【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
その姿に直哉は何を思い、感じるのか…
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性があります、
ご注意下さい。
評価付与や感想は直哉の投射呪法が加速します!
動けなかった。
それが今夜の直哉の現実だった。
右腕が動かない。足が言うことを聞かない。呪力は底をついている。瓦礫が上半身を半分埋めている。
しかし目は動いた。
空写を起動し続けた。
呪力の残量が限界に近いのに、それでも空写だけは手放さなかった。
(見る。全部見る)
AFOとオールマイトの戦いが続いている。
衝撃波が届くたびに、直哉のいる瓦礫が揺れた。粉塵が舞う。視界が霞む。
それでも目を離さなかった。
(これが頂点や)
この世界の頂上同士がぶつかっている。
直哉はその「頂上の景色」を、瓦礫の底から見上げていた。
悔しいとは思わなかった。
正確には、悔しさの種類が違った。
負けた悔しさではない。
(まだ届かへん、という事実の確認や)
今の自分には届かない。
それは事実だ。感情を乗せる必要はない。
ただ、事実として刻み込む。
(この景色を、俺は今日ここで見たんや)
遠くで爆豪の声がした。
「放せ! 俺はまだ……!」
飯田が爆豪を押さえている。
(なんだかんだで、爆豪くんは帰ってきたわ)
直哉は口の端を少し動かした。
笑ったわけではない。
しかし、帰ってきたという事実は、悪くなかった。
戦いが激化した。
AFOの個性が複数同時に展開される。
空気が爆発する。地面が抉れる。ビルの外壁が崩れる。
しかしオールマイトは止まらなかった。
吹き飛ばされても、立ち上がる。
腕が折れても、殴り続ける。
血が出ても、笑っていた。
(……オールマイトは、笑っとる)
直哉は目を細めた。
前世に「ヒーロー」という概念はなかった。
呪術師は呪術師だ。強いから戦う。義務があるから戦う。組織に属しているから戦う。
感情で戦う者はいたが、それは例外だった。
しかし。
(オールマイトは、全部が限界を超えてるのに、笑っとる)
笑いながら殴っている。
笑いながら立ち上がっている。
笑いながら、折れた腕でAFOを打ち続けている。
(……なんや、それ)
理解できなかった。
しかし目が離せなかった。
AFOの拳がオールマイトを捉えた。
オールマイトの巨体が吹き飛んだ。コンクリートの柱が砕ける。煙が上がる。
直哉は息を止めた。
煙の中から、オールマイトが立ち上がった。
体が小さくなっていた。
筋肉が落ちている。痩せた体が、煙の中に浮かんでいる。
(……あれが、素の姿か)
ワン・フォー・オールの限界が来ている。
誰の目にも明らかだった。
しかしオールマイトは、その状態で前を向いた。
AFOに向かって、一歩踏み出した。
「……なんや」
直哉は呟いた。
瓦礫の中で、誰にも聞こえない声で。
「なんやそれ」
オールマイトが腕を引いた。
残った全てをその一点に込めるような、予備動作だった。
空写で読んだ。
(……全部、使う気や)
ワン・フォー・オールの残量が、限界まで引き出されていく感覚が空写で分かった。
AFOも読んでいた。
AFOが個性を複数展開した。防御と攻撃を同時に。オールマイトの一撃を止めながら、反撃する構えだ。
(……普通なら届かない)
しかし。
オールマイトの拳が、振られた。
ユナイテッド・ステイツ・オブ・スマッシュ。
衝撃波が神野区全体を揺らした。
直哉のいる瓦礫が、衝撃で吹き飛んだ。
直哉の体が地面を転がった。右腕を庇いながら、止まった。
煙。
静寂。
それから、何かが崩れ落ちる音がした。
直哉は顔を上げた。
煙の中に、AFOが倒れていた。
動かない。
オールマイトが立っていた。
痩せた体で。折れた腕で。限界を超えた状態で。
それでも立っていた。
「……勝ったんか」
直哉は呟いた。
感情ではない。
事実の確認だ。
カメラが集まってきた。
ニュースの映像が回り始めた。
オールマイトが人々に向かって腕を上げた。
しかしその腕は、筋肉のない、痩せた腕だった。
画面の向こうで、何かが変わっていく音がした。
「平和の象徴」の幕が、下りていく音だ。
直哉はその光景を、地面に座ったまま見ていた。
オールマイトが、カメラを向いた。
報道陣が殺到する中で、オールマイトは空を見るような目をした。
そして人差し指を立てた。誰かに向けて。
「次は、君だ」
声が届いた。
緑谷に向けた言葉だと、直哉には分かった。
しかし。
その言葉が、直哉の中でも着地した。
(次)
直哉は右拳を見た。
黒閃の痕が、まだかすかに残っている。
零駒は完成した。
今夜、AFOには届かなかった。
今夜、オールマイトという「天辺」を目撃した。
(次は、俺の番や)
声には出さなかった。
出す必要もなかった。
誰かに向けた言葉ではなく、自分への宣言だからだ。
オールマイトが救急車で運ばれていった。
緑谷が泣いていた。
飯田が爆豪を支えようとして、爆豪に払いのけられていた。
爆豪は誰の手も借りようとしなかった。足がわずかに震えていたが、それを誰にも見せないように歩いていた。
(なんだかんだで帰ってきた、か)
直哉は爆豪の背中を一瞬だけ見た。
連れ去られた時、直哉は動かなかった。呪力が尽きていたから。自分が倒れてでも守る理由がなかったから。
それは今でも、合理的な判断だったと思っている。
しかし。
(帰ってきたのは、あいつ自身の力やな)
爆豪勝己は、ただ連れ去られたわけではなかった。
緑谷たちが助けに来るまで、爆豪はヴィラン連合の勧誘を一人で跳ね除けていた。
(……あいつも、「頂点(あっち側)」を目指してる)
その事実だけは、直哉の中に残った。
轟が黙って立っていた。
直哉は瓦礫の上に座ったまま、それらを眺めていた。
そして頭の中で、今夜得たものを整理し始めた。
得たもの。
零駒の実戦投入に成功した。ヴィランへの有効性を確認した。AFOの個性の動きを空写で記録した。オールマイトとAFOの戦いを最前列で観察した。
反転術式の必要性が、より明確になった。呪力の質を上げなければ、力の密度が足りない。零駒に「力の密度」が加われば、AFOにも届く技になり得る。
失ったもの。
右腕のひびが再発した。呪力が完全に底をついた。
そして。
(きっとプライドが、少し削られたんや)
直哉は口の端を歪めた。
(珍しいな、俺にしては)
AFOに「届かなかった」という事実は、今夜の直哉の中で何かを変えた。
悔しさではない。
正確には、悔しさを通り越した何かだ。
燃料だ。
(あの「時間の積み重ね」を、俺はこれから積んでいく)
AFOは何十年もかけてあの「格」に達した。
直哉には何十年もない。
しかし直哉には、前世の記憶がある。
この世界にない発想がある。
投射呪法はこの世界でも通じた。空写も完成した。零駒も完成した。
次は反転術式だ。
その次は術式反転だ。
その次は極ノ番だ。
その次は、領域展開だ。
(一個ずつ積む。それだけや)
「禪院くん」
声がした。
緑谷が近づいてきた。目が赤い。泣いていた。今も少し、泣きかけている。
「大丈夫? 腕……」
「折れてへん。ひびが再発しただけや」
「それも十分ひどいんだけど……」
緑谷がしゃがんで、直哉の目線に合わせた。
「今夜、来てくれてよかった。禪院くんがいなかったら、途中のヴィランを全員は捌ききれなかったと思う」
「俺が来たのは俺の目的があったからや。礼はいらん」
「それでも」
緑谷が真っ直ぐ直哉を見た。
「かっちゃん、帰ってきたよ」
「見えとる」
「禪院くんが……かっちゃんを止められなかった夜、悔しくなかった?」
直哉は少し黙った。
「悔しくはなかったわ。合理的な判断やったから」
「そっか」
「ただ」
直哉は右拳を見た。
「今夜、AFOに届かなかったのは、悔しい。あれは純粋に、俺の力が足りへんかった」
緑谷が少し驚いた顔をした。
直哉が「悔しい」と言うことが意外だったのだろう。
「……禪院くんでも、悔しいと思うんだね」
「思わん理由がない。俺はあっち側の強さを目指しとる。天辺に届かへん現状が確認されたなら、それは悔しい。感情やなくて、事実の話や」
「事実でも、悔しいって思うじゃないか」
「……まぁな」
直哉は視線を空に向けた。
「オールマイトが勝った」
「うん」
「オールマイトが笑いながら戦えた理由が、俺にはまだ分からん」
「……僕には分かる気がする」
緑谷が言った。
「守りたいものがあるから、じゃないかな」
直哉は緑谷を見た。
「守りたいもの、か」
「禪院くんには、ないの?」
直哉はしばらく黙った。
(守りたいもの)
前世では、なかった。
守るものがあれば弱くなる、という考え方が禪院家には染み付いていた。
この世界でも、直哉は守るものを作らなかった。
しかし。
(……今夜、爆豪くんが帰ってきた時、少し悪くないと思ったのは何やったんや)
答えは出なかった。
「今のところは、ないわ」
直哉は答えた。
「せやけど」
「でも?」
「いつかできるかもしれんな、とは思った。今夜、初めて」
緑谷が少し微笑んだ。
直哉はその顔を一秒見て、視線を外した。
「余計なことを言ったわ。忘れてといてや」
「忘れないよ」
「……」
「禪院くんが言ったこと、僕はちゃんと覚えておく」
直哉は何も言わなかった。
言い返す言葉が、珍しく出てこなかった。
夜が明け始めた。
神野区の空が、灰色から薄い青に変わっていく。
救急車が何台も行き来している。警察が来た。ヒーロー協会の人間が来た。
直哉は瓦礫に腰を下ろしたまま、その全てを眺めていた。
右腕に即席の固定具を巻いてもらった。どこかの救護員が来てくれた。
「動かさないでください」
「分かっとる」
緑谷たちは少し離れた場所で、警察に事情を説明している。
飯田が神妙な顔をしている。謝罪をしているのだろう。
爆豪は腕を組んで、誰の話も聞かないような顔をしていた。
しかし。
直哉は空写で爆豪の呼吸を読んだ。
安定していた。
震えていない。
(爆豪くんは、折れてへん)
ヴィラン連合に連れ去られて、一人でその場を跳ね除けて、それでも折れていない。
(……なるほどなあ)
爆豪勝己が「頂点」(あっち側)を目指しているのは、知っていた。
しかし今夜、直哉はそれを「事実」として確認した。
あいつも、本気だ。
(同じ場所を目指してる人間が、案外近くにいたんやな)
それが何を意味するかは、まだ分からない。
ただ、事実として記録した。
直哉は立ち上がった。
右腕が痛む。足が重い。呪力は空だ。
しかし立った。
夜明けの空を見上げた。
(反転術式。術式反転。極ノ番。領域展開)
積み上げるものは山ほどある。
時間が足りないとは思わない。
速くやればいい。それだけだ。
「見てろよ」
誰にも聞こえない声で言った。
「化け物ども」
一呼吸。
「反転術式も、術式反転も、極ノ番も、領域展開も全部モノにして」
右拳を持ち上げた。
痛みが走った。それでも持ち上げた。
「あっち側の景色、俺が速さで全てを塗り替えたるわ」
夜明けの光が、神野区の瓦礫を照らし始めた。
直哉は歩き出した。
満身創痍で。
前を向いたまま。
負けた気は、一切しないままで。
はい!一区切りとなりました!
直哉が改めて決心をしていますね!直哉には珍しいライバル?の発見もありましたが
決意を新たに、直哉は進んでいくようです!
この姿をかっこいいと思ったら評価付与や感想をいただければ
直哉のイキりが増してドブカスに磨きがかかります!
50評価でのクラス内の女子の直哉批評ss(番外編)
も考えているのでぜひおねがいします。