【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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一部原作と違うところがあります。
ご注意ください。
あと直哉のドブカス性が薄いかもしれません。
描くのって難しいですね…
今回も駄文です。
ガバガバ内容で申し訳ございません。


第3話:入学編「ヒーローごっこ、始まり」

 

更衣室でコスチュームに着替えながら、直哉は自分の格好を確認した。

 

 入学前に禪院家の伝手で業者に依頼したものだ。直哉が指定したデザインは明確だった。前世の記憶の中にある衣装、白を基調とした和風の詰襟スタイル。それを現代の素材で再現させた。動きやすさのために関節部分には余裕を持たせ、呪力を全身に巡らせやすいよう締め付けは最小限にしてある。

 

 鏡の中の自分を見て、直哉は少しだけ目を細めた。

 

(……まあ、ええか)

 

 感傷に意味はない。ただ、これが自分の戦闘服だ。それだけのことだ。

 

 隣で切島が着替えながら話しかけてきた。

 

「禪院のコスチューム、和風だな! めちゃくちゃ様になってるじゃん!」

 

「動ければそれでええんや」

 

「かっこいいよ! 俺のも見てくれよ、硬化に合わせてゴツめにしたんだけど」

 

「……まあ、個性に合っとるんとちゃうか」

 

「そうだよな!!」

 

 切島が満足そうに拳を握った。

 

 上鳴が派手な黄色のコスチュームで現れた。

 

「どうだ! 俺のコスチューム!」

 

「目が痛い」

 

「辛辣!!」

 

「正直に言うただけや」

 

「もう少し気遣いをだな……」

 

「いらんやろ、気遣い」

 

 直哉はそのまま更衣室を出た。廊下で常闇が一人で立っていた。黒いマントに鳥のような面。A組の中でも一際異質な見た目だ。

 

「常闇くんコスチューム、一番まともやな」

 

「……む。それは褒め言葉と受け取っていいのか」

 

「褒めとるわ。変に派手にしてへんのが良い」

 

「……感謝する、禪院」

 

 常闇が静かに頷いた。直哉は特にそれ以上何も言わず歩き出した。

 

グラウンドβ前に集合したA組の前に、金色の巨体が現れた。

 

 オールマイト。

 

 直哉は、その存在を目の当たりにした瞬間、内心で何かが動いた。

 

(……でかい)

 

 身長からして規格外だ。だがそれだけではない。この男から放たれる何かが、直哉の感覚に引っかかった。呪力ではない。だが確かに存在する力ー前世の記憶の中で特級術師や悟くんから感じたものに近い、「格」のようなもの。それがこの男からは溢れ出ている。

 

(残火とはいえ流石はオールマイトって感じやな)

 

「来たか若者諸君!! 私がヒーロー基礎学を担当するオールマイトだ!!」

 

 クラスが一気に沸いた。

 

「オールマイト本物だ!!」

 

「マジで先生なの!?」

 

「すごすぎる……!」

 

 直哉は沸き立つクラスを横目に、オールマイトを観察し続けた。

 

(……前世の記憶にある悟くんは種類が違う。あっちは術式と呪力による超越やった。こっちは純粋な力の塊みたいな感じやな。壁の向こう側にいる人間であることは間違いない)

 

「本日の授業は室内戦闘訓練だ!!ヒーロー側とヴィラン側に分かれ、建物内で戦う!!ヴィラン側は核兵器に見立てたボールを死守するか、ヒーロー側を撃退することが目的!!ヒーロー側は確保テープをヴィランに貼るか、核兵器を確保することが目的だ!!」

 

「個性使っていいんですか!!」上鳴が興奮した。

 

「もちろんだ!!ただし相手を再起不能にするような攻撃は禁止だ!!」

 

「くじの結果、組み合わせはこうだ!!」

 

 オールマイトが紙を広げ、読み上げ始めた。

 

 Aチーム、緑谷出久と麗日お茶子。

 Bチーム、爆豪勝己と飯田天哉。

 第1戦はAチームヴィラン対Bチームヒーロー。

 

 Cチーム、轟焦凍と障子目蔵。

 Dチーム、禪院直哉と葉隠透。

 第2戦はCチームヴィラン対Dチームヒーロー。

 

 Eチーム、切島鋭児郎と上鳴電気。

 Fチーム、芦戸三奈と尾白猿夫。

 第3戦はEチームヴィラン対Fチームヒーロー。

 

 Gチーム、八百万百と青山優雅。

 Hチーム、耳郎響香と蛙吹梅雨。

 第4戦はGチームヴィラン対Hチームヒーロー。

 

 Iチーム、峰田実と常闇踏陰。

 Jチーム、砂藤力道と瀬呂範太。

 第5戦はIチームヴィラン対Jチームヒーロー。

 

 読み上げが終わった。

 直哉は自分の組み合わせを確認した。ヴィラン側として葉隠透とペアを組む。相手は轟焦凍と障子目蔵だ。

 

(……なるほどな)

 

 直哉は轟を横目に見た。白と赤の髪。整った顔に感情の薄い目。推薦入試で入ったこの学年でもトップクラスの実力者だ。そして障子目蔵。複数の腕を持ちそれぞれに様々な感覚器官を生やせる個性だ。索敵と支援に優れる。

 

(……厄介な組み合わせやな。障子くんの感知能力があれば建物内の気配を探れる。轟くんの氷は制圧力が高い。ヒーロー側は確保テープを貼りに来る。防ぎながら核兵器を守り切る必要がある)

 

 直哉が考察をしていると葉隠が近づいてきた。透明な個性を持つ少女で、コスチューム姿だと手袋と靴だけが宙に浮いている奇妙な格好だ。

 

「よろしくね禪院くん!」

 

「ああ。葉隠ちゃんの個性は使えるな」

 

「え、そう? 嬉しい!」

 

「透明になれるなら索敵と陽動を担当してくれ。俺が前に出て轟を止める」

 

「前に出るって……相手轟くんだよ? 大丈夫?」

 

「大丈夫か大丈夫やないかは、やってみれば分かる」

 

「……禪院くんって度胸あるね」

 

「度胸とちゃう。計算や」

 

 葉隠が「そうなの?」と言った。直哉はそれ以上説明しなかった。

 

第1戦が始まった。

 

 直哉はモニタールームで腕を組みながら、映像を眺めた。

 

 緑谷と麗日がヴィラン側として建物に入り、核兵器の周囲を固める。外で爆豪と飯田がヒーロー側として待機している。

 

 開始の合図が鳴った瞬間、爆豪が建物に突入した。

 

「さっさと終わらせてやる!!」

 

「えっ飯田と連携しないの!?」上鳴が素っ頓狂な声を上げた。

 

「爆豪らしいと言えばらしいが……」常闇がモニターの前で眉をひそめた。

 

 直哉はモニターを眺めながら、爆豪の動きを分析していた。

 

(……速い。爆発の反動を推進力に変えるのが上手い。ただし感情的になりすぎとる)

 

 爆豪が緑谷を見つけた瞬間、迷わず突っ込んでいった。

 

「ぶっ殺す!!」

 

「えっ」上鳴が引いた。「ヒーロー側なのにその言い方……」

 

「爆豪だから仕方ない……」芦戸がため息をついた。

 

 緑谷が爆豪と向き合った。ワン・フォー・オールを腕に集中させる。直哉はその瞬間を見て、内心で確認した。

 

(……あの力、また使う気か。毎回腕が壊れとるのに)

 

 二人がぶつかり合った。爆豪の爆発と緑谷の一撃が激突するたびに、建物が揺れる。緑谷の腕が限界を超えていく。だが緑谷は止まらない。

 

「やばい……緑谷くん腕が……」麗日への心配が上鳴から漏れた。

 

「止まれって!!」切島が画面に向かって叫んだ。

 

 直哉は無言で見続けた。

 

(……なんで壊れながら動けるんや。痛みよりも大切なものがあるから動いとる。何が大切なのかは俺には分からんけど)

 

 飯田が建物内を高速で走り回り、核兵器の場所を探している。麗日がそれを必死に追いながら、吐き気をこらえる様子がモニターに映った。

 

「麗日さん顔色悪い!!」

 

「個性の使い過ぎで吐き気がするんだったっけ……」

 

 緑谷が爆豪に最後の一撃を叩き込んだ。全力のワン・フォー・オール。爆豪がその衝撃で吹き飛び、建物の壁に激突する。爆豪はボロボロだ。だが緑谷の腕も限界を超えていた。

 

 麗日が飯田を何とか食い止め、核兵器を死守した。

 

「ヴィラン側、Aチームの勝利!!」

 

 クラスが沸いた。直哉は小さく息を吐いた。

 

「緑谷くん!!」麗日の声がモニターから聞こえた。

 

 緑谷は両腕をボロボロにしながら床に倒れていた。爆豪も壁際でぐったりしている。

 

「二人とも保健室ね……」蛙吹が静かに言った。

 

(……勝ったが代償が大きすぎる。緑谷は毎回これをやっとる。いつか取り返しのつかないことになる)

 

 直哉はそう思いながら、モニターから視線を外した。

 

 全員がモニタールームに集まり、第1戦の総評が始まった。

 

「では第1戦について、皆の意見を聞かせてくれ!!」

 

「麗日さんがよかったと思います」飯田が真っ先に手を挙げた。「吐き気をこらえながら飯田……私を食い止めようとした。個性の限界の中でもヴィランとしての任務を果たし続けた」

 

「緑谷くんの根性は本物だと思うけど……」耳郎が続けた。「毎回腕が壊れてたら先が続かないよね」

 

「爆豪はどうだったんだ?」切島が聞いた。

 

「強かったとは思うけど……」蛙吹が静かに言った。「飯田くんと連携しなかったのはどうなのかしら。ヒーロー側なのにバラバラに動いてた」

 

「禪院くんはどう思う?」麗日がこちらを向いた。

 

 クラスの視線が集まった。

 

「MVPは麗日ちゃんや」

 

「え、そうかな……私、吐き気こらえながら必死だっただけで」

 

「それが任務やろ」直哉は淡々と言った。「吐き気がこようが個性の限界が来ようが、任務を続けた。緑谷くんが爆豪くんを引きつけた間、核兵器を守り続けた。結果、ヴィラン側が勝った。MVPは麗日ちゃんや」

 

「……禪院くんにそう言ってもらえると思ってなかった!」麗日が少し目を潤ませた。

 

「事実やから言うとるだけや。感謝は不要や」

 

「でもありがとう!」

 

「……好きにしろ」

 

「緑谷くんについては」直哉は続けた。「根性は本物や。ただ毎回腕を壊しとったら、いつか取り返しのつかないことになる。あれは早急に改善せんとあかん」

 

「爆豪については?」上鳴が聞いた。

 

「飯田くんと連携しなかったのは問題や。ヒーロー側の目的は確保テープを貼ることやったやろ。爆豪くん一人で緑谷くんを潰しに行っとる間に、飯田くんが核兵器を探せばよかった。実際飯田くんはそれをやっとったけど、爆豪くんがバラバラに動いたせいで麗日ちゃんが対処できた。連携があれば結果が違ったかもしれん」

 

 爆豪は保健室に運ばれていたのでその場にいないが、クラスが静まった。

 

「禪院くん、分析鋭いね……」芦戸が感心したように言った。

 

「見たら分かることやろ」

 

 オールマイトが口を開いた。

 

「禪院少年の分析は的確だ!!麗日少女は今日最も任務に忠実だった!!吐き気をこらえながら戦い続けたその根性は素晴らしい!!」

 

「ありがとうございます!!」

 

「緑谷少年については後ほど直接話す!!あの個性の使い方は早急に改善が必要だ!!」

 

「は、はい……」緑谷が保健室に運ばれる前に頷いていた声がモニター越しに聞こえていた。

 

「爆豪少年!!実力は申し分ない!!だが今日は感情が先走りすぎた!!飯田少年と連携できていれば、結果は違っていたかもしれない!!」

 

「飯田少年!!任務に対して最も冷静に動いていた!!だが単独では核兵器まで辿り着けなかった!!連携の重要性を改めて考えてほしい!!」

 

「はい!!」飯田が直立不動で答えた。

 

 

 第2戦の番が来た。

 

 直哉と葉隠がヒーロー側として建物前に陣取る。核兵器に見立てたオブジェを最上階の部屋にあると想定し、直哉は入口近くに陣取った。

 

「葉隠ちゃん、透明になって建物の周囲の様子を見てきてくれ。轟くんと障子くんがどう動いているか様子を教えてくれや」

 

「了解!」

 

 葉隠の気配が消えた。直哉は一人になり、呪力を全身に巡らせた。投射呪法を起動する。一秒を二十四のコマに分割し、建物全体の気配を薄く探る。

 

 開始の合図が鳴った。

 

 その瞬間だった。

 

 建物の中から、床を這うように猛烈な速度で氷が広がってきた。建物から外へ、地面から壁へ、一秒も経たずに建物全体や地面が氷に覆われていく。

 

「きゃっ!!」

 

 建物の外、奥から葉隠の声が上がった。

 

 直哉は即座に呪力を足裏に集中させ、氷の上に乗った状態で体勢を整えた。投射呪法で重心を細かく制御する。氷の上でも滑らない。

 

 だが葉隠の方を見ると、地面の床に足が完全に凍りついていた。

 

「あ、あれ……足が!!動けない!!」

 

「……足が凍った?」

 

「うん!!ていうか靴がないから直接凍っちゃって……!!」

 

(……靴がない)

 

 直哉は葉隠のコスチューム姿を改めて確認した。宙に浮いている手袋。靴下だけが宙に浮いている。靴はない。

 

(……透明個性のせいで体もコスチュームも透明になる。靴は脱いでなければ透明にならんから素足に近い状態で動いとる。そのまま氷を踏んだから足が直接凍りついた)

 

 しかしその瞬間、直哉はもう一つのことに気づいた。

 

(……待てよ。服も、着てへんのやないか)

 

「そのヒーロースーツ、後で改善した方がええな」

 

「今はそれどころじゃ!!」

 

「分かっとる」

 

 直哉は氷の上を滑らずに葉隠の元へ駆けた。呪力を乗せた拳で足元の氷を叩き割る。氷が砕けた。

 

「ありがとう!!」

 

「足は動くか」

 

「うん! 冷たいけど大丈夫!!」

 

「ならええ。一旦下がっとれ。足元を狙われたらまた同じことになる」

 

「え、でも」

 

「俺が合図したら動いてくれ。それまで待機しとれ」

 

「……わかった」

 

 葉隠が建物から一定の距離まで引いた。

 その時、障子が建物より行動を開始した。複数の腕に目や耳を展開し、周囲を探っている。轟は後方で控えている。障子が先行索敵、轟が制圧という陣形だ。

 

(……理に適っとる。厄介やな)

 

 直哉は気配を最小限に絞り、廊下の角に張り付いた。呪力を体の表面に薄く展開し、存在感を抑える。完全な気配遮断ではないが、障子の感知をある程度誤魔化せる程度にはなる。

 

 障子がこちらに向かって進んでくる。正確な位置は掴めていないようだ。

 

 もう少し。

 

 障子があと数メートルのところまで来た時、廊下の奥から物音がした。葉隠が壁を叩いた音だ。

 障子が反射的にそちらに目を向けた。

 

 直哉はその一瞬に動いた。

 

 投射呪法全開。一秒を二十四のコマに分割し、障子の動作の全てを把握しながら死角から踏み込む。呪力を乗せた掌底を障子の背中に叩き込んだ。

 

「っ! いた!!」

 

「轟!」

 障子が叫んだ瞬間、階段の方から轟が上がってきた。

 

 直哉は障子から距離を取り、轟と正面から向き合った。

 

「……禪院か」

 

「おう」

 

「強いと聞いた。個性把握テストの数値を見た」

 

「そうか」

 

 轟が右手を構えた。

 

 瞬間、廊下の床から天井まで巨大な氷柱が生えてきた。直哉に向かって猛烈な速度で迫ってくる。

 

(……速い。出力が尋常やない)

 

 直哉は左に跳んだ。氷柱が直哉のいた場所を埋め尽くし、廊下の壁に激突する。冷気が肌を刺す。

足元が氷になっている。

 

 直哉は呪力を足裏に集中させた。投射呪法を応用して、足の動きを細かく制御する。氷の上でも滑らない最適な重心移動を計算しながら一歩踏み出した。

 

「……なんで滑らない」

 

 轟が静かに言った。

 

「個性の応用や」

 

「増強系で氷上の制御ができるのか」

 

「できるな」

 

 轟が目を細めた。次の氷が来た。今度は逃げ道を塞ぐように複数方向から同時に迫ってくる。

 

(……賢い。逃げ道を計算して潰しにきとる)

 

 直哉は投射呪法で全ての氷柱の軌道をコマ単位で把握した。一秒を二十四に分割した視界の中で、氷柱の間に僅かな隙間がある。

 

 直哉は迷わず踏み込んだ。

 

 氷柱と氷柱の間、わずか数十センチの隙間を、呪力で強化した身体能力で通り抜ける。背中に冷気を感じながら、直哉は轟の懐に飛び込んだ。

 

「なっ」

 

 轟が咄嗟に後退しようとした。

 

 直哉は右手を轟の胸元に向けて、呪力を乗せた掌底を当てた。全力ではない。制圧を目的とした、相手を止める程度の出力だ。

 

 轟が後方に吹き飛んだ。壁に背中をぶつけて止まる。

 

「轟!」

 

 障子が体勢を立て直して直哉に向かってきた。複数の腕を広げ、直哉を囲もうとする。

 

「葉隠ちゃん、今や!!」

 

「うんっ!!」

 

 葉隠が障子の死角から飛び込んだ。透明な体で障子の腕に絡みつき、動きを制限する。障子が葉隠を振り払おうとして体勢を崩した。

 

 直哉はその隙に障子の背後に回り、確保テープを使って対象を確保し、制圧体制を作った。

 

「動くな」

 

「……っ」

 

 障子が動きを止めた。轟が壁から体を起こし、直哉を見た。

 

「……続けるか?」

 

 直哉が聞いた。

 

「障子が取られた。俺一人では厳しい」

 

「一人でも来い。その方が面白い」

 

 轟の目が一瞬だけ揺れた。それから静かに手を構えた。

 

 氷が床を這ってくる。障子を巻き込まない方向への展開だ。直哉は障子を解放して後退した。

 

 轟が追ってくる。氷を展開しながら距離を詰める。空間を凍らせて逃げ場を潰す戦法だ。

 

(……このまま移動し続けると追い込まれてジリ貧や。逆に言えば、時間を稼げれば葉隠ちゃんが核兵器までいける。だが、それまで持つかどうかや。)

 

 直哉は後退を止めた。

 

 呪力を両足に限界まで集中させた。投射呪法で自分自身の動きをコマ単位で最適化する。一秒を二十四に分割した世界の中で、轟が次の氷を展開するタイミングを読む。

 

 氷が来る直前、直哉は地を蹴った。

 

 呪力全開の跳躍。直哉の体が轟に向かって飛んでいく。轟が氷を展開しようとした瞬間、直哉はすでに轟の懐にいた。

 

 轟の右腕を掴み、氷の展開を途中で制する。そのまま轟を壁に押し込んだ。

 

「……っ」

 

「動けるか」

 

 直哉は轟の右腕を壁に押しつけたまま、静かに聞いた。

 

 轟は少しの間、静止した。

 

その隙を逃さずに隠密で葉隠が動き、核兵器にタッチした。

 

「ヒーロー側の勝利!!」

 

 モニタールームからオールマイトの声が響いてきた。

 

 直哉は轟から手を離した。

 

 轟が壁から体を離し、直哉を見た。

 

「……強いな」

 

「まあな」

 

「俺の氷を全部読んでいたのか」

 

「大体はな。全部とは言わんけど」

 

「炎を使わなかった俺に勝ったが、炎込みなら」

 

「炎込みやったら、今の俺では危ない場面がもっとあったと思う」

 

 轟の目が僅かに動いた。

 

「……正直だな」

 

「嘘をついても意味がない」

 

 葉隠が上階から駆けてきた。

 

「勝ったね!!禪院くんすごい!!」

 

「葉隠ちゃんの陽動、隠密がなければ俺も詰まっとった。ええ仕事したんちゃう?」

 

「え、褒めてくれた!? 嬉しい!!」

 

 直哉は葉隠の足元を見た。

 

「足は大丈夫か」

 

「うん、ちょっと赤くなってるけど大丈夫!」

 

「……そのヒーロースーツ、後で改善した方がええな」直哉は続けた。「靴がないから氷を踏んだ時に足が直接凍りついた。靴も透明にできる素材を探すか、足を保護する別の方法を考えた方がいい。それと」

 

「それと?」

 

「服も着てへんのやろ、本来」

 

 葉隠が一瞬固まった。

 

「……う、うん。透明になるとき全部透けちゃうから……」

 

「それも考えた方がいいんとちゃうか。実戦で体に直接攻撃が当たる状況になったら、保護がない分ダメージがでかくなる。後でちゃんと提案しとけ」

 

「うん、そうする! ありがとう禪院くん!」

 

 直哉は特に返事をせず、建物を出た。

 

 

全員がモニタールームに集まり、第2戦の総評が始まった。

 

「では第2戦について皆の意見を聞かせてくれ!!」

 

「禪院くん強すぎない?」上鳴が真っ先に言った。「轟くんの氷の上を滑らずに動いてたんだけど、増強系の個性でそれできるの?」

 

「個性の制御の問題や」直哉が答えた。「精度を上げれば氷の上でも最適な重心移動ができる」

「轟くんはどうだったの?」麗日が轟に聞いた。

 

「……読まれていた」轟が静かに答えた。「氷の展開パターンを大体把握されていた。距離の詰め方の計算が甘かった」

 

「でも轟くんの氷ってあんなに速いのに」緑谷が言った。「あれを読み切るって……禪院くんの個性、詳しく聞いていい?」

 

「長くなるからやめとくわ」

 

「え、そこで!?」

 

「葉隠ちゃん、最初に足が凍ってたよね?」蛙吹が静かに言った。「あれはコスチュームの問題?」

 

「そうなの!!」葉隠が続けた。「靴を脱いで透明にしてるから、氷を踏んだ時に直接凍っちゃって。禪院くんに指摘されたんだけど、ヒーロースーツ改善した方がいいよねって」

 

「それは確かに重要な指摘だ!!」飯田が力強く頷いた。「ヒーロースーツは個性との相性を最大化するものでなければならない!!」

 

「服も着てないもんな…」峰田がぼそっと言った。

 

 クラスに微妙な空気が流れた。

 

「ちょ、峰田くん!!」芦戸が峰田を小突いた。

 

「い、いや事実として言っただけで!!」

 

「それも含めて改善が必要ということだな」飯田が咳払いして言った。

 

「障子はどうだったんだ?」切島が障子に聞いた。

 

「陽動に一瞬反応してしまったのが痛かった」障子が答えた。「葉隠さんの気配が完全に消えていたため、物音への反応が遅れた。索敵と注意の分配に課題がある」

 

「禪院くんが戦闘中に葉隠ちゃんのコスチュームの問題まで気が回るって……」麗日が少し驚いた顔をした。

 

「相方の状態を把握するのは当然や。気が回るとかの話やない」

 

 オールマイトが口を開いた。

 

「第2戦のMVPは禪院少年だ!!個性の制御精度、戦況把握、相方への的確な指示と気配り、全てにおいて今日最も完成度の高い戦いを見せてくれた!!」

 

「……ありがとうございます」

 

「ただし課題もある!!」

 

「……何ですか」

 

「葉隠少女との連携を最初から詰めていれば、もっと早く決着がついていた!!相方との事前の意思疎通は重要だ!!」

 

 直哉は少し間を置いた。

 

「……その通りです」

 

 クラスがざわついた。直哉が素直に認めたことに驚いているらしい。

 

「当たり前やろ。正しいことを言われたら認めるわ」

 

「そういうとこだよ禪院は……」切島が苦笑いした。

 

「轟少年!!実力は申し分ない!!だが禪院少年の個性の特性を事前に把握していなかった分、対処が遅れた!!相手の個性を分析した上での戦略が必要だ!!」

 

「……次は把握した上で来ます」轟が静かに言った。

 

「障子少年!!索敵と連携は見事だった!!葉隠少女の陽動に一瞬反応してしまったのが痛かったが、それ以外の動きは評価できる!!」

 

「ありがとうございます」障子が低い声で答えた。

 

「葉隠少女!!透明という個性の活かし方は評価できた!!ただしコスチュームの改善は急務だ!!足元の問題は実戦では致命的になりかねない!!」

 

「はい!! 改善します!!」

 

 

続く戦闘訓練が進んでいった。

 

 第3戦、切島と上鳴がヴィラン側、芦戸と尾白がヒーロー側。上鳴が電気を制御しきれず自滅し、切島が芦戸の酸で徐々に削られてヒーロー側の勝利。

 

「俺の電気制御……まだまだだ……」上鳴が頭を抱えた。

 

「出力が上限を超えたら頭が働かんのやろ」直哉が横で言った。「ならその直前で止める感覚を身につけることや」

 

「……それって訓練でできるの?」

 

「さあな。やってみれば分かる」

 

 第4戦、八百万と青山がヴィラン側、耳郎と蛙吹がヒーロー側。耳郎のジャックで建物内の音を探知し、蛙吹の機動力で制圧してヒーロー側の勝利。

 

「八百万さんの創造は時間がかかるのが弱点ね」耳郎が淡々と評した。

 

「創造速度を上げる訓練が必要ですね」八百万が冷静に分析した。

 

 第5戦、峰田と常闇がヴィラン側、砂藤と瀬呂がヒーロー側。常闇の黒影が建物内の暗がりで猛威を振るい、砂藤と瀬呂を追い詰めた。だが瀬呂のテープで黒影の動きを封じる場面が生まれ、光の差し込む窓際に誘導された常闇が黒影を制御しきれなくなってタイム切れ引き分け。

 

「常闇、光が入ったら黒影が暴れかけてたな」切島が言った。

 

「……暗がりでこそ力を発揮する。それが黒影の本質だ」常闇が静かに答えた。「だが今日は相手の誘導が上手かった」

 

 

全ての総評が終わり、オールマイトが締めくくった。

 

「今日の全体MVPは禪院少年だ!!個性の制御精度と戦況把握が群を抜いていた!!しかし皆、それぞれに光るものを見せてくれた!!今日の経験を次に活かすように!!」

 

「はい!!」

 

 クラスが元気よく答えた。直哉は特に返事をしなかった。

 

 帰り際、轟が直哉の隣に並んだ。

 

「また手合わせしたい」

 

「ええよ。次は全部出してこいよ」

 

 轟の目が一瞬だけ揺れた。

 

「……考えておく」

 

「考えといてや。俺も次までに精度を上げとく」

 

 障子が後ろから近づいてきた。

 

「禪院、一つ聞いていいか」

「なんや」

 

「気配を誤魔化す動きをしていたな。増強系でそれができるのか」

 

「やり込めばな」

 

「……面白い個性だ」

 

「お前の索敵も厄介やった。あれがなければもっと楽に動けとった」

 

 障子が少し表情を和らげた。

 

「次は誤魔化されないようにする」

 

「来い」

 

 直哉はそれだけ言って、歩き出した。

 

(……今の俺では、轟くんが全部出してきたら危ない場面がもっとあった。反転術式が使えれば氷のダメージを無効化できた。拡張術式が使えれば、もっと広い範囲で投射呪法を展開できた)

 

 課題は山積みだ。

 

 反転術式の習得。拡張術式の再現。簡易領域の確立。そしていつか、領域展開へ。

 

 この世界での戦いを重ねながら、禪院直哉は少しずつ前世の高みへと還っていく。

 

 それだけが、今の直哉の目標だった。誰かのためでも、ヒーローのためでもない。

 ただ、強くなるために。

 

 




感想、評価付与いただけますと励みになります。
にわかなので内容が薄くならないようになんとか…なんとか…

呪術廻戦から直哉以外で原作キャラを登場させますか?(呪術側オリキャラ含めて)

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  • 登場させない
  • それよりドブカス(人の心とかないんか?)
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