【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
直哉がヒーローなのはやっぱり想像しにくいですが…
仮免を取ればドブカスでもヒーローですからね…
今回一次試験の通過方法について、描写の関係もあり一部オリジナル設定を取り入れております。
ご理解ください。
また、キャラの語彙などの崩壊、ストーリーの崩壊の可能性があります。
ご注意下さい。
評価付与、感想は直哉の投射呪法に磨きがかかります。
試験会場に着いた瞬間、直哉は扇子を開いた。
(臭ってるやん)
数百人の受験者が既に集まっている。
全国のヒーロー科の生徒たちだ。各校ごとに固まっている。気合いを入れている。円陣を組んでいる。お互いの情報を共有している。
直哉はバスを降りながら、その全景を一瞥した。
「雑魚が群れると、空気まで安っぽくなるわ」
切島が「禪院! 声!」と慌てた。
直哉は気にしなかった。
事実を言っただけだ。
(有象無象の見本市や)
緑谷が「す、すごい人数……」と周囲を見渡している。飯田が「雄英の名に恥じない戦いを!」と気合を入れている。爆豪が無言で腕を組んでいる。
直哉はその全員から少し離れて、会場の端に一人で立った。
空写を軽く起動した。
会場全体の気配を読む。
強い個性の持ち主が散見される。注目に値する存在が何人かいる。
しかし。
(零駒を使う必要がある相手は……今のところ、いないわ)
それが直哉の最初の評価だった。
「おーッス!! こんにちはァ!!」
会場の一角が揺れた。
直哉はその方向を見た。
一人の男が、会場に入ってきた。
大きい。背が高い。体格が違う。そしてその周囲の空気が、文字通り揺れていた。
士傑高校の制服。
空写でその人物を読んだ。
(原作の風の個性持ちか…こいつは違う。)
この会場に来てから初めて、直哉の空写が「注意」の信号を出した。
体格だけではない。個性の密度が違う。何か強力な、気流に関係する能力を持っている。
夜嵐イナサ。
名前はまだ知らないが、この会場で最初に「まともな相手かもしれない」と直哉が判断した人物だった。
夜嵐は会場全体に向けて手を振りながら、士傑高校の仲間たちと笑っていた。
豪快で、圧がある。
しかし。
(爽やかすぎて逆に胡散臭いわ)
直哉はすぐに視線を外した。
その直後、夜嵐の視線が轟に向いた。
何か空気が変わった。
(轟くんと夜嵐くんは入試推薦時に因縁ができたんやな…確か)
空写で二人の気配を読んだ。
夜嵐の気配が、轟を見た瞬間にわずかに変質した。
嫌悪に近い何かだ。
(原作やと当時の轟くんはエンデヴァーに似て冷淡やったからな…こうなるのも仕方ないわ)
どちらでもいい。直哉には関係ない。
「やあ! 雄英の人だよね!」
声がした。
振り向くと、爽やかな顔の男の人が立っていた。
傑物学園の制服。背が高い。顔立ちが整っている。笑顔が自然だ。手を差し出している。
真堂揺。
空写でその人物を一秒で評価した。
(顔だけはええけど、個性の密度が並以下やな。これも原作通りや)
「俺、傑物学園の真堂揺! よろしく!」
手が差し出されたままだ。
直哉は見なかった。
「君、顔だけはええけど、個性の気配が並以下やね」
真堂の笑顔が固まった。
「……え? 個性の気配?」
「邪魔や。消えてくれん?」
「え、消え……」
「二度も言わせるなや」
真堂がしばらく直哉を見た。笑顔は崩れていないが、目の色が変わった。
「……雄英には個性的な人がいるんだね」
「個性的? 俺が強くで、君が平凡なだけや」
「試験、頑張ろうよ。俺たちは競い合う仲間……」
「仲間?」
直哉は真堂を初めて正面から見た。
「君は俺の仲間やない。俺の道の途中に転がってるものや。試験中に会ったら丁寧に片付けさせてもらうわ」
真堂が何も言えなくなった。
そこへ。
「あっはっは! なんだこの子! 相澤ァ! 除籍しないの? こういう子!」
明るい声が飛んできた。
傑物学園の担任だろう。女性のプロヒーローだ。Ms.ジョーク。
相澤が横に立っていた。いつも通りの無表情だ。
「……しかし20とはなァ」
Ms.ジョークが相澤の隣に並んだ。
「おまえが除籍してないなんて珍しいじゃん。気に入ってんだ? 今回のクラス」
「別に」
「照れんなよ。ダっセエなァ」
Ms.ジョークが笑った。
「しっかし、それなら変な話だぜ。おまえがあのこと知らへんわけがない」
相澤が無言で前を向いた。
Ms.ジョークが続けた。
「例年形式は変われど、この仮免試験には一つの慣習に近いものが存在する。全国の高校が競い合う仲で唯一『個性不明というアドバンテージ』を失っている高校」
「体育祭というイベントが全国中継され、生徒たちの個性はおろか、弱点・スタイルまで割れたトップ校。かわいいクラスなら生徒たちに言ってあげれば良いのに。毎回まず初めに行われる」
Ms.ジョークが一拍置いた。
「雄英潰しのことを」
相澤が少し間を置いてから、答えた。
「雄英潰し。別に言わない理由もないが、結局やる事は変わらんからな。ただただ乗り越えて行くだけさ。ピンチを覆していくのがヒーロー」
相澤が前を向いたまま言った。
「そもそもプロになれば個性晒すなんて前提条件。悪いがウチは他より少し先を見据えてる」
直哉は二人の会話を密かに聞いていた。
(雄英潰し、か…原作知識としても知っとるが)
予測可能な展開だ。
しかし。
(だから何や。)
知られていても、追いつける速さでも、読み切れる術式でもない。
直哉は扇子を閉じた。
(来るなら来い。全員まとめて相手したる)
審査員席にいた男が、マイクの前に立った。
目良善見。
ヒーロー公安委員会。
見た目は三十代くらいだ。目の下にはっきりとしたクマがある。姿勢が少し前かがみだ。疲れが全身に滲み出ている。
しかし声は通った。
「えー、ではアレ……仮免のヤツをやります」
会場が静まった。
「あー、僕ヒーロー公安委員会の目良です。好きな睡眠はノンレム睡眠、よろしく」
誰かが「え?」という顔をした。
「仕事が忙しくてろくに寝れない……人手が足りてない! 眠たい! そんな信条の下ご説明させていただきます」
「信条……?」
緑谷が小声で言った。
直哉は目良を見た。
(面白い人間やな。)
疲弊を隠さない。それどころか全面に出している。しかし説明は続いている。
「仮免のヤツの内容ですが、ずばり、この場にいる受験者一千五百四十人、一斉に得点形式の演習を行ってもらいます。制限時間内まで生き残り、より多くポイントを稼いだ上位100名が二時試験に進めます。」
会場がざわついた。
「現代はヒーロー飽和社会と言われ、ステイン逮捕以降、ヒーローの在り方に疑問を呈する向きも少なくありませんわ」
目良が続ける。
「まァ、一個人としては動機がどうであれ、命がけで人助けしとる人間に何も求めるなは、現代社会に於いて無慈悲な話だと思うワケですが」
(公安委員会の人間が、珍しいことを言うとるわ)
直哉は目良の言葉を咀嚼した。
「君たちは仮免許を取得し、いよいよその激流の中に身を投じる。その激流の中にいてもくらいついて行けない者、ハッキリ言って厳しい。よって試されるは増加したヴィランに日々耐えうる持久力とヴィランを封殺できるほどの戦闘能力。よって時間内まで生き残った上で相手の撃破ポイントが多い上位100人が突破できます。」
百名。
千五百四十人中の百名だ。
「まァ、社会で色々あったんで、運がアレやったと思ってアレして下さい」
「アレ……」
飯田が困惑した顔をした。
「で、その条件というのがコレです」
目良がターゲットを掲げた。
「受験者はこのターゲットを三つ、体の好きな場所、ただし常に晒されている場所に取り付けて下さい。足裏や脇などはダメです」
「ターゲットはこのボールが当たった場所のみ発光する仕組みで」
「三つ発光した時点で脱落とします。三つ目のターゲットにボールを当てた人が倒したこととします。そして、二人倒した者から勝ち抜きです。先着100名まで。ルールは以上」
上鳴が「シンプルだな……」と言った。
芦戸が「でも千五百人が一斉にやり合うって……」と言った。
直哉は黙って聞いていた。
(ターゲット三つ。二人倒せば通過。シンプルや)
シンプルなルールは、力の差がそのまま出る。
複雑なルールは、力のない者が知恵で逆転する余地を生む。
しかしこのルールは、力のある者がただ力を出すだけでいい。
(俺に有利や。)
「えー、じゃ展開後ターゲットとボール配るんで、全員に行き渡ってから一分後にスタートします」
フィールドが展開し始めた。
会場の構造が変化する。壁が動き、地形が出現する。
「各々苦手な地形、好きな地形、あると思います。自分を活かして頑張って下さい」
目良が眠そうな目のまま続けた。
「一応、地形公開をアレするっていう配慮です。まァムダです。こんなもののせいで睡眠が……」
最後の言葉が尻すぼみになった。
緑谷が「地形を活かして……! みんなで連携を……!」と言い始めた。
爆豪が「うるさい」と言った。
切島が「でも連携は大事だろ!」と言った。
直哉はその賑やかさを背景音として聞き流しながら、フィールドを見渡した。
障害物が多い。起伏がある。視線を遮る構造物が複数ある。
(落花の情を展開すれば、遠距離からの奇襲は防げる。接近したら鏃で片付ける。それだけや)
シンプルだ。
緑谷がA組のメンバーに向かって何かを話していた。連携の提案だ。
直哉は少し前に出た。
「禪院、一緒に動かないのか?」
切島が聞いた。
「一人の方が動きやすいわ」
「でも集中攻撃されるぞ」
「される前に終わらせたる」
直哉はそれだけ言って、前を向いた。
ターゲットが配られた。
直哉は胸・腹・背の三か所に取り付けた。
右手にボールを一つ持った。
残り三十秒。
会場全体の緊張が高まる。
直哉は扇子を仰いだ。
「一次試験、開始」
開始の瞬間、直哉の空写が反応した。
四方八方から、気配が収束してくる。
(来たか)
数十人が一斉に動いた。全員の目標が、直哉を含む雄英A組だ。
しかし。
中でも「禪院直哉」に向かってくる人数が際立って多い。
体育祭の映像から分析してきた者たちだろう。投射強化(投射呪法)の速さは知られている。しかし零駒、落花の情などの存在は知られていない。
ボールが飛んでくる。
四方から。同時に。
直哉は動かなかった。
落花の情を展開した。
全方向から飛んでくるボールが、直哉の体の手前で次々と軌道を逸れた。
「え?」
「当たってない!」
「何で……!」
混乱が広がった。
直哉は落花の情を展開したまま、会場全体を俯瞰した。
(このまま守りながら一人ずつ仕留めるのは時間がかかるわ)
選択肢は二つだ。
落花の情で守りながら少しずつ仕留めるか。
あるいは全員を一気に貫くか。
(一はない。つまらん)
直哉は落花の情を解除した。
同時に呪力を右手の先端へ一点集中した。
投射呪法を最大出力で起動した。
五重ね。
視界が24コマに分割される。
空写で周囲全員の重心移動を読む。
(全員の位置と動き、把握したわ)
最短経路を設計する。
三十人以上を、最速で「貫く」ルートを。
(全力でぶち抜いたる)
直哉の体が動いた。
鏃。
呪力を一点に収束させた最速の突進だ。
一人目の胸部ターゲットにボールを叩き込む。
次の瞬間には既に二人目の位置にいた。
腹部と背部を連続で打つ。
脱落のアナウンスが鳴った。
三人目。
四人目。
五人目。
直哉が通過した後の地面が、踏み込みの衝撃で爆ぜた。
弾丸が通り過ぎたように、空気が遅れて追いついてくる。
「え? 何が……」
「どこ……!?」
「見えへん!」
受験者たちの声が上がった。
直哉の姿が見えない。
見えないのではなく、速すぎて目が追えない。
空写で次の重心を読む。投射呪法で最短経路を設計する。鏃で打ち込む。その三段が、弛みなく連続する。
六人目。
十人目。
十五人目。
「脱落!」
「脱落!」
「脱落!」
アナウンスが連続した。
直哉は二十人目のターゲットを打ち終えた場所に、すっと立った。
周囲に、脱落した受験者たちが点在している。
全員が「今、何が起きたのか」という顔をしていた。
直哉は扇子を取り出した。
開いて、仰いだ。
「ターゲット三つ? 足りひんわ」
誰かが聞いていた気がした。
「君ら全員、まとめて俺の『道』の一部になっといてや」
次の集団が来た。
今度は慎重だった。
先ほどの「消える速さ」を目撃した受験者たちが、距離を保ちながら遠距離から攻めてくる戦術に切り替えた。
一斉にボールを投げる。
直哉は落花の情を展開した。
全部逸れた。
「通じない!」
「何か防御してる!」
「近づかないと当たらない! でも近づいたら速さで……」
受験者たちが混乱する。
直哉は落花の情を展開したまま、前進した。
距離を保ちながら後退する受験者たちを、ゆっくりと追い詰める。
落花の情があれば遠距離攻撃は意味をなさない。
近づいて落花の情を解除した瞬間、鏃で打ち込む。
落花の情→解除→空写→投射呪法→鏃。
スナイプとの訓練で磨いた切り替えが、実戦で完璧に機能した。
〇コンマ三秒以下の切り替え。
受験者には「防御が突然消えて、次の瞬間に打たれた」という経験しか残らない。
「脱落!」
「脱落!」
アナウンスが続く。
直哉は淡々と動いた。
感情はない。
最短で仕事を終わらせる。それだけだ。
開始からどれくらい経ったか。
直哉の脱落させた数が増えていく中で、周囲が変わり始めた。
誰も近づいてこなくなった。
脱落者が多すぎて、残った受験者たちが自然に距離を置いた。
直哉のいる区画だけ、静寂に近い状態になった。
直哉は会場の端に移動して、壁に背を預けた。
落花の情を低出力で展開したまま、残りを待った。
(退屈やな。)
欠伸が出た。
口を手で覆いながら、欠伸をした。
他のエリアではまだ戦いが続いている。緑谷がシュートスタイルで動いている。爆豪が爆破で周囲を押さえている。轟が氷と炎を展開している。
(あいつらはあいつらで戦ってる。それはそれでいい。)
直哉は壁に背を預けたまま、空写で会場全体の残存者数を数えた。
まだ多い。
しかし直哉に向かってくる者はいない。
(まぁ、そうやろな。)
「一次試験、終了」
アナウンスが響いた。
審査員が集計した。
モニターに通過者の名前が表示された。
直哉の名前が最初の行にあった。
脱落数九十三。
全受験者中、ぶっちぎりの一位だ。
二位以降は数字が格段に落ちる。
雄英A組は全員の名前が並んでいた。
誰一人脱落せずに全員通過した。
周囲から「さすが雄英……」という声が漏れた。
しかしその中でも、直哉の数字だけは別格だった。
審査員席が静まり返っていた。
目良が眠そうな目でモニターを見ていた。
「……一人で九十三?」
誰かが小声で言った。
「本当に高校生……?」
直哉はモニターから視線を外した。
(一位、か。)
当然だと思った。
当然以外の評価を、自分に対して持っていなかった。
切島が駆けてきた。
「禪院! 一位通過じゃないか! 九十三人って何だよ……!」
「普通に動いただけや」
「普通やない!!」
緑谷が近づいてきた。目が輝いている。
「禪院くんの鏃、見てたよ……! あの連続突進、まるで弾丸みたいで……それに防御も……あれって落花の情?」
「そうや。遠距離攻撃を封殺しながら接近して、解除と同時に鏃で打ち込む。訓練通りや」
「訓練通り……」
緑谷が「それを本番でそのまま再現できるのが……」と呟いた。
爆豪が後ろから来た。
直哉の脱落数を確認した。
何も言わなかった。
ただ鼻を鳴らした。
直哉はその反応を横目で見た。
(悔しいというより、燃えてる方やな。今の爆豪くんは)
それでいい。それがいい。
目良のアナウンスが流れた。
「えー、一次試験通過者の方々、お疲れ様です。二次試験の準備をして下さい。眠い……」
最後の一言が会場に響いた。
誰かが笑った。
直哉は前を向いた。
(次や)
一次試験は通過点だ。
目的は仮免を取ることではない。
強くなることだ。
この試験がその過程の一つに過ぎない。
(次も、最短で終わらせる)
直哉は扇子を閉じて、二次試験の会場へ向かった。