【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
より高みへ!ドブカスウルトラ!
キャラの語彙やストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意ください。
評価と感想付与は投射呪法により拡張性を与えます
三日目の朝。
直哉は夜明け前に目が覚めた。
他の生徒はまだ寝ている。寝息が聞こえる。爆豪だけは既に起きていないようだが、それは関係ない。
直哉は静かに外に出た。
山の空気が冷たい。東の空がわずかに白み始めている。
昨夜考えたことを、今日試す。
(相手の動きを24コマで読む)
理屈は組み立てた。投射呪法は「自分の動きを設計してトレースする」術式だ。その原理を逆転させる。自分の動きではなく、相手の動きを設計する。相手の重心移動、筋肉の予備緊張、呼吸のリズム。それらを読んで「相手が次に打つ一手」を先に写し取る。
(言うは易し、やな)
実際にやれるかどうかは別の話だ。
まず試してみる。
直哉は広場の真ん中に立ち、投射呪法を起動した。
視界が24コマに分割される。
次に意識を「外」に向けた。
自分の動きを設計するのではなく、周囲の「変化」を読む。木の葉が揺れる。風が通る。鳥が枝を離れる。
それらの動きを、24コマで追う。
(……これは、ただ観察してるだけや)
違う。
欲しいのは「次の一コマ」だ。今の状態から、次の状態への変化を先読みする。
直哉は目を細めた。
木の葉が揺れている。風の流れがある。次に揺れる葉はどれか。
(……あそこ)
三枚先の葉が揺れた。
(合った)
偶然かもしれない。
もう一度。
今度は鳥を追った。枝に止まっている鳥の重心が微妙に変わった。羽根が微かに開く。
(飛ぶ)
鳥が飛んだ。
(……できる)
まだ粗い。精度が低い。しかし原理は機能している。
投射呪法の設計を「相手の動きに向ける」ことが、できる。
直哉は息を吐いた。
朝食の後、訓練が再開した。
直哉は昨日と同じ木々の間の広場に立ったが、今日やることは違う。
投射呪法の重ね掛けではない。
昨朝の発想を術式として組み立てる作業だ。
(名前をつけておくか)
術式に名前をつけるのは、認識を固定するためだ。名前があれば、発動の意識が明確になる。
(空を写す、か。空写)
相手の動きが作る「空間の変化」を写し取る。それが核心だ。
空写。
よし。
直哉は木を相手に試し始めた。
木は動かない。しかし風で枝が揺れる。その揺れの次の状態を読む。
できる。
次に、遠くの鳥を相手に試した。鳥の動きは不規則だ。しかし完全に不規則ではない。生き物には必ず「次の動き」への予備動作がある。それを読む。
粗いが、できる。
(問題は生き物相手にどこまで精度が出るか、や)
木や鳥は単純だ。生身の人間はもっと複雑だ。意識的に動きを変えることができる。フェイントをかけることができる。
(でもそれも、呼吸と重心は嘘をつかない)
ステイン戦でそれを経験した。
ステインの刀の軌道を読んだ時、直哉が読んでいたのは刀ではなかった。刀を持つ腕の筋肉の動き、踏み込みの重心移動、呼吸のタイミングだった。そこから刀の軌道が導き出されていた。
(あれが空写の原型や)
前世の呪術師としての戦闘感覚が、ステイン戦で半ば無意識に機能していた。それを今、意識的な術式として組み直している。
直哉は午前中ずっと、一人で空写の精度を上げ続けた。
昼食の時間になった。
他の生徒たちが広場から戻ってくる。疲弊した顔をしている者が多い。
「もう死ぬ……」
上鳴がへたり込んだ。
「電気個性、限界まで使うと本当に馬鹿になるんだけど俺……」
「毎回言ってるよねそれ」
耳郎響香が呆れた顔で言った。
「俺は剛化がちょっとずつ硬くなってきた気がする!」
切島が拳を叩き合わせた。
「それホントか?」
「おう! 昨日より確実に負荷かかってる感じがする!」
直哉は少し離れた場所で、水を飲みながらその会話を聞いていた。
(切島くんの剛化は成長している)
それは事実として認識していた。あれは今後も伸びる個性だ。
(……まぁ、俺には関係のない話やけど)
「禪院くん!」
緑谷が駆けてきた。
「今日は何やってたの? 昨日と違う雰囲気で訓練してたから気になって」
「気になるなら気にしなければええやん」
「えっ、教えてくれないの?」
「教える義理はない」
緑谷が「うーん」という顔をした。
「……そうだよね、ごめん」
「別に謝らんでいい。気にするな」
直哉は水を飲み干した。
「一つだけ言うとくと、今日俺がやってたことは投射強化の応用(拡張術式)の試作や。成功するかどうかはまだ分からん」
緑谷の目が輝いた。
「個性の応用! どんな原理? 」
「言わんて言うとるやろ」
「えー!」
「まだ完成してへんもんを話すのは好きやない」
直哉は立ち上がった。
「午後も訓練するか」
緑谷が「頑張って!」と言った。
直哉は振り返らなかった。
午後の訓練。
直哉は空写の精度向上に集中した。
生き物を相手に試す必要がある。
虎が近くで別の生徒の訓練を担当していた。直哉は少し離れた位置から、虎の動きを観察した。
虎が生徒に攻撃を仕掛ける。生徒が防御する。その繰り返し。
直哉は虎の動きを空写で追い始めた。
虎の右肩が動く。重心が前方に移動する。右脚に力が入る。
(次は右の直拳)
虎が右の直拳を打った。
(合った)
もう一度。
虎の腰が沈む。両膝が微妙に曲がる。呼吸が一瞬止まる。
(跳ぶ)
虎が跳んだ。
(合ってる)
精度が上がっている。
しかし問題がある。
空写を起動している間、直哉は自分の動きの設計を止めている。つまり空写と投射呪法を同時に使えていない。
(片方ずつしか動かせへん。同時起動が課題や)
それができなければ、空写で相手の動きを読んでも、自分が動けない。
(……焦らんでいい。まず空写を安定させる。同時起動はその後や)
直哉は引き続き、虎の動きを読み続けた。
日が傾き始める頃、空写の精度は実用水準に達していた。
生き物の動きの「次の一コマ」を、七割方読める。
七割では足りない。
しかし基礎はできた。
(あとは精度を上げながら、投射呪法との連動を探る)
直哉は空を見上げた。
夕焼けが山の稜線を染めている。
(……悪くない一日や)
珍しく、そう思った。
夕食が終わり、自由時間になった。
「聞いてくれよ!!」
芦戸三奈が大きな声を上げた。食堂にいた生徒たちが振り返る。
「今日ね、訓練中にコウタくんがやってきてさ、訓練見てたんだけど全然興味なさそうで……でもちょっと真剣に見てたんだよね。あの子、本当はヒーローに興味あるんじゃないかな」
「コウタくん、何か事情があるっぽいよね」
芦戸が続けた。
「マンダレイさんに聞いたら、両親が……って教えてくれたんだけど」
「両親が?」
「ヒーローだったんだけど……亡くなったって」
食堂が少し静かになった。
直哉はその話を、端で聞いていた。
(……なるほど)
それ以上の感想はない。
コウタがヒーローを嫌う理由は分かった。分かったが、それで何かが変わるわけでもない。
(俺には関係のない話や)
「禪院くん、聞いてた?」
芦戸が直哉に声をかけた。
「聞こえてたな」
「コウタくんのこと、どう思う?」
「どうとも思わん」
「冷たいな……」
「冷たくはない。俺はコウタくんの事情に関与できる立場やない。関与する必要もない」
「でも、もし何かできることがあったら……」
「俺にできることは強くなることだけや。コウタくんを救うのは俺の仕事やない」
芦戸が少し黙った。
「……そっか」
直哉は席を立った。
(余計なことに首を突っ込む気はない)
それだけだ。
夜、他の生徒が寝静まった後。
直哉は再び外に出た。
月明かりが山を照らしている。
(今夜、試してみる)
空写と投射呪法の同時起動。
昼間はできなかった。しかし原理は見えている。空写は「外向きの設計」で、投射呪法は「内向きの設計」だ。二つは方向が逆なだけで、同じ「設計」という行為だ。
意識を二つに分割できれば、理論上は同時起動できる。
(前世でやってたことに近いな)
呪術師は複数の術式要素を同時に処理することがある。それと原理的には同じだ。
直哉は目を閉じた。
投射呪法を起動する。
視界が24コマに分割される。
その状態を維持しながら、意識の一部を「外」に向ける。
木の葉の揺れ。月光の角度変化。虫の動き。
(……来る)
蛾が飛んだ。
直哉はその軌道を空写で読みながら、同時に自分の動きを投射呪法で設計した。
蛾の軌道が右に曲がる、と読んだ瞬間、直哉の体は既にそこへの経路を設計していた。
(……動く)
トレース。
直哉の手が蛾の進路上に伸びた。
蛾が手のひらに触れた。
直哉はゆっくりと手を開いた。蛾が飛んでいく。
(……できた)
同時起動。
粗い。まだ精度が低い。空写の精度が七割なら、同時起動の精度は今夜は五割以下だ。
しかし、できた。
(原理は証明した。あとは精度を上げるだけや)
直哉は立ったまま、しばらく夜の山を見ていた。
(これが完成すれば、投射呪法の設計が外れることがなくなる。相手が動く前に、相手の次の位置が分かってから設計を組める)
ステイン戦で感覚として掴んでいたものが、術式として形になり始めた。
(あとは鏃との連動や。空写で読んで、投射呪法で位置取りして、鏃で打ち込む。……その三段が揃えば)
名前はまだ考えていない。
完成した時に、名前がつく気がした。
直哉は部屋に戻った。
いよいよ拡張術式の片鱗が見えてきましたね!
空間を把握することで直哉は拡張術式の開発を進めているようですが
どうなるなら…
評価と感想付与は私が泣いて喜びます。