【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
AFOとオールマイト、そして直哉…どう動くのか気になりますね
ドブカスの動向が気になるところです。
キャラの語彙などの崩壊、ストーリーなどの崩壊の可能性があります。
ご注意ください。
あなたの感想、評価付与が直哉の投射呪法を加速させます!
第20話:神野区決戦編 「ドナドナと、投資」
夜明けが来た。
山が静かになっていた。
ヴィランの気配は消えている。プッシーキャッツが山の各所を確認して回っている。生徒たちは広場に集められていた。
直哉は広場の端に座っていた。
右腕の痛みは続いている。左腿の傷には応急処置が施されていた。誰かが巻いてくれたらしい。記憶にない。
周囲を見渡した。
クラスメイトたちの顔が、一様に青ざめていた。
怪我をしている者が複数いる。疲弊している者が全員いる。しかし今の青ざめは、怪我や疲労からではない。
爆豪勝己が、いない。
それが全員の顔に出ていた。
「……爆豪が」
切島が膝を抱えて座っている。
「爆豪が、連れていかれた」
誰も何も言えなかった。
緑谷出久は両手で顔を覆っていた。肩が震えている。
直哉はその光景を、端から眺めていた。
(……有象無象が絶望しとる)
感想はそれだけだ。
爆豪が連れていかれた。それは事実だ。しかし今この瞬間、直哉にできることは何もない。ヴィランはすでに逃げた。追う手段もない。呪力は底をついた。右腕は満足に動かない。
(今できることと、今できないことを分けて考えるだけや)
今できること。回復すること。それだけだ。
「……禪院」
切島が顔を上げた。
「お前、なんで平気な顔してんだ」
「平気やない。ただ、泣いても爆豪くんが帰ってくるわけやないやろ」
切島が押し黙った。
「そんな……そんな言い方……」
「事実を言ってるだけや」
緑谷が顔を上げた。目が赤い。
「禪院くん……爆豪くんのこと、どうでもいいの?」
「さっきも切島に言ったけど、どうでもよくはない」
「じゃあ」
「でも今の俺に爆豪くんを取り返す手段がない。だから今は回復することだけ考える。それの何が間違ってる」
緑谷が何かを言いかけて、やめた。
直哉は空を見上げた。
夜明けの光が山を照らしている。
(あーあ)
もう一度だけ、心の中で言った。
(爆殺くん、ドナドナやね。……まぁ、俺が助かったからええわ)
自分が助かったことへの安堵が、確かにある。
それを恥とは思わない。
生き残った者が次に進む。それだけだ。
相澤が全員の前に立った。
「全員、怪我の状態を確認した。重傷者は後送する。残りは今日中に帰宅する」
淡々としていた。
しかしその目が、いつもより暗かった。
「爆豪については、警察とヒーロー協会が対応に当たっている。生徒が単独で動くことは絶対に禁ずる」
誰かが息を飲んだ。
「繰り返す。絶対に禁ずる。分かったか」
返事が揃わなかった。
相澤の視線が、一人一人の顔を確認するように動いた。
直哉と目が合った。
相澤が一秒だけ、直哉を見た。
直哉は視線を逸らさなかった。
(俺が単独行動したことは、恐らくバレとる)
当然だ。相澤はそういう教師だ。
しかし今、相澤は何も言わなかった。
後でいくらでも言える。今は全員を帰すことが優先だ。
(合理的な判断やな)
直哉は相澤の判断を、内心で評価した。
帰りのバスの中。
行きとは全員の様子が違った。
誰も喋らない。窓の外を見ている者。膝を抱えて俯いている者。ただ座っている者。
直哉は後部座席に座り、右腕を庇いながら目を閉じていた。
眠れない。
頭の中が動き続けている。
(今夜起きたことを整理するべきやな)
ヴィラン連合が林間合宿を襲撃した。目的は爆豪と直哉の誘拐。爆豪は連れていかれた。直哉は自力で振り切った。
零駒が完成した。黒閃を二発打った。
そして。
(Mr.コンプレスが言った。「ヴィラン連合は才能に飢えている」)
直哉を勧誘する意図があった。
(的外れやな。俺がヴィランになる理由はない。ヴィランになったところで、俺が強くなれるわけやない)
しかし。
爆豪は連れていかれた。
(原作の知識からすれば、次は神野区での救出劇になる。緑谷くんたちが動く。そしてあそこには……)
直哉は目を開けた。
(オール・フォー・ワンが来る)
確信があった。
原作の流れがそこへ向かっている。あの場所に、この世界で最大級の「怪物」が出る。
(……見ておきたい)
感情ではない。
計算だ。
AFOの力を間近で見ることは、直哉の今後にとって意味がある。この世界の「頂上」がどこにあるかを、自分の目で確かめる。
(それはどれだけ危険でも、価値がある情報や)
それに。
(緑谷くんのOFAも、そこで本気が出る可能性がある)
OFA。受け継ぎの個性。緑谷出久が持つ、前世の直哉には存在しなかった種類の力だ。
(あれがどういうもんか、特等席で見せてもらう)
バスが山を下りていく。
直哉は右腕の痛みを確認しながら、静かに計画を組んでいた。
雄英に戻った翌日。
クラスは謹慎状態に近かった。各自宅で生徒は謹慎している。外出禁止。相澤の指示だ。
直哉は自室で右腕の回復に集中していた。
呪力を使った回復促進。前世から持っている技術だ。骨のひびは三日で塞がる見込みだった。
二日目の夜。
直哉は原作の流れの確認のため、緑谷の病室近くに来ていた。
部屋が近くになるにつれて、何かがおかしかった。
周辺が落ち着かない空気になっていた。
病室の前に来た時、声が聞こえた。
低い声。複数。
(何人か来とるんか……動こうとしとるな)
直哉は足を止めた。
扉の前に立つ。中の声が聞こえる。
緑谷、飯田、轟の声だ。
内容は聞き取れない。しかし空気が分かる。
(爆豪くんを助けに行くつもりや)
直哉は廊下に立ったまま、少し考えた。
相澤の指示は「単独行動禁止」だった。
(俺はすでに一度破ってる。それに今外に出てる時点で今更やな)
それに。
(原作通りなら、ここで動かないと神野区に行けへん)
直哉はノックをした。
声が止んだ。
しばらく間があって、扉が開いた。
緑谷が顔を出した。目が赤い。
「……禪院くん」
「何してるか、だいたい分かっとる」
緑谷が固まった。
「……聞いてたの?」
「廊下を歩いてたら雰囲気で分かった。中に入れてくれへんか」
緑谷が轟と飯田の方を見た。
轟が顎を引いた。
扉が開いた。
病室の中に入った。
飯田が壁際に立っていた。轟が窓の縁に寄りかかっていた。緑谷がベッドの前に立っていた。
三人とも、顔が固い。
「爆豪くんを助けに行くつもりやろ」
直哉は言った。
誰も否定しなかった。
「場所は分かってるんか」
「……ある程度は」
緑谷が答えた。
「ヴィラン連合の拠点が特定されたらしい情報が、ニュースに流れてた。神野区の廃ビルに潜伏してるって」
「相澤先生には言わずに動くつもりか」
「……そうだよ」
飯田が眉を寄せた。
「禪院くん、君は止めに来たのか? それとも」
「付きおうたる」
三人が直哉を見た。
「救出? ええよ、付きおうたる」
直哉は部屋の真ん中に立って、三人を順番に見た。
「俺がおらんと、君ら全滅するやろ?」
「……それ、本気で言ってる?」
轟が静かに訊いた。
「本気や。新技が完成した状態の俺は、三日前より確実に強い。今の君たちに、それを補える戦力はない」
「でも禪院くんの腕、まだ……」
「三日で塞がる。出発はいつや?」
緑谷が轟と飯田を見た。
飯田が少し間を置いた。
「……明後日の夜を考えている」
「なら俺の腕は間に合う」
直哉は腕を組んだ。
(内心)
(……ついでに言えば、神野区にはAFOが来る可能性が高い。あいつの力を間近で見る。デクのOFAがどこまでやれるかも見る。それが俺にとっての本当の目的や)
(表向きの理由は「戦力」でいい。それは事実でもある)
「一つだけ条件がある」
直哉は言った。
「俺は俺のやり方で動く。君たちの指示には従わない。ただし、爆豪くんの救出という目標は共有する。それでええか」
緑谷が少し考えた。
「……分かった」
「もう一つ。俺が何かを見ていても、邪魔するな」
「何かを見る?」
「あの場所で起きることを、俺は全部見たい。それだけや」
緑谷が首を傾けた。
直哉は何も説明しなかった。
「それでいいか」
「……うん」
「よし」
直哉は扉の方に向かった。
「明後日の夜、寮の裏口で落ち合おう。時間は君らが決めてくれ」
扉を開けながら、振り返った。
「一個だけ言っておく」
三人が直哉を見た。
「爆豪くんは生きとる。ヴィランが欲しいのは爆豪くんの個性だ。殺したら意味がない。だから今夜は、ゆっくり寝ときや」
緑谷の目が、少し揺れた。
「……ありがとう、禪院くん」
「礼はいらん」
直哉は廊下に出た。
扉が閉まる。
廊下を歩きながら、直哉は右腕の状態を確認した。
(二日で塞げる。少し急がんとまずいわ)
呪力の回復促進を最大限かける。
(神野区で、見せてもらうさかい)
(AFO。この世界の「怪物」が、どれほどのもんか)
(……ついでにデクのOFAも、な)
直哉は自宅に戻った。
外は静かだった。
嵐の前の静けさだ、と思った。
前世でも、こういう夜があった。
(まぁ、生き残れば全部経験値や)
直哉は布団に入った。
今夜は眠れそうだった。
ついに始まってしまいました、神野区決戦。
オールマイトだの、オール・フォー・ワンだの、世間は大騒ぎしとるみたいやけど……。
「最強? 平和の象徴? ……ふん、勝手に言うとったらええねん。一番速いんが誰か、この僕が分からしたげるわ」
直哉様はどこまでも直哉様です。
この最悪(最高)の舞台で、直哉が何を「選別」するのか。
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