【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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とりあえず書き上げました。
期末試験編です。
やはりイレイザーヘッドは強いです…
キャラ崩壊、ストーリー崩壊の可能性ありです!ご注意ください。
皆様の感想、評価付与が直哉の機嫌を上昇させドブカスに深みがまします!


期末試験編
第15話:期末試験編「駒(切島)と、消えた速さ」


 

 

期末テストの一週間前。

 

B組との非公式な情報交換は、雄英では半ば慣例になっていた。

 

正確には「情報交換」ではない。B組の誰かがA組の誰かに話しかけ、A組の誰かがそれを広め、気づいた時には全員が同じ情報を共有している、という構造だ。

 

今年の期末実技テストの「例年の傾向」がそのルートで流れてきたのは、試験一週間前の昼休みのことだった。

 

「巨大ロボットらしいよ、相手!」

 

緑谷出久が食堂のテーブルで興奮気味に言った。ノートを広げ、何かを書き込んでいる。

 

「去年も一昨年も、実技は対ロボット戦だったって。障害物競走のあのロボットの改良版みたいな」

 

「じゃあ爆破で終わりじゃねえか」

 

爆豪勝己が鼻で笑った。

 

「俺には楽勝だな」

 

「ロボット相手なら俺の剛化も思いっきり使えるしな!」

 

切島鋭太郎が拳を打ち合わせた。

 

テーブルの端で、直哉は一人で麦茶を飲んでいた。

 

(ロボット、か)

 

機械の動き。投射呪法で完全に読める相手だ。機械には生き物のような「癖」がない分、動作パターンが単純だ。つまり投射呪法の設計が素直に通る。

 

(悪くはないわ)

 

退屈ではあるが、合理的な試験設計だ。

 

「禪院くん、どう思う?」

 

緑谷が声をかけてきた。

 

「ロボットなら楽勝やろ」

 

「そうだね! 禪院くんの個性、速さが活かせそうだし」

 

「せやろ?」

 

直哉は麦茶を一口飲んで、それ以上喋らなかった。

 

(楽勝、ね…原作を考えれば、それはありえへんのやけどな)

 

その予測が外れることを、この時点では直哉以外誰も知らない。

 

 

 

テスト三日前の朝。

 

相澤が教室に入ってきた時、いつもと少し空気が違った。

 

黒板に「実技テスト形式変更」と書いた。

 

教室がざわついた。

 

「今年の実技テストは変更する」

 

相澤は淡々と言った。

 

「例年は対ロボット戦だったが、今年は教師陣との実戦形式に切り替える」

 

さらにざわめきが大きくなった。

 

「理由は二つ。一つ目、先日のUSJ事件を受けて、対人戦闘の実践的な評価を行う必要があると判断した。二つ目、ヒーロー科への外部からの干渉があった今、生徒たちの実戦対応能力を正確に把握しておく必要がある。プロの前に立つ経験を早めに積ませる」

 

緑谷が手を挙げた。

 

「あの、先生も本気で来るんですか?」

 

「当然だ。ただし」

 

相澤が付け足した。

 

「教師陣は全員、超圧縮重りを両手足に装着して臨む。各自の体重の約半分に相当する超高密度おもりだ。身体能力を大幅に制限した状態で戦う。お前たちに『教師を拘束する』か『脱出ゲートへ到達する』可能性を現実的なものにするためのハンデだ」

 

「体重の半分……」

 

誰かが呟いた。

 

「相澤先生、体重何キロですか?」

 

上鳴電気が軽い口調で聞いた。

 

「答える必要はない。各自、担当教師を調べて対策しろ」

 

淡々としているが、言葉の重みはある。

 

「各自、二人一組で担当教師一名と戦う。クリア条件は脱出か、教師への手錠の装着。詳細なペアリングは明日発表する」

 

教室がまた静かになった。

 

直哉は窓の外を見ていた。

 

(対ロボットじゃなくなった)

 

頭の中で計算し直す。教師陣との実戦。超圧縮重りのハンデはある。しかし相手はプロヒーロー、あるいは元プロ相当だ。重りがあっても、経験と戦術は残る。

 

(誰が来るかによる)

 

その「誰」が、翌日に発表された。

 

 

 

翌朝、黒板にペアリングが張り出された。

 

直哉はリストを一瞥して、自分の名前を探した。

 

```

禪院直哉・切島鋭太郎 vs 相澤消太

```

 

(……相澤先生)

 

直哉は三秒、そのリストを見た。

 

相澤消太。ヒーロー名:イレイザーヘッド。視認した相手の個性を消去する。消去の持続時間は視認を維持している間。瞬きをすれば解除される。

 

(最悪の相性やな)

 

感情的な意味ではない。純粋に術式相性の話だ。

 

投射呪法は「動きを設計してトレースする」術式だ。個性を消去されれば、設計はできてもトレースができなくなる。呪力そのものが消えるわけではないが、術式の出力が失われる。

 

(今の俺には、術式なしで動ける地力があるだけや)

 

呪力を乗せた打撃は使える。足裏への呪力展開も使える。ただし投射呪法の加速がなければ、「速い人間」どまりだ。

 

超圧縮重りがある分、相澤の身体能力は制限されている。しかし個性消去は残る。捕縛布の扱いも残る。経験と戦術判断も残る。

 

(重りを考慮しても、キツい相手やな)

 

隣で切島が自分のペアリングを見つけて声を上げた。

 

「禪院と一緒か! やった!」

 

(……やった、ね)

 

直哉は何も言わなかった。

 

切島の個性、剛化。皮膚を硬質化させる肉体変質型の個性だ。

 

(個性消去が効かない)

 

それだけが、今回の直哉にとって切島の唯一の価値だ。肉体変質は個性消去の対象外になる可能性が高い。つまり切島は「常に個性が使える前衛」として機能できる。

 

直哉は黙ってリストから目を離した。

 

 

 

試験前日の夜、直哉は実家の自室のベットで仰向けになっていた。

 

天井を見ながら、頭の中で相澤の動きをシミュレートする。

 

相澤消太の戦闘スタイル。捕縛布による拘束が主武器。接近戦よりも、距離を取りながら捕縛布を展開して相手の動きを封じるタイプだ。個性消去と捕縛布の組み合わせで、個性に依存したキャラを詰める。

 

超圧縮重りで身体能力が制限されている。しかし相澤の強みは身体能力ではない。個性消去と、状況判断の速さと、捕縛布の精度だ。重りはそのどれも奪わない。

 

(俺が近づけば、視認が必要だから瞬きが増える。瞬きの瞬間、個性が戻る。そこで一手打てる)

 

理屈は分かる。

 

だが問題がある。

 

投射呪法が消えた状態では、捕縛布の軌道を「計算してかわす」ことができない。投射呪法があれば、捕縛布の射出角度、速度、軌道の弧を24コマで追って回避できる。しかし個性消去中は、感覚だけで動くしかない。

 

(感覚で動ける範囲は、今の俺にはある)

 

ステイン戦で実証した。投射呪法なしでも、呪力強化の身体能力だけである程度動ける。ただし確実性は下がる。予測の誤差が生まれる。

 

(罠も張ってくるやろな)

 

相澤は「合理的虚偽」を使う教師だ。見えているものが本命で、見えていないものが罠、という組み立てをする。切島を正面から突っ込ませて、俺が回り込む、というプランは既に読まれている可能性がある。

 

(読まれていても、やるしかない)

 

他に手がない。

 

直哉は目を閉じた。

 

(切島くんは駒や。それ以上でも、それ以下でもない)

 

感情的な葛藤は一ミリもない。ただ合理的な計算だけがある。

 

-

 

試験当日。

 

各ペアが順番にステージに送り込まれていく。

 

直哉と切島のステージは廃工場を模したセットだった。錆びた鉄骨、折れた足場、崩れた壁。入り組んだ構造で視界が遮られる。

 

「相手は相澤先生か……」

 

切島が呟いた。入場ゲートの前で、少し緊張した顔をしている。

 

「禪院、作戦とかある?」

 

「ある」

 

「どんな?」

 

「言う前に確認しておくけど」

 

直哉は切島を見た。

 

「君の剛化、個性消去で消えるん?」

 

「え? あ……たぶん消えないと思う。剛化って皮膚が変質するタイプだから、消去されても元に戻るまでラグがあるっていうか」

 

「ならそれだけが今日の君の取り柄や」

 

切島が「えっ」という顔をした。

 

「どういう意味……」

 

ゲートが開いた。

 

直哉は歩き出した。

 

 

 

工場の中は薄暗かった。鉄の匂いがする。足元は砂利混じりのコンクリートだ。

 

投射呪法を起動した。

 

視界が24コマに分割される。周囲の物体の動線が見えてくる。落ちた鉄骨の軌道、崩れそうな足場の重心、風の流れ。

 

(相澤先生は、どこや)

 

答えは、即座に来た。

 

直哉の正面から、視線が刺さった。

 

投射呪法が、沈黙した。

 

「……あー」

 

直哉は息を吐いた。

 

術式が消えた感覚を、直哉は初めて体験した。

 

視界から「コマ割り」が消える。世界が通常の解像度に戻る。24分割されていた時間が、1秒ごとの流れに戻る。

 

(不快やね。俺から自由を奪うとか、ええ度胸しとるわ)

 

感情ではない。感覚的な評価だ。

 

「禪院! 相澤先生どこ!」

 

切島が声を上げた。

 

「正面、十一時の方向、足場の三段目」

 

「え、なんで分かるんだ?」

 

「消える前に見えた」

 

直哉は淡々と言った。

 

「切島くん」

 

「どうした?作戦でもできたのか?」

 

「プランBや。君、死んできて」

 

切島が固まった。

 

「……え?」

 

「正面に向かって一直線に突っ込んで。止まらんでええから」

 

「それって俺が囮ってこと!?」

 

「そう」

 

「いや、でも相澤先生の捕縛布って――」

 

「剛化してたら拘束されへん。捕まっても剛化で引きちぎれ。それに先生は今、重り着けとるやろ。身体能力は制限されてる。君の剛化で突っ込めば捌ききれん」

 

「でも、もし負けたら――」

 

「負けるかもしれんな」

 

直哉は淡々と答えた。

 

「でも、それは君の問題や。俺は君が時間を稼いでる間に先生の死角に入る。それだけや」

 

切島が直哉を見た。

 

何かを言いたそうな顔をしていた。

 

しかし直哉の目に感情的な揺れは一切なかった。計算しかなかった。

 

「……分かった」

 

切島が正面を向いた。

 

「やってやるよ」

 

「いってらっしゃい」

 

切島が走り出した。

 

 

 

切島の剛化が展開した。全身の皮膚が変質して、鈍い光沢を帯びる。

 

正面から走ってくる切島を見て、相澤が動いた。

 

超圧縮重りが両手足にある。動きに微妙な重さがある。しかし相澤の眼は鋭いままだ。

 

捕縛布が展開する。弧を描いて切島の足元を狙う。

 

切島がそれを踏んで突っ込んだ。剛化した足が布を踏みつけ、そのまま前進する。

 

「っ!」

 

相澤が一瞬、切島に集中した。

 

その瞬間、直哉の個性が戻った。

 

投射呪法、起動。

 

視界が24コマに戻る。

 

直哉は足裏に呪力を集中させた。地面を蹴る力を跳ね上げる。投射呪法で移動の軌道を設計する。相澤の死角、背後の鉄骨の陰、そこへの最短経路。

 

一秒で設計が完成した。

 

トレース、開始。

 

直哉の体が動き出した。切島と相澤が正面でぶつかり合っている間に、直哉は側面から迂回して鉄骨の陰に消えた。

 

切島が捕縛布に絡め取られていく。剛化があっても、あの布の締め付けは完全には防げない。時間の問題だ。

 

(仕方ない)

 

直哉には切島を助けるという選択肢が存在しなかった。

 

あるのは「切島くんが時間を稼いでいる間に先生の後ろを取る」という計算だけだ。

 

相澤の背後に回り込む。距離、五メートル。

 

投射呪法を起動したまま、設計を組み立てる。相澤の後頭部への最短経路。接触型呪力集中で一点を打ち込む。手錠を取り出す動作との連結。全部で3コマ分の動作だ。

 

(行ける)

 

直哉が踏み込んだ。

 

 

 

その瞬間、相澤が薄く笑った。

 

捕縛布が、「そこにあるはずのない軌道」で展開した。

 

直哉の予測進路、その真横。

 

(……っ)

 

想定外だ。

 

捕縛布は相澤の手元から展開されるはずだ。しかし今、布は直哉の側面から迫ってきた。

 

事前に設置していた。足場の影に、あらかじめ布を仕込んでいた。直哉の回り込みのルートを読んで、トリガーを仕掛けていた。

 

合理的虚偽だ。切島への攻撃は囮で、本命は直哉への罠だった。

 

投射呪法で軌道を追う。

 

来る。

 

設計を0.5コマ分、修正する。

 

フリーズ寸前の綱渡りだ。物理法則の限界ギリギリの方向転換。過度に軌道を無視すればフリーズする。しかしこのまま直進すれば捕縛布に巻かれる。

 

(どっちや)

 

0コンマの判断。

 

直哉は体を捻った。

 

捕縛布が、左肩をかすめた。

 

布の先端が直哉の腕に触れた。完全には巻かれていない。しかし速度が落ちた。体制が崩れた。

 

着地が乱れる。

 

相澤が振り返る。直哉と目が合う。

 

投射呪法が、再び沈黙した。

 

舌打ちが出た。

 

珍しいことだ。直哉が無意識に感情的な音を漏らすのは。

 

相澤が静かに言った。

 

「甘い」

 

捕縛布が展開する。今度は正面から、直接。

 

直哉は呪力だけで体を動かした。

 

投射呪法なしの身体能力は、「速い人間」だ。プロヒーローが本気で動けば、超圧縮重りがあっても追いつかれる速さだ。

 

布が迫る。

 

直哉は歯を食いしばった。

 

 

 

 

「うおおおおお!」

 

轟音。

 

切島が捕縛布を引きちぎって、再び突進してきた。

 

捕縛布が一瞬、切島に引っ張られる。

 

相澤の視線が切島に動く。

 

コンマ一秒。

 

投射呪法が戻った。

 

直哉は設計を組んだ。残った呪力を足裏に集中する。相澤の足元、最短経路。視線が切島に向いている間だけ使える一手。重りで動きが鈍った相澤の、その足元へ。

 

三コマ分の設計。

 

トレース。

 

地面を蹴る。

 

一コマ、二コマ。

 

相澤の足元に滑り込む。

 

呪力を右手に集中させた。一点収束。

 

手錠を取り出しながら、相澤の手首を取る。

 

カチッ。

 

手錠が閉じた。

 

沈黙。

 

切島が「えっ」という声を出した。

 

相澤がゆっくりと手錠を見た。

 

「……クリアだ」

 

審判の声が聞こえた。

 

直哉は立ち上がりながら、右肩の布の跡を確認した。少し赤くなっている。

 

(かすった、か)

 

フリーズ寸前の体勢崩れがなければ、もっと速く終わっていた。

 

合理的虚偽に引っかかった。そこだけが今日の「失敗」だ。

 

「禪院ーーー!!!」

 

切島が駆け寄ってきた。

 

「やったじゃん!! すごかった! 俺が捕まってる間に決めたじゃん!」

 

「君が時間を稼いだから終わったんやろ」

 

「でもさ、俺のこと見捨てたよね?」

 

「見捨ててへん。役割を果たしてもらっただけや」

 

「それ……見捨ててるじゃん……」

 

「チームワークとはそういうもんや。俺が指示して、君が動く。それが今日の役割分担やった」

 

切島が複雑な顔をした。

 

直哉はその顔を一秒だけ見て、視線を外した。

 

相澤が直哉の前に立った。

 

「一つ聞いていいか」

 

「どうぞ」

 

「罠に引っかかった時、フリーズせずに修正した。あれはどうやった」

 

直哉はわずかに間を置いた。

 

「0コンマの設計修正です。フリーズ寸前やったけど、修正できる範囲やった」

 

「それができるのは、相当な訓練量だ」

 

「訓練というより、習性です」

 

相澤は何も言わなかった。ただ少し目を細めた。

 

評価をしている目だ。

 

直哉はその目を、まっすぐ見返した。

 

「総評は?」

 

「合格。ただし、個性を封じられた時の対応が薄い。個性消去を受けた瞬間に選択肢が激減している。投射強化に依存しすぎだ」

 

直哉は何も答えなかった。

 

答えなかったが、否定もしなかった。

 

「もう一つ。お前は相手の罠を予測できていなかった。回り込みのルートが読まれていた」

 

「……知ってます」

 

「それが分かってるなら、次の課題も見えてるはずだ」

 

「見えてますよ」

 

直哉は答えた。

 

口の中だけで、続きを言った。

 

(投射呪法だけじゃ、足りん。術式の幅を広げないと)

 

今日初めて、その言葉が輪郭を持った。

 

 

 

その日の夕方、A組の面々が試験を終えて集まった。

 

全員がクリアできたわけではない。いくつかのペアは惜しいところで失敗した。しかしそれぞれが何かを持ち帰った顔をしていた。

 

直哉は端の壁に寄りかかって、他の組の結果を聞くでもなく聞いていた。

 

「疲れた……」

 

峰田実が床に座り込んだ。

 

「俺たちの先生、強すぎだよ……重りつけてあれって何?」

 

「でもクリアできたし!」

 

「ギリギリだったじゃん!」

 

「まぁ……あの重りなかったら絶対無理だったけどな」

 

「先生たち本気だったよ絶対……」

 

誰かが笑った。誰かが愚痴を言った。誰かが「次は絶対勝つ」と宣言した。

 

(有象無象が)

 

直哉はそれを聞きながら、今日の戦いを頭の中で反芻していた。

 

相澤先生の合理的虚偽にかかった場面。0コンマの設計修正で切り抜けた場面。最後の手錠の装着。

 

合格はした。

 

しかし今日分かったことは、「投射呪法が封じられた瞬間、俺の戦い方は途端に薄くなる」という事実だ。

 

(術式に依存しすぎとる)

 

相澤の言葉が頭に残っていた。

 

相澤先生の言葉が正しいとは言いたくない。しかし事実として、個性消去を受けた瞬間に直哉の選択肢は「速い人間として動く」だけに絞られた。それではいつか詰む。

 

(投射呪法の幅を広げないといかん。あるいは、術式反転か)

 

まだ答えは出ていない。

 

方向性だけがある。

 

切島が近づいてきた。

 

「禪院、今日ありがとな」

 

「礼はいらん」

 

「いや、俺のこと道具みたいに使ったけど……それでもさ、勝てたじゃん」

 

直哉は切島を見た。

 

「今日の君の動き、悪くなかったよ。捕縛布を引きちぎって二度目の突進、あれがなければ俺も詰まってた」

 

「……それ、褒めてる?」

 

「事実を言ってるだけや」

 

切島がしばらく直哉を見た。

 

それから笑った。

 

「まぁいいか。チームで勝ったんだし」

 

「チームで勝ったんやなくて、役割分担で勝った。意味は違う」

 

「どう違うの」

 

「チームワークは感情が絡む。役割分担は合理性だけ。今日は後者や」

 

「……禪院って、友達いる?」

 

直哉は一秒間だけ沈黙した。

 

「いらん」

 

「そっか」

 

切島は笑ったまま、他の方向へ歩いていった。

 

直哉はその背中を一瞬見た。

 

(合理的だが、感情的でもある。悪くはない駒やったな)

 

「駒」という評価に、かすかな後味があった。

 

気のせいだと思った。

 

気のせいだと、思うことにした。

 

 

 

 

翌日。

 

筆記試験が行われた。

 

直哉は全科目を粛々と解いた。引っかかる問題は一問もなかった。

 

解答用紙の余白に、一行だけ書いた。

 

「こんなもん実戦で役に立つん?」

 

採点後、相澤に呼び出された。

 

「余白に何か書いた理由は」

 

「率直な感想です」

 

「試験はお前の実力を測るためにある。実戦で使えるかどうかは、試験の目的じゃない」

 

「でも俺が雄英に来た理由は、実戦で強くなるためです。その目的に直結しない知識を測る意味が、俺には分からん」

 

相澤が直哉を見た。

 

「次は余白に感想を書くな」

 

「……はい」

 

「成績は問題ない。帰れ」

 

直哉は立ち上がった。

 

ドアを開けながら、一度だけ振り返った。

 

「先生、昨日の試験の話ですけど」

 

「なんだ」

 

「俺が罠に引っかかったのは、相手の動きの『先』を読めてなかったからです。投射強化は自分の動きを設計するもんやけど、相手がどう動くかを先に読む個性を持ってへん。それが今日の敗因の根っこや、と」

 

相澤は少し間を置いた。

 

「……それは正しい分析だ」

 

「分かってるだけで、まだ解決策はないです」

 

「林間合宿で何か掴めるかもしれない。限界まで個性を使う機会がある」

 

「それに期待してます」

 

直哉はドアを閉めた。

 

廊下を歩きながら、頭の中で今日の言葉を転がした。

 

(投射呪法の限界は分かった。相手の動きを先に読む手段がない。自分の動きを設計するだけじゃ、罠には対応できへん)

 

解決策はまだない。

 

ただ、課題の輪郭が今日初めてはっきり見えた。

 

(林間合宿で、何か変わるかもしれんな)

 

何が変わるかは、まだ分からない。

 

ただ、変える必要があるとは分かった。

 

それだけで十分だ。

 

直哉は足を速めた。




相澤先生の「抹消」を食らってもなお、冷淡に駒としてクラスメイトを動かすという
相変わらず、ヒーロー候補生とは思えない「ドブカス」っぷりでしたね。

さて、試験も無事に(?)終わり、物語は夏へと加速していきます。

世間では九州で起きた不穏なニュースも聞こえてきますが、直哉の関心はそんなところにはない様子。

最近の彼は、自分の脚をじっと見つめては、何やら独り言を増やしているようです。

「……分けるだけじゃ、もう足りひんな」

そんな呟きが、この先の混乱の中でどんな「形」になって現れるのか。

「最速」を自称する男が、自分の肉体すら実験台にして見据える、その先の景色。

ヒーローたちの正義が届かない場所で、直哉が何を「積み重ねて」いくのか。

ふわっと、でも確実に、物語は「極」へと向かっていきます。

次回の更新も、どうぞよしなに。
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