【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
入学式の朝、禪院直哉は屋敷の縁側で茶を飲んでいた。
静岡の春の朝は、まだ少し肌寒い。庭の桜が散り始めていて、花びらが池の水面に落ちていくのを、直哉はぼんやりと眺めていた。
感慨はない。
雄英に入学する。それはただの通過点だ。目的地ではない。前世でも高専に入ったのは「そこが最も鍛えられる場所だったから」であって、学校生活に何かを期待したことなど一度もなかった。今世も同じだ。
母親が後ろから声をかけてきた。
「直哉、そろそろ準備しなさい。新幹線の時間があるでしょう」
「分かっとるわ」
「制服、ちゃんとアイロンかけてあるから。朝ごはんは」
「いらんです」
「……食べなさい」
「……はい」
直哉は渋々立ち上がった。この手の小言に反論するのは労力の無駄だと学習していた。出されたものを食べて、荷物を持って、家を出る。それだけだ。
玄関で靴を履いていると、父親が廊下の奥から声をかけてきた。
「直哉」
「なんですか」
「無様なことはするなよ」
「……せえへんわ、そんなこと」
それだけ答えて、直哉は玄関を出た。
新幹線の中で、直哉は窓の外を眺めながら、ぼんやりと前世のことを考えた。
初めて悟くんに会った日のことを。
あの男は、規格外だった。
禪院直哉は自分の強さに自信があった。投射呪法の精度、呪力の質、純粋な戦闘センス。どれを取っても同世代に負けるとは思っていなかった。実際、負けたことはなかった。
だが悟くんだけは、最初から次元が違った。
同じ土俵に立っていない、という感覚。あいつはそもそも「強い弱い」という尺度の外にいた。無下限呪術と六眼。あんなものを持って生まれてきたやつと、同じ「呪術師」という括りで語ること自体がおかしい。
だから直哉は悟くんを嫌いだったかと言われれば、そうではなかった。
羨ましかったか、と問われれば。
(……羨ましいとか、そういう話やないんや)
直哉は窓の外を流れる景色を眺めた。
羨ましい、という感情は、自分と相手を同じ土俵に置いたときに生まれる。五条悟は最初から別の土俵にいた。だから羨ましいとか悔しいとか、そういう感情が湧かなかった。
ただ。
あの強さを見て、何かが燃えたのは事実だ。
羨望でも嫉妬でもない。もっと純粋な何か。あそこまで行けるものなら行ってみたい、という渇望に近いもの。それが直哉の中に確かにあった。認めたくはないが、事実だった。
甚爾くんもそうだった。
呪力ゼロで特級術師を殺せる男。あの化け物みたいな肉体と、呪力がないからこそ到達した純粋な身体性。あれはあれで、直哉の中の何かを刺激した。
真希ちゃんも。
術式なし、呪力なし、それでも前に進み続けたあの女の執念は、直哉が最も認めたくない形で、認めざるを得なかった。
(……まあ、あいつらのことは関係ないけどな)
直哉は思考を切り上げた。前世は前世だ。今は今の世界で、今の敵を考えればいい。
この世界にも、そういう人間がいる。
オールマイト。
「僕のヒーローアカデミア」の世界における頂点。平和の象徴。あの男の強さは、直哉が知っている限りにおいて、五条悟のそれとは種類が違う。だが「壁の向こう側にいる人間」という意味では、同じ匂いがした。
(……まあ、それはそれで悪くはないな)
新幹線が東京に近づいていた。
A組の教室のドアを開けた瞬間、直哉は一通りクラスを眺めた。
既に何人かが席についている。試験会場で見かけた顔が何人かいる。爆発の金髪――爆豪勝己。緑のくせっ毛――緑谷出久。それから試験では見かけなかった顔も多い。推薦組だろう。白と赤の髪が半々に分かれた少年。長い黒髪の長身の少女。丸顔で上品な雰囲気の少女。
直哉は自分の席を確認して、黙って座った。
隣の席の、白と赤の髪の少年がちらりとこちらを見た。整った顔立ちだ。試験会場にはいなかった。推薦組か。
少年は直哉を一瞥してから、また前を向いた。特に話しかけてくる様子もない。
(……悪くはないな。静かなやつは好きや)
直哉も無言で前を向いた。
前の席に座った緑谷が、おずおずと振り返った。
「あの……試験の時の! 禪院くん、だよね? 僕、緑谷出久って言います」
「知っとる。同じ会場やったやろ」
「あ、そっか……! あの時すごかったね、ロボットの膝を素手で……」
「別に」
緑谷が何か言いたそうにもじもじしている。直哉はその視線の熱量に、わずかに眉をひそめた。
「……なんや」
「えっと……禪院くんの個性って、増強系? 動きの質が全然違って見えたから気になって。あ、嫌だったら全然」
「増強系や。それ以上でも以下でもない」
「あの速度と威力で増強系って、相当練度が高いんだね」
「当たり前やろ」
そこへ、廊下の方から勢いよく扉が開いた。
「間に合った! おはよー!」
茶色い瞳の少女が駆け込んできた。試験会場で見かけた麗日お茶子だ。息を切らせながら、きょろきょろと席を探している。
「あ、禪院くん!」
「……お前、入学式から走ってくるな」
「えへへ、ちょっとトイレ探してたら迷っちゃって!」
「広い学校やからな」
「禪院くんは迷わなかったの?」
「事前に調べてきた」
麗日は緑谷の隣の席に滑り込みながら、にこにこと直哉を見た。
「禪院くん、試験の時助けてもらったのにちゃんとお礼言えてなかったな。ありがとう!」
「ええって言うたやろ」
「でもお礼は言いたいもん!」
「……好きにしたらええわ」
直哉はそっぽを向いた。麗日は「あはは」と笑った。
そこへ教室の扉がスライドして開いた。
寝袋から這い出てきたような男が入ってきた。黄色い寝袋。くたびれた顔。ぼさぼさの黒髪。首元に巻いた白いマフラー。全体的に胡散臭い。
(……原作通りやなあ)
直哉は無表情のまま、その人物を眺めた。
「……よし来た、着席」
男が短く言った。
クラスがざわつき始めた。笑い声も混じる。誰だこいつ、という空気が漂った。
男は腕時計を見た。
「君たちが静かになるまで8秒かかりました。合理性に欠くね。」
ぴたりとクラスが静まった。
「俺が担任の相澤消太だ。これを着てグラウンドに出ろ」
体操服の袋が配られ始めた。
「あの、入学式は……」芦戸三奈が恐る恐る手を挙げた。
「関係ない。個性把握テストを実施する」
「こ、個性把握テスト……?」
相澤は淡々と続けた。
「なお、このテストで最下位の者は即退学だ」
クラスに一瞬の沈黙が落ちた。
「さ、最下位が退学って……!」上鳴電気が跳び上がった。
「入学初日からそんな……!」
「不合理だ!」飯田天哉が真っ先に手を挙げた。「我々はせっかく試験を突破して入学したというのに、いきなり退学とは! これは脅しではないですか!」
「ヒーローになるには常に理不尽な状況への対応が必要だ。まずやれ」
飯田が口をつぐんだ。
直哉は黙って体操服の袋を受け取った。
(……まあ、退学はないやろな)
そう確信しながらも、表情には出さなかった。
グラウンドに整列したA組の前で、相澤が最初の種目の説明をした。
「まず爆豪。ソフトボール投げ、個性を使って思い切り投げてみろ。デモンストレーションだ」
「あ?」
爆豪は鼻を鳴らした。
「いいぜ」
爆豪はボールを受け取り、助走をつけて腕を振り上げた。
「死ねっ!!」
クラスが一瞬固まった。
「し、死ねって!?」上鳴が素っ頓狂な声を上げた。
「言葉!!」芦戸が叫んだ。
爆発が轟音とともに炸裂し、ボールが遥か遠くへ消えていく。
「記録……705.2メートルです」
「す、すごい!!」
「700メートル超えてる!!」
「個性使っていいって最高じゃん!!楽しそう!!」
「俺も早くやりたい!!」
クラスが一気に沸き立った。相澤はそのざわめきをひと通り眺めてから、静かに言った。
「楽しそう?」
ざわめきがすっと引いた。
「ヒーロー志望がそんな楽観的でどうする。改めて言う。このテストで最下位の者は即退学処分とする」
クラスが再び静まり返った。さっきの浮かれた空気が、一瞬で凍りついた。
「わ、分かりました……!」
「頑張ります……!」
直哉はその一連を眺めながら、腕を組んで黙っていた。
(……上手いな、この人)
浮かれた空気を一言で締め直した。飴と鞭の使い方が、実に手慣れている。
まずボール投げ以外の種目が先に実施された。
五十メートル走。飯田が個性全開で走り、3.04秒を叩き出した。
「はや!!!」
「エンジン個性ってあんなに速いの!?」
「飯田くんやばすぎ……」
上鳴が電気を使って加速しようとして制御を失い、ふらふらになりながらゴールした。
「何してんの!!」切島が腹を抱えた。
「電気で走れると思ったんだよ!!」
「無理に決まってんだろ!!」
「わかってたけど!!試したかったんだよ!!」
直哉の番が来た。投射呪法を起動し、一秒を二十四のコマに分割しながら地を蹴る。3.47秒。
「え、増強系でそんなに速いの……?」峰田実が目を丸くした。
「速度特化の個性には届かんわ」
「いや十分すぎるだろ禪院!!」切島が飛んできた。
「個性の精度がええだけや」
「精度ってなんだよ!!」
直哉は切島の熱量をさらりと受け流した。
立ち幅跳び、握力測定、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈と種目は続いた。
立ち幅跳びでは、直哉が呪力を脚に集中させて7メートルを超えた。
「なんで増強系でそんな飛ぶんだ……」尾白猿夫が呆然とした。
「術式で体の動きを細かく……」直哉はそこで一瞬止まった。「個性で体の動きを制御できるから、可動域の限界まで使えるだけや」
言い直した。術式という言葉が口から出かかった。癖だ。
握力測定では計測器が悲鳴を上げた。相澤が「出力を落とせ」と言った。
「加減しとるんやけど」
「分かった。次」
千メートル走は、直哉が2分41秒でクラストップだった。
「禪院、持久力まであんの!?」切島が絶叫した。
「増強系はそういうもんやろ」
「そういうもんじゃないよ普通!!」
峰田が隣に並んできた。
「禪院って本当に増強系? なんか全種目強くない?」
「増強系や。何回聞くんや」
「いや、だってさ……俺の個性、立ち幅跳びとか全然活かせないんだけど」
「お前の個性なんや」
「もぎもぎっていうくっつく球体出せるんだよ。ほら」と言って額から球体を出した。
直哉はそれを一瞥した。
「……使い方次第やな」
「え、そう思う? 俺もそう思うんだけど周りに信じてもらえなくて」
「俺が信じる信じんの話はしてへんわ」
「あ、そっか……」
全種目が終わり、最後にソフトボール投げの番が来た。
各自が順番に投げていく。個性を使った者は概ね高い数値が出た。爆豪が再び爆発を使い、700メートルを超える数値を叩き出す。クラスがまたどよめいた。
緑谷の番が来た。
緑谷はボールを手に持ち、投球エリアに入った。
その瞬間、相澤が緑谷に向けて目を向けた。
直哉はそれに気づいた。
(……個性を消した)
イレイザーヘッド。相澤消太。その個性は他者の個性を消すことができる。前世の知識でそれを知っていた直哉には、相澤が何をしたか一目で分かった。
緑谷は投球モーションに入り、そのまま力任せにボールを投げた。
「56メートル」
緑谷が固まった。直哉も静かに観察した。
(……個性を消された。素の筋力だけで投げたんやな)
その数値は、強化個性なしの少年としては悪くない。だが先ほどの爆豪の705メートルとは雲泥の差だ。何より緑谷の表情が、個性が使えなかったことを正確に示していた。
クラスの何人かが気づいた。
「あれ……緑谷くん、個性使えなかった?」
「先生が何かした……?」
「イレイザーヘッド……!」緑谷が目を丸くした。「抹消ヒーロー、イレイザーヘッド……! 先生がそうだったんですか……!!」
「個性把握テストだ。個性なしの数値も必要だろ」相澤は淡々と答えた。「もう一度投げろ。今度は個性を使っていい」
緑谷は深呼吸をした。ボールを手に持ち、じっと見つめる。
直哉はその様子を眺めながら、何かを考え始めていた。
(……あの力、さっきは消されて使えんかった。今度はどうする? また腕ごと使ったら壊れる。かといって出力を絞れるほど制御できてへん……)
緑谷がボールを持つ手の形が変わった。
腕全体ではなく、指先だけを使う構えだ。
(……指先に絞るか。賢い判断やな)
緑谷が腕を振った。ボールに向かって、指先だけで力を弾く。
「705.3メートル」
クラスが沸いた。
「え!! さっき56メートルだったのに!!」
「個性使ったら700メートル超えるの!?」
「どんな個性だよ!!」
直哉はその数値を聞いて、無意識に目を細めていた。
(……指先だけに絞ったことで、試験の時みたいに腕を壊さずに済んだ。その場で解決策を考えて、実行した。素の状態で投げた経験を活かして出力の上限を掴み、指先に絞るという方法を導いた……)
相澤が緑谷を見ていた。その目が、わずかに細くなっている。
「……ふむ」
それだけだった。だがその一言に、直哉は相澤が緑谷を評価したことを感じ取った。
(……この担任も、ちゃんと見とるな。そして緑谷くんも、やはり普通やない)
直哉の番が来た。
直哉はボールを受け取った。投射呪法を起動しようとした。
その瞬間、術式への接続が遮断された。
(……消した)
直哉は一瞬だけ固まった。相澤の目が光っていた。直哉にも同じことをしたのだ。緑谷と同じように、個性なしの状態と個性ありの状態、両方の数値を測る。
呪力は体の中にある。だが術式への接続がない。投射呪法が使えない。呪力による身体強化もできない。
(……なるほど。こういう感覚か)
直哉は緑谷が感じたであろうことを、今度は自分で体感した。個性を消されるとはこういう感覚だ。術式という根幹を突然引き抜かれたような感覚。
直哉は助走をつけ、純粋な筋力だけで腕を振った。
「89メートル」
「……」相澤が微かに目を細めた。「個性なしで89か」
「日頃から鍛えとるんで」
「次、個性を使え」
相澤の目が元に戻った。直哉は術式への接続が戻るのを感じ、すぐに投射呪法を起動した。
一秒を二十四のコマに分割。腕の振りの軌道を最適化。呪力を右腕全体に満遍なく巡らせ、リリースの瞬間に集中させる。
ボールを放った。
音が遅れてきた。
「820.4メートル」
クラスが完全に固まった。三秒の沈黙の後、一気にざわめきが爆発した。
「な、なんで個性ありとなしでそんなに違うの!!」
「89から820って何が起きてるんだ!!」
「てか爆豪より飛んでるし!!」
「爆豪くんより上じゃん!!」
爆豪が無言でこちらを睨んだ。直哉は無表情のまま列に戻った。
切島が飛んできた。
「禪院!!89から820って何がどうなってんだよ!!」
「個性の精度の問題やって言うとるやろ」
「精度でそんな変わるかよ!!」
「変わるんや。それだけや」
「お前、本当に増強系か?」
「増強系や。何回聞くんや」
切島が「分からん!!」と叫んだ。直哉は肩をすくめた。
全種目が終了した。
相澤が結果を総合して順位を発表した。
一位、禪院直哉。二位、爆豪勝己。三位、飯田天哉。そして最下位は、緑谷出久だった。
緑谷が俯いた。
クラスに緊張が走った。最下位は退学、という言葉が全員の頭に浮かんでいるのが分かった。
相澤が一拍置いてから、淡々と言った。
「最下位の者は除籍処分だと言ったが」
誰もが息を呑んだ。
「そんなルールはない。あれは合理的虚偽だ。」
どっとクラスから息が漏れた。
「よかった……!」麗日が胸を押さえた。
「嘘だったんですか!!」上鳴が仰け反った。
「ひどい……入学初日から心臓に悪い……」芦戸が天を仰いだ。
「相澤先生の言ったことは嘘ですわ。」八百万百が涼やかな声で口を開いた。「常にプレッシャー下での最高のパフォーマンスを引き出すための、合理的な指導方針かと存じます」
クラスがなるほど、という空気になった。
その時、直哉が口を開いた。
「……違うで」
クラスの視線が直哉に集まった。八百万も相澤も、直哉を見た。
「え?」八百万がきょとんとした。「違うとは……?」
「合理的虚偽やないわ、あれ」直哉は腕を組んだまま、静かに続けた。「合理的虚偽っちゅうのは、嘘をつく合理的な理由がある場合に使う言葉やろ。せやけど今回は違う」
「ど、どういうことですか」
「退学処分がないと分かった状態で全力を出す生徒と、退学処分があると思って全力を出す生徒、どっちが本当の実力を出すか。答えは後者やろ。せやから相澤先生は嘘をついた。それは合理的虚偽やけど」直哉は相澤の方を向いた。「それだけやないですよね、先生」
相澤は何も言わなかった。
「退学処分のプレッシャーをかけた上で、誰がそれに動じひんかったかも見とった。数値だけやない、精神的な部分も把握テストに含まれとったんやろ」
クラスが静まり返った。
「……まあ、そういうことだ」
相澤がぼそりと言った。それだけだった。
「ひどい……完全に見透かされてたのか俺たち……」上鳴がへたり込んだ。
「流石に読みすぎじゃない禪院くん?」芦戸が苦笑いした。
「観察しとっただけや」
直哉はそれだけ言って、前を向いた。
相澤が直哉を一瞥した。その目に何が宿っているか、直哉には分からなかった。だが少なくとも、この担任が単純な人間でないことは確かだった。
帰り支度をしていると、爆豪が直哉の横に並んできた。
「おい」
「なんや」
「総合一位ってどういうことだ」
「どういうことって、そうなっただけやろ」
「俺より上ってことだろうが」
「そうやな」
「増強系で俺の爆発より総合が上なわけがねえ。何か隠してんだろ」
「隠してへんわ。増強系や。精度が高いだけやんか」
「……次は負けねえ」
「好きにしろ」
爆豪が舌打ちして前に歩いていった。直哉はその背中を眺めた。
(……あいつも、壁の向こうを目指しとるタイプやな)
爆豪勝己の目の奥にあるもの。それは直哉が前世で何度か見たことがある種類の光だった。悟くんでも甚爾くんでもない。だがその渇望の純粋さは、本物だ。嫌いではなかった。性格は最悪だと思うが。
廊下に出ると、緑谷が教室の前でノートを開きながら立っていた。直哉が通り過ぎようとすると、緑谷が顔を上げた。
「あ、禪院くん。今日の測定、すごかったね。総合一位だもんね」
「お前もな。指先だけに絞ったやろ、ボール投げ」
緑谷が目を丸くした。
「……分かった?」
「見たら分かるわ。個性を消されて素で投げた後、その出力の感覚を活かして指先に絞った。その場で解決策を見つけたんやろ」
「う、うん……でも、まだ全然足りなくて」
「まだ、ってことは伸びるつもりやってことやろ」
「そりゃあ……うん、まだまだ全然足りないから」
直哉は緑谷の目を見た。
この少年の目には、前世で何度か見た光がある。渇望。壁の向こうへ行こうとする意志。それがある種の純粋さと混じり合って、独特の熱量になっている。
「……まあ、頑張れや」
「え?」
「それだけや。行くわ」
直哉はそのまま廊下を歩いていった。背後で緑谷が「う、うん……!」と言った声が聞こえた。
(……気持ち悪いくらい素直なやつやな)
直哉は小さく息を吐きながら、雄英の廊下を歩き続けた。
明日から、本格的に始まる。術式の鍛え直し。この世界の戦場への備え。そして前世では届かなかった高みへの、静かな渇望。
禪院直哉は、今日も変わらず最低最悪のまま、一歩を踏み出していた。
とりあえず追加で供養します。
感想、評価いただけると励みになります。
毎度稚拙な文章で申し訳ございません…
呪術廻戦から直哉以外で原作キャラを登場させますか?(呪術側オリキャラ含めて)
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登場させる
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登場させない
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それよりドブカス(人の心とかないんか?)