【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
反転術式が使えない今の直哉にとって、エリちゃんがどう映るのか…果たして…
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意ください。
感想、評価付与は直哉の投射呪法に磨きがかかります!
第28話:インターン編 「ミルコと、会議と、壊理という子供」
仮免取得後、有英BIG3と相澤先生によるインターンの説明がなされた後日、ミルコ直々の指名として例外枠として許可された。インターンの受け入れ先が決まった日、直哉は一人でミルコの一時的な仮拠点=事務所(仮)に立った。
看板を見た。
「MIRKO HERO OFFICE」
(ウサギのヒーロー、か。)
ミルコ。
本名:兎山ルミ
個性:兎
身体能力の極限特化型。跳躍力、脚力、聴覚がウサギの特性で強化されている。
ランキング上位のヒーローだ。
直哉は事前に調べていた。
体育祭の映像分析と同じ要領で、ミルコの戦闘スタイルを把握した。
(単純な個性やな。身体強化の一種や。呪術の身体強化に近い。……まぁ、女やし、期待はせんとこ)
インターフォンを押した。
「はい」
「禪院直哉です。本日からお世話になります」
「入れ」
扉が開いた。
中に入った。
廊下の先から、女性が歩いてきた。
白い長い髪。浅黒い肌。筋肉質な体格。ウサギの耳のような白いカチューシャ。
目が鋭い。
「禪院直哉か」
「そうですわ」
ミルコが直哉を上から下まで見た。
「細いな。雄英の一年にしては」
「速さを主軸にした個性で戦っとるんです」
「どんな個性だ」
「説明が難しいですわ。見ていただいた方が早いですわ」
ミルコが少し考えた。
「いいだろう。まず裏の訓練場に来い」
「今すぐですか」
「悪いか」
「……構いませんわ」
(挨拶もなしに訓練場か。効率はええな)
直哉はミルコの後に続いた。
裏の訓練場は広かった。
ミルコが訓練場の中央に立った。
「お前の個性を見せてみろ。全力で来い」
「俺を相手に全力で、ということですか」
「そうや」
直哉は少し間を置いた。
(まぁ、ええか)
投射呪法を起動した。
五重ね。
空写を展開した。
ミルコの重心移動を読む。
筋肉の収縮パターンを読む。
(速い)
空写がそれを確認した瞬間、直哉は設計を組んだ。
ミルコが動いた。
蹴りが来た。
直哉は投射呪法で一歩分の位置を変えた。
蹴りが空を切った。
「お?」
ミルコが目を細めた。
連続で来た。
右。左。跳躍からの踵落とし。
直哉は全てを回避した。
触れない。
触れる必要がない。
空写で全ての動きを先読みして、投射呪法で最短の回避経路を設計する。
ミルコの速さが上がった。
(本気で来とるな)
空写の処理が追いつくギリギリの速さだ。
(こいつ、本当に速いわ)
直哉は内心で認めた。
認めながら、回避を続けた。
三分が経った。
ミルコが止まった。
「お前、攻撃しないのか?」
「する必要がなかったので」
「ビビってたんじゃないよな?」
「ビビってたら、今頃当たってます」
ミルコが直哉を見た。
「……ハァ」
鼻から息を吐いた。
「面白いな、お前」
「ありがとうございます」
「褒めてない。なんで当たらないのか分からなかった。私が見えてるのか?」
「見えてます」
「どうやって?」
「投射強化の応用です。相手の重心移動と筋肉の収縮パターンを1/24秒単位で読みます」
ミルコが少し考えた。
「……それ、個性の延長か」
「はい。投射強化を感覚に応用したものですわ」
ミルコが「はん」と言った。
「面白い使い方じゃねえか」
「ありがとうございます」
ミルコが直哉に近づいた。
腕を組んで、直哉を見下ろした。
「お前、私をどう評価した? 最初に見た時」
直哉は一秒考えた。
正直に答えることにした。
「身体強化系の単純な個性。女性。期待は低かったですわ」
ミルコが「ほう」と言った。
怒る様子がなかった。
「今は?」
「……単純な個性を、ここまで極めるとは思わんかった」
「それだけか」
「あの速さは、俺の空写でギリギリ処理できる程度でした。余裕はなかったわ」
ミルコが少し笑った。
口の端が上がっただけだ。
「正直な奴だな」
「嘘をついても意味がないさかい」
「インターン中に私に勝てると思うか」
直哉は答えなかった。
一秒考えた。
「……今は無理です」
「なぜ」
「速さが俺の処理限界に近い。余裕がない状態では零駒が打てへん。技を使う隙がないですわ」
「零駒というのがお前の必殺技か」
「そうですわ」
「見せてみろ」
「相手に当てても構いませんか?」
ミルコが「当たらないだろう」と言った。
「当たります。零駒は相手に逃げ場を与えへん技です」
ミルコが「ほう」と言った。
「じゃあ見せてみろ」
直哉は空写を起動した。
ミルコの重心を読む。
投射呪法で設計を組む。
鏃で踏み込む。
零駒、一段目から三段目。
ミルコが回避しようとした瞬間、その動きが設計に組み込まれていた。
鏃が、ミルコの腕に触れた。
止めた。
触れただけだ。本来であれば呪力を流し込む段階だが、今日は止めた。
ミルコが「……」と言った。
無言だった。
一秒の沈黙。
「当たった」
「そうですわ」
「確かに避けたんだが」
「避け方が設計に組み込まれていましたわ」
ミルコがまた「ほう」と言った。
「面白い個性だな」
「おおきに」
ミルコが腕を組んだ。
「インターン中に私に勝てるようになれ。それが目標だ」
「達成できる保証はないですが、やりますわ」
「そういう答え方をする奴は嫌いじゃないぞ」
直哉はミルコを見た。
(女やけど、本物や…真希ちゃんを思い出して嫌になるわ)
最初の評価が変わった。
完全に変わったわけではない。しかし「期待は低い」から「一定の評価」に変わった。
(ウサギが最強に近いとは、思わんかったわ)
ミルコのところでのインターンが始まった。
パトロール。
ミルコは基本的に単独で動く。
直哉はその後ろについた。
「お前、パトロール中は何をしてるんだ」
「空写で周囲の気配を読んでいます」
「何が分かる?」
「異常な個性の気配。過剰な殺気。群衆の中の不自然な動き。大体のことは分かっとります」
ミルコが「使えるじゃないか」と言った。
「索敵に使えるなら話しかけながら動かなくていい。それだけやれ」
「分かりましたわ」
無言のパトロールが続いた。
直哉は空写を展開しながら、考えていた。
(反転術式)
このインターン期間中に、反転術式の習得を進める必要がある。
スナイプ先生との訓練で落花の情を完成させた。
次の課題は反転術式だ。
負と負の呪力を同時に扱い、その性質の変換を起こす。
前世では習得に至らなかった技術。
今世のこの体で習得するためには、何かきっかけが必要だ。
(原作知識では、エリちゃんが反転術式に近い個性を持っとる)
原作知識により、反転術式に近づくためのヒントがないかを探っていた。
(死穢八斎會か)
直哉は知っていた。
原作の知識として、この時期に死穢八斎會への突入があることを知っていた。
そしてその突入の中で、治崎廻という男と戦う機会があることも。
(治崎廻の個性は「分解と修復」。触れたものを分解し、再構築できる。俺にとっては相性が最悪の相手や)
零駒は近接が前提だ。
落花の情は遠距離攻撃を封殺できるが、地面ごと分解されれば足場を失う。
(エリちゃんの個性「巻き戻し」があれば、分解された体を戻せる。しかし——)
直哉は考えを止めた。
(俺は今、反転術式が使えへん。もし治崎に分解されたら、エリちゃんがいなければ死ぬだけや)
だから。
(あの子は、俺にとっても必要な存在かもしれへん)
直哉としては珍しい、打算に近い感情だった。
強くなるための素材として、エリちゃんの個性に興味を持った。
それが直哉の、エリちゃんへの最初の評価だった。
ある日、ミルコが言った。
「明日、ナイトアイ事務所で会議がある。お前も来い」
「俺もですか」
「突入メンバーの一人として連れて行く。文句あるか?」
「ないです」
翌日。
ナイトアイ事務所に着いた。
会議室に入ると、既に多くのプロヒーローと警察、そして雄英の生徒たちが集まっていた。
緑谷。切島。麗日。蛙吹。
ビッグ3のミリオ、天喰と波動もいる。
サー・ナイトアイが立っていた。
長身。眼鏡。表情が固い。
「本日は集まっていただき感謝します。状況を説明します」
部屋全体が静まった。
「ナイトアイ事務所が追っていた死穢八斎會の若頭・治崎廻。彼は個性消失弾の製造と流通を行っていることが確認されました。その製造には壊理と呼ばれる女児の個性が使われています」
直哉は黙って聞いていた。
(知っとる。全部知っとるわ)
しかし知らないふりをした。
「壊理の居場所が特定されました。八斎會の本拠地、その地下施設です」
「やったら今すぐ行きましょうよ!」
ファットガムが大声で言った。
大柄な体格をした、関西弁のプロヒーローだ。
「こうしてる間もエリちゃんいう子、泣いているかもしれへんのやぞ!」
グラントリノが「焦っちゃあいけねえ」と制した。
小柄で老齢だが、気配は鋭い。
「下手に大きく出て捕らえ損ねた場合、火種が更に大きくなりかねん。ステインの逮捕劇が連合のPRになっちまったようにな。むしろ一介のチンピラに個性破壊なんつー武器流したのも、そういう意図があっての事かもしらん」
ファットガムが「……考え過ぎやろ。そないな事ばっか言うとったら身動きとれへんようになるで!!」と言った。
議論が続く中、相澤が手を上げた。
「あのー……一つ良いですか」
相澤はいつも通り淡々とした顔だ。
「どういう性能かは存じませんがサー・ナイトアイ。未来を予知できるなら、俺たちの行く末を見ればいいじゃないですか。このままでは少々……合理性に欠ける」
ナイトアイが頭を垂れた。
「……私の予知性能だが、発動したら24時間のインターバルを要する。つまり1日1回、1人しか見ることができない」
「それでも見てくれればよくないですか」
「見る対象の未来を変えてしまう可能性がある。それが……怖い」
ナイトアイが静かに言った。
「最悪の未来を見た時、それが確定してしまうかもしれない。だから私は……使うタイミングを慎重に選んでいる」
「ナイトアイ! よくわかんねえな。いいぜ、俺を見てみろ。いくらでも回避してやるよ」
切島が手を挙げた。
ナイトアイは首を振った。
会議室に沈黙が流れた。
「とりあえずやりましょう」
リューキュウが言った。
物静かな女性のプロヒーローだ。
「困ってる子がいる。これが最も重要よ」
「娘の居場所の特定・保護。可能な限り確度を高め、早期解決を目指します」
ナイトアイが続けた。
「突入時刻はAM8:30。各チームの配置を確認します」
そこへ。
「子供がなぜこんなとこにいるんだ」
ドレッドヘアの色黒のプロヒーロー、ロックロックが声を上げた。
直哉を含む雄英の生徒たちを見ていた。
「高校生だろ、お前ら。俺でも怖い相手だぞ、死穢八斎會は」
緑谷が「でも僕たちも……!」と言いかけた。
相澤が「連合が関わってくる可能性があると聞かされたろ。話は変わってくる。ただなァ……緑谷。お前はまだ俺の信頼を取り戻せていないんだよ」と言った。
緑谷が顔を伏せた。
直哉はその一連を、部屋の端から見ていた。
(ロックロック。根は悪くない。ただ心配が言葉に出てしまう人間や)
直哉は会議室を見渡した。
プロヒーローたち。
警察。
雄英の生徒たち。
全員が、壊理という子供の救出のために集まっている。
(俺は……なぜここにいるか)
ミルコの突入メンバーだからだ。
そしてもう一つ。
治崎廻と戦うためだ。
(あの男と戦うことで、より戦闘技術が磨ける可能性があるからや)
直哉の目的は、他の全員とは微妙にズレていた。
ズレていることは、自覚していた。
しかし。
(まぁ、結果的にエリちゃんが助かるなら、同じことや)
ロックロックがまた口を開いた。
「いいぜ、信用されてねえんか」と言って、周囲のヒーローが「集中しましょ、ロックロック」と言った。
ファットガムが「そういう意味やないやろ、いじわるやな」と笑った。
ロックロックが「フン、そもそもよぉヤクザ者なんてコソコソ生きる日陰者だ。ヒーローや警察見て案外縮こまっちまったりしてな」と言った。
会議が続いた。
直哉は黙ったまま聞いていた。
(明日、突入するんや)
扇子を手の中で握った。
開かなかった。
会議が終わった後、廊下で緑谷が直哉に話しかけてきた。
「禪院くん、ミルコさんのところでインターンしてたんだね……! 知らなかった」
「ミルコは強い。学べることが多かった」
「そうやったんだ……あの、明日大丈夫?」
直哉は緑谷を見た。
「大丈夫やない可能性があるから聞いてるんか?」
「い、いや……でも治崎廻は本当に危険で……」
「知っとる」
「え?」
「強い相手だということは知っとる」
緑谷が少し考えた。
「禪院くんって……やっぱり怖くないの?」
直哉は少し間を置いた。
「怖いわ」
「え」
「治崎廻の個性は、俺にとって相性が悪い。足場を失えば俺の個性は機能が落ちる。怖くないわけがない」
緑谷が「そうか……」という顔をした。
「でも行くんだね」
「行く。行かへん理由がない」
直哉は歩き始めた。
「緑谷くん」
「え? なに?」
「エリちゃんのこと、助けるんやろ?」
緑谷が「……!」という顔をした。
直哉は振り向かなかった。
「俺はミルコと別ルートで動く。エリちゃんはデクくんとミリオくんに任せる。俺の戦いの邪魔になるはずや」
「邪魔、って……」
「事実として邪魔になる。だからその間に助ければええんちゃうか?」
それだけ言って歩き続けた。
(現状はまだエリちゃんが必要や)
直哉は考えた。
(反転術式が使えるようになれば、自分の傷は自分で治せる。エリちゃんの個性に依存する必要がなくなるわ。しかしそれまではエリちゃんの個性に依存することになる)
だから今夜は、明日の戦いのイーメジトレーニングを欠かさない。
治崎廻と戦う中で、死の際まで追い詰められて、新たな壁を突き破る可能性に。
(追い詰められんと覚醒せんかもしれへん。それが前世での一般的な強さを得る方法の1つやった)
直哉は空を見た。
夜だった。
月が出ていた。
(明日や。)
AM8:00。
警察署前に全員が集まった。
「グラントリノがいないよ……どうしたんだろ」
緑谷が呟いた。
サーナイトアイが答えた。
「あの人は来れなくなったそうだ」
「連合の件に大きな動きがあったみたいでな」
警察が続けた。
「悔しそうだったよ。だがまァこちらも人手は充分。支障はない」
「ヒーロー、多少手荒になっても仕方ない。少しでも怪しい素振りや反抗の意志が見えたらすぐ対応を頼むよ!」
ファットガムが天喰に何か手渡した。
「……何でカジキ。いただいておきます」
ナイトアイが全員を見た。
「相手は仮にも今日まで生き延びた極道者。くれぐれも気を緩めずに各員の仕事を全うしてほしい!」
「出動!」
全員が動き始めた。
ミルコが直哉の隣に立った。
「禪院」
「はい」
「お前は私と一緒に動く。前に出るな。ついてこい」
「分かりましたわ」
「ただし」
ミルコが直哉を見た。
「本当にやばくなったら、お前の術式を使え。遠慮するな」
直哉はミルコを見た。
(この人は、俺を戦力として見とる)
邪魔者扱いではなく、使える手駒として。
「分かりましたわ」
「それと」
ミルコが前を向いた。
「死ぬな。まだお前から学べることがある」
直哉は少し間を置いた。
「……ミルコも死なないといてください」
ミルコが「ハン」と言った。
「私が死ぬわけないだろ」
全員が八斎會の本拠地へ向かった。
空が青く、晴れていた。
(治崎廻)
直哉は歩きながら考えた。
(今日、俺は変わる。変われへんかったら死ぬかもしれへん)
どちらでもいい。
どちらに転んでも、直哉は前に進む。
それだけだ。