【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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今回は引っ越し会になります!

直哉が共同生活か…あまり想像しにくいですがどうならやら

キャラの語彙などの崩壊、ストーリーの崩壊などの可能性があります。
ご注意ください。

評価付与、感想は直哉の投射呪法の加速に磨きがかかります!


第25話:寮引っ越し編 「有象無象の城」

 

 

 八月の終わり。

 

 雄英高校ヒーロー科1年A組の生徒たちは、校内寮「バイツアライアンス」への引っ越しを開始した。

 

 午前十時。

 

 正面玄関前の広場に、クラスメイトたちが荷物を抱えて集まっていた。緑谷が段ボール箱を三つ抱えて汗だくになっている。上鳴が「多すぎた……」とぼやきながら荷物の山を前に途方に暮れている。切島が「手伝うぞ!」と言いながら峰田の荷物まで持ち上げようとしている。芦戸と葉隠が「どの部屋が広い?」とはしゃぎながら建物の外観を見上げている。

 

 その全員から少し離れた場所に、直哉はいた。

 

 扇子を片手に、涼しい顔で立っている。

 

 直哉の荷物は、既に運ばれていた。

 

 業者に頼んだからだ。

 

 禪院家の家紋入りの風呂敷包みが、揃いの作業着を着た業者の手で次々と建物の中に運び込まれていく。桐箱。漆塗りの小物入れ。一目で分かる高級な和家具。

 

 「……なんか禪院くんの荷物、すごいね」

 

 緑谷が汗を拭きながら言った。

 

 「せやろか?」

 

 「業者さん呼んだの?」

 

 「自分で運ぶ理由がないわ」

 

 「いや、まぁ……そうやけど」

 

 直哉は扇子を開いて、軽く仰いだ。

 

 八月の日差しが照りつけていた。

 

 (何やこれ、合宿所の延長やんか)

 

 林間合宿のログハウスから、校内の寮に移っただけだ。相部屋ではなく個室になったとはいえ、雑魚と同じ屋根の下で生活することに変わりはない。

 

 (湿気で呪力が腐りそうやわ。)

 

 「禪院くんの荷物、豪華すぎ! 桐箱ってなに! アンティーク?」

 

 葉隠が駆けてきた。

 

 直哉は葉隠の方に視線を向けた。

 

 透明な何かが喋っているという状況には、この数ヶ月で慣れた。慣れたが、好きになったわけではない。

 

 「触らんといて」

 

 「え、見るだけじゃダメ?」

 

 「触れるもの全部に影響が出る個性を持っとる人間に、俺の荷物に近づかれとくないわ」

 

 「そんな個性じゃないもん!」

 

 「俺の荷物は繊細やねん。外部の個性との干渉を避けたい。それだけや」

 

 芦戸が後ろから覗いてきた。

 

 「直哉くんの部屋、絶対見たい! 後で見せて!」

 

 「招待する予定はないちゅーねん」

 

 「ケチ!」

 

 「ケチやない。安物の個性がうつるのが嫌なだけや」

 

 芦戸が「うつる!? 個性ってうつるの!?」と騒いだ。

 

 直哉は答えなかった。

 

 (さっさと自室に入りたいわ)

 

 

 

 

 

 廊下を歩いていると、前から爆豪が来た。

 

 爆豪も荷物を自分で運んでいた。大きな段ボールを一人で抱えている。誰の手も借りない。それが爆豪らしかった。

 

 直哉と爆豪の距離が縮まった。

 

 すれ違う、その瞬間。

 

 直哉は足を止めなかった。

 

 しかし歩きながら、爆豪の耳元に向けて言った。

 

 「……おかえり、お姫様」

 

 爆豪の足が止まった。

 

 「なんだと」

 

 「次は攫われんように、俺の背中だけ見といたらどうや?」

 

 一秒の沈黙。

 

 爆豪が振り返った。

 

 「あ? 今、何つった」

 

 「聞こえてたやろ」

 

 「もう一回言ってみろ」

 

 「お姫様、おかえり。次は攫われんように俺の背中を見といたら、って言ったんやけど」

 

 爆豪の眉間に青筋が立った。

 

 掌から小さな爆発が散った。

 

 「……殺すぞドフカス野郎」

 

 「殺せるんやったらやってみたらええ」

 

 「今すぐブッ飛ばしたろか」

 

 「ええよ。試してみたら」

 

 直哉は扇子を閉じた。

 

 「ただ一個だけ言うとく」

 

 「あ?」

 

 「俺はあの夜、ヴィランを零駒で片付けて、自力で帰ってきた。爆豪くんは連れ去られた。その事実は変わらへん。俺が君を煽る権利は、そこから来てる」

 

 爆豪の目が細くなった。

 

 「……お前、俺が助けてもらったことが悔しいと思ってると思ってるんか」

 

 「思ってるやろ」

 

 「ああ、思ってる」

 

 爆豪が直哉に一歩近づいた。

 

 「だから何だ。俺が悔しいのは、連れ去られたことじゃなくて、まだお前に煽られるレベルにいることだ」

 

 直哉は爆豪を見た。

 

 「……へえ?」

 

 「俺はてめえを追い抜く。それだけだ。いつまでも背中ばっか見せてんじゃねえぞ」

 

 爆豪が段ボールを持ち直して歩いていった。

 

 直哉は廊下に立ったまま、その背中を見た。

 

 (やっぱおもろいわ、爆豪くん)

 

 煽られて怒鳴り返すだけだった爆豪が、今日は違うことを言った。

 

 「俺がお前を追い抜く」。

 

 (それを言えるようになったんか)

 

 神野区で何かが変わった。

 

 直哉はそれを確認した。

 

 扇子を開いて、また歩き始めた。

 

 (追い抜いてみたらええ。俺が止まると思うなや)

 

 

 

 

 

 直哉の部屋は、既に変貌していた。

 

 業者が全て配置を終えている。

 

 畳が敷かれている。正確には、持ち込んだ畳を既存のフローリングの上に敷いた形だ。

 

 床の間には掛け軸が掛かっている。禪院家の家紋が染め抜かれた一品だ。

 

 小さな文机が置かれている。硯と筆が揃えられている。

 

 壁際に刀掛けがある。刀は今はないが、掛けるための台だけが置かれている。

 

 窓の脇に、小さな枯山水の置物がある。

 

 全体として、そこだけ時代が違う空間になっていた。

 

 「禪院くんの部屋……」

 

 廊下から緑谷が覗いた。

 

 「なんか、すごい」

 

 「見るだけやったらかまへんけど、入らんといてや」

 

 「入らないよ! でも……ここ、旅館みたいだ」

 

 「旅館やない。普通の禪院家の様式や」

 

 「普通……」

 

 緑谷が「禪院家の普通は普通じゃないんだな……」という顔をした。

 

 飯田が後ろから覗き込んだ。

 

 「こ、これは確かに……」

 

 「何か言いたいことがあるんか?」

 

 「いや! その……禪院くんらしいと思ってな!」

 

 「褒め言葉として受け取ったる」

 

 直哉は部屋の中央に立って、配置を確認した。

 

 (悪くはないわ)

 

 完璧ではない。本当の禪院家の自室と比べれば、これは「それっぽいもの」に過ぎない。しかしこの世界でできる最善は尽くした。

 

 呪力が馴染む空間を作ることが目的だ。

 

 外部の個性の干渉を最小限にして、自分の呪力が安定できる環境。

 

 (ここなら訓練できそうや)

 

 それが全てだ。

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 記者が来た。

 

 雄英の教育方針と、神野区の件に関する取材だそうだ。

 

 相澤が「答える義務はない。ただし余計なことを言うな」と事前に告知した。

 

 直哉には「余計なこと」という概念がなかった。

 

 思ったことを言うだけだ。

 

 取材は食堂で行われた。

 

 記者は四十代くらいの男だった。特田種男、という名前だと後で聞いた。カメラマンを連れている。

 

 生徒たちが順番に質問を受けた。

 

 緑谷が緊張した顔で答えている。飯田が律儀に丁寧語で応対している。切島が「えっと……」とぼかしながら話している。

 

 直哉の番が来た。

 

 記者が手帳を開いた。

 

 「禪院さん、林間合宿での事件について聞かせてください。ヴィランに狙われたということですが、恐怖は感じましたか?」

 

 直哉は記者を見た。

 

 「恐怖?」

 

 「ええ、精神的なダメージや、ヒーローを目指すことへの迷いなど……」

 

 「誰が? 俺が?」

 

 「は、はい」

 

 「俺、あいつらボコボコにして自力で帰ってきたんやけど」

 

 記者が固まった。

 

 「あ、でも爆豪くんは……」

 

 「俺の話をしとる。俺は自力で帰ってきたわ。恐怖? 零駒で脳無を倒した後に恐怖を感じる余裕があるとでも思ってるんか?」

 

 「し、しかし生徒が危険な目に遭ったことは……」

 

 「危険な目?」

 

 直哉は少し首を傾けた。

 

 「記者さん、取材不足ちゃう? 俺がどんな戦いをしたか、ちゃんと調べてから来た? ……それとも、俺の速さにカメラが追いつかんかっただけ?」

 

 記者が言葉に詰まった。

 

 カメラマンが「え」という顔でカメラを構えたまま止まっている。

 

 「雄英の教育が問題だという声もありますが……」

 

 「問題?」

 

 「生徒を危険な状況に……」

 

 「雄英の教育のおかげで俺は脳無を一人で倒せたわ。それを問題と言うなら、問題のない教育を受けた人間がどれだけ倒せるか教えてくれへん?」

 

 記者が口を開いた。

 

 直哉は続けた。

 

 「無能な大人が外からギャーギャー言うのが、一番の『害』やねん」

 

 静かな声だった。

 

 しかし通った。

 

 「黙って俺の背中だけ見てりゃええねん。五年後のランキングに名前が載った時、取材に来たら応じたる」

 

 記者が完全に固まった。

 

 飯田が後ろで「禪院くん!」と小声で言った。

 

 直哉は立ち上がった。

 

 「以上でいいか。俺は訓練があるんや」

 

 返事を待たずに食堂を出た。

 

 廊下に出て、少し歩いたところで、背後から切島の声が聞こえた。

 

 「禪院、言いすぎじゃ……」

 

 「言いすぎてへん」

 

 「あの記者さん、固まってたぞ」

 

 「固まる程度の頭しかないなら、取材に来るべきやない」

 

 切島がしばらく黙った。

 

 「……お前って、本当に遠慮がないよな」

 

 「遠慮する理由がないわ」

 

 「でも、あれだけ言えるのって……正直ちょっとかっこよかったけどな」

 

 直哉は切島を見た。

 

 「当たり前のことを言っただけや」

 

 切島が「そっか」と笑った。

 

 直哉は廊下を歩き続けた。

 

 (かっこいいかどうかは関係ない。正しいことを正しいと言っただけや。)

 

 

 

 

 

 夜になった。

 

 誰かが「部屋の見せ合いをしよう」と言い出した。

 

 芦戸だったか葉隠だったか。どちらでもいい。

 

 男子の部屋を順番に見て回るらしい。

 

 直哉は参加する気がなかった。

 

 しかし気づいたら廊下に出ていた。

 

 正確には、芦戸に「直哉くんも来て!」と腕を引かれたからだ。

 

 「触るなや」

 

 「ごめん! でも来て!」

 

 「……一回だけや」

 

 緑谷の部屋が最初だった。

 

 扉が開いた瞬間、全員が「おお」という反応をした。

 

 壁一面にオールマイトのポスター。グッズが棚に整然と並んでいる。フィギュアが複数。ぬいぐるみまである。

 

 「出久くん……すごい……」

 

 「え、か、飾ってるだけだけど……!」

 

 直哉は部屋を見渡した。

 

 「……趣味悪いわ」

 

 全員が振り返った。

 

 「え?」

 

 「英雄崇拝もここまで行くと病気やね」

 

 緑谷の顔が赤くなった。

 

 「び、病気って……!」

 

 「オールマイトへの愛が過多すぎて、部屋が崩壊しとる。これを見て崇拝の対象が喜ぶと思うんか?」

 

 「よ、喜ぶかどうかは……!」

 

 「まぁ、緑谷くんらしいとは思うわ。それだけや」

 

 「……それだけって、褒めてるの? 貶してるの?」

 

 「どちらでもない。観察した結果や」

 

 緑谷が「う……」という顔をした。

 

 次は砂藤の部屋だった。

 

 ケーキが焼いてあった。

 

 「みんなに食べてほしくて!」

 

 歓声が上がった。

 

 直哉は砂藤のケーキを一秒見た。

 

 「甘いもんで釣ろうとか、発想が貧乏くさいんよ」

 

 砂藤が「ぐっ……」という顔をした。

 

 「べ、別に釣ろうとしたわけじゃ……! みんなに喜んでほしかっただけで……!」

 

 「結果として釣ってることになってるやろ。その差異が分からんうちは、人に何かを渡すことの意味を理解してへん」

 

 「じゃ、じゃあ禪院くんはもらわなくていい!」

 

 「最初からもらう気はない」

 

 切島が「禪院……」という顔をした。

 

 上鳴が「ま、まぁまぁ……」と間に入ろうとした。

 

 直哉は廊下に出た。

 

 (次は?)

 

 

 

 

 

 順番が進んで、最後に直哉の部屋になった。

 

 直哉は扉を開けた。

 

 全員が静止した。

 

 「……え」

 

 「なに、これ」

 

 「旅館……?」

 

 芦戸が口を開けたまま部屋を見ていた。

 

 葉隠が「きれい……!」と言った。

 

 畳。掛け軸。文机。刀掛け。枯山水。

 

 全てが揃っていた。

 

 部屋の空気が違う。寮の他の部屋とは、密度が違う。呪力が染み込んだ空間の重さがある。

 

 「禪院くんの部屋って……」

 

 緑谷が息を飲んだ。

 

 「住んでる、というより、ここに『在る』って感じだ」

 

 「大げさやな」

 

 「でも、本当にそう見える」

 

 爆豪が後ろから部屋を見ていた。

 

 何も言わなかった。

 

 しかし目が、部屋の細部を確認するように動いていた。

 

 芦戸が一歩踏み込もうとした。

 

 「触らんといて」

 

 「入るのはダメ?」

 

 「入るのはダメや」

 

 「え~……でも素敵だもん、見たい」

 

 「今見とるやろ。目で見るだけでいい。足で踏み込む必要はないわ」

 

 葉隠が「この雰囲気、禪院くんそのものって感じがする」と言った。

 

 直哉は葉隠の言葉を一瞬だけ考えた。

 

 (「俺そのもの」か。)

 

 禪院家の空間が「俺そのもの」なら、それはある意味正しい。

 

 直哉は禪院家の人間として生まれ、禪院家の術式を持ち、禪院家の美意識で世界を見る。

 

 この部屋はその全部を詰め込んだものだ。

 

 「まぁ、君らには一生縁のない空間やね」

 

 直哉は言った。

 

 「似合わんから、さっさと出てってや」

 

 「ひどっ!」

 

 「本当のことや」

 

 「見てるだけじゃダメなの?」

 

 「さっさと出ていけと言ったやん」

 

 芦戸が「えー……」と言いながら廊下に戻った。葉隠が「また見せてね」と言いながら出ていった。

 

 緑谷が最後に部屋を振り返った。

 

 「……禪院くんにとって、この部屋が一番落ち着くんだね」

 

 「そうや」

 

 「禪院家の空間が、一番自分らしいから?」

 

 「正確に言えば、自分の力が安定する空間や。感情の問題やない」

 

 「そっか」

 

 緑谷が少し笑った。

 

 「でも、自分の個性が安定する場所を『自分らしい』って言うんじゃないかな」

 

 直哉は緑谷を見た。

 

 答えなかった。

 

 答える必要を感じなかった。

 

 ただ。

 

 (まぁ、否定はしない)

 

 扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 全員が部屋に戻った後。

 

 直哉は一人で訓練場に出た。

 

 夜の訓練場は静かだ。月明かりだけが差し込んでいる。

 

 直哉は空写を起動した。

 

 投射呪法を五重ねで起動した。

 

 落花の情の展開を試みた。

 

 完成した落花の情は、今も安定して展開できる。

 

 (次や。)

 

 反転術式。

 

 呪力の負と負を掛け合わせて正の力に変え、呪力の質そのものを変える技術。

 

 前世では習得はできなかった。その技をこの体で一から再現するのは、空写や落花の情とはレベルが違う難しさだ。

 

 (どこから手をつけるかや。)

 

 直哉は右手に呪力を集めた。

 

 通常の呪力。青白い、前世で「負」に分類されていたエネルギーだ。

 

 これを「正」に転換する。

 

 負と負を同時に扱い、その反転を起こす。

 

 (負けの呪力を掛け合わせる感覚はある。前世の知識がある。でも今の俺の呪力量で、反転を起こせるかどうかは別の話や。)

 

 右手の先端で、呪力がわずかに揺れた。

 

 転換の萌芽だ。

 

 しかしすぐに消えた。

 

 (まだ遠いわ)

 

 直哉は息を吐いた。

 

 (でも感覚は掴んだ。あとは繰り返すだけや)

 

 月明かりの中で、直哉は何度も繰り返した。

 

 呪力を集める。反転を試みる。消える。また集める。

 

 誰も見ていない。

 

 見られる必要もない。

 

 強くなる過程は、自分だけのものだ。

 

 (一個ずつや。)

 

 直哉は夜の訓練場で、一人で立ち続けた。

 

 

 

 

 

 朝食の時間。

 

 食堂に全員が集まった。

 

 昨夜の部屋公開の話で賑やかだ。

 

 「禪院くんの部屋、本当にすごかったよね」

 

 「あの畳、本物?」

 

 「本物や」

 

 「いくらしたの?」

 

 「知らん。業者に任せたんよ」

 

 「業者に任せた……」

 

 上鳴が「リッチすぎる……」という顔をした。

 

 直哉は朝食を取りながら、食堂を見渡した。

 

 A組全員がいる。

 

 賑やかだ。うるさいとも言える。

 

 (雑魚の中で暮らすというのはこういうことか。)

 

 前世の禪院家では、こういう雑多な賑やかさはなかった。禪院家は常に緊張した場所だった。強さが全てを決めた。

 

 (悪くはない、か。)

 

 直哉は自分の思考に少し驚いた。

 

 「悪くない」と思った。

 

 雑魚の賑やかさが。

 

 「直哉くん、今日の授業何だっけ」

 

 芦戸が話しかけてきた。

 

 「知らん。時間割を見りゃええやん」

 

 「見たけど忘れちゃった…」

 

 「……ヒーロー基礎学や」

 

 「ありがとう!」

 

 (何を感謝してるんや。)

 

 直哉は食事を続けた。

 

 窓の外の空が、よく晴れていた。

 

 (仮免試験まで時間がないねん。やることは山ほどあるわ。)

 

 反転術式。術式反転。領域展開への道。そしてAFOへの「次の答え」。

 

 (一個ずつや。今日も積む)

 

 直哉は食事を終えた。

 

 席を立ちながら、食堂を一瞥した。

 

 緑谷が何かを話している。爆豪が不機嫌そうに食べている。切島が笑っている。

 

 (有象無象め)

 

 しかし。

 

 (まぁ、ここが今の俺の場所や。)

 

 誰にも言わない言葉を、直哉は心の中で言った。

 

 それから歩き出した。

 

 窓の外の空が、よく晴れていた。

 

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