【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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福岡の空で、No.1ヒーローが不格好に右手を掲げた。

その勝利を「不細工やなぁ」と切り捨てながらも、直哉の頭は既に次なる「格」への階梯を登り始めています。

重ねる、という発想。
1/24秒のフレームの中に、過去の自分を積み上げていく。

今回はAB組合同訓練。B組という絶好の「実験台」を前に、直哉の術式が新たな産声を上げます。

禪院直哉、アップデートの時間や。

キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意ください。

評価付与や感想は直哉の投射呪法に磨きがかかり、あっち側への渇望をより強くします!



ハイエンド脳無/AB組合同訓練編
第32話:ハイエンド脳無/AB合同訓練編「重ねる、という発想」


 

 

 文化祭が終わって、一週間が経った。

 

 十一月の夜。

 

 寮のラウンジが騒がしかった。

 

 直哉は廊下を通りかかった。

 

 立ち止まった。

 

 テレビの画面が目に入った。

 

 上鳴が「えっ、やばい! 見てみろよこれ!!」と叫んでいた。

 

 麗日と蛙吹がソファに身を乗り出していた。

 

 爆豪が腕を組んで黙ってテレビを見ていた。

 

 画面には、荒れた市街地の空が映っていた。

 

 遠距離からの撮影だ。望遠で追っている映像。

 

 炎。

 

 エンデヴァーの炎だ。

 

 そして、その炎を受けても止まらない、巨大な何かがいた。

 

 「本日、福岡市内においてNo.1ヒーロー・エンデヴァーが新型の脳無と交戦。この脳無は従来の個体とは異なり、複数の個性を保有しとることが確認されており——」

 

 ニュースキャスターの声が震えていた。

 

 映像の中でエンデヴァーが吹き飛ばされた。

 

 「親父!!」と轟が叫んだ。

 

 「落ち着けよ、テレビ越しだって」と上鳴が言った。

 

 直哉は扇子を止めた。

 

 画面を見ていた。

 

 (……でかい)

 

 ハイエンド脳無。原作の知識で元々名前等軽い設定だけは知っており、林間合宿ではその試作品らしき個体と戦った。しかし完成したハイエンド脳無を実際の映像で見るのは初めてだった。

 

 変容する腕。肩部のジェット機構による飛行。体から放出される小型脳無。

 

 別々の能力が一体の体に束ねられている。

 

 (あれが敵連合の最高傑作なんか)

 

 映像が続いた。

 

 エンデヴァーが立ち上がった。

 

 顔から血を流していた。左頬から眼窩にかけて、深い傷があった。

 

 それでも立った。

 

 上空に向けて炎が集まった。眩しい光がカメラを焼いた。映像が一瞬途切れた。

 

 次に映った時、ハイエンド脳無は消えていた。

 

 エンデヴァーが右手を高く上げていた。

 

 「——勝った!!」と上鳴が叫んだ。

 

 ラウンジが盛り上がった。

 

 直哉はその映像をもう一度、頭の中で引き戻すように見た。

 

 (……不細工やなぁ)

 

 ボロボロだ。顔に深い傷を刻まれて、満身創痍で右手を上げる。No.1ヒーローが、こんなに汚く勝つ。

 

 (まぁ、勝ったのは認めるわ)

 

 しかし直哉の頭が止まっていたのは、エンデヴァーの炎の美醜ではなかった。

 

 (さっきの脳無。あれ、個性を複数「重ねて」スペックを底上げしとったな)

 

 変容する腕は伸縮と分裂。ジェット機構は飛行能力。筋肉の増殖はパワー増幅。そして超再生も持っていた。

 

 全部、別々の個性だ。

 

 それが一つの体に積み重なることで、単体では出せない強さを出していた。

 

 (重ねる、か)

 

 直哉は扇子を仰いだ。

 

 (悪ない発想や)

 

 ラウンジの声が遠ざかった。

 

 直哉は廊下を歩き始めた。

 

 

 

 

 自室の机の前に座った。

 

 右手を広げて見た。

 

 投射呪法。

 

 1秒を24枚のフレームに分割して、その1枚の中で動きを設計し実行する術式だ。

 

 成功すれば超速で動ける。失敗すれば自分がフリーズする。

 

 (この術式で、同じことはできるかや)

 

 直哉は考えた。

 

 1フレームに2つの動きを重ねようとすれば、設計が矛盾して失敗する。それは試したことがある。

 

 でも。

 

 (フレームを重ねるんやなくて……過去の成功した加速の「軌跡」を、今のフレームに流し込む。そういう発想はどうや)

 

 1フレームの中で行う動きは変えない。しかし、その動きの「質量」を上げる。

 

 過去に成功した加速を記録として保持しておいて、今の攻撃の瞬間に全部を重ねて解放する。

 

 相手の体に触れた瞬間、1発のはずが複数倍の衝撃になる。

 

 (理屈は通ってる)

 

 (問題は……俺の脳がその情報量の処理に耐えられるかや)

 

 直哉は右手を握った。

 

 反転術式がある。

 

 壊れても治せる。

 

 それが前提なら。

 

 (壊れてもええ)

 

 扇子を手に取った。仰いだ。

 

 (来月、合同訓練があり、B組という実験台がおる。まず感触だけ確認や…1層でええ。あの場で、一回だけ試したる)

 

 扇子を閉じた。

 

 窓の外、十一月の夜が冷たかった。

 

 

 

 

 十二月。三学期が始まって間もなく。

 

 「合同訓練だ」と相澤が言った。「AB組対抗戦を行う。チームに分かれて模擬戦。相手チームを全員、指定の檻に送り込んだ方が勝ちだ。手を抜くな」

 

 直哉はそれを扇子を仰ぎながら聞いていた。

 

 B組を見た。

 

 知らない顔が並んでいる。

 

 その中で一人、金髪の人間が最初から直哉を見ていた。

 

 芝居がかった立ち方。

 

 (物間寧人か)

 

 空写で読んだ。

 

 (個性はコピー。接触した相手の個性を5分間使える。……最初からこっちを見てるのは、そういうことやな)

 

 直哉は物間から視線を外した。

 

 (ご苦労さん)

 

 第一試合から第三試合は観覧席から見ていた。

 

 A組の勝利。B組の勝利。A組の勝利。

 

 恐らくおおよそは原作通りだと直哉は考えている。

 

 それはそれとして個性を使った戦闘は呪力とは根本が違う。しかし戦略の立て方、間合いの読み方、チームの連携の仕方——そういうものは参考になる部分がある。

 

 直哉はその三試合を、感情を切った目で見ていた。

 

 情報収集だ。

 

 B組の個性の傾向。A組の動き方の癖。誰が判断が速くて誰が遅いか。

 

 (まぁ、こんなもんか)

 

二、第四試合:最悪のコンビ

 

 「第四試合」と相澤が言った。

 

「A組、爆豪・耳郎・瀬呂・砂藤……それと禪院。B組は取蔭・凡戸・泡瀬・鎌切。それと、編入を目指す普通科の心操人使だ」

 

 爆豪が直哉を見た。

 

 「ドブカス野郎、お前は俺の後についてこい」

 

 直哉は扇子で口元を隠し、鼻で笑った。

 

 「君の背中? 煙たくて見えへんわ。俺が先にゴールでシャワー浴びて着替え終わったるから、ゆっくり来たらええよ」

 

 爆豪の目がギリッとなった。

 

 「……あ?」

 

 「始まる前から怒るんやから体力の無駄やね。凡夫は大変やなぁ」

 

 直哉は悠然と歩き始めた。

 

 耳郎が「……禪院ってやっぱり喧嘩腰だよね」と小声で言った。

 

 瀬呂が「しかも爆豪より先に行ってるしな……」と言った。

 

 砂藤が「大丈夫かこれ……」と言った。

 

 爆豪は無言で走り始めた。

 

その背中からは、今にも爆発しそうな怒気の塊が立ち昇っている。

 

 倉庫街を模したフィールドに入った。

 

 直哉はすぐに空写を展開した。

 

 (敵は5人。北東に3人。凡戸・泡瀬・鎌切。南西に取蔭。中央の物陰に心操)

 

 「取蔭ちゃんが南西。凡戸くんと泡瀬くんが北東。カマキリみたいな顔したのが屋根。心操くんは真ん中で罠張っとるわ」

 

 チームに告げた。

 

 耳郎が「どうして分かるの?」と言った。

 

 「前説明した投射呪法の拡張術式、この世界的に言うなら必殺技の空写や。俺の索敵術式。フレームに入ったモンは全部見える。君らの心拍数まで数えられるで」

 

 爆豪が「出来るなら最初からそう言え…!」と吐き捨てた。

 

 「君がいなかった時のカミングアウトで話しとる。まぁ、とにかく推薦枠の取蔭ちゃんが先に来とるわ。

 

 その瞬間。

 

 廃材の山が弾け、B組の取蔭切奈が躍り出た。

 

 「しっぽ切り」が発動し、四肢がバラバラに分かれて別方向へ飛んでいく。

 

 「上! 右! 正面!」と取蔭の声が響く。

 

 爆豪が爆発を起こして後退した。「バラバラかよ……!」

 

 直哉は動かなかった。

 

 (バラバラになって逃げる? んなもん、全部まとめて止めたらええだけやん)

 

 空写で取蔭の全パーツの軌道を読んだ。設計を組む。鏃の面展開。

 

 そして——直哉は右足に意識を集めた。

 

 (1層だけ試す)

 

 過去の成功した加速の軌跡を、今の踏み込みに重ねる。

 

 発動した瞬間、右足首の内側に鋭い痛みが走った。

 

 (っ……)

 

 骨の内側が軋んだ。ひびが入った感触がある。

 

 しかし直哉はそのまま動いた。

 

 面展開した呪力が取蔭の全パーツを捉え、零駒を重ねた。

 

 全パーツが空中に静止した。

 

 「え……動かない……!?」と取蔭が絶叫する。

 

 直哉は右足首に反転術式を流し、0.5秒で修復した。

 

 (……1層だけでも、足首が軋んだ。心地ええ痛みや。これが俺を『特別』にするための代償やと思えばな)

 

 「君のその技、多角攻撃として面白かったわ」

 

直哉は取蔭のパーツを一つずつ手繰り寄せた。

 

「ただ俺の空写に全部筒抜けやった。残念やったね、推薦枠の取蔭ちゃん」

 

 そのまま、心操が潜んでいた中央部へ取蔭を投げ飛ばす。不意を突かれた心操が回避する隙に、直哉は北東の凡戸と泡瀬の元へ跳んだ。

 

 投射呪法で二人をフリーズさせ、まとめて檻へ蹴り飛ばした。

 

 振り返ると、爆豪が屋根の鎌切を爆風で叩き落としていた。

 

 「決まりだ」

 

 5分もかからず、全員が檻の中。

 

 「A組の勝ちだ」と相澤の声が流れた。

 

 爆豪が直哉を向いた。

 

 「勝手に動くんじゃねえ!! 俺が指示を出す前に動くな!」

 

 「勝ったんやから文句ないやろ。それとも、手柄取られて悔しかったん?」

 

 爆豪の顔が真っ赤になる。

 

「てっ……手柄じゃねえ!! 連携の話をしてんだ!!」

 

 直哉は爆豪の瞳を真っ向から見据えた。

 

 「連携? 弱者が群れるための言葉、俺に押し付けんといて。君が俺の速度(フレーム)に合わせられるようになったら、その時初めて考えてあげるわ」

 

 爆豪が「……チッ」と言った。

 

認めたくない顔だったが、反論は届かなかった。

 

 

 第五試合の後、観覧席にいた直哉の元へ、B組の物間寧人が近づいてきた。

 

 「やあやあ、禪院くん! 第四試合、圧倒的やったなあ! …あの個性、もらったよ!」

 

 物間がニヤリと笑い、直哉の腕に触れる。

 

 コピー発動。

 

 物間の目が「!」という顔になった。そしてすぐに、白目を剥いて膝をついた。

 

 「……な、なんだ……頭が……焼き切れる……っ!」

 

 直哉はそれを、汚い物でも見るかのように一歩避けた。

 

 「……あぁ、床汚さんといてくれる? 君の安っぽい脳みそが焼けた匂い、鼻につくわ」

 

 物間が「……が、はっ……」と呻く。

 

 「コピー? 自分の器も分からんと、他人の『宝』に手を出すからそうなるんよ。猿が人間の道具触っても、怪我するだけやで。身の程、弁えな」

 

 扇子で鼻先を払い、物間の視界の端でわざとらしく優雅に立ち去る。

 

 拳藤が慌てて物間に駆け寄った。

 

 (この情報の重みが、俺が耐えられるようになりさえすれば……最強の武器になる)

 

 

 第八試合が始まった。

 

 緑谷のチームが動いた。直哉は観覧席から空写でその試合を追っていた。

 

 そして——何かが起きた。

 

 緑谷の腕から黒い何かが溢れた。暴走している。

 

 相澤がすぐに個性消去を発動し、緑谷の黒い力が消えた。

 

 直哉は反転術式を薄く展開し、さっきの黒い力の残滓を感知した。

 

 (……うわ。不気味。ヒーローの個性やなくて『呪い』そのものやん)

 

 (緑谷くん、君のそれ……今のままだといつかその力に食われて死ぬで)

 

 直哉は口角をわずかに上げた。扇子を仰ぎながら、倒れた緑谷を冷めた目で見下ろした。

 

(まぁ、ええんちゃう? ヒーローなんて所詮、自分を削って他人に尽くす呪縛やろ。その末路が自分自身の力に飲み込まれて壊れる……。皮肉が効いてて、最高に『美しい』終わり方やわ。楽しみやね、緑谷くんの崩壊(結末))

 

 

 

 

 

 全試合が終わった。相澤が全体に課題を告げ、解散になった。

 

 廊下に出た直哉に、麗日が声をかけてきた。

 

 「禪院くん、さっきのデクくんのこと……何か感じた?」

 

 「……あの緑谷くんの力、俺の知っとる『呪い』と似た構造をしとるわ。制御できんかったら、自分自身を中から食い殺すで」

 

 「食い殺す……!? じゃあ、デクくんを助ける方法、禪院くんなら分かるんじゃ……」

 

 麗日の切実な訴えを、直哉は鼻で笑って切り捨てた。

 

「助ける? なんで俺がそんな面倒なことせなあかんの。……あぁ、でも安心して。あんな不気味なモンに飲まれて壊れていく様は、見世物としては一級品や。俺も特等席で楽しませてもらうわ」

 

 麗日が「……禪院くんって、たまにすごく冷たいよね」と言った。

 

「冷たい? 違うわ。俺はただ、君らが目を背けとる『結末』を先読みしとるだけや。……君のその『優しさ』じゃ、あの黒いもんは救えへん。手遅れになる前に、せいぜい仲良しごっこでも楽しんどき」

 

 

 

 

 その夜。自室にて。

 

 今日の1層の感触を反芻していた。足首が軋んだが、反転術式で治した。

 

 (反転術式で治しながら、毎夜1層ずつ積み重ねていく。壊れてもええ。治せるんやから)

 

 (この術式に名前が要るな……)

 

 (積層残影(せきそうざんえい))

 

 過去の加速の残像を積み重ねる。それが、直哉が辿り着いた技の骨格だった。

 

 (まだ産声も上げてへん。でも方向は決まった)

 

 窓の外、十二月の夜が冷たかった。直哉は不敵に笑い、扇子を再び開いた。

 

 

 

 

 

 




第三十一話、お読みいただきありがとうございました!

投射呪法の新解釈となることで生まれる技ができそうでしたね…

単なる速度の暴力ではなく、自らの体を壊しながら「加速の質量」を重ねていく。反転術式を持つ直哉だからこそ辿り着ける、あまりにも傲慢で、あまりにも合理的な極致です。

物間くんには少し悪いことをしましたが……「猿が人間の道具を触る」リスクを教えたと思えば、彼にとっても良い経験になったことでしょう。

そして、緑谷くんの中に芽生えた「呪い」のような力。
直哉の目に映るあの黒い力の正体は……物語の後半、大きな意味を持ってくることになりますね!
みなさんご存知の超有用で便利なアレです!
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