【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
「なぁ、今の自分がどうなっとるか分かる?」
「分からへんやろな。僕もこれ、説明するん面倒やし。……まぁ、せいぜい自分の無力を噛み締めて死ねや」
お待たせしました。オーバーホール編、クライマックスです。
最速のその先、彼が秘めていた「異物」の正体。
それは、この世界の住人が一生かかっても理解できない、呪術の極致の一つ。
ドブカスによる、ドブカス好きのための愉悦会。
蹂躙の幕開けです。
※キャラの言動、ストーリー展開に独自解釈(崩壊の可能性)が含まれます。
ご注意ください。
【お知らせ】
皆様の評価や感想が、直哉の「あっち側」への渇望をより一層強くします。
格付けの完了を見届けたら、ぜひ足跡を残していってください!
評価が100数を超えたら
今まで直哉が関わってきた主なクラスメイトやヒーロー、ヴィランについて
批評をするssを番外編で作るかもしれません…
直哉のキレのある批評に興味が湧いた方は是非!
地下施設は迷宮だった。
壁が動く。床が変形する。通路が塞がれる。
入中常衣の個性「擬態」が八斎會の本拠地全体を生きた迷路に変えている。
ミルコが壁を蹴り破った。
「邪魔くさいな」
一言言って、また壁を蹴った。
直哉はその後ろについた。
空写を展開している。
地下施設全体の気配を読む。
(ミリオくんが先行しとる。エリちゃんの気配は……深い。まだ下や)
「禪院」
ミルコが振り返らずに言った。
「前方に複数の気配。私が突破する。お前は後ろを塞げ」
「分かりましたわ」
ミルコが加速した。
壁を蹴り、天井を蹴り、直線で突き進む。
八斎衆が立ちはだかった。
「止まれ、ヒーロー……!」
ミルコの脚が唸った。
一蹴りで二人が吹き飛んだ。
「でけえ奴といい……怖くねえのかよ!」
後ろでロックロックの声が聞こえた。
「まっすぐ最短で目的まで!!」
ファットガムの声も聞こえる。
他のチームが別ルートで進んでいる。
直哉は空写で全体を把握しながら、ミルコの後ろを守り続けた。
通路を曲がった。
また曲がった。
深く、深く、地下へ降りていく。
(治崎廻…オーバーホールの気配が……近い)
空写が反応した。
(これは……AFOとは違うわ。しかし、重い気配や)
治崎廻の個性は「分解と修復」だ。
触れたものを分解する。
再構築する。
自分の体を他者と融合させることもできる。
(足場を奪われれば、鏃が使えなくなる。零駒も近接が前提や。地面ごと分解される状況では、俺の術式の大半が機能を失う)
分かっていた。
分かった上で来た。
(せやけど…)
直哉は右手に呪力を集めた。
(行くしかないやろ)
通路の奥に、男がいた。
白いマスク。
清潔な服。
冷たい目。
治崎廻。
オーバーホール。
「……ヒーローか」
治崎が言った。
「汚らわしい」
ミルコが前に出た。
「私が行く」
直哉は止めなかった。
ミルコが跳躍した。
脚が唸る。
しかし治崎が床に触れた。
地面が隆起した。
石の棘が無数に生えた。
ミルコの軌道が変わった。
「チッ……!」
回避したミルコに、壁から棘が迫った。
直哉は投射呪法で割り込んだ。
鏃でミルコを押しのけ、棘の軌道から引き出す。
「……!」
ミルコが「お前……!」と言った。
「俺が前に出ます」
「なぜだ」
「ミルコは他のルートへ。エリちゃんの気配が西にある。そっちで戦力が必要や」
「お前一人で治崎廻と戦うつもりか」
「やってみます」
「無茶だ」
「…分かっとります」
直哉はミルコを見た。
「ミルコ。俺は今日、ここで変わる必要があるんや」
ミルコが直哉を見た。
一秒の沈黙。
「……死ぬなよ」
「死ぬつもりはないですわ」
ミルコが舌打ちをした。
そして走った。
別ルートへ。
直哉は治崎廻と、二人きりになった。
「……一人か」
治崎が言った。
「まぁいい。どうせ全員、同じだ」
「同じ?」
「病原菌は一匹でも百匹でも、同じように消毒するだけだ」
直哉は治崎を見た。
(…原作通りの性格やな)
「個性は病気、ヒーローは病人。それがあんたの思想なんか?」
「そうだ。お前たちヒーローが跋扈するこの社会こそが、病んでいる」
「面白い考え方やな」
直哉は扇子を取り出した。
開いた。
「俺の個性は正確には個性やないんやけど、それも病原菌扱いをするんか?」
「力を持つ時点でどちらでも同じだ。この場所を汚すな」
治崎が床に手をついた。
地面が割れた。
石の柱が無数に隆起した。
直哉は投射呪法で跳んだ。
天井を蹴る。壁を蹴る。
石柱の間を縫うように移動した。
(速さで翻弄する。地面には触れさせへん)
鏃を放った。
治崎が地面を再構築して防いだ。
石の壁が瞬時に出現した。
(足場を作りながら防御もしとる。地面ごと動かされると、こっちの設計が狂うわ)
投射呪法は「固定された空間」を前提とした設計だ。
地面が動く空間では、設計のたびに再計算が必要になる。
(処理が重くなるやんけ…)
治崎が追いかけてくる。
地面を触れながら、石の構造物を次々と生成する。
部屋全体が、治崎の意のままに変形していく。
「速いな」
治崎が言った。
「だが」
地面全体が一斉に隆起した。
床が消えた。
直哉の足場がなくなった。
(っ……!)
落下する。
投射呪法で壁を蹴ろうとした。
壁が変形した。
蹴る場所がなくなった。
(こっちが押されとる。まずい!)
落下の途中、治崎が地面から棘を生やした。
直哉は体を捻った。
棘が右肩をかすめた。
着地した。
しかし足元の地面が即座に分解された。
沈む。
呪力で跳んだ。
何とか脱した。
(これは、きつい状況やな…)
右肩から血が出ていた。
かすり傷だ。深くはない。
しかし。
(零駒が打てへん。接近する前に足場を奪われる。鏃も地面が動くと設計が狂う。落花の情は遠距離攻撃には有効やけど、治崎の個性は接触型や。意味をなさへん)
打てる手が、一つずつ潰されていく。
治崎が近づいてきた。
「もう終わりか?」
余裕の声だ。
「ヒーローも、ヴィランも、みんな同じだ。結局は塵に還る」
直哉は治崎を見た。
「塵……」
「そうだ。お前も、その個性まがいも、この場所を汚す塵に過ぎない」
治崎が手を伸ばした。
直哉は後退した。
しかし背後の壁が隆起した。
逃げ場がない。
治崎の指が、直哉の左腕に触れた。
分解が始まった。
「……ッ!!」
左腕の感覚が消えていく。
指先から、手首から、肘へ向かって。
(体の一部が消えていっとる…このままだと死ぬ!)
直哉は左腕を引いた。
肘から先が、胴体の一部が石のように崩れかけていた。
「これが俺の個性だ」
治崎が言った。
「病を消毒するように、分解する。お前の腕も、その個性まがいも、存在ごと消える」
直哉は、崩れかけた左腕を見た。
感覚がない。
呪力の流れが断ち切られている。
(終わりなんか…これで)
一瞬、そう思った。
しかし。
(誰が)
何かが、直哉の内側で動いた。
(…誰が塵や!!)
「塵……?」
直哉は俯いたまま言った。
「誰が……」
身体と左腕の崩壊が止まった。
正確には、止まったのではない。
何かが、崩壊に抗っていた。
「誰が、誰に向かって言うとんねん……!!」
直哉の脳内で、何かが弾けた。
恐怖ではない。絶望でもない。
自分が汚されたという事実に対する、沸点を超えた「不快感」。
「俺は、特別なんや。五条くんや甚爾くん…あの人らと同じ側に……俺は、おらなあかんのや!!」
直哉の体から呪力が溢れた。
今まで感じたことのない質の呪力だ。
負の呪力ではない。
正の呪力。
反転術式。
「俺は、あっち側へ行く人間なんや…!」
崩れかけた左腕が、光った。
壊れかけていた身体が戻っていく。
骨から、筋肉から、皮膚から。
逆再生するように、再生した。
完全に。
傷一つなく。
「俺だけは……誰にも汚されてええ存在やないんやぁ!!」
呪力が爆ぜた。
治崎が後退した。
初めて、その顔に動揺が走った。
「……何だ、今のは」
「俺が聞きたいわ」
直哉は再生した身体と左腕を見た。
感覚が戻っている。
呪力の流れが戻っている。
それだけではない。
何か新しいものが、直哉の中に生まれていた。
正の呪力の流れ。
反転術式。
そしてその反転術式を、「外」に向けて放つ感覚。
(これが……術式反転!)
直哉は右手を、空中に向けた。
正の呪力を、指先に集めた。
投射呪法の「軌道を設計する」という機能を、「対象の時間ごと固定する」へと反転させる。
(反転術式……『空虚呪法』)
「もう一度やってみ」
直哉は治崎に言った。
「今度は、逃げへんから」
治崎の目が細くなった。
「……再生した。それがさっきの個性もどきか?」
「これは個性…いや術式や。あんたには関係ない」
「興味深い。だが結果は変わらない。」
治崎が地面に触れた。
石の構造物が隆起する。
無数の棘が直哉へ向かった。
直哉は動かなかった。
右手を前に出した。
正の呪力を放った。
棘が、止まった。
空中で、止まった。
治崎が「……?」という顔をした。
「何が起きた」
「俺の術式の反転や」
直哉は止まった棘を見た。
「拡張術式:空写は1/24秒で対象の動きを読む術式や。その反転は……1/24秒で、対象の時間を固定する」
「固定……?」
「そうや。今、あの棘は俺のフレームの中で止まっとる。動かしたければ、1万年かけて1ミリ動かしてみたらええ」
治崎が地面に再度触れた。
別の場所から棘を生やした。
直哉は左手も前に出した。
そちらも止まった。
「……!」
治崎が初めて、明確な焦りを見せた。
「ふざけるな。そんな個性もどきで……」
「個性やない。術式や。何度も言わせるな」
直哉は前に進んだ。
治崎が後退した。
「止まれ。来るな……!」
「嫌や」
直哉は歩き続けた。
治崎が地面全体を分解しようとした。
直哉は空虚呪法を展開した。
地面の分解が止まった。
治崎が融合しようとした。
止まった。
治崎の動きが、全て、直哉のフレームの中で固定されていく。
「な、なぜ……!」
「空写は対象の動きを1/24秒で読む。空虚はその逆や。対象の時間を1/24秒で固定する。あんたが何をしようとしても、動作の始まりで止まる」
(初使用やから念の為縛りで術式の開示をして効力を上げてみとるが…想像以上や。開示の縛り自体が必要やなかったかもしれんわ)
治崎の手が、地面に向かおうとした。
止まった。
地面に触れる、その一瞬前で。
「……ッ!」
治崎が叫んだ。
「何だ、これは! なぜ動けない!!」
「俺のフレームの中では」
直哉は治崎の目の前に立った。
扇子を取り出した。
開いた。
仰いだ。
「プロも、ヴィランも、俺のフレームの中ではただの標本やね」
治崎が直哉を見た。
初めて、恐怖に近いものが、その目にあった。
「……お前は何者だ」
「禪院直哉。ヒーロー名はナオヤ。雄英高校一年A組。それだけや」
「そんな個性もどき…術式?など聞いたことがない……!」
「当然や。本来ならこの世界には存在せえへんものやさかい」
直哉は扇子を閉じた。
「治崎廻…いやオーバーホール」
「……」
「あんたの個性は、確かに強かった。足場を奪われたら俺の術式は機能を失う。実際、身体の一部そして左腕を分解されかけとったわ」
直哉は再生した左腕を見た。
「でも、それが限界や」
「貴様……!」
「あんたの個性は『触れなければ発動できへん』。俺の空虚は『動作の始まりを固定する』。触れようとした瞬間に固定されれば、あんたの個性は何も出来ひん」
必死に動こうとするが、それを止めるように空間自体が固定されており「カチッ…カチッ…」と空間に歪みをが軋みを上げながらオーバーホールは無慈悲にフレームの中に収められている。
「カチッ、カチッって……頑張っとるね。指、1ミリ動いたんちゃう? けど、その無駄な足掻きがすでに醜いわ。僕のフレームを汚さんといて」
扇子で治崎の頬を軽く叩く。
「……あぁ、あんたのその『意思』だけは、固定できへんのが唯一の欠点やね。まぁ、動けへん肉体の中で、せいぜい自分の無能さを呪い続けたらええわ。死ぬまで、反省も後悔も許さへんから」
治崎が再度動こうとした。
しかし全ての動作が止まった。
「そしてそもそもその僅かな動きそのものが騒がしいわ。1フレームも動かんと、そこで綺麗な置物になっとき」
「……っ……!!」
「そもそも」
直哉は治崎を見た。
「あんたは俺を『塵』と言った」
「……」
「俺が、誰かに汚される存在やと思ったか」
治崎が何も言えなかった。
「俺は、禪院直哉や。俺だけは、誰にも汚されてええ存在やない。それは、あんたが消毒しようとした瞬間に証明された」
直哉は一歩、後ろに下がった。
空虚の固定を、少しずつ解除した。
治崎の体に、少しずつ動きが戻った。
「……慈悲を与えたつもりか」
治崎が言った。
声が、かすれていた。
「逃がすわけやない」
直哉は扇子を開いた。
「俺が去るだけや」
「……なぜ、殺さない」
直哉は治崎を見た。
少し考えた。
「殺してあげるのは、優しすぎるわ」
「……」
「生きて。全部失ったまま、その綺麗な顔で後悔し続ければええ」
治崎が「……」と言った。
何も言えなかった。
直哉は治崎に背を向けた。
扇子を仰ぎながら、歩き始めた。
(終わった)
左腕を動かした。
身体の一部にも触れて確認をした。
完全に再生している。
反転術式が機能した。
空虚呪法が、使えた。
(次の段階に…来たんや!)
直哉はそれだけ確認して、深部へ向かった。
通路を曲がったところで、緑谷と鉢合わせた。
緑谷の顔が「禪院くん……!?」という顔をした。
腕が傷だらけだ。戦ってきた証だ。
「治崎廻は?」
直哉は後ろを親指で指した。
「奥にいる。生きとるよ」
「え……どういう……」
「俺が倒したわ。ただし殺してへん」
緑谷が目を見開いた。
「一人で……?」
「そうや」
「……禪院くんの腕、さっきまで血が出てたのに……今は……」
「治っとるやろ」
「治った……? それって……」
「…個性の応用や。今日、使えるようになったわ」
緑谷が「……!!」という顔をした。
「身体の再生!?すごい……! じゃあエリちゃんの個性がなくても……」
「そういうことや」
直哉は緑谷の横を通り過ぎようとした。
「禪院くん」
緑谷が呼び止めた。
「なんや」
「……一緒に行こう。まだ終わってない」
直哉は止まった。
緑谷を見た。
腕が半壊している。
それでも前を向いている。
(こいつは)
「緑谷くん」
「え?」
「エリちゃん、頼むわ。あの子を扱えるのは、今の状態では緑谷くんしかおらへん」
(反転術式が使える以上、もうエリちゃんに興味はない。めんどいことは避けるだけや)
「……僕は……」
「俺は別で動く。同じ場所に二人いる必要はない」
直哉は歩き始めた。
「緑谷くんのエリちゃんへの気持ちは本物やろ。なら行け。迷うなや」
緑谷が「……うん!」と言った。
走り始めた。
直哉は反対方向へ歩いた。
(エリちゃんなあ…)
直哉は考えた。
(今日、俺は反転術式を覚えた。もう小さいガキに縋る必要も無くなったんや)
それは事実だ。
しかし。
(原作知識から考えて……それでも、あの子は緑谷くんには必要なパーツや)
直哉には関係ない話だ。
直哉はそう判断した。
(俺は俺の道を行く。あの子はデクくんと共に歩く。それでええ)
(あの子に泣かれると、俺の綺麗な顔に泥がかかるわ)
扇子を仰ぎながら、直哉は地下を進んだ。
戦いが終わった。
死穢八斎會の本拠地が制圧された。
地上に出た時、青空が広がっていた。
直哉は地面に座った。
扇子を開いた。
仰いだ。
(疲れたわ)
珍しく、そう思った。
左腕を動かした。
完全に動く。
反転術式で治した腕は、分解される前と何も変わらない。
(これが反転術式か)
前世では直哉には使えず、使用できるものは貴重な部類の技術だった。
そしてこの体で覚えるには、死の瀬戸際まで追い詰められる必要があった。
(オーバーホールには感謝しとかなあかんな)
心の底から思っていない感謝だった。
ミルコが近づいてきた。
腕に傷がある。戦ってきた証だ。
「生きてたか」
「無事に生きとります」
「治崎廻は?」
「倒しましたわ。生かしとります」
ミルコが「ほう?」と言った。
「相手の個性は特に危険だった。気絶させて無力化しないといけない程にはだ。なぜ気絶(半殺し)するまで制圧しなかった?」
「楽に殺してあげる(意訳:気絶)のは優しすぎると思ったんですわ」
ミルコが少し笑った。
「お前らしいな」
「…そうですか」
「腕の傷は?」
「治しましたわ」
「治した……?」
「個性の新しい使い方を覚えましたわ。今日、できるようになりました」
ミルコが直哉を見た。
「……インターン中に新しい技を身につけたか」
「結果的にそうなりましたわ」
「そういうことか」
ミルコが空を見た。
「まぁいい。ナイトアイが……」
そこで言葉が止まった。
直哉はミルコの顔を見た。
何か、重いものがあった。
「ナイトアイが、やばい状態だ」
直哉は黙った。
(知っとる)
原作の流れを知っていた。
サー・ナイトアイは、この戦いで致命傷を負う。
「病院に運ばれてる」
ミルコが言った。
「お前も行くか」
直哉は少し考えた。
「……行きますわ」
立ち上がった。
扇子を閉じた。
ポケットに入れた。
(サーナイトアイ)
直哉は歩き始めた。
何かを言おうとして、止めた。
(俺には、かける言葉がないわ…せやけど)
ーあの人なら未来を変えられたかもしれん
ただ歩いた。
地上の空は、まだ青かった。
病院の廊下。
緑谷が泣いていた。
ミリオが壁に背を預けていた。
相澤が目を閉じていた。
ファットガムが床を見ていた。
直哉は廊下の端に立った。
何も言わなかった。
(サーナイトアイは死ぬ)
知っていた。
それでも、この空気の重さは、知識とは別物だった。
緑谷が顔を上げた。
直哉に気づいた。
「……禪院くん」
「……」
「ナイトアイさんが……」
「知っとる」
緑谷が泣きながら直哉を見た。
「禪院くんは……悲しくないの?」
直哉は少し考えた。
「悲しい、という感情が正確かどうか分からへん」
「……」
「ただ」
直哉は廊下の奥を見た。
「惜しい人が死ぬのは、損失やな。勿体無いわ。」
緑谷が泣き続けた。
直哉は何も言わなかった。
ただ、廊下の端に立ち続けた。
(治崎廻…オーバーホール)
直哉は考えた。
今頃、捕らえられて護送される頃だ。
そしてその護送中に、ヴィラン連合が現れる。
死柄木弔が、治崎廻から両腕を奪う。
(変化がないなら俺が知っとる通りになるはずや)
「生きて。全部失ったまま後悔し続けて」
直哉が言った言葉が、現実になる。
(それでええ)
直哉は扇子を取り出した。
開こうとして、止めた。
ここは病院だ。
扇子を仰ぐ場所ではない。
直哉はポケットに戻した。
廊下の向こうで、緑谷がまだ泣いていた。
ミリオが静かに壁に寄りかかっていた。
(俺は……今日、確かに壁を破ったんや)
反転術式。
術式反転・空虚呪法。
それだけではない。
治崎廻と戦った後の、何か。
(塵と言われた…俺が塵やないことを証明したんや)
それだけのことだ。
しかし。
(俺は今日、より「あっち側」へ近づいたわ)
直哉はその感覚を、静かに確認した。
誇らしいわけではない。
ただ、確かめた。
自分が今、どこにいるかを。
廊下の奥で、扉が開いた。
誰かが出てきた。
泣いている。
直哉は目を閉じた。
(……やっぱり、俺とは住む世界が違うわ。あいつらは泥を啜って『塵芥』の中で生きていけばええ。俺は、独りで『特別』におるわ)
そう思い改めて今日の出来事を噛み締めた
(次や)
まだ先がある。
まだ上がある。
直哉は目を開けた。
廊下を歩き始めた。
出口に向かって。
ここが描きたかったその2です!
ターニングポイント2でもあります!
インターン編クライマックス、ご視聴ありがとうございました。
治崎の「分解・修復」という理不尽を、さらに上の次元から塗り潰す。それが禪院直哉という男だと思っています。
死の間際で呪力の核心に触れ、反転術式を、そして空間を固定する術式反転の「空虚呪法」を習得した直哉。
彼にとってエリちゃんの個性による救済は不要でした。なぜなら、彼は自力で『あっち側』へ至る術(すべ)を持っていたからです。
「俺のプライドに触んな言うたやろ」
治崎をただの塵として処理し、救いすら「不快」と言い放つドブカスっぷり。これこそが私が書きたかった直哉の姿です。
さて、次回からは文化祭編。
覚醒した直哉が、雄英の「お遊戯会」をどうプロデュース(蹂躙)するのか、ご期待ください。
こちら今回の術式反転の解説になります
術式反転:『空虚呪法(くうきょじゅほう)』設定まとめ
1. 基本概念
• 定義: 投射呪法の「自分を24fpsで加速させる」順転に対し、**「対象の時間を24fpsで強制固定・鈍鈍化させる」**術式反転
• イメージ: 映画のフィルムがジャムった(詰まった)状態。あるいは、超高性能なカメラのシャッターを強制的に切り続けられ、一瞬一瞬を「静止画」として切り出される感覚。
2. 効果の詳細
• 多重フリーズ: 通常の術式では「触れて1秒停止」だったが、反転では連続してフリーズを付与できる。解除された瞬間に次の1コマを固定することで、相手は「ガクガクとした超スローモーション」あるいは「完全停止」状態に陥る。
• 空間の支配: 掌で触れるだけでなく、直哉の呪力が届く範囲(あるいは視界内)の空間そのものを「24fpsのフレーム」にハメ込む。
• 物理法則の破壊: 相手が無理に動こうとすると、順転のルール(24fpsに合わせられないと1秒フリーズ)が強制発動し、自分の勢いで自分の肉体を破壊(自爆)させる。
今回の話って良かったですか?
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まあ、ええんちゃう?(面白かった)
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ええやんか。評価押したるわ(評価ポチ)
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そないオモロかったか?(面白くない)