【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
直哉はどう立ち回るのか…果たして
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意ください。
評価付与、感想は直哉をあっち側へ連れていく糧になります。
三日目の午前。
直哉は空写と投射呪法の同時起動の精度を上げ続けた。
昨夜の成功は「できた」というだけで、精度は五割以下だった。実戦で使えるレベルには程遠い。
(読んで、設計して、動く。この三つを切れ目なく繋げる)
木の枝を相手に繰り返した。風で揺れる枝の動きを空写で読み、その先端に触れるように投射呪法で動く。
一時間後、精度が六割を超えた。
二時間後、七割。
(昨夜と同じ精度まで戻った。ここからが本番や)
七割では足りない。
空写の精度が低ければ、読み外した時に投射呪法の設計がズレる。ズレた設計でトレースすれば、フリーズが起きる。実戦でフリーズは死に直結する。
(八割、九割、そして限りなく十割に近づける)
午後になっても直哉は同じ作業を繰り返した。
他の生徒たちが疲弊していく中、直哉だけは止まらなかった。
疲弊していないわけではない。集中力の消耗は確かにある。しかし止まる理由がない。
(まだ行ける)
夕方近く、精度が八割に達した。
(……今日はここまでや)
それ以上は、今の直哉には無理だった。
集中力の底が見えた。
直哉は訓練を切り上げ、水を飲んだ。山の水が冷たい。
(あとは空写から投射呪法で加速して敵を穿つ技「鏃」との連動や。空写で読んで、投射呪法で位置取りして、鏃で打ち込む)
それが揃えば、三つの術式が一つの流れになる。
名前はまだない。
完成した時に分かる、という感覚がある。
夕食後、ログハウスの広間に全員が集められた。
マンダレイが立っている。珍しく真剣な顔をしていた。
「今夜、特別訓練があります」
「特別訓練?」
「A組とB組、合同でのお化け屋敷よ」
教室がざわついた。
「お化け屋敷?!」
「B組がお化け役、A組が体験者役。ただし」
マンダレイが笑った。
「くじで決めたペアで行動すること。一人では行かせない」
「くじ?」
箱が回ってきた。
直哉は無表情で箱に手を入れた。紙を引く。
開いた。
「……飯田くんか」
「禪院くん! よろしく頼む!」
飯田天哉が既に直哉の隣に来ていた。礼儀正しく頭を下げている。
直哉は何も言わなかった。
(飯田くん、か)
悪くはない。飯田は余計なことを言わない。指示に従う。感情的にならない。
(それだけ取り柄があれば十分や)
他のペアを見渡した。
緑谷と爆豪がペアになっていて、爆豪が「あ? なんで俺がクソナードと……」と言っている。切島と上鳴が「やったー!」と騒いでいる。
(有象無象め)
直哉は腕を組んだ。
夜になった。
B組が山の中に散らばってお化けの準備をしているらしい。A組は順番でコースを歩く。
直哉と飯田の番が来た。
「行くぞ、禪院くん」
「そやね」
山道に入った。
暗い。懐中電灯の光だけが頼りだ。
飯田が真剣な顔で周囲を見回している。
「肝試しだからこそ、不意打ちに備えておく必要がある。常に周囲を確認しながら進もう」
「……それ、楽しみに来てる人間に言う台詞やないで」
「しかし油断は禁物だ」
「別に楽しもうとも思ってへんけど」
直哉は空写を軽く起動した。
(……B組の誰かがそこにいる。木の陰、三時の方向)
足音が来る前に分かった。
B組の生徒が飛び出してきた。
「ぎゃあああ!」
「うわっ!!」
飯田が驚いた。
直哉は微動だにしなかった。
「……怖くないんですか、禪院くん」
「来るのが分かってたからや」
「え? なんで?」
「気配」
飯田が「さすがだな」という顔をした。
次のコーナーで、今度は頭上から何かが降ってくる仕掛けがあった。
直哉は空写で察知して、一歩横にずれた。
飯田が「うわあっ!」と声を上げた。
その後も直哉は一度も驚かなかった。
コースを歩き終えて出口に出た時、B組の数人が「え、何で全部避けたの?」という顔で直哉を見ていた。
「個性使ったでしょ」
「使ってへん。ただ読んだだけや」
「怖くなかった?」
「怖い要素がなかった」
B組の生徒が「なんだこいつ……」という顔をした。
飯田が横で「彼は独特の感覚を持っているんだ」とフォローしていた。
(余計なフォローや)
直哉は出口付近に立って、他のペアが出てくるのを待った。
緑谷と爆豪が出てきた。爆豪が「クソナードと肝試しとか2度とやらねえ…!」と言っている。緑谷が「そっか…」と顔が引き攣っていた。
切島と上鳴が出てきた。二人とも顔が青い。
「怖かった……」
「めちゃくちゃ怖かった……」
直哉はそれを眺めた。
(これが「楽しむ」ということか)
よく分からなかった。
お化け屋敷が終わり、風呂に入って、就寝の時間になった。
他の生徒が次々と寝ていく。
直哉は目を閉じていたが、眠れなかった。
眠れないのは珍しいことではない。考えることがある時はいつもそうだ。
(空写と投射呪法の精度は八割に達した。あとは鏃との連動だ。鏃は速度に乗せた呪力の一点集中打だから、空写で位置取りができていれば自然に繋がるはずや)
頭の中で流れを組み立てていた。
どれくらい経った頃か。
直哉の意識が、ふと外に向いた。
(……何か、いる)
空写を起動したわけではない。
ただ、山の空気が変わった気がした。
前世の呪術師としての感覚が、微かに警告を出している。
(気のせいか?)
目を開けた。
天井が見える。
他の生徒の寝息が聞こえる。
しかし。
(この感覚は、気のせいやない)
直哉は静かに起き上がった。
窓の外を見た。
山が暗い。月が出ている。風が木々を揺らしている。
何も見えない。
しかし何かがいる。
(……人間か。それとも、別の何かか)
直哉は目を細めた。
前世の記憶の中に、似た感覚がある。
呪霊ではない。しかし人間の「善意」でもない。
(殺意だ)
稀薄だが、確実にある。
直哉はゆっくりと布団に戻った。
寝たふりをしながら、全ての感覚を外に向けた。
(来る。それも一人二人じゃない)
いつ来るか。どこから来るか。何人来るか。
まだ分からない。
しかし来る。
(……まぁ、ええか)
直哉は静かに息を吐いた。
(どうせ眠れてへんかったし、ちょうどいい実戦の場やな)
感情的な緊張はなかった。
ただ、どこかが静かに研ぎ澄まされていく感覚があった。
轟音が響いたのは、それからしばらく後のことだった。
山の中から爆発音が聞こえた。複数。
同時に、建物のどこかで何かが倒れる音がした。
「何っ?!」
「何が起きてんの!」
生徒たちが次々と目を覚ます。
直哉はすでに起きていた。服を着て、靴を履いて、立っていた。
扉が開いた。
相澤が入ってきた。
「全員起きろ。緊急事態だ」
声が普段より低い。
「ヴィラン連合による襲撃と判断する。現在、山の中で複数の個性反応が確認されている」
教室がざわついた。
「全員に個性の使用を許可する」
相澤の言葉に、空気が変わった。
「ただし」
相澤が続けた。
「単独行動は禁止だ。必ず複数で行動しろ。相手はプロのヴィランだ。一人で動いて対処できる相手じゃない。全員まとまって動け」
「先生、外の状況は?」
緑谷が声を上げた。
「プッシーキャッツが対応中だ。増援が来るまで時間がかかる。それまでは防衛に徹しろ」
「誰かがやられたわけじゃないんだな?」
爆豪が短く聞いた。
「今のところ生徒への直接攻撃は確認されていない。ただし、ヴィランの目的がまだ不明だ。状況に応じて動く。全員、動くな。ここで待機だ」
相澤が出ていこうとした。
「先生」
直哉が言った。
相澤が振り返った。
「ヴィランの目的、見当はついてますか」
「……ない。待機しろ」
相澤が出ていった。
(見当がない、か)
直哉は窓の外を見た。
山の木々の間で、光が散っている。個性の光だ。複数。
(前世の記憶からすれば、こういう「集団での組織的襲撃」には必ず明確な目的がある)
何かを奪いに来た。あるいは誰かを。
(……爆豪くんだけか?)
直哉は頭の中で候補を並べた。
しばらくして、相澤の声が全員の頭の中に響いた。
マンダレイのテレパシーを通じた伝達だ。
『ヴィランの目的が判明した。標的は二名。爆豪勝己と、禪院直哉だ』
教室が静まり返った。
爆豪が低く舌打ちをした。
全員の視線が、爆豪と直哉に向いた。
直哉は窓の外を見たまま動かなかった。
(……俺か)
『二名は絶対に単独行動するな。全員で守れ。繰り返す、単独行動禁止だ』
テレパシーが切れた。
「禪院……」
切島が声をかけてきた。
「大丈夫か?」
「大丈夫やない理由がない」
「でも標的にされてるんだぞ?」
「だから?」
切島が言葉に詰まった。
「……お前、怖くないの?」
「怖い?」
直哉は切島を見た。
「俺が標的になるほどの価値があると思われてるということや。悪い話やない」
切島がしばらく直哉を見た。
「……お前、やっぱりよく分からん」
「分からんでいい」
直哉は再び窓の外に向いた。
(爆豪くんと俺が標的。爆豪くんは個性的に分かりやすい。俺は……呪力か。この世界では珍しい力だから、ヴィランが目をつけた可能性がある)
あるいは別の理由があるかもしれない。
どちらでもいい。
(来るなら来い)
問題は、相澤の指示だ。
「単独行動禁止」。
(……それに従う理由が、俺にあるか?)
直哉は静かに考えた。
相澤の判断は合理的だ。プロのヴィランに生徒が単独で当たるのは無謀だ。それは認める。
しかし。
(今夜、空写と投射呪法と鏃の連動を完成させる機会があるかもしれない)
昨夜、空写と投射呪法の同時起動に成功した。あとは鏃との連動だ。
実戦でしか完成しない技術がある。
(集団行動では、その機会が来ない)
直哉の答えは出ていた。
周囲が混乱している隙に、直哉は窓から外に出た。
音を立てずに着地した。
山の空気が冷たい。
遠くで爆発音がする。ヴィランとプッシーキャッツの交戦だ。
直哉は空写を起動した。
山の中に、複数の気配がある。
プッシーキャッツの動き。ヴィランの動き。そして。
(脳無だ)
プッシーキャッツが対処しているのとは別の方向に、質の違う何かがいる。
生き物の動きではない。しかし完全に機械でもない。
(脳無、か。ヴィランが連れてきた戦闘用の改造人間)
前世では漫画等の媒体にしかない存在だが、気配の質で理解できる。
「使い捨ての駒やな…やけど…」
直哉は呟いた。
そちらに向かって歩き始めた。
背後から声が聞こえた気がしたが、振り返らなかった。
(単独行動禁止、か)
相澤の指示が頭を掠めた。
(……悪いけど、従えんな)
従えない理由は感情ではない。
合理的な計算だ。
今夜ここで完成させなければ、この機会はない。
直哉は山の中に消えた。
いよいよヴィラン連合と鉢合わせします
直哉はどう立ち回るのか…活躍させたいけど表現というのは難しいですね