【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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林間合宿編が始まります。

ここから直哉の強化を入れていければなと思います。

キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊など可能性あります。
ご注意ください。

感想、評価付与が直哉を更なるた高みへ持ち上げていきます。


林間合宿編
第16話:林間合宿編「山と獣と有象無象」


 

 

七月。

 

雄英高校ヒーロー科1年A組は、林間合宿に向かうバスの中にいた。

 

窓の外を山が流れていく。緑が濃い。都市部とは空気が違う。

 

直哉は一番後ろの席に座り、窓に頬杖をついていた。

 

隣の席は空いている。誰も座りに来ない。それで構わない。

 

(山林での個性訓練、か)

 

相澤から事前に告知はあった。合宿の目的は「個性を限界まで使うこと」だ。

 

投射呪法を限界まで使う。

 

(限界、ね)

 

直哉は目を細めた。

 

今の自分の限界がどこにあるか、正直まだ分かっていない。期末テストで相澤に個性を封じられた時、投射呪法なしの直哉は「速い人間」に過ぎなかった。その課題は今も残っている。

 

限界まで使えば、何かが変わるかもしれない。

 

(……まぁ、来てみなければ分からんか)

 

バスの前の方から笑い声が上がった。

 

上鳴と芦戸が何かで盛り上がっている。切島が笑いながらそれに乗っかっている。

 

(有象無象め)

 

直哉は視線を窓の外に戻した。

 

 

 

バスが山道に入った頃、前方に人影が現れた。

 

「うわっ!」

 

誰かが声を上げた。

 

バスが急ブレーキをかける。

 

直哉が窓の外を見た。

 

山道の真ん中に、四人が立っていた。女性三人と男性一人。全員が独特の雰囲気を纏っている。

 

「何? 人?」

 

「ヴィラン?!」

 

車内がざわついた。

 

一人の女性が腕を振り上げた。

 

次の瞬間、バスの外の地面が崩れ、土砂が迫ってきた。

 

「きゃあ!」

 

悲鳴が上がった。

 

直哉は微動だにしなかった。

 

(……ああ、なるほどなあ)

 

バスがガタガタと揺れる。土砂がバスを飲み込むように押し寄せてくる。

 

(これが「個性を使って乗り越えろ」という洗礼か)

 

直哉は投射呪法を起動した。

 

土砂の流れを24コマで分析する。速度、密度、進行方向。バスへの圧力。

 

(問題ない。バスは流されるが転覆はしない)

 

直哉は再び窓の外を見た。

 

他の生徒たちが個性を使いながら土砂を防いでいる。轟焦凍の氷が壁を作る。緑谷出久が何かを叫んでいる。

 

直哉は何もしなかった。

 

自分のバスが無事なら、それでいい。

 

 

 

土砂が収まった後、バスから降りると5人が出迎えた。

 

「ようこそ、プッシーキャッツの土地へ! 私たちがヒーローユニット、ワイルドワイルドプッシーキャッツよ!」

 

リーダー格の女性が高らかに名乗った。

 

マンダレイ。テレパシー系の個性を持つ。

 

ピクシーボブ。土を操る個性。先ほどの土砂はこの女性の仕業だ。

 

ラグドール。サーチの個性を持つ。解析等も出来る。

 

虎。筋肉を自在に動かす個性。

 

そしてもう一人、小さな子供が仏頂面で立っていた。

 

「紹介するわ。私の甥のコウタくん!」

 

マンダレイが子供の頭を引き寄せた。

 

子供、出水洸汰は不機嫌そうな顔でクラスを一瞥した。

 

直哉はその子供を一秒だけ見て、すぐに興味を失った。

 

「今日の目的地まで、この山を自力で越えてもらいます! 距離は約三キロ! でも途中にモンスターがいるから、死なないようにね!」

 

ピクシーボブが明るく言った。

 

「え、モンスター?」

 

「私の個性で作った土偶! 個性を使いながら越えて来い! それが最初の訓練よ!」

 

クラスがどよめいた。

 

「というわけで、スタート!」

 

誰かが走り出した。それに引きずられるようにクラスが動き始めた。

 

直哉は最後尾に続きながら、軽く投射呪法を起動した。

 

(三キロか。モンスターの動きを読みながら進めばいい。難しくはない)

 

ただし退屈だ。

 

(……まぁ、ウォーミングアップにはなる)

 

直哉は山道を歩き始めた。

 

 

 

山を越える途中、直哉はふとした拍子にコウタと視線が合った。

 

コウタは山道の端に立って、クラスが山を越えていくのを腕を組んで見ていた。

 

ヒーローを嫌っている目だ。

 

直哉には分かる。

 

(否定しとるな、全部を)

 

別に珍しくはない。ヒーローを嫌う人間はいる。どんな事情があるかは知らないし、知りたくもない。

 

ただ。

 

直哉がその横を通り過ぎる瞬間、コウタが言った。

 

「……何見てんだよ」

 

「別に」

 

「ヒーローヅラすんな、気持ち悪い」

 

直哉は立ち止まらなかった。

 

歩きながら、後ろに向けて言った。

 

「ヒーローヅラ? 俺は強くなりにきてるだけや。君が嫌いなものと俺がやってることは、たぶん違う」

 

コウタは何も言わなかった。

 

直哉も振り返らなかった。

 

(……有象無象の子供か)

 

それだけだ。それ以上でも、それ以下でもない。

 

 

 

 

山を越えてログハウスに着いた頃には、クラス全員がどこかしら土で汚れていた。

 

芦戸の袖が破れている。上鳴が「俺の電気全部使い切った……」と言いながら座り込んでいる。

 

直哉は特に消耗していなかった。

 

「禪院、まだそんな余裕あるのか?」

 

切島が話しかけてきた。

 

「モンスターの動き読んで避けただけやから」

 

「え、全部避けたの? 俺めちゃくちゃ戦ったんだけど」

 

「戦う必要がある場面じゃなかったやろ」

 

切島が「うーん」という顔をした。

 

「それって楽しくない?」

 

「楽しさを求めて来てへん」

 

「……そっか」

 

切島が少し離れていった。

 

直哉は荷物を下ろしながら、山の方を見た。

 

(訓練は明日から始まる)

 

それが今日の全てだ。

 

 

 

 

翌朝から、本格的な個性訓練が始まった。

 

訓練場は山の中の広場だ。木々に囲まれ、視界が遮られている。

 

相澤が全員の前に立った。

 

「この合宿の目的は一つだ。個性を限界まで使い、その限界を越えること。筋肉の超回復と同じ原理だ。極限まで使って、一度壊れて、再生した時に個性の閾値が上がる。今日からその繰り返しだ。方法は各自で考えろ。テーマは『限界突破』だ。以上」

 

淡々としている。

 

相澤はいつも淡々としている。

 

他のプッシーキャッツが各自の担当につく。虎が肉体強化系の生徒を担当する。

 

直哉は誰のサポートも必要としなかった。

 

木々の間の空間に一人で立ち、投射呪法を起動した。

 

まず基礎から。

 

一重ねの投射呪法。24コマの設計を組む。最高速度でトレースする。

 

次に二重ねへ。

 

設計の密度が上がる。トレースの精度要求が上がる。速度が乗る。

 

三重ね。

 

ここから負荷が増す。設計の精度を維持したままの重ね掛けは、集中力と呪力の両方を食う。

 

四重ね。

 

(……まだ行ける)

 

五重ね。

 

視界の解像度が上がる。世界が24コマよりも細かく分割されていく感覚がある。

 

(これが限界付近か)

 

六重ねに入ろうとした瞬間、設計がぶれた。

 

フリーズ、一瞬。

 

体が止まる。

 

直哉は静止した状態で、頭の中でその「ぶれ」の原因を分析した。

 

(設計の精度が追いついていない。速さは出てる。でも、相手がいたとしたら、この速さで動いても「どこに」動くかが俺の設計でしか決まらない)

 

期末テストで相澤に言われたことが蘇った。

 

「相手の罠を予測できていなかったわ」

 

投射呪法は「自分の動きを設計する」術式だ。どれだけ速くなっても、相手がどう動くかは「読む」しかない。読み外したら、設計が崩れる。

 

(俺の術式には、相手を読む要素が足りひん)

 

分かってはいた。

 

しかし今日、限界付近で動いてみて、その課題が輪郭を持った。

 

(速さは十分や。問題は、その速さをどこに向けるかや)

 

直哉はもう一度、五重ねから試みた。

 

 

 

 

 

訓練一日目の夜。

 

夕食はカレーだった。

 

材料を渡されて、各自で作る形式だ。ピクシーボブが「料理も訓練のうち! チームワークを磨け!」と言っていた。

 

直哉には関係のない話だ。

 

しかし当然のように流れに巻き込まれた。

 

「禪院くん、玉ねぎ切れるかい?」

 

飯田天哉が律儀に訊いてきた。

 

「……切れるけど」

 

「では頼む! チームで分担することが重要だ!」

 

飯田が指揮官のように仕切っている。

 

直哉は渡された玉ねぎを無言で切り始めた。

 

横で緑谷が人参を切っている。その向こうで上鳴が「なんで俺がこんな……」と言いながら鍋を洗っている。

 

「禪院くんって料理できるんだ」

 

緑谷が話しかけてきた。

 

「最低限はな」

 

「そうなんだ……あの、聞いてもいい? 今日の訓練、どんなことやってた?」

 

直哉は玉ねぎを切りながら答えた。

 

「投射強化の重ね掛けを限界まで試した。五重ねで設計がぶれる。そこが今の天井や」

 

「すごい……僕は個性の出力制御を練習してたんだけど、まだ全身に通すのが難しくて」

 

「出力制御? 出力を上げる方向やなくて?」

 

「出力を上げるだけなら体が壊れるから、まず制御を……」

 

「非効率やな」

 

緑谷が「え」という顔をした。

 

「壊れても修復できるなら上げる一択やろ。制御は速さが出てから覚えれば間に合う」

 

「いや、でも周りに被害が……」

 

「ヒーローなんやろ。被害を出さない戦い方はその後でいい。まず強くならんと、守れるもんも守れへん」

 

緑谷がしばらく黙って人参を切った。

 

それから言った。

 

「……禪院くんの考え方、すごく直線的だよね」

 

「遠回りが嫌いやから」

 

「そっか」

 

カレーは、思ったよりまともな味だった。

 

直哉はそれを黙って食べた。

 

 

 

 

 

夕食の後、風呂の時間になった。

 

男女で時間をずらして入る形式だ。

 

直哉が脱衣所に向かっていると、廊下の角から声が聞こえた。

 

「……行くぞ! 今夜こそ!」

 

峰田実の声だ。

 

直哉は足を止めた。

 

峰田が塀の方へ向かっている。

 

(……何をやっとるんや、あいつは)

 

一秒後、轟音が響いた。

 

「ぐはっ!」

 

「何やってんの!? 此処は女子のお風呂だよ!!」

 

コウタの声と、水鉄砲が発射される音が聞こえた。

 

直哉は無言で脱衣所に入った。

 

男子風呂の中は既に何人かが入っていた。

 

切島が頭を洗いながら「コウタくんって普段無愛想なのに、ああいう時だけ正義感あるよな」と言っていた。

 

上鳴が「あの水圧すごかったな……」と言いながら湯に浸かっている。

 

直哉は端の方を確保して、静かに入った。

 

しばらくして、脱衣所の外から奇妙な音がした。

 

「…………え?」

 

小さな声。

 

それからドボン、という音。

 

何かが落ちてきた。

 

全員が振り返った。

 

コウタが、男子風呂の端に落下していた。

 

顔が真っ赤だ。

 

「こ、こっちじゃなくて……!」

 

「コウタくん!? 何で!?」

 

切島が駆け寄った。

 

コウタは何も言わずに、タオルで顔を覆った。

 

(……女子の方を見てしまって、動揺して落ちてきた、か)

 

直哉はその一部始終を眺めながら、静かに湯に浸かり続けた。

 

(有象無象の喜劇やな)

 

嫌いではない。

 

ただ、自分が参加する気にはなれない。

 

 

 

 

 

翌日の訓練は、より集中した。

 

直哉は昨日の「五重ねの壁」を起点に考えていた。

 

(速さには限界がある。今の俺の投射呪法は「設計した通りに動く」だけや。設計が正しければ最速で動ける。でも設計が外れたら止まる)

 

五重ねでぶれが起きる理由は、速さに「判断」が追いついていないからだ。自分の動きを設計する分には問題ない。しかし実戦では相手がいる。相手の動きに合わせて設計を修正する必要がある。その修正に時間がかかる。

 

(投射呪法の拡張が必要や)

 

どう拡張するかは、まだ見えない。

 

直哉は五重ねの状態で、木々の間を走り続けた。限界付近で動き続けることで、何かが見えてくる気がした。

 

(……なんや)

 

走りながら、頭の中で過去の戦闘が流れた。

 

ステイン戦。

 

あの時、刀を持ったステインと向き合った瞬間、直哉は刀の軌道を読んだ。正確には「読んだ」というより「見えた」という感覚だった。刀の角度、重心の移動、踏み込みの予備動作。それらを瞬間的に処理して、次の軌道を予測した。

 

あれは投射呪法ではなかった。

 

あれは何だったのか。

 

(……前世の記憶やな。呪術師としての感覚が残ってたんや)

 

そして職場体験。

 

ホークスの羽根が飛び交う空間を見ていた時、直哉は「空間そのものを投射する」という発想の欠片を掴んだ気がした。羽根を追うのではなく、羽根が動く「空間の状態」を把握するという感覚。

 

(……この二つが、何か繋がる気がする)

 

まだ繋がっていない。

 

輪郭だけがある。

 

(焦らんでいい。訓練はまだ続く)

 

直哉は五重ねの状態で、もう一度走り始めた。

 

 

 

 

 

夜、食事の後に各自が自由時間を過ごしていた。

 

緑谷のグループが何かを話し合っている。轟が窓の外を見ている。爆豪が一人で早めに寝室に消えた。

 

直哉は縁側に出て、山の方を見ていた。

 

虫の声がする。

 

(……「空間を投射する」)

 

あの発想は何だったのか。

 

投射呪法は「自分の動きを1秒24コマで設計してトレースする」術式だ。設計の主体は「自分」だ。

 

しかし。

 

もし「相手の動き」を24コマで読むことができたとしたら。

 

(自分の動きを設計するんやなくて、相手が次の一手を打つ「コマ」を先に読む)

 

それができれば、設計が外れることはなくなる。相手が動く前に、相手の次の位置が分かる。

 

(……それは投射呪法の拡張術式になり得るな)

 

まだ理論だけだ。

 

実際にできるかどうか、試していない。

 

(明日、試してみよか)

 

直哉は立ち上がった。

 

夜風が涼しかった。

 




合宿編、スタートしました!

1-Aの面々も「個性」の限界に挑んでいますが、直哉からすれば「努力でどうにかなるもんなん?」と鼻で笑う案件のようです。

そして、更に直哉はその歩みを進めていきます。

「拡張術式」

圧倒的なスピードのその先に、直哉はどう至るのか。

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