【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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ご覧いただきありがとうございます。
文化祭編!…直哉には合わなさそうな出来事ですね…
ですが、この出来事でも重要なことがあるので!書いていきます!

キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意下さい。

感想、評価付与は直哉が自分の強さに自信持ちドブカス度が上がります!

評価が100数を超えたら
今まで直哉が関わってきた主なクラスメイトやヒーロー、ヴィランについて
批評をするssを番外編で作るかもしれません…
直哉のキレのある批評に興味が湧いた方は是非!


文化祭編
第30話:文化祭編「お遊戯会と、路上の道化」


 

 

 「文化祭の出し物はこちらになった!」

 

 飯田が黒板の前に立って宣言した。

 

 「A組はダンスとライブパフォーマンスだ! 全員で練習に励もう!」

 

 教室がざわついた。

 

 「ライブかー! いいじゃん!」

 

 上鳴が立ち上がった。

 

 「俺、バンドやりたい! 個性でエフェクトかけられるし!」

 

 「ダンスも楽しそう!」

 

 芦戸が言った。

 

 「私、リズム感あるし!」

 

 緑谷が「みんな楽しそうで良かった……!」という顔をしていた。

 

 直哉は窓際の席で、扇子を仰いでいた。

 

 「……あほくさ」

 

 小声で言った。

 

 隣の峰田が「え?」という顔をした。

 

 「お遊戯会なら幼稚園でやればええやん」

 

 「え、禪院は文化祭嫌いなの?」

 

 「嫌いとか好きとかやない。こういう集団的な熱狂が、生理的に受け付けへんだけや」

 

 峰田が「そ、そうか……」と引いた。

 

 飯田が直哉を見た。

 

 「禪院くんも参加してもらうぞ! A組一丸となって……」

 

 「俺はパスや」

 

 「パスは認められないぞ!」

 

 「そう」

 

 直哉は扇子を閉じた。

 

 窓の外を見た。

 

 (文化祭か)

 

 別にどうでもいい。

 

 クラスの出し物に参加する理由がない。

 

 直哉はそう思っていた。

 

 しかし。

 

 

 

 

 

 放課後。

 

 体育館で練習が始まった。

 

 耳郎が中心になってバンドの音合わせをしている。

 

 芦戸たちがダンスの振り付けを確認している。

 

 直哉は体育館の隅のパイプ椅子に座って、扇子を仰いでいた。

 

 関係ない。

 

 そのつもりだった。

 

 しかし。

 

 (ん…)

 

 空写が反応した。

 

 直哉の空写は、常時展開している。

 

 周囲の動きを自動で読み続ける。

 

 その空写が、耳郎のベースに反応した。

 

 (1フレーム、遅いわ)

 

 耳郎のベースの音が、他の楽器より1/24秒ズレている。

 

 ほんの僅かだ。

 

 人間の耳では聞き取れない。

 

 しかし直哉の空写には、それが分かった。

 

 (どうでもええ)

 

 直哉は扇子を仰いだ。

 

 しかし。

 

 (…その僅かな差のせいで気になっとる…気が散るわ)

 

 気になってしまった。

 

 「耳郎ちゃん」

 

 直哉は立ち上がった。

 

 耳郎が「え?」という顔で振り向いた。

 

 「今の音、1フレーム遅いわ」

 

 「……え? 1フレーム?」

 

 「1/24秒や。君の耳、飾りなん?」

 

 耳郎の顔が「はぁ?」という顔になった。

 

 「いや、私の耳は個性で……」

 

 「個性があって、それだけの耳を持っといて、なんで1フレームのズレが分からへんの。もったいないやん」

 

 「……!」

 

 耳郎が口を引き結んだ。

 

 「……もう一回やってみる」

 

 「やってみぃ」

 

 直哉は椅子に戻った。

 

 耳郎がもう一度弾いた。

 

 今度はズレがなかった。

 

 (少しはマシになったわ)

 

 直哉は扇子を仰いだ。

 

 そこへ芦戸が「ねえ禪院くん! 私のダンス、どう?」と言いながら近づいてきた。

 

 直哉は芦戸を一瞥した。

 

 空写でリズムを読んだ。

 

 「そのステップ、品がないわ」

 

 「え!?」

 

 「重心が外側に逃げとる。もっと体の軸を中心に置いて動いた方がええわ。……あと」

 

 直哉は少し考えた。

 

 「君の動き、速さはあるけど『雅』さがない。力任せや」

 

 「み、雅……? ダンスに雅さって……」

 

 「動きは全部、フレームの連続や。一コマ一コマが綺麗でないと、全体も綺麗に見えへん。今の芦戸ちゃんは、コマとコマの間が汚いんよ」

 

 「こ、コマ……」

 

 「もう一回やってみ」

 

 芦戸が「わ、分かった……」と言って、もう一度踊った。

 

 意識して動いた分、少しだけ軸が安定した。

 

 直哉は無言で見た。

 

 (こちらも……マシにはなっとる)

 

 「……少しはマシや」

 

 「少しって!?」

 

 「褒めとるんやんけ」

 

 芦戸が「どこが!?」と叫んだ。

 

 しかし直哉はもう椅子に戻っていた。

 

 その後も、直哉は扇子を仰ぎながら、空写で練習を観察し続けた。

 

 音のズレ。

 

 動きの乱れ。

 

 タイミングのミス。

 

 気になるたびに、一言だけ言った。

 

 毒を交えながら。

 

 しかし正確に。

 

 練習が終わった後、緑谷が「禪院くん……なんかその助言、すごく助かってる」と言ってきた。

 

 「別に手伝ったわけやない」

 

 「でも耳郎さんも芦戸さんも、禪院くんの指摘の後から明らかに良くなってて……」

 

 「気になったから言っただけや。参加したわけやない」

 

 「……うん。ありがとう」

 

 「礼を言われることもしてへん」

 

 直哉は扇子を閉じた。

 

 「次、もし間違えたら承知せえへんよ」

 

 「……それって、また見に来てくれるってこと?」

 

 「うるさいな」

 

 直哉は体育館を出た。

 

 廊下を歩きながら、空写の処理を止めた。

 

 (なんで言うてしもたんやろか)

 

 分からなかった。

 

 気になったから言った。

 

 それだけだ。

 

 それ以上の意味はない。

 

 直哉はそう結論づけた。

 

 

 

 

 

 文化祭当日の朝。

 

 直哉は一人で校外を歩いていた。

 

 朝の空気が静かだ。

 

 人通りが少ない。

 

 (今日は文化祭か)

 

 別にどうでもいい。

 

 クラスの連中が楽しそうにしているのは、遠目に見ていれば十分だ。

 

 扇子を開いた。

 

 仰いだ。

 

 空写を展開した。

 

 特に理由はない。

 

 習慣だ。

 

 周囲の気配を自動で読む。

 

 そこで。

 

 (何や)

 

 前方に、妙な気配があった。

 

 空写が反応した。

 

 人間が二人。

 

 そして。

 

 (異質な呪力……いや、個性か)

 

 弾力性のある何かだ。

 

 空気そのものに作用している。

 

 直哉は足を止めた。

 

 路上の角から、人影が現れた。

 

 一人は背の高い男だ。

 

 黒いシルクハット。黒いマント。白いシャツ。金色の眼鏡。

 

 異様に古風な出立ちだ。

 

 もう一人は若い女性だ。

 

 大きなリュックサック。おさげ。

 

 男の隣に寄り添っている。

 

 男が直哉に気づいた。

 

 「おや」

 

 低い、芝居がかった声だ。

 

 「こんな朝早くに、雄英の生徒かね。……君は文化祭の準備をしなくていいのかな?」

 

 直哉は男を見た。

 

 上から下まで。

 

 (なんや、この古臭い格好は)

 

 「紅茶?」

 

 男の手に、ティーカップがあった。

 

 路上で、堂々と紅茶を飲んでいる。

 

 「路上で優雅に紅茶……滑稽やねぇ」

 

 男が「ほほう」と言った。

 

 不快にはなっていないようだ。

 

 むしろ少し楽しそうだ。

 

 「辛辣な少年だ。しかし、私はジェントルマンとして、いかなる場所でも品格を忘れないのでね」

 

 「ジェントルマン」

 

 直哉は扇子を仰いだ。

 

 「名前か?」

 

 「そうだ。私はジェントル・クリミナル。そしてこちらは私の相方、ラブラバだ」

 

 女性が「ジェントル、名乗らなくていいのでは……」と言った。

 

 直哉はラブラバを見た。

 

 若い。

 

 直哉より年上だろうが、それほど離れていない。

 

 (こんな子が、なんであんな古臭い男についていくんやな)

 

 「ラブラバちゃん」

 

 直哉はラブラバに言った。

 

 「え? わ、私に話しかけてる……?」

 

 「君、いくつや」

 

 「に、二十……」

 

 「二十歳か」

 

 直哉は少し考えた。

 

 「もったいないわ」

 

 「え?」

 

 「二十歳の子が、こんな時代錯誤の道化師の隣に立っとる。見てて痛いんよ」

 

 ラブラバの顔が「……!」という顔になった。

 

 「ジェントルは道化師じゃない! 夢のある人で、志があって……!」

 

 「志」

 

 直哉はジェントルを見た。

 

 「無名の凡夫が名前を残したいだけやろ?」

 

 ジェントルの顔が、初めて少し動いた。

 

 「……随分と、直截な少年だな」

 

 「違うんか?」

 

 「……違わないとも言えないが」

 

 「やっぱりな」

 

 直哉は扇子を閉じた。

 

 「醜いわ」

 

 ジェントルが「醜い、か」と言った。

 

 今度は苦笑だった。

 

 「君は随分と厳しいな。しかし、私には私の美学がある。歴史にその名を刻む。それが私の夢だ」

 

 「夢」

 

 直哉は少し笑った。

 

 声には出ない。

 

 口の端が動いただけだ。

 

 「夢のためなら他人の文化祭を荒らしてもええと思ったとるんか?」

 

 ジェントルが「……」と言った。

 

 「どうして私たちの目的を」

 

 「空写や。来る前から分かっとった」

 

 直哉は正面からジェントルを見た。

 

 「止めといたほうがええよ。今日の雄英は、俺がおる」

 

 

 

 

 

 ジェントルが動いた。

 

 「……行くよ、ラブラバ」

 

 「ええ。ジェントル!」

 

 ラブラバの個性が発動した。

 

 ジェントルの体に金色のオーラが纏った。

 

 愛のバフだ。

 

 ジェントルが地面に手をついた。

 

 個性「弾力」

 

 地面が弾力を帯びた。

 

 ジェントルが弾んだ。

 

 空中に跳び上がった。

 

 直哉は空写でジェントルの軌道を読んだ。

 

 (なるほど…)

 

 空気そのものに弾力を付与する個性だ。

 

 空気を壁にする。空気で弾む。空気を弾として飛ばす。

 

 (面白い個性やな)

 

 面白いと思った。

 

 しかし。

 

 (俺の空写には、全部見えとる)

 

 ジェントルが空中から弾力の壁を展開した。

 

 透明な壁が直哉の前に現れた。

 

 直哉は投射呪法で設計を組んだ。

 

 壁の厚さを読む。

 

 弾力の強度を読む。

 

 回避経路を設計した。

 

 一歩、横に動いた。

 

 壁が直哉の横を通り過ぎた。

 

 「……!」

 

 ジェントルが目を見開いた。

 

 「見えているのか? 私の個性が?」

 

 「全部見える」

 

 直哉は右手に呪力を集めた。

 

 鏃の設計を組む。

 

 「試射台になったる言うたやろ」

 

 鏃が放たれた。

 

 音が遅れた。

 

 直哉の体が、一瞬で空中のジェントルの背後に出現した。

 

 「……っ!!」

 

 ジェントルが弾力の壁を瞬時に展開した。

 

 防御だ。

 

 直哉の鏃が壁に当たった。

 

 弾んだ。

 

 (弾くか)

 

 直哉は空中で設計を再計算した。

 

 弾んだ軌道を読んで、次の鏃の設計に組み込む。

 

 着地した。

 

 「君の個性は弾力や。弾く。それは分かった」

 

 「ならば……!」

 

 「せやけど」

 

 直哉は空写を展開した。

 

 ジェントルが次の弾力を展開しようとした。

 

 その動作の始まりを読んだ。

 

 空虚呪法を、極小範囲で発動した。

 

 ジェントルの指先が、空気に触れる、その一瞬前で止まった。

 

 「……? 動か……」

 

 「個性の発動を止めた。一瞬だけやけど」

 

 直哉は歩いた。

 

 止まったジェントルに近づいた。

 

 「君の個性は、空気に触れることで発動しとる。その触れる動作を止めれば、個性は出ないわ」

 

 「……なんだ、それは」

 

 「俺の個性…投射強化の応用や。相手の動作を1/24秒で固定する」

 

 直哉は止まったジェントルの目の前に立った。

 

 「過剰火力やとは思うけど……ま、せっかくやから見せたった」

 

 空虚呪法を解除した。

 

 ジェントルの体に動きが戻った。

 

 ジェントルが後退した。

 

 「……恐ろしい個性だ」

 

 「そやろ」

 

 「しかし」

 

 ジェントルの目に、静かな炎が宿った。

 

 「私はここで引くわけにはいかない。ラブラバが私を信じてくれている。彼女の愛を、無駄にするわけにはいかないんだ」

 

 ラブラバが「ジェントル……!!」と叫んだ。

 

 ラブラバの個性が再び発動した。

 

 ジェントルに、より強い愛のバフが注がれた。

 

 ジェントルのスピードが上がった。

 

 「うおおおおおおお!!」

 

 ジェントルが全力で突っ込んできた。

 

 愛の力で強化された弾力が、全身を包んでいる。

 

 直哉は落花の情を展開した。

 

 呪力が体の周りに広がった。

 

 ジェントルが直哉に触れた。

 

 その瞬間。

 

 落花の情が反応した。

 

 ジェントルの衝撃が、逸れた。

 

 まるで呪力の壁に弾かれるように、ジェントルの体が横に飛んだ。

 

 「……っ!?」

 

 ジェントルが地面に転がった。

 

 直哉は動いていない。

 

 一歩も動いていない。

 

 「愛?」

 

 直哉はジェントルを見下ろした。

 

 「んなもん、1円の価値もないわ」

 

 ラブラバが「ジェントル……!!」と叫んだ。

 

 直哉はラブラバを見た。

 

 「ラブラバちゃん」

 

 「……な、何」

 

 「君の愛は本物やと思う」

 

 ラブラバが「え」という顔をした。

 

 「せやけど」

 

 直哉は続けた。

 

 「本物の愛が、本物の実力の前では何の意味もないということを、今日証明したわ。……君らの『想い』、俺の呪力で全部ゴミ箱行きや」

 

 ラブラバが「……っ」と唇を噛んだ。

 

 「それは……ひどい」

 

 「ひどくはない。事実や」

 

 直哉は落花の情を解除した。

 

 ジェントルが立ち上がった。

 

 膝が震えている。

 

 しかしまだ目が死んでいない。

 

 「……一つ、聞いていいか」

 

 ジェントルが言った。

 

 「なんや」

 

 「君は……夢を持ったことがないのか?」

 

 直哉は少し考えた。

 

 「あるよ」

 

 「何だ」

 

 「最強の強さを手に入れ、「あっち側」になること。それだけや」

 

 ジェントルが「……それは」と言った。

 

 「その先は孤独じゃないのか?」

 

 「そう思わへん」

 

 直哉は扇子を開いた。

 

 仰いだ。

 

 「君の夢は他人に認められることが前提や。俺の夢は、俺だけで完結しとる。どちらが孤独かは……人によるやろ」

 

 ジェントルが「……」と言った。

 

 沈黙が続いた。

 

 「……参った」

 

 ジェントルが言った。

 

 静かな声だった。

 

 「今日のところは、退こう」

 

 「賢明やな」

 

 「ただ」

 

 ジェントルはラブラバを見た。

 

 「この子のことを、道化師の隣に立つ痛い子と言ったな」

 

 「確かにそう言ったわ」

 

 「彼女は……私の誇りだ。それだけは訂正してもらいたい」

 

 直哉はジェントルを見た。

 

 ラブラバを見た。

 

 ラブラバの目が潤んでいた。

 

 (……)

 

 直哉は少し間を置いた。

 

 「……訂正はせえへん」

 

 ジェントルが「…そうか」と言った。

 

 「ただ」

 

 直哉は扇子を閉じた。

 

 「君が誇りに思うのは、君の勝手や。俺には関係ないわ」

 

 ジェントルが少し笑った。

 

 「……手厳しいな、君は」

 

 「そうよく言われとる」

 

 「名前を聞いてもいいか」

 

 「禪院直哉。ヒーロー名はナオヤ」

 

 「ナオヤ、か」

 

 ジェントルはシルクハットを持ち上げた。

 

 紳士的な所作だ。

 

 「今日は敗北した。しかし、いつか……」

 

 「次に来たら、もっとまずいことになるで」

 

 ジェントルが「……肝に銘じよう」と言った。

 

 ラブラバが「行きましょう、ジェントル……!」と言った。

 

 二人が去っていった。

 

 直哉は二人の背中を見た。

 

 (変な人間たちやな)

 

 扇子を開いた。

 

(……ま、死ぬまで道化に付き合う覚悟があるんやったら、それも一つの『特別』なんかもな)

 

 仰いだ。

 

 (まあ、いい)

 

 文化祭が始まる前に片付いた。

 

 デクくんが来る前に終わった。

 

 それだけだ。

 

 直哉は校内に向かって歩き始めた。

 

 (さて)

 

 扇子を仰ぎながら。

 

 (お遊戯会の時間や)

 

 空が青く、晴れていた。

 

 

 

 

 

 校内に戻ったところで、緑谷と鉢合わせた。

 

 緑谷が息を切らしていた。

 

 「禪院くん……! 外に出てたの!? ジェントル・クリミナルっていうヴィランが……」

 

 「知っとる。俺が片付けた」

 

 緑谷が「え」という顔をした。

 

 「……え?」

 

 「路上で会った。戦った。帰らせたわ」

 

 「一人で……!?」

 

 「そうや」

 

 緑谷が「…………」という顔をした。

 

 「け、怪我は……」

 

 「ない」

 

 「ジェントルは……」

 

 「逃がしたわ。捕まえる理由もなかったし、あれ以上やる必要もなかっただけや」

 

 緑谷が「そっか……」と言った。

 

 複雑な顔をしていた。

 

 「禪院くんが会ってなかったら、僕が戦うことになってたと思うけど……」

 

 「…そうか」

 

 「……ありがとう」

 

 直哉は少し考えた。

 

 「礼を言われることはしとらへん。偶然会っただけや」

 

 「それでも」

 

 緑谷が真剣な顔で言った。

 

 「禪院くんがいてくれて、良かった」

 

 直哉はその言葉を聞いた。

 

 何も言わなかった。

 

 扇子を仰いだ。

 

 「……文化祭、始まるんやろ」

 

 「う、うん!」

 

 「行けや。俺は裏方をやるわ」

 

 「え、裏方……? やってくれるの!?」

 

 「俺が手伝ったんやから、最高傑作にならんと許さへんよ」

 

 緑谷が「……!」という顔をした。

 

 「ありがとう、禪院くん……!」

 

 「礼はいい。さっさと行けや」

 

 緑谷が走っていった。

 

 空写を展開した。

 

 体育館から、音が聞こえていた。

 

 耳郎の音。

 

 芦戸たちの足音。

 

 全員の動きが、直哉の空写に入ってきた。

 

(俺が入るからには、最高のものしか許さへん)

 

 直哉はそれだけ思って、裏方の準備に向かった。

 




原作ではデクが死闘を繰り広げたジェントル戦ですが、この世界の直哉さんは「1円の価値もない愛」と「落花の情」で物理的にシャットアウトしてしまいました。


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