【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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いよいよ節目の一つに近づいてきましたが、動向が読めない直哉はどうするのか…
AFOの力に注目しており、本人は観戦する想定をしていますが果たして…

キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊の可能性があります。
ご注意ください。

評価付与、感想をいただけると直哉が神野原区向けてアップを始めます!


第21話:神野区決戦編 「悪意の磁場」

 

 

夜だった。

 

約束の時間より五分早く、直哉は病院の裏口に着いた。

 

既に三人がいた。

 

緑谷出久。轟焦凍。飯田天哉。

 

全員が私服だ。ヒーローコスチュームではない。コスチュームを持ち出せば足がつく。私服で動く判断は正しい。

 

「来た」

 

緑谷が言った。

 

直哉は三人を一瞥した。

 

全員の顔が固い。覚悟と恐怖が混ざった顔だ。

 

(まぁ、当然か)

 

これは学校の訓練ではない。プロのヴィランが潜伏する場所に、高校生が乗り込む。

 

正気の沙汰ではない。

 

しかし直哉が来た理由は、爆豪の救出だけではない。

 

(原作通りなら、ここにAFOが来る)

 

オール・フォー・ワン。

 

この世界の「頂上」に近い存在のひとつ。

 

(あいつの力を、この目で見る。それが俺の本当の目的や)

 

直哉は右腕を確認した。

 

ひびは塞がっている。動く。問題ない。

 

「出発しよう」

 

飯田が言った。

 

四人は夜の街へ消えた。

 

 

 

廃ビルへの潜入は、思ったより難しくなかった。

 

緑谷の判断が速い。飯田が補佐する。轟が要所を抑える。

 

直哉は後方で状況を俯瞰しながら動いた。

 

(こいつら、連携が取れとるなあ)

 

感情で動いているように見えて、実際の行動は合理的だ。役割分担が自然にできている。

 

(……緑谷くんが引っ張ってる。こういう時に強いやんけ)

 

爆豪の確保まで、時間はかからなかった。

 

脱出の過程でヴィランと交戦した。

 

直哉は必要最小限だけ動いた。零駒を使う場面が二回あった。どちらも一瞬で終わった。

 

ヴィランが「消えた」という顔をした。

 

「禪院くん……やっぱり速い」

 

緑谷が走りながら言った。

 

「当たり前や」

 

「前より違う気がする」

 

「新技が完成した。前とは別物や」

 

緑谷が何かを言いかけた。

 

しかしその瞬間。

 

街全体の空気が変わった。

 

 

 

 

 

直哉の全身の細胞が、一斉に警鐘を鳴らした。

 

前世で何度か感じたことがある感覚だった。

 

特級呪霊に近づいた時の感覚に似ている。

 

しかしそれよりもっと重い。もっと深い。もっと「古い」何かだ。

 

呪霊は「負の感情の塊」だ。しかしこれは違う。

 

これは人間の悪意だ。

 

磨かれて、蓄積されて、何十年もかけて練り上げられた、純粋な「支配の意志」だ。

 

(……いる)

 

街の一角が、暗くなっていた。

 

物理的な暗さではない。

 

存在の「重力」が、そこに集中している。光が吸い込まれていくような感覚がある。

 

「来るな」

 

直哉は言った。

 

全員が直哉を見た。

 

「禪院くん?」

 

「来るな。あれは俺たちの相手できる存在やない」

 

「何が来るんだ」

 

爆豪が言った。

 

「…化け物や」

 

直哉は答えた。

 

その瞬間、空気が爆発した。

 

 

 

それは現れた。

 

「来た」という言葉が正確ではないほど、唐突にそこにいた。

 

オール・フォー・ワン。

 

直哉はその存在を見た瞬間、全身の呪力が沸騰するような感覚を覚えた。

 

前世でも、こういう存在はいた。

 

呪術界の頂点に立つ術師。あるいは特級の呪霊。どちらも、近づくだけで全てを奪っていく「格」を持っていた。

 

しかしこれは、そのどちらとも違った。

 

呪術師でも呪霊でもない。

 

ただ、人間だ。

 

しかしその人間が放つ「圧」は、直哉がこの世界で感じたいかなるものとも比較にならない。

 

(……これが、この世界の怪物か)

 

直哉の空写が反応した。

 

AFOの動きを読もうとした。

 

読めなかった。

 

読めないのではなく、読む前にデータが飽和した。

 

膨大な個性の複合体。一つ一つの個性の「揺らぎ」が多すぎて、空写が処理できない。

 

(空写が、役に立たないやん)

 

初めての感覚だった。

 

術式が、相手の情報量に負けた。

 

「……おや」

 

AFOが言った。

 

低い声だった。威圧的ではない。むしろ穏やかだ。

 

しかしその声が空間に響いた瞬間、周囲の空気が変質した。

 

AFOの視線が、直哉に向いた。

 

「君、面白いね」

 

直哉は動かなかった。

 

「個性はある。でもそれ以外の何かを感じる。個性ではない何か……別の理(ことわり)で動いているのかな?」

 

(……一瞬でバレたか。やっぱり規格外や)

 

直哉の呪力を、AFOは一瞥で察知した。

 

個性ではない力。この世界の「法則」の外側にある力。

 

前世から持ち越した呪力を、AFOは見抜いた。

 

「興味深い。その力、少し見せてもらえるかな」

 

直哉は答えなかった。

 

答える代わりに、投射呪法を起動した。

 

 

 

直哉は動いた。

 

零駒の三段起動。

 

空写でAFOの動きを読む。

 

投射呪法で最短経路を設計する。

 

鏃で呪力を収束させて打ち込む。

 

時間にして〇コンマ数秒。

 

しかし。

 

AFOは微動だにしなかった。

 

直哉の拳が、AFOに届く直前で止まった。

 

何かが、直哉の体を掴んでいた。

 

見えない力だ。

 

空気ではない。磁力でもない。

 

個性の複合だ。複数の個性が組み合わさって、空間そのものを制御している。

 

「速い」

 

AFOが言った。

 

「本当に速い。この世界でも、上位に入る速さだ。その個性?は素晴らしいね」

 

直哉の体が、地面から浮いた。

 

「でも速さだけでは、私には届かないよ」

 

投げられた。

 

地面に叩きつけられた。

 

衝撃が全身を貫く。

 

右腕。塞がったばかりのひびに、また亀裂が入る感覚がした。

 

(っ……!)

 

立ち上がろうとした。

 

起き上がれなかった。

 

膝が地面につく。

 

手が地面につく。

 

(……なんや、これ)

 

零駒が通じなかった。

 

最速の技が、相手に届かなかった。

 

直哉が誇っていた速さが、AFOの前ではただの「速い何か」でしかなかった。

 

(クソ……クソっ!!)

 

内心が、初めて乱れた。

 

(何やこれ、次元が違いすぎる……。黒閃をキメた俺が、俺がこんなに『遅く』感じるなんて……!!)

 

地面に手をついたまま、直哉は歯を食いしばった。

 

「面白い反応だ」

 

AFOが言った。

 

「怒りがある。誇りがある。それは良いことだ」

 

直哉は顔を上げた。

 

AFOを見た。

 

「……君はこれから、どんどん強くなる。その力は本物だ」

 

「うるさい。お前の主観はどうでもええねん。大事なのは俺がどう使うかだけや」

 

「ハハ、素直だね」

 

「……うるさいって言ったやんか」

 

直哉は膝に力を入れた。

 

立ち上がろうとした。

 

再び、見えない力が直哉を押さえつけた。

 

地面に縫い留められる。

 

(動けない……!)

 

投射呪法を起動する。

 

設計を組む。

 

しかし体が動かない。

 

設計だけが頭の中で空回りする。

 

(速さがあっても、体が動かなければ意味がない)

 

呪力を全力で放出する。

 

縛りを破ろうとする。

 

(……呪力が、食われてる)

 

AFOの個性が呪力を吸収している。

 

放出すればするほど、AFOに奪われていく。

 

(詰んだ)

 

合理的な認識だった。

 

今この瞬間、直哉にAFOを倒す手段は存在しない。

 

どう足掻いても届かない。

 

それが分かった。

 

 

 

AFOが手を振った。

 

直哉の体が、また飛んだ。

 

今度は壁に叩きつけられた。

 

コンクリートの壁が、直哉の背中を受け止めた。

 

崩れた壁の破片が落ちてくる。

 

直哉は壁に半分埋まった状態で、意識を繋ぎ止めた。

 

(……立てるか)

 

立てない。

 

右腕が動かない。

 

足に力が入らない。

 

視界が揺れている。

 

(これが……これが「格の差」か)

 

前世でも、格の差というものを理解していた。

 

あっち側の存在と、直哉のような壁の前にいる者の差。

 

特級術師、フィジカルギフテッドなどと聳え立つ壁が存在した。

 

しかし。

 

(あれらと同等、もしくはより上があるかもしれへん)

 

AFOは「格の差」の概念そのものだった。

 

技術の差ではない。

 

個性の差でもない。

 

積み上げてきた「時間」の差だ。

 

何十年も、この世界の頂点に立ち続けた存在の厚みだ。

 

(……俺は今日、最底辺にいる)

 

痛みの中で、それだけがはっきり分かった。

 

瓦礫の中から、直哉は顔を上げた。

 

AFOがいた。

 

緑谷たちがいた。爆豪がいた。ヴィランたちがいた。

 

全員が戦っている。

 

直哉は戦えなかった。

 

動けなかった。

 

(……俺が、動けない)

 

それが何より腹立たしかった。

 

技術が足りないのではない。

 

呪力が足りないのでもない。

 

ただ、「時間」が足りない。

 

(……まだ、俺には時間が足りへん)

 

瓦礫の中で、直哉は拳を握った。

 

右腕が悲鳴を上げた。

 

それでも握った。

 

 

 

轟音が響いた。

 

空気が割れた。

 

直哉は瓦礫の中から、その方向を見た。

 

オールマイトが来た。

 

姿を見た瞬間、直哉は理解した。

 

(あれが、この世界の「象徴」か)

 

前世に「平和の象徴」という概念はなかった。最強の呪術師はいたが、それは「平和」とは結びつかない。

 

しかしオールマイトは違う。

 

あの存在が「来た」というだけで、空気が変わった。

 

緑谷たちの顔が変わった。ヴィランたちの顔が変わった。

 

AFOでさえ、わずかに表情が動いた。

 

(……すごいやんか)

 

直哉は素直にそう思った。

 

力ではない。

 

存在が、その場の全てを変える。

 

それが「平和の象徴」の意味だと、直哉は初めて理解した。

 

AFOとオールマイトが向き合った。

 

直哉は瓦礫の中で、その二人を見ていた。

 

 

 

戦いが始まった。

 

直哉には動けなかった。

 

右腕が動かない。足が動かない。呪力が底をついている。

 

しかし目は動いた。

 

空写を起動した。

 

二人の動きを、全力で読んだ。

 

AFOの個性の組み合わせ。複数の個性を同時に、あるいは連続して使う技術。その「切り替え」の速さ。

 

(……これが、複数個性の扱い方か)

 

前世でも複数の術式を持つ術師はいた。しかし前世の術師と、AFOの個性の扱いは根本的に違う。

 

個性は生まれ持ったものだ。しかしAFOは他者の個性を奪って組み合わせる。その組み合わせの発想が、前世の呪術師の発想とは根本的に異なる。

 

(……面白いやん)

 

痛みの中で、直哉は「観察」していた。

 

オールマイトの動き。

 

ワン・フォー・オール。

 

緑谷が持つ個性の、元の形だ。

 

(純粋な「力の増幅」か。シンプルだが、シンプルゆえに対処が難しい)

 

直哉の空写がオールマイトの動きを追った。

 

速い。

 

直哉の零駒と比べても、遜色ない速さだ。

 

しかしそれ以上に、一撃の「重さ」が違う。

 

(……力の密度が違いすぎる)

 

零駒は速さで相手の動きを起こさせない技だ。

 

しかしオールマイトの技は、速さと力の両方が限界まで引き上げられている。

 

(俺の零駒に、あの「力の密度」が加われば)

 

考えが走った。

 

(反転術式が使えれば、呪力の質が変わる。呪力の質が変われば、鏃の威力が跳ね上がる)

 

まだ手の届かない技術だ。

 

しかし道筋は見えた。

 

AFOの拳とオールマイトの拳が交わった。

 

衝撃波が直哉のいる瓦礫まで届いた。

 

直哉は吹き飛ばされそうになりながら、それでも目を離さなかった。

 

(見る。全部見る)

 

これが今夜、直哉にできる唯一のことだった。

 

 




直哉は必死にできることをしつつ、力に貪欲なためどこまでも観察に徹しましたね…
ドブカス感よりも今回は力への渇望が強く出ていたかもしれません。
新たなる強さへの道筋が見えた直哉ですが、今後にも期待できますね!

AFOと戦って生き残った直哉に賞賛をしたい方は感想や評価付与を与えてあげてください。
うちの直哉であれば「人の心とかあるんか?」ってきっと言ってくださります。

50評価を超えたら、クラス女子の直哉視点での個人批評の番外編ssも書きますので!
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