【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

23 / 105
いよいよ仮免が近くなってきました今話。
更なる高みへと直哉は上がっていく…のかもしれません。
今回の話でより成長するきっかけを掴むかもですね!

キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能かがあります。
ご注意ください。

感想や評価付与は直哉の力をより高みへと押し上げます。
50評価を超えらと直哉のクラスメイト女子への批評(番外編)を制作するとかなんとか…


仮免試験編
第23話:夏休み後半編「前世の技」


 

 

 夏休み後半。

 

 雄英の補講期間が始まった。

 

 神野区での無断行動が発覚した結果、無断で動いた者は例外なく補講対象になった。直哉も例外ではなかった。

 

 補講の内容は「ヒーロー基礎学の追加課題と実技訓練」だ。

 

 要するに、夏休みの大半が潰れた。

 

 「ドブカス野郎。てめえも来てんのかよ」

 

 初日の朝、補講用の教室に入ると、爆豪が壁際に座っていた。

 

 (爆豪くんも補講かいな)

 

 神野区での件で、爆豪も呼ばれたらしい。

 

 「補講やから来とる。他に理由があるんか?」

 

 「ハァ、そうかよ」

 

 爆豪は直哉を一瞥してから、窓の外に視線を戻した。

 

 それだけだった。

 

 普段の爆豪なら、そこに何かしら刺々しい言葉が続くはずだった。

 

 (少し、変わっとるやん)

 

 直哉は爆豪から離れた席を選んで座った。

 

 「爆豪くん。補講とは災難やったな」

 

 「うるせえ」

 

 「ヴィランに拐われて補講まで食らうとは、ご苦労なことや」

 

 「あ? 俺が望んで拐われたと思ってんのか」

 

 「思ってへん。ただ、散々やなと思て」

 

 爆豪がこちらを向いた。

 

 怒鳴り返してくると思った。

 

 しかし爆豪は少し間を置いた後、短く言った。

 

 「……お前も来てたんやろが、神野区」

 

 「せやね」

 

 「なんで来た」

 

 「俺の目的があったからや」

 

 「目的って何だよ」

 

 「見たいものがあった。それだけや」

 

 爆豪が直哉を見た。

 

 じっと見た。

 

 「……お前、あの場で動けなかっただろ」

 

 「動けへんかった。力が底をついてたわ」

 

 「だから俺を止められなかったんか」

 

 「そうや」

 

 直哉は爆豪の目を見た。

 

 「止められへんかったことを、謝る気はない。あの状況での俺の判断は合理的やった。ただ、力が足りへんかったのは事実や」

 

 爆豪がしばらく直哉を見ていた。

 

 普段の爆豪なら「言い訳すんな」と怒鳴っているところだ。

 

 しかし爆豪は。

 

 「……まぁ、いい」

 

 それだけ言って、また窓の外を向いた。

 

 直哉は少し意外だった。

 

 (神野区で何か変わったんか?…あいつも。)

 

 連れ去られて、一人でヴィランの勧誘を跳ね除けて、救出されて。

 

 爆豪勝己がそれを経てどう変わったのかは、直哉には分からない。

 

 ただ、今朝の爆豪は、わずかに違った。

 

 

 

 補講は三日間続いた。

 

 内容は予習課題の提出と実技の再確認だ。

 

 相澤が担当教師として来た。相澤はいつも通り淡々としていた。

 

 「お前たちが無断で動いたことの是非は、今更言わない。ただ、次に同じことをすれば即除籍だ。それだけ覚えておけ」

 

 飯田が「肝に銘じます」と頭を下げた。

 

 緑谷が神妙な顔をしていた。

 

 直哉は聞いていたが、何も言わなかった。

 

 次に同じ状況になれば、また同じ判断をする。それは変わらない。ただ、それを口に出す必要もない。

 

 実技の時間、直哉は右腕を庇いながら動いた。

 

 ひびの再発は、まだ完全には塞がっていない。七割の回復だ。全力では使えない。

 

 (これが今の限界か。)

 

 投射呪法を軽く起動した。

 

 三重ねで止めた。右腕への負担を考えて。

 

 (零駒は使えへん。右腕が使えないと、鏃が打てへん。)

 

 零駒の三段目、鏃は一点の先端への呪力集中が前提だ。

 

 左手でも呪力集中はできる。しかし精度が落ちる。

 

 (利き手の問題でもある。右腕が使えへん間は、零駒は封印や。)

 

 制限がある。

 

 しかし制限がある状態での訓練には、別の価値がある。

 

 (制限された状態で何ができるか探る。それが次の術式への道になるかもしれへん。)

 

 直哉は右腕を庇いながら、左腕だけで投射呪法の設計を組んだ。

 

 精度が下がる。速度が下がる。

 

 (悪くない課題やな。)

 

 制限の中で動くことが、新しい発想を生む。

 

 前世でもそうだった。

 

 

 

 

 補講二日目の昼休み。

 

 食堂ではなく、直哉は廊下の端で壁に背を預けて昼食を取っていた。

 

 人が多い場所は好まない。

 

 「何ここで食ってんだ」

 

 爆豪が通りかかった。

 

 「人が少ないさかい」

 

 「社交性ゼロか」

 

 「必要としてへんから」

 

 爆豪が立ち止まった。

 

 「……お前、その腕どうした」

 

 「林間合宿でひびが入って、神野区で再発したんや」

 

 「まだ治ってないのか」

 

 「七割や。あと数日で塞がる」

 

 爆豪が直哉の右腕を見た。

 

 「そのひびが入ったのって、あの脳無相手の時か」

 

 「そうや。USJの時より改造されていた奴の一撃の余波を受けたわ」

 

 「お前、あの脳無を一人でやったのか」

 

 「やった。新技の零駒で仕留めたさかい」

 

 爆豪が少し黙った。

 

 「……零駒って何だ」

 

 直哉は爆豪を見た。

 

 「俺の新技や。空写っていう相手の動きを読んで、投射強化で位置取りして、鏃で打ち込む三段技や。零駒で終わらせる、という意味の名前や」

 

 「…そうかよ」

 

 素っ気ない返事だった。

 

 しかし爆豪は去らなかった。

 

 「お前、神野区でAFOに吹き飛ばされてたな」

 

 「吹き飛ばされた。零駒が通じへんかった」

 

 「なんで通じなかった」

 

 「個性の情報量が多すぎて、空写が処理できへんかった。それと、力の密度が足りへんかった」

 

 「力の密度?」

 

 「速さはある。でも一発の威力がAFOの防御を貫けへんかった。一発の質を上げないといけへん」

 

 爆豪がしばらく直哉を見た。

 

 「お前って、負けを普通に分析するんだな」

 

 「負けを分析せんと、次に勝てへん」

 

 「……確かにな」

 

 短い返事だった。

 

 しかしそれは、爆豪が直哉の言葉を「そうだな」と認めた、ということだった。

 

 (やっぱり、少し変わっとるわ。)

 

 直哉は昼食の残りを食べながら、そう思った。

 

 「爆豪くん」

 

 「あ?」

 

 「ヴィランに拐われて、勧誘を跳ね除けて、帰ってきた。それは素直にすごいと思うわ」

 

 爆豪が直哉を見た。

 

 「……急に何だ」

 

 「言いたかっただけや。お世辞でも同情でもない。事実の話や」

 

 爆豪がしばらく直哉を見ていた。

 

 それから短く言った。

 

 「……お前も、AFOに吹き飛ばされながら最後まで見てたんだろ」

 

 「せやね」

 

 「それも、てめえらしいな」

 

 爆豪は歩いていった。

 

 直哉は壁に背を預けたまま、その背中を見た。

 

 (「…お前らしい」か。)

 

 爆豪に評価された、ということになるのか。

 

 よく分からなかったが、悪い気はしなかった。

 

 

 

 

 補講が終わった夜。

 

 直哉は寮の部屋で、天井を見ていた。

 

 右腕は八割まで回復していた。

 

 (そろそろ零駒が使える。)

 

 零駒は完成した。実戦で機能することを確認した。

 

 しかし。

 

 (AFOには届かへんかった。)

 

 その事実が、頭の中に残っていた。

 

 零駒の問題点は二つだ。

 

 一つ目。空写の精度の限界。意志のない相手には精度が下がる。AFOのような「情報量が多すぎる」相手には処理が追いつかない。

 

 二つ目。力の密度の不足。速さはある。しかし一発の呪力の質が、AFOの防御を貫くには足りなかった。

 

 二つ目の問題解決には、反転術式の習得が必要だ。それは分かっている。しかし反転術式は、呪力の質そのものを変える技術だ。すぐには身につかない。

 

 (一つ目の問題は、どうするかや)

 

 空写の精度は上げ続けている。しかし限界がある。

 

 空写は「相手の動きを読む」拡張術式だ。相手が「動き」を持たない場合、読めない。

 

 (遠距離攻撃がそれにあたるわ)

 

 スナイプ先生の銃撃。

 

 あるいはAFOの広域破壊。

 

 飛んでくる「何か」を、直哉は読めない。

 

 正確には、読めないことはない。しかし弾丸のような速度のものを空写で追って、投射呪法で回避する。その処理速度が間に合わない場面がある。

 

 (そこや)

 

 遠距離攻撃への対応。

 

 零駒は「接近して打ち込む」技術だ。しかし敵が遠距離から攻撃してくる場合、接近する前にやられる。

 

 (それを解決する新技が必要や…)

 

 直哉は天井を見たまま、考え続けた。

 

 

 

 

 

 考えながら、直哉の意識が沈んでいった。

 

 眠りの手前の、半覚醒状態。

 

 そこに、記憶が来た。

 

 前世の記憶だ。

 

 禪院家の修練場。

 

 まだ若い頃の直哉が、先達に稽古をつけてもらっていた。

 

 「投射呪法は完成した。だが速さだけでは死ぬ。なぜか分かるか」

 

 先達の声が記憶に響く。

 

 「遠間から打ってくる相手には、速さは意味を持たない。近づく前に殺される」

 

 (そうや。あの頃から同じ課題があった。)

 

 「禪院の術式には、防御の概念がない。全て攻撃に特化している。それが強さでもあり、弱さでもある」

 

 記憶の中で、直哉は答えを持っていなかった。

 

 「お前に教えられることはない。お前自身が答えを見つけるしかない」

 

 その言葉の後。

 

 修練の中で、直哉は何かを掴んだ記憶があった。

 

 しかし何を掴んだのか、詳細が霞んでいた。

 

 (何やったんや。あの時。)

 

 記憶を辿る。

 

 修練場。先達の攻撃。遠間からの打撃。

 

 それを受けた時の感覚。

 

 (受けた?)

 

 直哉は眉を寄せた。

 

 (俺は「受けた」のか。)

 

 投射呪法は攻撃術式だ。防御には使えない。

 

 しかし記憶の中の直哉は、「受けた」のだ。

 

 どうやって。

 

 (違う。受けたんやない。「流した」んや。)

 

 記憶が少しだけ鮮明になった。

 

 先達の攻撃が来た瞬間。

 

 直哉は何もしなかった。

 

 しかし攻撃が「落ちた」のだ。

 

 直哉の体に触れる直前で、何かに弾かれるように。

 

 (あれは何やったんや。)

 

 有英体育祭でも思い返していた名前を思い出した。

 

 「落花の情」

 

 呼吸するように、名前が出てきた。

 

 落花の情。

 

 前世で直哉が術式以外で持っていた、もう一つの技。簡易領域だ。

 

 

 

 

 

 直哉は起き上がった。

 

 眠気が消えていた。

 

 (落花の情)

 

 思い出した。

 

 落花の情は、個性(前世は呪力)の攻撃をオートで自動防御する術式だ。

 

 発動条件は「呪力を皮膚の外側に薄く展開すること」だ。外側に展開された呪力が、外部からの「術式的な攻撃」を自動的に感知して弾く。

 

 人間が意識的に操作するのではなく、システムとして機能する。

 

 しかし。

 

 (欠点があるわ)

 

 発動中は生得術式が使えなくなる。

 

 投射呪法が使えない。空写が使えない。鏃が使えない。

 

 つまり落花の情を展開している間、直哉は攻撃ができない。

 

 完全な防御専用の術式だ。

 

 (せやけど)

 

 直哉は考えた。

 

 (遠距離攻撃を封殺できるなら、接近するまでの時間を稼げる。接近できれば零駒が使える。落花の情→解除→零駒という流れが作れる。)

 

 攻守の切り替え。

 

 防御から攻撃への転換。

 

 (それが成立するなら、俺の弱点の一つが消えるや)

 

 直哉は右手に呪力を集めた。

 

 皮膚の外側に薄く展開する。

 

 (感覚はある)

 

 あった。

 

 かすかに、あった。

 

 前世で使っていた感覚が、この体に残っている。

 

 しかしすぐに消えた。

 

 維持できない。

 

 (まだ薄い。この感覚を安定させる必要があるわ)

 

 直哉は何度も繰り返した。

 

 呪力を外側に展開する。

 

 一秒で消える。

 

 また展開する。

 

 また消える。

 

 (訓練が必要や。一人ではどこまで機能するか確認できへん。実際に攻撃を受けてみないと、これが機能するかどうか分からへん。)

 

 直哉は部屋の中で立ち上がった。

 

 (誰かに攻撃してもらう必要があるわ)

 

 条件がある。

 

 遠距離からの攻撃であること。

 

 術式的な性質を持つ攻撃であること。

 

 連続して攻撃し続けてくれる相手であること。

 

 (スナイプ先生やな)

 

 スナイプの個性は銃撃形に相性の良い個性、銃弾を遠距離から連続で撃つことができる。

 

 しかも。

 

 (スナイプ先生の個性は「HOMING」や。弾丸に呪力的な性質に近い「誘導」の効果がある。)

 

 あの個性の弾丸は、ただの物理的な弾ではない。術式的な干渉と同種の「意志のある攻撃」に近い。

 

 落花の情のテスト相手として、これ以上の適任はいない。

 

 (直談判せな)

 

 直哉は時計を見た。

 

 深夜二時だった。

 

 (明日の朝、職員室に行くか…)

 

 直哉は布団に入った。

 

 今夜は眠れそうだった。

 

 次の一手が見えている夜は、いつも眠れる。

 

 

 

 

 翌朝。

 

 直哉は職員室に向かった。

 

 スナイプ先生は朝から来ていた。デスクに座って書類を見ている。マスクとコートは職員室でも外さない。

 

 「スナイプ先生」

 

 スナイプが顔を上げた。

 

 「禪院か。どうした」

 

 「お願いがあるんですわ」

 

 「聞こう」

 

 直哉は簡潔に説明した。

 

 落花の情という新技を習得しようとしていること。主に遠距離からの個性の攻撃を封殺する術式であること。発動中は個性での攻撃ができないこと。

 

 「テストのために、実際に攻撃を受ける必要があるんです。スナイプ先生のホーミングが条件に合致するさかい。訓練に付き合ってもらえまへんか?」

 

 スナイプが少し沈黙した。

 

 「……生徒に本気で銃撃を加えることになるが」

 

 「構わへん。それが必要や」

 

 「痛いぞ」

 

 「知っとります」

 

 「怪我するかもしれん」

 

 「する前提で来とるさかい」

 

 スナイプがマスクの下で何かを考えている気配がした。

 

 「……落花の情、というのは」

 

 「投射強化の応用の技ですわ。まだ不安定で、実際に攻撃を受けないと精度が確認できへん」

 

※簡易領域の説明を省くため誤魔化し

 

 スナイプが少し間を置いた。

 

 「……個性の枠に収まらない動きをするな」

 

 「まぁ、そういう個性ですわ」

 

 スナイプが立ち上がった。

 

 「分かった。今日の放課後、訓練場を使う。来い」

 

 「おおきに

 

 「礼は完成してから言え」

 

 直哉は頷いた。

 

 踵を返しながら、内心で呟いた。

 

 (完成させる。それだけや。)

 

-




直哉の前世の記憶は時々あいがかかったように霞がかかり思い出せなくなったり、思い出したりします。前世持ちが転生した影響ですかね…?

評価50超えで直哉がクラスメイトの女子を個人的に批評する(番外編)を作成するかもしれません…? 気になる人は是非評価付与、感想をよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。