【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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これはもし戦いの間にこんなことがあればのIFの話です。
心象風景に甚爾が現れたんなら、こんなのもアリだろうと…オリジナル展開マシマシとなっています。
ここまで掲示板回に付き合ってくださった皆様への感謝を込めて!どうぞ!お楽しみください!

キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊など野の可能性がございます。
ご注意ください。

評価付与、感想、お気に入り登録などは直哉があり得たかもしれない可能性に打ち勝ってくれます!

——領域の中で、直哉は次の設計を組む。手持ちの全技術を惜しみなく叩き込み、呪霊との消耗戦を制する一手を模索する。そして——直哉の領域展開が、その片鱗から実体へと変わり始める。


第129話:IF回 異なるif(イフ)を越えて ── 禪院直哉、呪霊との決戦 中編/設計の極地

 

「時胞月宮殿」の内側。

 

全身が、焼けるように熱い。

 

正確には、燃えているのではない。細胞が強制停止し、反転術式がそれを即座に叩き起こす——その超高速の摩擦が、物理的な熱として神経を焼いているのだ。

 

呪力残量、二十八パーセント。

 

(……まずいな。このペースやと、反転術式を回すだけでガス欠や。不細工すぎるやろ)

 

視界が歪む。極彩色のフィルムが幾重にも重なり、心象風景は狂った現像機の内側へと変貌を遂げていた。あらゆる角度から伸びる触手。掠めれば最後、その部位の全細胞が「1/24秒の動き」を強制され、設計に失敗した瞬間に内部から爆ぜる。

 

直哉は領域内を疾走した。脳内では、かつて父から叩き込まれた「領域」の理がリフレインする。必中効果——それは回避不能の摂理。本来なら、術式を付与した結界を張られた瞬間に、即座に「簡易領域」を展開して中和すべき場面だ。

 

「……何してんねん、俺」

 

呪霊の声が、四方八方から降る。

 

直哉の指先が微かに震え、印を結ぶコンマ数秒のラグを許さなかった。

 

圧倒的なマッハ3の蹂躙。自分と同じ顔をした呪霊が見せつけた「投射呪法」の完成形への動揺。それが、直哉の誇り高き設計を、根底から腐らせていた。

 

(簡易領域が……展開できへん……っ!? クソ、体が……動かん……!)

 

呪いそのものに呑まれたわけではない。自分自身の「才能」への絶望に、構築を邪魔されているのだ。

 

触手の一本が、直哉の左肩を裂いた。ドパッ、と鮮血が舞う。細胞がフリーズし、壊死が始まる瞬間に、直哉は叫び声を上げながら反転術式を最大出力で叩き込んだ。

 

「——っ、なめんな……!!」

 

遅い。あまりに遅い初動。

 

だが、直哉は血反吐を吐きながら、無理やり脳内の呪力回路を繋ぎ変えた。足元に直径数メートルの円を描く。

 

「簡易領域……ッ…『落下の情』!」

 

術式を直接中和する対領域戦闘術。相手の攻撃をオートで自動迎撃する効果も備わっている。

 

本来、直哉ほどの手練れなら瞬時に展開できるはずのそれが、ようやく発動する。術式を中和する「結界」が直哉を包み込み、殺到する触手の必中効果を霧散させていく。

 

「……ほう。ようやくか。滑稽に粘るな、俺」

 

呪霊直哉が触手による攻撃を与えてきたが、落下の情によるオート迎撃によって弾かれる。

 

呪霊は嘲笑いながら、触手の密度をさらに跳ね上げた。

 

ここからは、ただの地獄だった。

 

直哉は膝をつき、簡易領域を最大出力で維持することだけに全神経を注いだ。回避は不可能。領域内では触手そのものが「既に触れている」のと同義。

 

落下の情の常時展開による防備による触手の妨害。ここを耐え凌がなければ直哉に先はなかった。

 

一分。あるいは数分。永遠とも思える蹂躙の時間。

 

領域の中では、時間は意味をなさない。ただ、呪力が削れる音だけが耳の奥で鳴り響く。

 

直哉は膝をついた。簡易領域の防壁を維持するだけで精一杯だ。一歩でも動けば、その瞬間に防御のバランスが崩れ、細胞を破壊する「必中」に呑み込まれる。

 

「どうした、俺。立てや。そのヒーローのガワ、ボロボロやぞ」

 

「……黙れ……ドブカス……」

 

呪霊は加速を止めない。マッハ3の衝撃波が領域を揺らし、その度に直哉の鼻から血が噴き出した。反転術式で焼き切れる寸前の脳を修復し続け、防壁を張り直す。

 

脳が焼けるような異臭がする。神経はすでに千切れかかっていた。

 

呪力残量、二十三パーセント。

 

(……戦略的に詰んどるな。反転術式の修復、簡易領域の維持……。全部を同時に回すには、俺の器が小さすぎるわ)

 

直哉は絶望的な状況を冷徹に分析した。このままでは領域が解ける前に、自分の中の呪力が底を突く。

 

だが、その時——。

 

 

パリン、と硝子が割れるような音が心象風景に響く。

 

極彩色のフィルムが霧散し、再び白い虚無が顔を出した。呪霊の領域が、維持の限界を迎えて崩壊したのだ。

 

(……剥がれたッ!!)

 

直哉の瞳に、昏い光が宿る。

 

領域展開直後の術師は、術式が焼き切れ、一時的に使用不能になる。それは特級呪霊といえど逃れられない呪術の理だ。

 

「……チッ、惨めに粘りよって」

 

呪霊の顔に初めて苛立ちが浮かぶ。

 

その瞬間を、直哉は見逃さなかった。投射呪法は使えない。だが、直哉にはこの世界で、術式に頼れぬ状況下で培った、肉体一つで戦う術がある。

 

「——今や……死ねぇッ!!」

 

直哉は鏃で地面を爆ぜさせ、残りの呪力をすべて筋繊維の強化に回した。

 

術式がない? だから何だ。

 

「瞬刻、二十四節、積層の理」  

  

込められた詠唱には、変わることのない冷徹さと怒りの殺意が混在していた。

 

「極ノ番・『積層残影・12葉』ッ!!」

 

投射呪法で加速した直哉の右拳が、呪霊の無防備な胸元に突き刺さる。

 

 バチバチッ!

 

その時、確かに空間に黒い火花が迸った。

 

その衝撃を伴った2.5乗の一撃は、呪霊直哉に規格外の衝撃を響かせる。

 

「ガハッ……!?」

 

「…ここで黒閃!?…ハッ!ヒーローごっこで何を手に入れたか、教えたるわ! 泥臭い殴り合いや、ドブカス!!」

 

ゾーン状態に入ったことでより高速化した鏃による爆破推進と投射呪法で加速した勢いを利用し、続けざまに左の肘、右の膝。格闘技のセオリーを無視した、ただ相手を殺すためだけの暴力的連撃。ただひたすらに加速した鏃を叩き込み、相手の動きを踏まえ完封するための動きを構築し、零駒を連続行使した。

 

呪霊の巨体が吹き飛ぶ。直哉は追撃の手を緩めない。反転術式で強引に回復させた筋肉を極限まで酷使し、焼き切れた脳に鞭を打って拳を振り抜く。

 

「術式がなけりゃただのデカブツやろ! 雅やないなあ!!」

 

続け様に積層残影の6葉を呪霊の顔面を白い地面に叩きつけ、馬乗りになって殴りつける。

 

一撃ごとに呪霊の肉体がひび割れ、黒い呪力が漏れ出す。今世で積み上げてきた「不細工な努力」が、前世の自分を圧倒する快感。

 

だが、直哉の背筋に再び、凍りつくような悪寒が走った。

 

 

「——ハハッ。……なるほど、確かに雅やない。せやけど……」

 

殴り飛ばされた呪霊が、地面を這いながら不気味に笑った。

 

その肉体が、内側から脈動を始める。

 

(……嘘やろ。再起動(リブート)が、早すぎる……!)

 

通常、術式の回復には数分を要する。だが、この呪霊は自らの呪力を燃料に、焼き切れた回路を無理やり治癒し、繋ぎ直しした。

 

呪霊の全身が再び加速の予兆に震える。

 

マッハ3が戻ってくる。

 

対する直哉の呪力残量は、先程の猛攻で大きく削られていた。

 

呪力残量、二十パーセント。

 

「……遊びは終わりや、俺。お前はここで、俺の一部に戻るんや」

 

呪霊が地を蹴った。空写の精度すら追いつかない、絶対的な速度の蹂躙。

 

直哉は膝をついた。もはや防御や肉弾戦で凌げる次元ではない。マッハ3に戻られた瞬間、次こそ首が飛ぶ。

 

(……やるしかない。これしかないんや)

 

直哉は血塗れの口角を吊り上げた。

 

脳が焼けるような異臭がする。反転術式の回路を、脳幹へと直接、過負荷(オーバーロード)状態でバイパスさせた。

 

意識が、白濁する。だが、その極限の向こう側で、直哉は「それ」を掴んだ。

 

 

(墨色定着——いや、そんなもんやない。今の俺の燃料を、全部注ぎ込め)

 

思い出すのは、甚爾の背中ではない。

 

暑苦しいほど自分を信じた切島。反吐が出るほど純粋な緑谷。自分をヒーローだと認めた相澤。

 

そして、あの圧倒的なアメリカの星。

 

「不細工や、俺」

 

直哉は、両手の親指と人差し指を噛み合わせ、自分の眼の前に小さな「画角」を形作った。

 

「断層の構え」——。

 

「——お前……正気か!? その残量で何を……ッ!」

 

呪霊の声に、真の戦慄が混じる。

 

直哉は、命を燃やすような詠唱を開始した。

 

「重なりし有象、皆泥濘(ぬかるみ)」

 

白い空間の足元から、漆黒の鏡面が侵食し始める。上空には、極彩色のフィルムが一枚、二枚と重なり、層を作る。

 

「我が瞳に映るは、一刻の極彩」

 

呪力、二十パーセント。領域を展開するための最低限の代償。

 

直哉の意志が、心象風景そのものを燃料として燃やし尽くす。

 

「余分は一画すら、許さへん」

 

「——お前……正気か?」

 

呪霊の声が、真に緊張を帯びた。

 

「心象風景の中で、領域を強引に引き摺り出そうとしとるんか? 自爆するぞ、不細工に」

 

「試したことはない。でも、ここが俺の家(こころ)やったら、俺が法やろ?」

 

「……ハハッ! 面白い。……ならば、俺も全力で押し返す。領域の押し合い、どちらの設計が勝るか、見せてもらうわ!」

 

呪霊もまた、再起動した術式を極限まで回し、伎芸天印を組む。

 

「「領域展開」」

 

二つの声が、心象風景に重なった。

 

 「『万象剥離・極彩断層(ばんしょうはくり・ごくさいだんそう)』!!」

 「『時胞月宮殿(じほうげっきゅうでん)』!!」

 

世界が、爆ぜた。

 

白い虚無が、二つの絶対的な法則の衝突によって激しく揺れた。

 

直哉の領域が、漆黒の鏡面を広げようとする。

 

呪霊の領域が、不細工な極彩色の触手でそれを侵食しようとする。

 

「——ッ!!」

 

直哉の目、鼻、耳から血が噴き出した。脳への負荷がキャパシティを超え、視界が真っ赤に染まる。

 

「——退け……!! 紛い物の領域が!!」

 

「……設計の押し合いか。ええな、これ。最高に雅やわ」

 

直哉は血反吐を吐きながら、狂ったように笑った。

 

「これは、俺の心象風景や。俺の設計が、ここでは法なんや。……もう一段、燃料を入れたるわ」

 

直哉は、目を閉じた。

 

(……感情が燃料で、設計が方向を決める。俺の燃料は何や? 禪院家への恨みか? 甚爾くんへの憧れか? ……いや、違う)

 

思い出す。

 

不器用な優しさ、反吐が出るほどの正義感、および自分を「ヒーロー」として肯定した言葉たち。

 

(……全部が、燃料や。俺が『不細工や』と切り捨ててきた、あいつらの感情が……今、俺を動かしとる)

 

「——ここからは、設計の外にある燃料で動く。……怨念だけでできとるお前には、逆立ちしても理解できへんやつや」

 

直哉の領域が、猛烈な勢いで膨張した。漆黒の断層が、極彩色のフィルムを内側から食い破り、空間の主導権を奪い合っていく。

 

二つの領域が激突し、火花を散らすその中心で、直哉は確信していた。

 

この不細工な押し合いの先にしか、自分の未来はないのだと。

 




さぁ!戦いもクライマックスに入ってきました!
正直書いてる時もワクワクが止まらなかったです。色々と想像できるので…
この展開にドキドキ、ワクワクしたら是非評価付与、感想、お気に入り登録などをよろしくお願いします!
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