【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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さあ、afoとofaの決戦になります。
その姿に直哉は何を思い、感じるのか…

キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性があります、
ご注意下さい。

評価付与や感想は直哉の投射呪法が加速します!


第22話:神野区決戦編「頂点(あっち側)の景色」

 

 

動けなかった。

 

それが今夜の直哉の現実だった。

 

右腕が動かない。足が言うことを聞かない。呪力は底をついている。瓦礫が上半身を半分埋めている。

 

しかし目は動いた。

 

空写を起動し続けた。

 

呪力の残量が限界に近いのに、それでも空写だけは手放さなかった。

 

(見る。全部見る)

 

AFOとオールマイトの戦いが続いている。

 

衝撃波が届くたびに、直哉のいる瓦礫が揺れた。粉塵が舞う。視界が霞む。

 

それでも目を離さなかった。

 

(これが頂点や)

 

この世界の頂上同士がぶつかっている。

 

直哉はその「頂上の景色」を、瓦礫の底から見上げていた。

 

悔しいとは思わなかった。

 

正確には、悔しさの種類が違った。

 

負けた悔しさではない。

 

(まだ届かへん、という事実の確認や)

 

今の自分には届かない。

 

それは事実だ。感情を乗せる必要はない。

 

ただ、事実として刻み込む。

 

(この景色を、俺は今日ここで見たんや)

 

遠くで爆豪の声がした。

 

「放せ! 俺はまだ……!」

 

飯田が爆豪を押さえている。

 

(なんだかんだで、爆豪くんは帰ってきたわ)

 

直哉は口の端を少し動かした。

 

笑ったわけではない。

 

しかし、帰ってきたという事実は、悪くなかった。

 

 

 

 

戦いが激化した。

 

AFOの個性が複数同時に展開される。

 

空気が爆発する。地面が抉れる。ビルの外壁が崩れる。

 

しかしオールマイトは止まらなかった。

 

吹き飛ばされても、立ち上がる。

 

腕が折れても、殴り続ける。

 

血が出ても、笑っていた。

 

(……オールマイトは、笑っとる)

 

直哉は目を細めた。

 

前世に「ヒーロー」という概念はなかった。

 

呪術師は呪術師だ。強いから戦う。義務があるから戦う。組織に属しているから戦う。

 

感情で戦う者はいたが、それは例外だった。

 

しかし。

 

(オールマイトは、全部が限界を超えてるのに、笑っとる)

 

笑いながら殴っている。

 

笑いながら立ち上がっている。

 

笑いながら、折れた腕でAFOを打ち続けている。

 

(……なんや、それ)

 

理解できなかった。

 

しかし目が離せなかった。

 

AFOの拳がオールマイトを捉えた。

 

オールマイトの巨体が吹き飛んだ。コンクリートの柱が砕ける。煙が上がる。

 

直哉は息を止めた。

 

煙の中から、オールマイトが立ち上がった。

 

体が小さくなっていた。

 

筋肉が落ちている。痩せた体が、煙の中に浮かんでいる。

 

(……あれが、素の姿か)

 

ワン・フォー・オールの限界が来ている。

 

誰の目にも明らかだった。

 

しかしオールマイトは、その状態で前を向いた。

 

AFOに向かって、一歩踏み出した。

 

「……なんや」

 

直哉は呟いた。

 

瓦礫の中で、誰にも聞こえない声で。

 

「なんやそれ」

 

 

 

 

オールマイトが腕を引いた。

 

残った全てをその一点に込めるような、予備動作だった。

 

空写で読んだ。

 

(……全部、使う気や)

 

ワン・フォー・オールの残量が、限界まで引き出されていく感覚が空写で分かった。

 

AFOも読んでいた。

 

AFOが個性を複数展開した。防御と攻撃を同時に。オールマイトの一撃を止めながら、反撃する構えだ。

 

(……普通なら届かない)

 

しかし。

 

オールマイトの拳が、振られた。

 

ユナイテッド・ステイツ・オブ・スマッシュ。

 

衝撃波が神野区全体を揺らした。

 

直哉のいる瓦礫が、衝撃で吹き飛んだ。

 

直哉の体が地面を転がった。右腕を庇いながら、止まった。

 

煙。

 

静寂。

 

それから、何かが崩れ落ちる音がした。

 

直哉は顔を上げた。

 

煙の中に、AFOが倒れていた。

 

動かない。

 

オールマイトが立っていた。

 

痩せた体で。折れた腕で。限界を超えた状態で。

 

それでも立っていた。

 

「……勝ったんか」

 

直哉は呟いた。

 

感情ではない。

 

事実の確認だ。

 

 

 

カメラが集まってきた。

 

ニュースの映像が回り始めた。

 

オールマイトが人々に向かって腕を上げた。

 

しかしその腕は、筋肉のない、痩せた腕だった。

 

画面の向こうで、何かが変わっていく音がした。

 

「平和の象徴」の幕が、下りていく音だ。

 

直哉はその光景を、地面に座ったまま見ていた。

 

オールマイトが、カメラを向いた。

 

報道陣が殺到する中で、オールマイトは空を見るような目をした。

 

そして人差し指を立てた。誰かに向けて。

 

「次は、君だ」

 

声が届いた。

 

緑谷に向けた言葉だと、直哉には分かった。

 

しかし。

 

その言葉が、直哉の中でも着地した。

 

(次)

 

直哉は右拳を見た。

 

黒閃の痕が、まだかすかに残っている。

 

零駒は完成した。

 

今夜、AFOには届かなかった。

 

今夜、オールマイトという「天辺」を目撃した。

 

(次は、俺の番や)

 

声には出さなかった。

 

出す必要もなかった。

 

誰かに向けた言葉ではなく、自分への宣言だからだ。

 

 

 

 

オールマイトが救急車で運ばれていった。

 

緑谷が泣いていた。

 

飯田が爆豪を支えようとして、爆豪に払いのけられていた。

 

爆豪は誰の手も借りようとしなかった。足がわずかに震えていたが、それを誰にも見せないように歩いていた。

 

(なんだかんだで帰ってきた、か)

 

直哉は爆豪の背中を一瞬だけ見た。

 

連れ去られた時、直哉は動かなかった。呪力が尽きていたから。自分が倒れてでも守る理由がなかったから。

 

それは今でも、合理的な判断だったと思っている。

 

しかし。

 

(帰ってきたのは、あいつ自身の力やな)

 

爆豪勝己は、ただ連れ去られたわけではなかった。

 

緑谷たちが助けに来るまで、爆豪はヴィラン連合の勧誘を一人で跳ね除けていた。

 

(……あいつも、「頂点(あっち側)」を目指してる)

 

その事実だけは、直哉の中に残った。

 

轟が黙って立っていた。

 

直哉は瓦礫の上に座ったまま、それらを眺めていた。

 

そして頭の中で、今夜得たものを整理し始めた。

 

得たもの。

 

零駒の実戦投入に成功した。ヴィランへの有効性を確認した。AFOの個性の動きを空写で記録した。オールマイトとAFOの戦いを最前列で観察した。

 

反転術式の必要性が、より明確になった。呪力の質を上げなければ、力の密度が足りない。零駒に「力の密度」が加われば、AFOにも届く技になり得る。

 

失ったもの。

 

右腕のひびが再発した。呪力が完全に底をついた。

 

そして。

 

(きっとプライドが、少し削られたんや)

 

直哉は口の端を歪めた。

 

(珍しいな、俺にしては)

 

AFOに「届かなかった」という事実は、今夜の直哉の中で何かを変えた。

 

悔しさではない。

 

正確には、悔しさを通り越した何かだ。

 

燃料だ。

 

(あの「時間の積み重ね」を、俺はこれから積んでいく)

 

AFOは何十年もかけてあの「格」に達した。

 

直哉には何十年もない。

 

しかし直哉には、前世の記憶がある。

 

この世界にない発想がある。

 

投射呪法はこの世界でも通じた。空写も完成した。零駒も完成した。

 

次は反転術式だ。

 

その次は術式反転だ。

 

その次は極ノ番だ。

 

その次は、領域展開だ。

 

(一個ずつ積む。それだけや)

 

 

 

「禪院くん」

 

声がした。

 

緑谷が近づいてきた。目が赤い。泣いていた。今も少し、泣きかけている。

 

「大丈夫? 腕……」

 

「折れてへん。ひびが再発しただけや」

 

「それも十分ひどいんだけど……」

 

緑谷がしゃがんで、直哉の目線に合わせた。

 

「今夜、来てくれてよかった。禪院くんがいなかったら、途中のヴィランを全員は捌ききれなかったと思う」

 

「俺が来たのは俺の目的があったからや。礼はいらん」

 

「それでも」

 

緑谷が真っ直ぐ直哉を見た。

 

「かっちゃん、帰ってきたよ」

 

「見えとる」

 

「禪院くんが……かっちゃんを止められなかった夜、悔しくなかった?」

 

直哉は少し黙った。

 

「悔しくはなかったわ。合理的な判断やったから」

 

「そっか」

 

「ただ」

 

直哉は右拳を見た。

 

「今夜、AFOに届かなかったのは、悔しい。あれは純粋に、俺の力が足りへんかった」

 

緑谷が少し驚いた顔をした。

 

直哉が「悔しい」と言うことが意外だったのだろう。

 

「……禪院くんでも、悔しいと思うんだね」

 

「思わん理由がない。俺はあっち側の強さを目指しとる。天辺に届かへん現状が確認されたなら、それは悔しい。感情やなくて、事実の話や」

 

「事実でも、悔しいって思うじゃないか」

 

「……まぁな」

 

直哉は視線を空に向けた。

 

「オールマイトが勝った」

 

「うん」

 

「オールマイトが笑いながら戦えた理由が、俺にはまだ分からん」

 

「……僕には分かる気がする」

 

緑谷が言った。

 

「守りたいものがあるから、じゃないかな」

 

直哉は緑谷を見た。

 

「守りたいもの、か」

 

「禪院くんには、ないの?」

 

直哉はしばらく黙った。

 

(守りたいもの)

 

前世では、なかった。

 

守るものがあれば弱くなる、という考え方が禪院家には染み付いていた。

 

この世界でも、直哉は守るものを作らなかった。

 

しかし。

 

(……今夜、爆豪くんが帰ってきた時、少し悪くないと思ったのは何やったんや)

 

答えは出なかった。

 

「今のところは、ないわ」

 

直哉は答えた。

 

「せやけど」

 

「でも?」

 

「いつかできるかもしれんな、とは思った。今夜、初めて」

 

緑谷が少し微笑んだ。

 

直哉はその顔を一秒見て、視線を外した。

 

「余計なことを言ったわ。忘れてといてや」

 

「忘れないよ」

 

「……」

 

「禪院くんが言ったこと、僕はちゃんと覚えておく」

 

直哉は何も言わなかった。

 

言い返す言葉が、珍しく出てこなかった。

 

 

 

夜が明け始めた。

 

神野区の空が、灰色から薄い青に変わっていく。

 

救急車が何台も行き来している。警察が来た。ヒーロー協会の人間が来た。

 

直哉は瓦礫に腰を下ろしたまま、その全てを眺めていた。

 

右腕に即席の固定具を巻いてもらった。どこかの救護員が来てくれた。

 

「動かさないでください」

 

「分かっとる」

 

緑谷たちは少し離れた場所で、警察に事情を説明している。

 

飯田が神妙な顔をしている。謝罪をしているのだろう。

 

爆豪は腕を組んで、誰の話も聞かないような顔をしていた。

 

しかし。

 

直哉は空写で爆豪の呼吸を読んだ。

 

安定していた。

 

震えていない。

 

(爆豪くんは、折れてへん)

 

ヴィラン連合に連れ去られて、一人でその場を跳ね除けて、それでも折れていない。

 

(……なるほどなあ)

 

爆豪勝己が「頂点」(あっち側)を目指しているのは、知っていた。

 

しかし今夜、直哉はそれを「事実」として確認した。

 

あいつも、本気だ。

 

(同じ場所を目指してる人間が、案外近くにいたんやな)

 

それが何を意味するかは、まだ分からない。

 

ただ、事実として記録した。

 

直哉は立ち上がった。

 

右腕が痛む。足が重い。呪力は空だ。

 

しかし立った。

 

夜明けの空を見上げた。

 

(反転術式。術式反転。極ノ番。領域展開)

 

積み上げるものは山ほどある。

 

時間が足りないとは思わない。

 

速くやればいい。それだけだ。

 

「見てろよ」

 

誰にも聞こえない声で言った。

 

「化け物ども」

 

一呼吸。

 

「反転術式も、術式反転も、極ノ番も、領域展開も全部モノにして」

 

右拳を持ち上げた。

 

痛みが走った。それでも持ち上げた。

 

「あっち側の景色、俺が速さで全てを塗り替えたるわ」

 

夜明けの光が、神野区の瓦礫を照らし始めた。

 

直哉は歩き出した。

 

満身創痍で。

 

前を向いたまま。

 

負けた気は、一切しないままで。

 

 




はい!一区切りとなりました!
直哉が改めて決心をしていますね!直哉には珍しいライバル?の発見もありましたが
決意を新たに、直哉は進んでいくようです!
この姿をかっこいいと思ったら評価付与や感想をいただければ
直哉のイキりが増してドブカスに磨きがかかります!

50評価でのクラス内の女子の直哉批評ss(番外編)
も考えているのでぜひおねがいします。
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