【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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これはもし戦いの間にこんなことがあればのIFの話です。
心象風景に甚爾が現れたんなら、こんなのもアリだろうと…オリジナル展開マシマシとなっています。
ここまで掲示板回に付き合ってくださった皆様への感謝を込めて!どうぞ!お楽しみください!

キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊など野の可能性がございます。
ご注意ください。

評価付与、感想、お気に入り登録などは直哉があり得たかもしれない可能性に打ち勝ってくれます!


第128話:IF回 異なるif(イフ)を越えて ── 禪院直哉、呪霊との決戦 前編/夢幻回廊:自己嫌悪の極致

 

その夜、直哉は眠れなかった。

 

正確には、眠ることを「不細工」だと恐れていた。

 

スターアンドストライプ戦の翌日。右腕の骨の軋みは反転術式で修復済み。呪力の消耗も、一晩の睡眠で七割は回復している。肉体的には問題がない。

 

だが、眼を閉じるたびに、何かが「来る」というドブカスな予感がある。

 

空写を微かに展開する。寮の廊下。相澤の気配。遠く、爆豪の深い眠りの気配。轟の寝息。全員、生きている。外の世界に脅威はない。

 

(……問題は、外やない。俺の内側にあるゴミ溜めや)

 

直哉はノートを叩きつけるように閉じ、窓の外を見た。月が白い。

 

甚爾との夢のあとから、自分の「内側」が変わり始めていることを、直哉は自覚していた。黒閃が開いた扉。領域への手触り。それは確かに「進化」なのだが、同時に、心象風景が「深くなった」ことでもある。

 

深い場所には、必ず不細工な何かが棲む。

 

(……来るなら来い。設計は組んどる。落とし前くらいつけさせたるわ)

 

扇子をパチンと閉じ、意識を泥の底へ沈めた。

 

 

直哉の意識が沈んでいく。

 

だが、落ちた先は、甚爾との戦いで見た「灰色の平原」ではなかった。

 

白。完全な、白。

 

四方も、上も、下も、境界線が存在しない。重力があるのかも分からない。音がない。気配がない。空写を展開しようとしても、術式が「構造」を掴む対象を見つけられず空転する。

 

(……反吐が出るほど何もないな、ここは)

 

直哉が一歩踏み出すと、足元に音が生まれた。コツン、という硬質な響き。地面があることだけは分かる。

 

「……久しぶりやな、俺」

 

声が、前から聞こえた。

 

直哉は振り向かなかった。振り向く必要がない。空写が機能しない空間でも、その気配は、鼻腔の奥を突くような、禪院の腐った風の懐かしさで届いてくる。

 

ゆっくりと、前を向いたまま、声の方向を「感じ取った」。

 

「……前世の俺、か。生霊にしても、随分と雅やない姿やな」

 

白い空間の向こうに、金髪の男が立っていた。

 

同じ顔。同じ体格。だが、纏う「呪い」の質が違う。

 

こちらは今世の直哉だ。ヒロアカの世界で泥を啜り、積み重ね、研ぎ続けてきた。

向こうは呪術廻戦の世界で生き、禪院家の矛盾の中で死に、呪霊になった直哉だ。

 

「……ハハッ」

 

前世の直哉が笑った。その笑い方だけは、今世と同じ、人を馬鹿にした響きだった。

 

「随分と、不細工な顔しとるな、俺。ヒーローごっこで骨でも折れたんか?」

 

「……お互い様や。お前、死に際が一番惨めやったって自覚あるんか?」

 

「ハッ、口だけは達者やな。お前のこっちは、訛りがきつくなっとるぞ。田舎モンが」

 

「習慣や。……それより、なんでここに。消え損ないが…!」

 

前世の直哉は扇子を開いた。今世の直哉と同じ動作。だが、その扇子には、何か違う、積年の怨念という「重さ」がある。

 

「見せたいものがあってな。お前が行き着く先の、一つの完成形や。……俺みたいにならないようにな、という警告や」

 

声の最後だけが、わずかに深淵のように翳った。

 

 

白い空間が変質した。

直哉の眼前に、映像が展開される。まるで、吐き気を催すようなフィルムが空中に投射されているように。

 

そこに映っていたのは——呪霊・禪院直哉だった。

 

イモムシのような形の巨大な呪霊。その仮面の穴から覗く顔は、確かに直哉の顔だ。だが、その瞳の色が、今世の直哉が知っているものとは違う。

 

怨念だ。

 

禪院家の「男尊女卑」「選民思想」「格の優劣」——それらすべてが凝り固まり、生への未練と恨みによって「呪い」に変質した存在。人間としての可能性を捨て、「あっち側に立つ」という執念だけを残して怨霊になった、あの世界の直哉。

 

「……俺が、呪霊になった世界や。禪院家の構造の中で死んで、呪力で殺されなかったさかい、呪霊になった。投射呪法はそのまま残って、マッハ3で動ける。領域展開も使えるようになった。せやけど——」

 

「なんや?」

 

「…終わりは、真希に殺されることや。……釈魂刀のレプリカで、魂ごと断ち切られた。甚爾くんの側に、あいつが立った。俺はその対比として、あっけなく終わる役やった」

 

「……格好悪いな」

 

今世の直哉が、静かに呟いた。

 

感情のない評価ではない。むしろ、その言葉の奥に、自分自身を鏡で見せられているような痛みに近い何かがある。

 

「ああ。格好悪い。最高に不恰好や。……せやから、あの呪霊(ゴミ)が、お前の心象風景に入り込もうとしとるんや。俺が死んで残した『怨念の残滓』が、お前の前世の記憶の中に、まだ溶け残っとる。……それが『ここに』来とる」

 

直哉は、白い空間の奥を見た。何かが、動いている。

 

気配が、白い空間を侵食し始めた。

 

白が、端から黒く染まっていく。染まっていく先から、呪力の気配が——いや、呪念の塊が溢れ出してくる。

 

(……空写。全開。構造を読め)

 

直哉は術式を最大出力で解放した。

 

読めた。圧倒的な怨念。「格」への固執。選民思想の凝り固まり。禪院家が生み出した歪みの結晶。そして——投射呪法の設計図。

 

前世の直哉と同じ術式の構造を持ちながら、呪霊という「制限のない肉体」によって増幅された、暴力的な速度の設計。

 

「……来るか、出来損ないが」

 

直哉は扇子を開いた。

 

白い空間の中に、仮面の呪霊が姿を現した。イモムシ型の巨体。だが今、それは心象風景の中で「投射呪法使いとしての禪院直哉の理想形」として凝縮されている。マッハ3の速度。呪霊としての再生能力。そして——

 

「……領域展開も持っとるわけか。出来レースやな」

 

「そうや。俺はここには関われへん。あの呪霊はお前自身の、ドブカスな過去との清算や。……前世の可能性を、今世のお前が越えるかどうかやな」

 

声が消える。

 

白い空間に、今世の直哉と、呪霊・禪院直哉だけが残された。

 

呪霊は動かなかった。ただ、そこに在るだけで、空間が歪む。

 

(……俺とお前の差は何や。同じ術式の使い手として、何が違う!)

 

空写で呪霊の構造を読む。

 

読めた——が、次の瞬間、直哉の思考は白い空間を吹き飛ぶほどの衝撃に遮断された。

 

音がしなかった。ただ、気づいた時には、直哉の体が心象風景の「壁」に叩きつけられていた。

 

(……ッ!? 見えへん……空写の先読みを、純粋な速度で上書きしやがったんか!)

 

マッハ3。音速の三倍。

 

甚爾のフィジカルギフテッドですら、これほどの純速度はなかった。甚爾の強さは「呪力がない肉体の合理性」だったが、呪霊直哉は「呪力によって強化された物理法則の蹂躙」だ。

 

(……読んどるのに、体が追いつかへん。甚爾くんの時と逆の問題や。反吐が出るわ)

 

壁から剥がれながら、直哉は反転術式を即座に脳と肋骨に叩き込んだ。

 

呪霊が、ゆっくりと振り返った。仮面の穴から、直哉の顔が覗いている。

 

「……お前は俺の劣化版や。同じ術式を持ちながら、肉体のリミッターに怯えとる。同じ投射呪法なのに、積層残影などという脳筋な補正方法で誤魔化しとる。……雅やないな」

 

(……そうや。反論はない。ただ、俺はお前が捨てた『不細工な積み重ね』でここまで来たんや)

 

直哉は立ち上がった。

 

呪霊が再び動いた。今度は見えた——否、「見えた」のではなく、「空写で0.1秒先の着地点を読んだ」。

 

直哉は鏃(やじり)を足元に展開した。鋭利であり、加速し圧縮した呪力エネルギーが爆ぜ、その反動で直哉の体が弾丸のように横方向へ無理やり跳ぶ。

呪霊の拳が、直哉がいた空間を穿つ。衝撃波だけで、白い地面が亀裂を走らせた。

 

(……速度で勝てないなら、速度を使わない設計を組む。自分の意志で動くな。移動を『力学』に委ねろ!)

 

直哉の思考が高速回転する。呪霊の投射呪法は「1/24秒のフレームに動きを設定する」性質上、完全に動きの軌道が「固定」される。音速の三倍で動いているが、その軌道は「プログラム通り」だ。

 

つまり——空写で「次の0.04秒に何が来るか」を読めれば、理論上は対処できる。

 

問題は、読んでから「体を動かす」時間だ。

 

(……鏃。足元に連続展開して、反動で移動する。移動を『配置』に書き換えるんや。次の攻撃の着地点の『外側』に、俺を配置する)

 

右へ。左へ。斜め上へ。重力を無視した鏃の反動で、直哉は白い空間を駆け抜ける。

 

呪霊の連撃が、すべて「直哉がいた座標」を穿ち続ける。

 

「……面白い回避や。でも——攻撃できてへんやろ。回避だけでは終わらへんで」

 

直哉は落花の情を展開した。呪力を皮膚の外側に薄く張る。

 

呪霊が拳を放った。マッハ3の速度が、直哉の皮膚の外側の呪力層にぶつかった。

 

(……ッ! 返せへん。規模が違いすぎる! なら、方向(ベクトル)だけズラせ!)

 

落花の情が崩壊する寸前に、エネルギーの向きを九十度横へ逸らす。直哉の体は押し潰されるのではなく、「横に吹き飛ばされる」力に変換することで生き残った。

 

着地した瞬間、直哉は空虚呪法を展開した。

 

呪霊の「次の0.04秒の動き」が、空写に映る。右足に相当する部位を軸に回転する軌道。

 

直哉は空虚呪法を、その右足部位部分に向けて放った。

 

「——空虚呪法・固定」

 

呪霊の右足部位が、1/24秒の完全停止。音速の軌道設定に、わずかなフリーズが発生する。

 

「——極ノ番・積層残影・十二葉!」

 

直哉は、その一秒の隙に、全力の鏃を叩き込んだ。

 

加速する鏃のコマ割りの一撃に、極ノ番を合わせて打ち込むという離れ技を見せた。

 

十二層分の衝撃が呪霊の胴体を貫いた。白い空間が震え、地面が割れる。

 

だが——数秒後、再生した呪霊が立ち上がった。

 

「……いい一撃や。十二葉か。……せやけど、俺の再生はそれでも追いつく」

 

(……十二葉でも足りへん。再生速度が異常や。このまま削り合えば、俺の呪力が先に尽きる)

 

直哉の呪力が、五十パーセントを切った。

 

直哉は動き方を変えた。正面からの打ち合いを止め、白い空間全体を「盤面」として使い始めた。

 

空虚呪法を連続展開し、不可視の固定節を生成する。空写を持たない呪霊には、どこに「罠」があるか分からない。

 

呪霊がマッハ3で突進する。その軌道上の固定節が爆発。再生する前に二つ目、三つ目。爆発が、呪霊の速度を強制的に落とす。

その瞬間、直哉は零駒を放ち、高速で全力の打撃を重ねる。しかし、呪霊の再生能力はそれを上回る。

 

(……じり貧や。根本的な設計を変えなあかん)

 

その時、呪霊が両手の掌印を組んだ。手印の形は——伎芸天印。

 

(……領域展開。来る!)

 

「領域展開『時胞月宮殿(じほうげっきゅうでん)』」

 

世界が塗り替えられた。フィルム状の触手が、空間のあらゆる方向から伸び、直哉の皮膚に触れようとする。

 

触れられた瞬間、全細胞に「1/24秒の動き」を強制。失敗すれば細胞レベルでの破壊。

 

触手が、直哉の手を撫でた。

 

「——ッ!!」

 

全細胞がフリーズの予感に震える。だが直哉は——反転術式を、細胞一つ一つに流し込んだ。

 

「——反転術式、全細胞・常時展開……ッ!!」

 

細胞が止まる。反転術式が治す。止まる。治す。

 

「……っ、それは……しょうもない力技やな、俺」

 

「そうや、強引や。せやけど、強引でも今夜は生き残る。俺の積み重ねを『雅やない』と切り捨てたお前には、絶対負けへん」

 

直哉は反転術式を全身に回しながら、触手の波を強引に押し返し始めた。

 

呪力消費は激しい。残量三十パーセントを割った。

 

(……領域を押し返せへん。でも、この領域の『隙』は読めとる)

 

その時、呪霊が不吉に笑った。

 

「……そろそろ、本命を見せてやろうか。俺が呪霊になった理由、その神髄を」

 




さぁ、まずは序盤の攻防戦でした。
いきなりの相手の領域展開で驚いた方もいるかもしれません!
この展開にドキドキ、ワクワクしたら是非評価付与、感想、お気に入り登録などをよろしくお願いします!
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