【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
という回になります!
キャラの語彙崩壊、ストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意ください。
評価付与、感想は直哉の投射呪法に磨きがかかひます!
放課後。
訓練場Bに来た。
スナイプ既に待っていた。コートを羽織り、腰のホルスターに銃を収めている。いつも通りの姿だ。しかし今日は教師としてではなく、「撃つ側」として立っている。
その空気が、微妙に違った。
「来たか」
「来たわ」
直哉は訓練場の中央に立った。
スナイプが反対側の端に移動した。距離にして三十メートル。
「確認する。お前の落花の情は、今の時点でどこまで機能する?」
「展開はできとります。ただし一秒で消える。それ以上維持できへん」
「一秒か」
「今の限界や。維持時間を延ばしながら、実際に弾を受けて感覚を掴む予定ですわ」
「弾は訓練用のゴム弾だ。ただし俺のホーミングが乗った弾は、当たれば相当痛い。骨折の可能性もある」
「分かっとります」
「始めるぞ」
スナイプが銃を構えた。
直哉は呼吸を整えた。
呪力を外側に向けて薄く展開する。
皮膚の一ミリ外側に、呪力の膜を張る感覚だ。
(来いや)
銃声が響いた。
弾が来た。
直哉は何もしなかった。
弾が直哉の肩に当たった。
痛みが走った。
落花の情は発動しなかった。
「……展開できてへんかったか」
直哉は肩を確認した。ゴム弾だが、ホーミングが乗っているせいで衝撃が重い。打撲だ。骨は無事だ。
「もう一度撃つぞ」
「来いや」
銃声。
弾が来た。
直哉は呪力を外側に展開した。
当たった。
また痛みが走った。
落花の情は発動しなかった。
(タイミングが合わへん)
弾が来る前に展開しておかないといけない。しかし展開が一秒しか持たない。弾が来るタイミングを予測して、その瞬間に合わせて展開する必要がある。
(空写と組み合わせたるわ)
スナイプの銃口の動きを空写で読む。銃口が向いた瞬間、落花の情を展開する。
しかし。
(落花の情の発動中は生得術式が使えへん)
空写は生得術式だ。落花の情を展開した瞬間、空写が消える。
空写で読んでから展開する。その「切り替え」の一瞬のタイミングを作る必要がある。
(直前まで空写で読んで、弾が来る瞬間に展開に切り替える)
理論は分かる。
しかし実行できるかどうかは別の話だ。
「もう一度頼みますわ」
十分が経った。
直哉は七発受けていた。
右肩、左肩、腹部、左腿、右腿。
全身に打撲が蓄積していた。
落花の情は、まだ一度も機能していなかった。
スナイプが一度銃を下ろした。
「休憩するか」
「要らへん」
「強がりじゃないのか」
「強がりやない。まだ分析中や」
「分析?」
「七発受けた。全部タイミングが合わへんかった。原因は空写から落花の情への切り替えが遅いことや。あと〇コンマ二秒早く切り替えれば届く気がするわ」
スナイプがしばらく直哉を見た。
「……お前、打たれながら分析してたのか」
「当たり前や。痛みに構ってる余裕はない」
スナイプが何かを言いかけて、やめた。
「続けるぞ」
「よろしゅう」
銃声。
今度は直哉が先に動いた。
空写でスナイプの銃口を読む。
銃口が向いた瞬間。
切り替える。
落花の情を展開する。
弾が来た。
直哉の皮膚の手前で、何かが弾けた。
弾が、逸れた。
声が出そうになったのを抑えた。
弾は当たらなかった。
完全な防御ではない。弾の軌道がわずかに逸れただけだ。しかし確かに、落花の情が機能した。
「今のは」
スナイプの声が変わった。
「機能したわ。弾が逸れたんや」
「そうか。では続けろ」
「分かっとります」
しかし次の十発は、また全て当たった。
一度機能した感覚を再現しようとすると、どうしても「再現しよう」という意識が邪魔をする。
空写で読む。切り替える。展開する。
その三つの間に、ほんの僅かな「考える時間」が入る。
その僅かな時間が、全てを台無しにする。
弾は、考える間を待ってくれない。
(考えたら遅いわ。間に合わへん)
直哉は十発目が右腹部に直撃した痛みの中で、それを悟った。
(考えてから動くんやない。動きながら考えるんやない。感じた瞬間に、もう終わってないといけへん。)
前世の落花の情は、そういう術式だった。
「感知」と「展開」の間に、意識的な処理が入らない。外部からの術式(個性)的な攻撃を感知した瞬間、自動的に展開が始まる。
(オートや。俺が動かすんやない。簡易領域が勝手に動く状態を作る。)
投射呪法は「俺が設計して動かす」術式だ。
落花の情は「俺が設計しない。感知したら仕組みで動く」技だ。
根本的に、発動の構造が違う。
(そういうことか。だから前世でも、あれは「持っていた」というより「身についていた」という感覚やったんや。)
スナイプが近づいてきた。
「どうした?考え込んでそうたが…」
「理解したわ。やり方が違かったんや」
「どう違う?」
「俺は落花の情を『動かそう』としてたんです。でも落花の情は、俺が動かすものやない。技の仕組み自体が勝手に動く状態を作るものや」
スナイプがしばらく黙った。
「……それは、どうやって」
「個性を外側に張り続ける。ただそれだけをする。索敵も位置取りも全部止めて、外側に張るだけにします。その状態で、攻撃が来たら個性に任せる。」
「意識しないということか」
「意識しすぎないということや。感知は個性がする。俺は張り続けるだけでいいわ」
スナイプが元の位置に戻った。
「やってみろ」
「ええ」
直哉は目を閉じた。
投射呪法を止めた。
空写を止めた。
全ての「動かそうとする意識」を止めた。
ただ、呪力を外側に張る。
薄く。均一に。全方向に。
呼吸するように。
(来いや)
銃声が響いた。
直哉は何もしなかった。
何もしなかった、というのは正確ではない。
弾が来た瞬間、何かが反応した。
直哉が「した」のではない。
簡易領域が「した」のだ。
皮膚の外側に張っていた呪力が、弾の軌道に向けて密度を上げた。
弾が、逸れた。
今度は完全に逸れた。
弾は直哉の横三十センチを通り過ぎた。
(機能したやん)
直哉は目を閉じたままだった。
もう一発来た。
また術式が反応した。
逸れた。
もう一発。
逸れた。
連続三発。全部逸れた。
直哉は目を開けた。
スナイプが銃を下ろしていた。
「……できたな」
「できましたわ」
「三発連続だ。偶然ではないな」
「せやね。個性が動いてる感覚がしとります」
スナイプが直哉に向かって歩いてきた。
「もう一度聞く。発動中は他の個性が使えないか?」
「使えへん。落花の情を展開しとる間、俺は攻撃ができひん」
「切り替えの速さは?」
「まだ遅い。落花の情から零駒への切り替えに、今は一秒かかる。実戦では長すぎる間や」
「どこまで縮められる?」
「〇コンマ五秒以下が目標ですわ。できれば〇コンマ三秒」
スナイプがしばらく考えた。
「続けるぞ。今度は連続射撃だ。俺が撃ち続ける中で、どこかで切り替えて攻撃に移れ。的はあそこのターゲットだ」
「分かりました。よろしゅう」
「怪我しても知らんぞ」
「最初からそういう条件さかい」
スナイプが元の位置に戻った。
直哉は正面を向いた。
落花の情を張る。
全方向に、薄く、均一に。
(来いや)
連続射撃が始まった。
スナイプのホーミングが乗った弾が、次々と飛んでくる。
落花の情が反応する。
一発目、逸れた。
二発目、逸れた。
三発目、逸れた。
四発目。
直哉は落花の情を解除した。
同時に投射呪法を起動した。
五重ねの設計を組む。
空写でターゲットの位置を確認する。
鏃を右手に収束する。
しかし。
五発目の弾が来た。
落花の情が消えている。
弾が直哉の左肩を直撃した。
衝撃で体が揺れた。
設計が乱れた。
零駒に移れなかった。
(っ……!)
直哉は舌打ちした。
切り替えに一秒かかる。その一秒の間、直哉は完全に無防備だ。
(落花の情を解除してから零駒に入るまでの一秒が、致命的なタイムラグや)
「もう一発撃つぞ」
「来いや!」
連続射撃。
落花の情が反応する。
三発を防いだ。
四発目が来る前に、直哉は落花の情を解除した。
同時に、ではない。
落花の情を解除する瞬間に、既に投射呪法の「起動の意志」を用意しておく。
落花の情が消えた瞬間に投射呪法が動く。
その切り替えを、「同時」に近づける。
四発目が来た。
直哉の左腕を掠めた。
完全には防げなかった。しかし直撃ではなかった。
同時に投射呪法が起動していた。
設計が走る。
零駒の三段起動。
空写でターゲットを読む。投射呪法で最短経路を設計する。鏃を右手に収束する。
直哉の体が動いた。
ターゲットの前に、コンマ数秒で到達した。
右拳がターゲットに当たった。
ターゲットが吹き飛んだ。
静寂。
スナイプが銃を下ろした。
「……切り替えができたな」
「できましたわ。まだ掠られたけど」
「〇コンマ何秒だ?」
「〇コンマ七秒、くらいや。まだ遅い」
「だが繋がった」
「せやね」
直哉は右拳を確認した。
痛みはある。全身に打撲が蓄積している。しかし骨は無事だ。
(落花の情→解除→零駒。この流れが機能しとる)
繋がった。
あとは精度と速度を上げるだけだ。
それから一時間。
直哉とスナイプは訓練を続けた。
スナイプは一切手加減しなかった。
連続射撃。角度を変えた射撃。予測しにくいタイミングの射撃。
直哉は落花の情で防ぎながら、切り替えのタイミングを削り続けた。
〇コンマ七秒。
〇コンマ六秒。
〇コンマ五秒。
〇コンマ四秒。
そして。
直哉は落花の情を展開したまま、スナイプの連続射撃を六発防いだ。
七発目が来る直前。
落花の情を解除した。
ゼロコンマの世界で、投射呪法が起動した。
落花の情の「外側への呪力展開」が消えるのと、投射呪法の「設計の起動」が走るのが、ほぼ同時だった。
七発目の弾が来た。
直哉の体が既に動いていた。
弾は直哉がいた場所を通り過ぎた。
空写でターゲットを読む。
鏃を右手に収束する。
設計が完成する。
零駒。
直哉の右拳がターゲットを貫いた。
ターゲットが、根元から吹き飛んだ。
(〇コンマ三秒を切っとる)
体の感覚で分かった。
切り替えが、〇コンマ三秒以下になった。
直哉は立ったまま、ターゲットが吹き飛んだ先を見た。
スナイプが銃を下ろした。
長い沈黙があった。
「……完成したか」
スナイプの声が、いつもより低かった。
「ええ。完成しましたわ」
「落花の情、零駒への切り替え。どちらも機能した」
「そうやわ」
「今の切り替えは?」
「〇コンマ三秒を切った。実戦水準や」
スナイプがゆっくり近づいてきた。
直哉の前に立った。
「お前は今日、何発銃弾を受けた?」
「数えてへん」
「俺は数えていた。二十三発だ」
直哉は少し考えた。
「…そんなに受けたんか」
「全部打撲で済んでいるのは、お前の体が丈夫なのか、運がいいのか、どちらだ?」
「前者や。打撲の一つや二つで止まらん鍛え方をしとります」
スナイプがマスクの下で何かを言いかけた。
言わなかった。
代わりに言った。
「完成したんだな。おめでとう」
直哉は一瞬だけ間を置いた。
「……おおきに、スナイプ先生」
「お前が礼を言うのは珍しいな」
「言う時には言いますわ」
「そうか」
スナイプが踵を返した。
「明日から二学期だ。ちゃんと来い」
「分かっとります」
スナイプが訓練場を出ていった。
直哉は一人になった。
訓練場の中央に立ったまま、吹き飛んだターゲットの残骸を見た。
全身が痛い。
二十三発分の打撲が、今になって主張を始めている。
(落花の情…完成したんやな)
声には出さなかった。
出す必要もなかった。
事実として確認するだけでいい。
直哉は右手を持ち上げた。
痛みが走った。それでも持ち上げた。
(投射呪法。空写。鏃。零駒。落花の情。)
五つが揃った。
(次は、反転術式や。)
呪力の質を変える技術。
AFOに届かなかった「力の密度」を上げるための、次のステップだ。
まだ先は長い。
しかしこの夏で、また一つ積んだ。
(一個ずつや。)
直哉は訓練場の出口に向かって歩き始めた。
夕陽が訓練場の窓から差し込んでいた。
長い影が、直哉の足元に伸びていた。
二学期初日の朝。
直哉が教室に入ると、クラスが賑やかだった。
夏休み明けの新学期の賑やかさだ。
緑谷が「今学期もよろしくね!」という顔をしている。切島が「夏休みの必殺技訓練疲れたよな!」と上鳴に話しかけている。芦戸と耳郎が何かを話している。
直哉は自分の席に向かった。
「禪院」
爆豪が前の席から振り返った。
「腕、治ったか」
「治った。昨日の時点で完全に」
「そうか」
爆豪が前を向いた。
それだけだった。
(「そうか」か。)
神野区の前の爆豪なら、直哉に話しかけることはなかった。
神野区を経て、爆豪は変わった。
直哉が変わったわけではない。
しかし爆豪が少しだけ変わったことで、二人の間の距離が、わずかに変わっていた。
(悪くない変化や。)
直哉は席に座った。
「禪院くん! 必殺技の訓練日以外は何をしてたの?」
緑谷が話しかけてきた。
「訓練しとったわ」
「やっぱり! 訓練日以外もやってたんだんだね…何か新しいことできるようになった?」
「落花の情という新技を完成させた」
「落花の情? どんな技?」
「遠距離からの攻撃を封殺する自動防御や。発動中は攻撃ができへん代わりに、接近するまでの時間を稼げる」
緑谷の目が輝いた。
「すごい! それって零駒と組み合わせると……」
「落花の情で防ぎながら接近して、解除と同時に零駒を打ち込む。それが狙いや」
「完璧な流になるね……これを使えば戦略の幅が…ブツブツ」
「まだ切り替えの速度が課題や。あとは自己回復が次の目標や」
「…ん?自己回復? 個性でできるの?」
「できるかどうか、これから試すんや」
緑谷が少し黙った。
「禪院くんって、必殺技訓練以外でも訓練してたの?」
「補講と訓練と、あとはこの右腕の回復に集中してた。それだけや」
「……休んだりしなかったの?」
「休む必要がなかった」
緑谷がしばらく直哉を見た。
「禪院くんの生き方って、本当にまっすぐだよね」
「まっすぐ?」
「頂点を目指すことだけを、ずっと考えてる感じがする」
直哉は少し考えた。
「……遠回りが嫌いやさかい」
緑谷が笑った。
「そっか」
担任の相澤が教室に入ってきた。
「全員揃ってるな。二学期が始まる。まず言っておくが、お前たちの成長をこの夏で確認した。同時に、まだ足りないものも確認した。今学期は、その足りないものを埋めることに集中しろ」
相澤が教室を見渡した。
「以上だ。ホームルームを始める」
直哉は前を向いた。
(二学期。)
また訓練が続く。
反転術式への道が続く。
AFOへの「次の答え」を探す日々が続く。
(一個ずつや。)
直哉は小さく息を吐いた。
前を向いたまま。
あっち側への道を、また一歩踏み出す準備が、既にできていた。
直哉は夏休み後半戦の必殺技訓練編では零駒(空写、鏃)などの完成度をより高めつつ、必殺技としてこれをメインで作成してお披露目したという設定です。
後は落下の情も一応この期間内に作ったので新技のくくりとしては落下の情が適切かもしれませんね。