【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
救助試験…直哉には難しいでしょうね…
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意下さい。
感想、評価付与は直哉のドフカスさに磨きがかかります…
一次試験が終わった直後、二次試験の会場が展開された。
爆破だ。
一次試験に使っていた建物が次々と爆破されて崩落し、瓦礫の山が出現した。
「二次試験の内容をご説明します」
目良が再びマイクの前に立った。目の下のクマがさらに濃くなった気がした。
「えー、一次試験お疲れ様でした。引き続き二次試験です。眠い……二次は救助演習となります」
「救助演習」
緑谷が呟いた。
「この崩落現場に、被災者役のHUCメンバーが待機しています。HUCとは、Help Us Company。あらゆる訓練において、今ひっぱりダコらしいです。世の中広い」
目良が続ける。
「受験者の皆さんは、この被災者たちを安全に救助して下さい。救助の質と対応はHUCが採点します。演習終了時に基準点を超えていれば合格です」
「基準点を超えていれば、ということは……」
飯田が真剣な顔をした。
「一次試験と違って、全員合格の可能性もある!」
「そういうことです。まァただ、一次は力試し、二次はヒーローとしての質を問われます。力だけで通れるほど甘くはない」
目良がそこで少し間を置いた。
「まァ、社会で色々あったんで。ヒーローには救う力だけじゃなく、救われる側の気持ちを想像する力も求められる。そういう試験です。以上です。眠い」
「以上!?」
上鳴が「もう少し詳しく……!」と言いかけたが、目良はもうマイクから離れていた。
直哉は崩落した建物の瓦礫を見渡した。
(救助演習、か)
神野区での経験が頭をよぎった。
あの夜、直哉は救助をしなかった。
爆豪を止めなかった。
そういう夜だった。
しかし今日は試験だ。
(やることはシンプルや。瓦礫の中から人を出して、安全な場所まで運ぶ。めんどいがそれだけや)
直哉は右手に呪力を集めた。
投射呪法を起動した。
(やれることをやるだけや)
崩落した建物の内部。
瓦礫が複雑に重なっている。
他の受験者たちが慎重に瓦礫を除けながら進んでいる。
「大丈夫ですか! 今助けます!」
切島が大声で呼びかけながら、硬化した腕で瓦礫をどかしている。
「怪我はありますか! 今すぐ確認します!」
飯田が手際よく被災者の状態を確認している。
直哉は崩落した建物の正面に立った。
空写を起動した。
瓦礫の配置を読む。
重力の方向を読む。
どこに荷重がかかっていて、どこに空間があるか。
投射呪法で設計を組んだ。
瓦礫の隙間を、一フレーム単位で通過するルートを。
(1/24秒の設計)
直哉の体が動いた。
瓦礫が崩れながら落ちてくる。
しかし直哉の設計の中では、その崩落の速度も全て計算済みだ。
静止画の中を歩くように。
崩落する瓦礫のわずかな隙間を、直哉は音もなく潜り抜けた。
瓦礫の奥に、被災者役のHUCメンバーがいた。
四十代くらいの男性だ。
「た、助けて……! 足が……!」
直哉は状況を一秒で確認した。
右足が瓦礫に挟まれている。瓦礫の重さは計算済みだ。除けられる。
呪力を瓦礫に接触させて、投射呪法で軌道を設計した。
瓦礫が滑るように動いた。
足が解放された。
直哉はHUCメンバーを小脇に抱えた。
来た経路を、逆順で戻る。
瓦礫の隙間を、また静止画の中を歩くように抜けた。
安全圏に出た。
所要時間、十秒程度だ。
他の受験者たちがまだ瓦礫を除けている中、直哉は既に被災者を運び終えていた。
「……ほら、運び終わったならおろしてちょうだい」
直哉はHUCメンバーを地面に下ろした。
「重たいねん、君。少しはダイエットしたら?」
HUCメンバーが固まった。
採点用の端末を持った別のHUCスタッフが近づいてきた。
「救助完了を確認。ただし」
スタッフが直哉を見た。
「助け方は完璧だが、態度が最悪だ!」
「……あ?」
「被災者への声かけがない! 体の状態確認がない! 搬送時の安全確認の声かけがない! 全部減点です!!」
直哉はスタッフを見た。
「生きてるんやから100点やろ」
「違います!!」
「俺が瓦礫の中から出した。足の怪我も確認した。安全圏まで運んだ。全部やっとる」
「声かけが!」
「声をかけながら動いたら処理速度が落ちる。俺は最短で終わらせた。それが最善や」
「それがヒーローとしての姿勢ではない! 怖くて痛くて不安な被災者に、かける第一声が無言と『重たい』じゃあダメでしょ!!」
直哉は一秒、HUCスタッフを見た。
「……怖くて痛くて不安な人間を、最短で安全な場所に連れてくることが先決やと俺は思うわ。声かけは後からでええやろ」
「順番が違います!!」
「意見の相違や。まぁ、採点はそちらがするんやから、好きにしたらええ」
直哉は次の瓦礫に向かって歩き始めた。
スタッフが「態度まで最悪だ……!!」と言っていた。
(力のない奴が喚いとるわ)
ただ。
(声かけが先、か。)
歩きながら、わずかに考えた。
その考えはすぐに終わった。
(次の被災者を出す方が先や。)
直哉は二か所目の瓦礫に向かった。
会場の空気が変わった。
直哉の空写が、鋭く反応した。
(来たわ。これも原作通りや)
重い。
AFOに近い重さとは違う。しかし明確に「格が違う」何かが会場に入ってきた。
ギャングオルカ。
プロヒーロー。ランキング上位。
シャチのような個性を持つ大柄のヒーローが、受験者たちの前に現れた。
「ヴィランが乱入した、という想定だ」
ギャングオルカが言った。
低い声が会場全体に響いた。
受験者たちが一斉に緊張した。
直哉は空写でギャングオルカを読んだ。
(個性の種類は、超音波系か)
シャチとしての能力。発声器官が強化されている。超音波を使った攻撃ができる。
そして。
そのギャングオルカに向かっていく二人がいた。
轟焦凍と、夜嵐イナサだ。
「俺が行く」
「俺が行く」
二人が全く同時に言った。
そして全く同時に相手を見た。
空気が悪くなった。
(あの二人、連携できてへんな)
直哉は空写で二人を読んだ。
夜嵐が轟を見る目が、試験開始前から変わっていない。
嫌悪だ。
エンデヴァー関係の因縁だろう。
轟も夜嵐を意識している。
二人が口論を始めた。
その隙に、ギャングオルカが動いた。
超音波の予備動作。
咽喉部が振動を始める。
直哉の空写がその動きを捉えた。
(今や)
直哉は動いた。
投射呪法で設計を組む。
ギャングオルカの予備動作が完了する前に、その隣に立つ。
落花の情を展開する。
ギャングオルカが超音波を放った。
落花の情が反応した。
直哉の体を包むように、超音波の振動が逸れた。
ギャングオルカが「ん?」という顔をした。
その一瞬の隙に、直哉はギャングオルカの耳元に近づいた。
「プロも」
直哉は小声で言った。
「俺のフレームの中では、ただの標本やね」
ギャングオルカの動きが一瞬止まった。
「……何者だ、お前」
「雄英の禪院直哉。よろしゅう」
ギャングオルカが直哉を見た。
「その防御。個性か?」
「個性の応用みたいなもんや」
「その速さも、超音波を読んだ動きも……見たことがない類の能力だ」
「見たことないのは当然や。俺の個性は特殊やさかい」
ギャングオルカが少し間を置いた。
直哉は落花の情を解除して、一歩下がった。
「試験やから、ここまでにしといたる」
「……続きをやりたいなら来い、ということか」
「来たければ別にかまへんよ。ただ今は試験中やから、俺にはやることがあるわ」
直哉はギャングオルカから視線を外した。
口論を続けていた轟と夜嵐が、ようやく状況に気づいて戦闘態勢に入っていた。
緑谷が「禪院くん!」と叫びながら近づいてきた。
「今のって……!」
「邪魔やから退かしただけや。試験に戻ったほうがええで」
「えっ、でも……」
「後で説明するわ。今は試験や」
直哉は瓦礫の方向へ向かった。
まだ救助が終わっていない被災者がいる。
(やることをやるだけや)
ギャングオルカが後ろで部下に何かを言っていた。
直哉は振り返らなかった。
「二次試験、終了」
アナウンスが響いた。
受験者たちが各々の結果を待つ。
直哉は採点会場の端に立っていた。
HUCのスタッフが採点結果を集計している。
「禪院くん、さっきのギャングオルカとのやり取り……! 空写で超音波の予備動作を読んだの?」
緑谷が近づいてきた。目が輝いている。
「そうや」
「あの距離で、発声の準備動作を視覚で捉えて……」
「俺の個性は動きを読む。超音波も、放つ前には必ず予備動作がある。その予備動作を読んだんや」
「すごい……それって、ほとんどどんな攻撃も読めるってこと……?」
「情報量が多すぎる相手は処理が追いつかへん。AFOはそれで読めへんかった。今の俺の限界や」
緑谷が少し黙った。
「でも、ギャングオルカは読めた」
「ギャングオルカは強い。ただ、AFOほどの情報量やない。だから読めたんや」
「……禪院くんの中では、基準がAFOなんだね」
「当然やろ。「あっち側へ」届かへんと意味がない」
緑谷が何かを言いかけた。
そこへアナウンスが入った。
「合格者を発表します」
掲示板にリストが表示された。
合格者リストが出た。
雄英A組のほとんどの名前が並んでいる。
しかし。
二つの名前がなかった。
爆豪勝己。
轟焦凍。
直哉は掲示板を一秒見た。
それから隣を見た。
爆豪が掲示板を見ていた。
無言だった。
掌が少し震えていた。
轟も掲示板を見ていた。
こちらも無言だった。
直哉は自分の合格証を受け取った。
手の中で確認した。
(合格、か。)
当然だと思った。
直哉は合格証を軽く持ち上げた。
扇子のように仰いだ。
「あーあ」
誰にともなく言った。
「合格者の中に、俺の名前はあるけど……」
直哉は掲示板を見た。
「お姫様と半分坊主の名前、見当たらんね」
※意図的な煽りです
爆豪が振り向いた。
目が細くなった。
「…ドブカス野郎」
「探し方、教えたげよか?」
「……」
「あ、そもそも『無い』もんは探せへんか」
直哉は少し笑った。
声には出なかった。
口の端が動いただけだ。
「ハハッ」
爆豪が一歩踏み出した。
切島が「まずいまずいまずい!」と間に入ろうとした。
しかし爆豪は止まった。
ただ直哉を見た。
「……覚えとけよ」
「覚えとくわ。講習で結果を出して合格したら、その時は素直に認めたる」
爆豪がまた無言になった。
直哉は爆豪から視線を外した。
轟の方を見た。
轟は掲示板を見たまま、動いていなかった。
(轟くんも悔しいやろな)
しかし直哉は何も言わなかった。
轟に言うことは、今はない。
直哉は合格証を軽く持ち上げたまま、会場の出口に向かって歩き始めた。
不合格者たちの落胆した空気が、会場に漂っていた。
その空気を背中で受けながら、直哉は歩いた。
(合格証、か)
紙一枚だ。
仮免許という形のある証明だ。
しかしこれは目的ではない。
(通過点や)
次は仮免講習がある。
その次は二学期の授業が続く。
その先にオーバーホール編がある。
(俺が大まかな流れを知っとるのはオーバーホール編までや…せやけど、知った上で、俺は俺のやり方で動く)
直哉は出口を出た。
外の空気が入ってきた。
合格証を一度見た。
それからポケットにしまった。
扇子を取り出した。
開いて、仰いだ。
(次や)
空が晴れていた。