振り向かなかった。振り向く必要がない。空写が機能しない空間でも、その気配は、鼻腔の奥を突くような、禪院の腐った風の懐かしさで届いてくる。
ゆっくりと、前を向いたまま、声の方向を「感じ取った」。
「……前世の俺、か。生霊にしても、随分と雅やない姿やな」
白い空間の向こうに、金髪の男が立っていた。
同じ顔。同じ体格。だが、纏う「呪い」の質が違う。
こちらは今世の直哉だ。ヒロアカの世界で泥を啜り、積み重ね、研ぎ続けてきた。
向こうは呪術廻戦の世界で生き、禪院家の矛盾の中で死に、呪霊になった直哉だ。
「……ハハッ」
前世の直哉が笑った。その笑い方だけは、今世と同じ、人を馬鹿にした響きだった。
「随分と、不細工な顔しとるな、俺。ヒーローごっこで骨でも折れたんか?」
「……お互い様や。お前、死に際が一番惨めやったって自覚あるんか?」
「ハッ、口だけは達者やな。お前のこっちは、訛りがきつくなっとるぞ。田舎モンが」
「習慣や。……それより、なんでここに。消え損ないが…!」
前世の直哉は扇子を開いた。今世の直哉と同じ動作。だが、その扇子には、何か違う、積年の怨念という「重さ」がある。
「見せたいものがあってな。お前が行き着く先の、一つの完成形や。……俺みたいにならないようにな、という警告や」
声の最後だけが、わずかに深淵のように翳った。
白い空間が変質した。
直哉の眼前に、映像が展開される。まるで、吐き気を催すようなフィルムが空中に投射されているように。
そこに映っていたのは——呪霊・禪院直哉だった。
イモムシのような形の巨大な呪霊。その仮面の穴から覗く顔は、確かに直哉の顔だ。だが、その瞳の色が、今世の直哉が知っているものとは違う。
怨念だ。
禪院家の「男尊女卑」「選民思想」「格の優劣」——それらすべてが凝り固まり、生への未練と恨みによって「呪い」に変質した存在。人間としての可能性を捨て、「あっち側に立つ」という執念だけを残して怨霊になった、あの世界の直哉。
「……俺が、呪霊になった世界や。禪院家の構造の中で死んで、呪力で殺されなかったさかい、呪霊になった。投射呪法はそのまま残って、マッハ3で動ける。領域展開も使えるようになった。せやけど——」
「なんや?」
「…終わりは、真希に殺されることや。……釈魂刀のレプリカで、魂ごと断ち切られた。甚爾くんの側に、あいつが立った。俺はその対比として、あっけなく終わる役やった」
「……格好悪いな」
今世の直哉が、静かに呟いた。
感情のない評価ではない。むしろ、その言葉の奥に、自分自身を鏡で見せられているような痛みに近い何かがある。
「ああ。格好悪い。最高に不恰好や。……せやから、あの呪霊(ゴミ)が、お前の心象風景に入り込もうとしとるんや。俺が死んで残した『怨念の残滓』が、お前の前世の記憶の中に、まだ溶け残っとる。……それが『ここに』来とる」
直哉は、白い空間の奥を見た。何かが、動いている。
気配が、白い空間を侵食し始めた。
白が、端から黒く染まっていく。染まっていく先から、呪力の気配が——いや、呪念の塊が溢れ出してくる。
(……空写。全開。構造を読め)
直哉は術式を最大出力で解放した。
読めた。圧倒的な怨念。「格」への固執。選民思想の凝り固まり。禪院家が生み出した歪みの結晶。そして——投射呪法の設計図。
前世の直哉と同じ術式の構造を持ちながら、呪霊という「制限のない肉体」によって増幅された、暴力的な速度の設計。
「……来るか、出来損ないが」
直哉は扇子を開いた。
白い空間の中に、仮面の呪霊が姿を現した。イモムシ型の巨体。だが今、それは心象風景の中で「投射呪法使いとしての禪院直哉の理想形」として凝縮されている。マッハ3の速度。呪霊としての再生能力。そして——
「……領域展開も持っとるわけか。出来レースやな」
「そうや。俺はここには関われへん。あの呪霊はお前自身の、ドブカスな過去との清算や。……前世の可能性を、今世のお前が越えるかどうかやな」
声が消える。
白い空間に、今世の直哉と、呪霊・禪院直哉だけが残された。
呪霊は動かなかった。ただ、そこに在るだけで、空間が歪む。
(……俺とお前の差は何や。同じ術式の使い手として、何が違う!)
空写で呪霊の構造を読む。
読めた——が、次の瞬間、直哉の思考は白い空間を吹き飛ぶほどの衝撃に遮断された。
音がしなかった。ただ、気づいた時には、直哉の体が心象風景の「壁」に叩きつけられていた。
(……ッ!? 見えへん……空写の先読みを、純粋な速度で上書きしやがったんか!)
マッハ3。音速の三倍。
甚爾のフィジカルギフテッドですら、これほどの純速度はなかった。甚爾の強さは「呪力がない肉体の合理性」だったが、呪霊直哉は「呪力によって強化された物理法則の蹂躙」だ。
(……読んどるのに、体が追いつかへん。甚爾くんの時と逆の問題や。反吐が出るわ)
壁から剥がれながら、直哉は反転術式を即座に脳と肋骨に叩き込んだ。
呪霊が、ゆっくりと振り返った。仮面の穴から、直哉の顔が覗いている。
「……お前は俺の劣化版や。同じ術式を持ちながら、肉体のリミッターに怯えとる。同じ投射呪法なのに、積層残影などという脳筋な補正方法で誤魔化しとる。……雅やないな」
(……そうや。反論はない。ただ、俺はお前が捨てた『不細工な積み重ね』でここまで来たんや)
直哉は立ち上がった。
呪霊が再び動いた。今度は見えた——否、「見えた」のではなく、「空写で0.1秒先の着地点を読んだ」。
直哉は鏃(やじり)を足元に展開した。鋭利であり、加速し圧縮した呪力エネルギーが爆ぜ、その反動で直哉の体が弾丸のように横方向へ無理やり跳ぶ。
呪霊の拳が、直哉がいた空間を穿つ。衝撃波だけで、白い地面が亀裂を走らせた。
(……速度で勝てないなら、速度を使わない設計を組む。自分の意志で動くな。移動を『力学』に委ねろ!)
直哉の思考が高速回転する。呪霊の投射呪法は「1/24秒のフレームに動きを設定する」性質上、完全に動きの軌道が「固定」される。音速の三倍で動いているが、その軌道は「プログラム通り」だ。
つまり——空写で「次の0.04秒に何が来るか」を読めれば、理論上は対処できる。
問題は、読んでから「体を動かす」時間だ。
(……鏃。足元に連続展開して、反動で移動する。移動を『配置』に書き換えるんや。次の攻撃の着地点の『外側』に、俺を配置する)
右へ。左へ。斜め上へ。重力を無視した鏃の反動で、直哉は白い空間を駆け抜ける。
呪霊の連撃が、すべて「直哉がいた座標」を穿ち続ける。
「……面白い回避や。でも——攻撃できてへんやろ。回避だけでは終わらへんで」
直哉は落花の情を展開した。呪力を皮膚の外側に薄く張る。
呪霊が拳を放った。マッハ3の速度が、直哉の皮膚の外側の呪力層にぶつかった。
(……ッ! 返せへん。規模が違いすぎる! なら、方向(ベクトル)だけズラせ!)
落花の情が崩壊する寸前に、エネルギーの向きを九十度横へ逸らす。直哉の体は押し潰されるのではなく、「横に吹き飛ばされる」力に変換することで生き残った。
着地した瞬間、直哉は空虚呪法を展開した。
呪霊の「次の0.04秒の動き」が、空写に映る。右足に相当する部位を軸に回転する軌道。
直哉は空虚呪法を、その右足部位部分に向けて放った。
「——空虚呪法・固定」
呪霊の右足部位が、1/24秒の完全停止。音速の軌道設定に、わずかなフリーズが発生する。
「——極ノ番・積層残影・十二葉!」
直哉は、その一秒の隙に、全力の鏃を叩き込んだ。
加速する鏃のコマ割りの一撃に、極ノ番を合わせて打ち込むという離れ技を見せた。
十二層分の衝撃が呪霊の胴体を貫いた。白い空間が震え、地面が割れる。
だが——数秒後、再生した呪霊が立ち上がった。
「……いい一撃や。十二葉か。……せやけど、俺の再生はそれでも追いつく」
(……十二葉でも足りへん。再生速度が異常や。このまま削り合えば、俺の呪力が先に尽きる)
直哉の呪力が、五十パーセントを切った。
直哉は動き方を変えた。正面からの打ち合いを止め、白い空間全体を「盤面」として使い始めた。
空虚呪法を連続展開し、不可視の固定節を生成する。空写を持たない呪霊には、どこに「罠」があるか分からない。
呪霊がマッハ3で突進する。その軌道上の固定節が爆発。再生する前に二つ目、三つ目。爆発が、呪霊の速度を強制的に落とす。
その瞬間、直哉は零駒を放ち、高速で全力の打撃を重ねる。しかし、呪霊の再生能力はそれを上回る。
(……じり貧や。根本的な設計を変えなあかん)
その時、呪霊が両手の掌印を組んだ。手印の形は——伎芸天印。
(……領域展開。来る!)
「領域展開『
世界が塗り替えられた。フィルム状の触手が、空間のあらゆる方向から伸び、直哉の皮膚に触れようとする。
触れられた瞬間、全細胞に「1/24秒の動き」を強制。失敗すれば細胞レベルでの破壊。
触手が、直哉の手を撫でた。
「——ッ!!」
全細胞がフリーズの予感に震える。だが直哉は——反転術式を、細胞一つ一つに流し込んだ。
「——反転術式、全細胞・常時展開……ッ!!」
細胞が止まる。反転術式が治す。止まる。治す。
「……っ、それは……しょうもない力技やな、俺」
「そうや、強引や。せやけど、強引でも今夜は生き残る。俺の積み重ねを『雅やない』と切り捨てたお前には、絶対負けへん」
直哉は反転術式を全身に回しながら、触手の波を強引に押し返し始めた。
呪力消費は激しい。残量三十パーセントを割った。
(……領域を押し返せへん。でも、この領域の『隙』は読めとる)
その時、呪霊が不吉に笑った。
「……そろそろ、本命を見せてやろうか。俺が呪霊になった理由、その神髄を」
さぁ、まずは序盤の攻防戦でした。
いきなりの相手の領域展開で驚いた方もいるかもしれません!
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