【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

18 / 105
そろそろヴィラン連合が攻めてきそうですね…
直哉はどう立ち回るのか…果たして
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意ください。
評価付与、感想は直哉をあっち側へ連れていく糧になります。


第18話:林間合宿編「くじと闇と、3日目の夜」

 

 

三日目の午前。

 

直哉は空写と投射呪法の同時起動の精度を上げ続けた。

 

昨夜の成功は「できた」というだけで、精度は五割以下だった。実戦で使えるレベルには程遠い。

 

(読んで、設計して、動く。この三つを切れ目なく繋げる)

 

木の枝を相手に繰り返した。風で揺れる枝の動きを空写で読み、その先端に触れるように投射呪法で動く。

 

一時間後、精度が六割を超えた。

 

二時間後、七割。

 

(昨夜と同じ精度まで戻った。ここからが本番や)

 

七割では足りない。

 

空写の精度が低ければ、読み外した時に投射呪法の設計がズレる。ズレた設計でトレースすれば、フリーズが起きる。実戦でフリーズは死に直結する。

 

(八割、九割、そして限りなく十割に近づける)

 

午後になっても直哉は同じ作業を繰り返した。

 

他の生徒たちが疲弊していく中、直哉だけは止まらなかった。

 

疲弊していないわけではない。集中力の消耗は確かにある。しかし止まる理由がない。

 

(まだ行ける)

 

夕方近く、精度が八割に達した。

 

(……今日はここまでや)

 

それ以上は、今の直哉には無理だった。

 

集中力の底が見えた。

 

直哉は訓練を切り上げ、水を飲んだ。山の水が冷たい。

 

(あとは空写から投射呪法で加速して敵を穿つ技「鏃」との連動や。空写で読んで、投射呪法で位置取りして、鏃で打ち込む)

 

それが揃えば、三つの術式が一つの流れになる。

 

名前はまだない。

 

完成した時に分かる、という感覚がある。

 

 

 

夕食後、ログハウスの広間に全員が集められた。

 

マンダレイが立っている。珍しく真剣な顔をしていた。

 

「今夜、特別訓練があります」

 

「特別訓練?」

 

「A組とB組、合同でのお化け屋敷よ」

 

教室がざわついた。

 

「お化け屋敷?!」

 

「B組がお化け役、A組が体験者役。ただし」

 

マンダレイが笑った。

 

「くじで決めたペアで行動すること。一人では行かせない」

 

「くじ?」

 

箱が回ってきた。

 

直哉は無表情で箱に手を入れた。紙を引く。

 

開いた。

 

「……飯田くんか」

 

「禪院くん! よろしく頼む!」

 

飯田天哉が既に直哉の隣に来ていた。礼儀正しく頭を下げている。

 

直哉は何も言わなかった。

 

(飯田くん、か)

 

悪くはない。飯田は余計なことを言わない。指示に従う。感情的にならない。

 

(それだけ取り柄があれば十分や)

 

他のペアを見渡した。

 

緑谷と爆豪がペアになっていて、爆豪が「あ? なんで俺がクソナードと……」と言っている。切島と上鳴が「やったー!」と騒いでいる。

 

(有象無象め)

 

直哉は腕を組んだ。

 

 

 

夜になった。

 

B組が山の中に散らばってお化けの準備をしているらしい。A組は順番でコースを歩く。

 

直哉と飯田の番が来た。

 

「行くぞ、禪院くん」

 

「そやね」

 

山道に入った。

 

暗い。懐中電灯の光だけが頼りだ。

 

飯田が真剣な顔で周囲を見回している。

 

「肝試しだからこそ、不意打ちに備えておく必要がある。常に周囲を確認しながら進もう」

 

「……それ、楽しみに来てる人間に言う台詞やないで」

 

「しかし油断は禁物だ」

 

「別に楽しもうとも思ってへんけど」

 

直哉は空写を軽く起動した。

 

(……B組の誰かがそこにいる。木の陰、三時の方向)

 

足音が来る前に分かった。

 

B組の生徒が飛び出してきた。

 

「ぎゃあああ!」

 

「うわっ!!」

 

飯田が驚いた。

 

直哉は微動だにしなかった。

 

「……怖くないんですか、禪院くん」

 

「来るのが分かってたからや」

 

「え? なんで?」

 

「気配」

 

飯田が「さすがだな」という顔をした。

 

次のコーナーで、今度は頭上から何かが降ってくる仕掛けがあった。

 

直哉は空写で察知して、一歩横にずれた。

 

飯田が「うわあっ!」と声を上げた。

 

その後も直哉は一度も驚かなかった。

 

コースを歩き終えて出口に出た時、B組の数人が「え、何で全部避けたの?」という顔で直哉を見ていた。

 

「個性使ったでしょ」

 

「使ってへん。ただ読んだだけや」

 

「怖くなかった?」

 

「怖い要素がなかった」

 

B組の生徒が「なんだこいつ……」という顔をした。

 

飯田が横で「彼は独特の感覚を持っているんだ」とフォローしていた。

 

(余計なフォローや)

 

直哉は出口付近に立って、他のペアが出てくるのを待った。

 

緑谷と爆豪が出てきた。爆豪が「クソナードと肝試しとか2度とやらねえ…!」と言っている。緑谷が「そっか…」と顔が引き攣っていた。

 

切島と上鳴が出てきた。二人とも顔が青い。

 

「怖かった……」

 

「めちゃくちゃ怖かった……」

 

直哉はそれを眺めた。

 

(これが「楽しむ」ということか)

 

よく分からなかった。

 

 

 

お化け屋敷が終わり、風呂に入って、就寝の時間になった。

 

他の生徒が次々と寝ていく。

 

直哉は目を閉じていたが、眠れなかった。

 

眠れないのは珍しいことではない。考えることがある時はいつもそうだ。

 

(空写と投射呪法の精度は八割に達した。あとは鏃との連動だ。鏃は速度に乗せた呪力の一点集中打だから、空写で位置取りができていれば自然に繋がるはずや)

 

頭の中で流れを組み立てていた。

 

どれくらい経った頃か。

 

直哉の意識が、ふと外に向いた。

 

(……何か、いる)

 

空写を起動したわけではない。

 

ただ、山の空気が変わった気がした。

 

前世の呪術師としての感覚が、微かに警告を出している。

 

(気のせいか?)

 

目を開けた。

 

天井が見える。

 

他の生徒の寝息が聞こえる。

 

しかし。

 

(この感覚は、気のせいやない)

 

直哉は静かに起き上がった。

 

窓の外を見た。

 

山が暗い。月が出ている。風が木々を揺らしている。

 

何も見えない。

 

しかし何かがいる。

 

(……人間か。それとも、別の何かか)

 

直哉は目を細めた。

 

前世の記憶の中に、似た感覚がある。

 

呪霊ではない。しかし人間の「善意」でもない。

 

(殺意だ)

 

稀薄だが、確実にある。

 

直哉はゆっくりと布団に戻った。

 

寝たふりをしながら、全ての感覚を外に向けた。

 

(来る。それも一人二人じゃない)

 

いつ来るか。どこから来るか。何人来るか。

 

まだ分からない。

 

しかし来る。

 

(……まぁ、ええか)

 

直哉は静かに息を吐いた。

 

(どうせ眠れてへんかったし、ちょうどいい実戦の場やな)

 

感情的な緊張はなかった。

 

ただ、どこかが静かに研ぎ澄まされていく感覚があった。

 

 

 

轟音が響いたのは、それからしばらく後のことだった。

 

山の中から爆発音が聞こえた。複数。

 

同時に、建物のどこかで何かが倒れる音がした。

 

「何っ?!」

 

「何が起きてんの!」

 

生徒たちが次々と目を覚ます。

 

直哉はすでに起きていた。服を着て、靴を履いて、立っていた。

 

扉が開いた。

 

相澤が入ってきた。

 

「全員起きろ。緊急事態だ」

 

声が普段より低い。

 

「ヴィラン連合による襲撃と判断する。現在、山の中で複数の個性反応が確認されている」

 

教室がざわついた。

 

「全員に個性の使用を許可する」

 

相澤の言葉に、空気が変わった。

 

「ただし」

 

相澤が続けた。

 

「単独行動は禁止だ。必ず複数で行動しろ。相手はプロのヴィランだ。一人で動いて対処できる相手じゃない。全員まとまって動け」

 

「先生、外の状況は?」

 

緑谷が声を上げた。

 

「プッシーキャッツが対応中だ。増援が来るまで時間がかかる。それまでは防衛に徹しろ」

 

「誰かがやられたわけじゃないんだな?」

 

爆豪が短く聞いた。

 

「今のところ生徒への直接攻撃は確認されていない。ただし、ヴィランの目的がまだ不明だ。状況に応じて動く。全員、動くな。ここで待機だ」

 

相澤が出ていこうとした。

 

「先生」

 

直哉が言った。

 

相澤が振り返った。

 

「ヴィランの目的、見当はついてますか」

 

「……ない。待機しろ」

 

相澤が出ていった。

 

(見当がない、か)

 

直哉は窓の外を見た。

 

山の木々の間で、光が散っている。個性の光だ。複数。

 

(前世の記憶からすれば、こういう「集団での組織的襲撃」には必ず明確な目的がある)

 

何かを奪いに来た。あるいは誰かを。

 

(……爆豪くんだけか?)

 

直哉は頭の中で候補を並べた。

 

 

 

 

しばらくして、相澤の声が全員の頭の中に響いた。

 

マンダレイのテレパシーを通じた伝達だ。

 

『ヴィランの目的が判明した。標的は二名。爆豪勝己と、禪院直哉だ』

 

教室が静まり返った。

 

爆豪が低く舌打ちをした。

 

全員の視線が、爆豪と直哉に向いた。

 

直哉は窓の外を見たまま動かなかった。

 

(……俺か)

 

『二名は絶対に単独行動するな。全員で守れ。繰り返す、単独行動禁止だ』

 

テレパシーが切れた。

 

「禪院……」

 

切島が声をかけてきた。

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫やない理由がない」

 

「でも標的にされてるんだぞ?」

 

「だから?」

 

切島が言葉に詰まった。

 

「……お前、怖くないの?」

 

「怖い?」

 

直哉は切島を見た。

 

「俺が標的になるほどの価値があると思われてるということや。悪い話やない」

 

切島がしばらく直哉を見た。

 

「……お前、やっぱりよく分からん」

 

「分からんでいい」

 

直哉は再び窓の外に向いた。

 

(爆豪くんと俺が標的。爆豪くんは個性的に分かりやすい。俺は……呪力か。この世界では珍しい力だから、ヴィランが目をつけた可能性がある)

 

あるいは別の理由があるかもしれない。

 

どちらでもいい。

 

(来るなら来い)

 

問題は、相澤の指示だ。

 

「単独行動禁止」。

 

(……それに従う理由が、俺にあるか?)

 

直哉は静かに考えた。

 

相澤の判断は合理的だ。プロのヴィランに生徒が単独で当たるのは無謀だ。それは認める。

 

しかし。

 

(今夜、空写と投射呪法と鏃の連動を完成させる機会があるかもしれない)

 

昨夜、空写と投射呪法の同時起動に成功した。あとは鏃との連動だ。

 

実戦でしか完成しない技術がある。

 

(集団行動では、その機会が来ない)

 

直哉の答えは出ていた。

 

 

 

周囲が混乱している隙に、直哉は窓から外に出た。

 

音を立てずに着地した。

 

山の空気が冷たい。

 

遠くで爆発音がする。ヴィランとプッシーキャッツの交戦だ。

 

直哉は空写を起動した。

 

山の中に、複数の気配がある。

 

プッシーキャッツの動き。ヴィランの動き。そして。

 

(脳無だ)

 

プッシーキャッツが対処しているのとは別の方向に、質の違う何かがいる。

 

生き物の動きではない。しかし完全に機械でもない。

 

(脳無、か。ヴィランが連れてきた戦闘用の改造人間)

 

前世では漫画等の媒体にしかない存在だが、気配の質で理解できる。

 

「使い捨ての駒やな…やけど…」

 

直哉は呟いた。

 

そちらに向かって歩き始めた。

 

背後から声が聞こえた気がしたが、振り返らなかった。

 

(単独行動禁止、か)

 

相澤の指示が頭を掠めた。

 

(……悪いけど、従えんな)

 

従えない理由は感情ではない。

 

合理的な計算だ。

 

今夜ここで完成させなければ、この機会はない。

 

直哉は山の中に消えた。

 

 




いよいよヴィラン連合と鉢合わせします
直哉はどう立ち回るのか…活躍させたいけど表現というのは難しいですね
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。