【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
それは、投射呪法の限界を超え、過去の自分を積み重ねるという禁忌の設計図でした。
しかし、理論が正しくとも、肉体がそれに耐えられるかは別問題。
「壊れてもええ。治せるんやから」
反転術式というチートを、自身の研鑽のためだけに使い潰す直哉の狂気。
舞台は、原作が大きく動き出す「泥花市」。
異能解放軍という格好の修行場(サンドバッグ)を前に、直哉の新しい力が産声を上げます。
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意ください。
評価付与や感想は直哉の投射呪法に磨きがかかり、あっち側への渇望をより強くします!
第33話:異能解放軍編「自壊と産声」
冬休みが始まった。
雄英高校の寮「ハイツアライアンス」は、帰省やインターンの準備で浮足立つA組の生徒たちの喧騒に包まれていたが、直哉にとってそんなものは別世界の出来事だった。
彼は毎夜、寮の裏手にある、地図にも載らないような古びた演習場に立っていた。十二月の凍てつくような夜気が、彼の端正な顔を白く染める。
「……2層」
呟きと共に、脳内に投射呪法の設計図を展開する。
通常の投射呪法は、1秒を24フレームに分割し、自らの動きをその中に当てはめる。失敗すれば1秒間のフリーズという罰を受ける。だが、直哉が今挑んでいるのは、その「1秒」の中に、成功した加速の軌跡をさらに重ねる(スタックする)という、時間の理そのものを冒涜する行いだった。
「行こか」
発動。
コンマ数秒の世界。直哉の肉体が重合した加速に耐えきれず、バキリと嫌な音を立てた。右手中指、そして薬指。
「っ……あー、クソ。根性なさすぎやろ、俺の体」
着地と同時に反転術式を叩き込む。
ドロリとした正の呪力が指先に集中し、粉砕された骨が無理やり繋ぎ合わされる。完治まで3秒。
だが、その3秒間、直哉は忌々しげに己の指を見つめていた。
(1層なら無傷。2層で指。要は、加速のベクトルが一点に集中しすぎて、骨の強度が負けとるんや。単純な話、衝撃が逃げ場を失って自分に返ってきとる)
直哉は懐から扇子を取り出し、優雅に仰いだ。息は一切切れていないが、瞳の奥には冷徹な自己分析の光が宿る。
(層を増やすほど、威力は幾何級数的に上がる。やけど、その『反動』もまた幾何級数的に増えるわけや。今の俺の骨格じゃ、3層が限界か……?)
試行錯誤は続く。
重なるフレームの「境界線」を滑らかに繋ぎ、衝撃が骨の一点に突き刺さらないよう、呪力の流れでクッションを作る。
壊しては治し、治してはまた壊す。
普通の人間なら精神が摩耗するような苦行を、直哉は「自分が最強の完成品になるため」という傲慢な悦びのみで続けていた。
十二月末。
3層を「無傷」で制御できるようになった夜、スマートフォンが泥花市の惨状を伝えた。
「市内で大規模な個性使用を確認。市民は直ちに避難を――」
画面に映る、煙に巻かれた街。直哉は薄く笑みを浮かべた。
(来たか。敵連合と解放軍。断片的に原作知識としては覚えとったが、11万人のゴミ捨て場や。……ちょうどええ。3層までじゃ物足りん。実戦の『熱』で、もっと層を積み上げさせてもらうわ)
泥花市。そこは、個性の行使を「自由」と称する狂信者たちの聖域だった。
だが、夜行バスで乗り込んだ直哉にとって、そこはただの「効率の良い練習場」でしかない。
外縁に踏み込んだ瞬間、色とりどりの「個性」を構えた数十人の兵士に囲まれる。
「部外者か。ここは我らの聖戦の場だ。引き返せ。さもなくば――」
「『聖戦』?」
直哉は言葉を遮り、心底愉快そうに鼻で笑った。
「あはは、面白いこと言うなぁ君ら。思想? 権利? んなもん、速さの前で何の意味あんの。結局、動くんが遅い奴ほど、声だけはデカいんよな。君らのその薄っぺらい人生論、1/24秒も聞く価値ないわ」
「貴様ッ!」
激昂した男の腕が、ゴムのように伸びて直哉の喉元を狙う。
直哉は『鏃』を発動。
視界から消えた。男が驚愕する間もなく、直哉は既にその背後に立っている。
「3層。今の安定上限、味見したるわ」
右拳が男の背中に吸い込まれる。
ドンッ!
大砲が至近距離で炸裂したような衝撃音。男は悲鳴すら上げられず、十メートル前方のコンクリート壁まで弾き飛ばされた。壁に激突した際、男の肉体は奇妙に「ブレて」見えた。積層された衝撃が、時間差で肉体を内側から破壊しているのだ。
(3層でこれか。1層とは次元が違う。威力は層の数に対して『乗算』されとるな)
直哉は周囲を冷たく見渡す。
「次。まとめて来いや。練習台が一人ずつじゃ効率悪すぎてあくびが出るわ」
炎を吐く、岩を投げる、空気を切り裂く。
放たれる「個性」の嵐。だが、直哉の『空写』はその全てを静止画として捉えていた。
炎の先端に指を触れ、『空虚呪法』で固定する。空中に静止した火炎の塊を足場に跳躍し、密集する敵の真っ只中に降り立つ。
「君ら、自分が『生身の人間』やと思っとる? 甘いわ。僕の視界(フレーム)に入った瞬間、君らはただの『静止した素材』やねん。……逃げたいなら逃げ。ま、俺のフレームより速く動ければの話やけどな」
笑いながら、直哉は蹂躙を開始した。当たる、修復する、また当たる。
路地裏には、歪な形に折れ曲がった「素材」たちが積み上がっていった。
市街地の奥へ進むほど、敵の質は上がっていった。
元プロヒーロー、あるいは軍事訓練を受けたエリート工作員。彼らは組織的な連携で直哉を追い詰めようとする。
巨大な壁を生やす個性の使い手が、四方から直哉を閉じ込めた。
「捕らえたぞ! この包囲網からは逃げられん!」
壁の向こうで叫ぶ声。だが、直哉はその壁が閉じるコンマ数秒の間で、既に屋上へと飛び上がっていた。
「閉じ込めたつもり? 君の人生、全部スローモーションで見えとるで。退屈すぎて死にそうや」
屋上から見下ろす直哉。
「4層。……ちょっと手加減したるから、せめて形だけは残してな」
重力を操り、自らを加速させて飛び降りる敵。直哉はその「運動エネルギー」を『空写』で逆算する。
激突の瞬間、直哉は敵の懐へ潜り込み、掌をそっと当てた。
積層残影・4層。
衝撃が伝播した瞬間、敵の肉体が「フリーズ」したかのように空中で止まり、次の瞬間、内側からの圧力に耐えきれず、皮膚がフレーム単位で剥離(はくり)するように弾け飛んだ。
「……あー、痛いわ。ほんま、ゴミ相手に傷作らされるんが一番腹立つ」
直哉の右肩が軋み、靭帯が悲鳴を上げる。
即座に反転術式を流す。5秒。
(5層はまだ限定的やな。やけど、一撃の重さは4層の倍以上や。骨が砕ける覚悟さえあれば、どんな巨体でも沈められるわ)
中心部に近づくにつれ、空気そのものが「死」を帯びてきた。
個性の気配ではない。存在そのものが世界を腐敗させ、崩壊させる根源的な呪い。
(死柄木くん…いや死柄木弔。……あいつは覚醒しとる。あぁ、不愉快や。あいつ、今まさに『自分』になっとる)
屋上から見下ろすと、街は波打つように粉々になり、塵へと変わっていた。
その中心で、死柄木が子供のように純粋な笑顔を浮かべている。
(あ……。あの顔。甚爾くんと同じや。自分を縛る『家』も『血』も、何一つなくなった時の顔や)
前世の記憶が直哉の脳裏を過る。憧れ、嫉妬、そして畏怖した、あの「天与の暴君」。
直哉は、迫りくる崩壊の波を『空写』で冷徹に計算する。波の伝播速度、自分の回避ルート。
(今の5層じゃ、あいつの超回復には届かへん。今日は、このくらいにしといたるわ)
崩壊が足元に及ぶ直前、『鏃』の連続発動で街の外縁まで跳ぶ。
「覚えとけよ、死柄木。……次に会う時、そのツラを1/24秒ごとにズタズタに引き裂いたるからな」
市街地の外縁。戻ってきた直哉を、20人ほどの残党が待ち構えていた。
「待っていたぞ……! 我らの同志を、これほどまでに無惨に……!」
憎悪に燃える瞳。だが、直哉はその視線さえも「汚らわしい」とばかりに扇子で遮った。
「あー、もうええ。長い。君らのその、薄っぺらい仲間意識……反吐が出るわ。どいつもこいつも、ノロい癖に自己主張だけは一人前やなぁ」
直哉は右足に意識を極限まで集中させる。
今日得た「積層」の感触。3層、4層、5層。その先にある、未踏の領域。
(6層。……試作段階やけど、君らならええ実験台やろ? 光栄に思い。君らの人生、最後の1秒だけは僕が華やかにしたるわ)
技の威力の高めるための前儀式…その1つ…それはーー詠唱ーー
「瞬刻、二十四節、積層の理」
発動。
「極ノ番――『積層残影(せきそうざんえい)【 6葉(ろくよう) 】』」
踏み込んだ瞬間、ボガァンッ! と直哉の右脚全体から異音が響いた。脛骨と大腿骨が粉砕され、肉を突き破りかけるほどの衝撃。
だが、放たれたエネルギーは物理法則を嘲笑い、圧縮された「時間」が牙を剥く。
「――ッ!」
先頭の男に触れた瞬間。
男は吹き飛ぶのではなく、背後の3人を巻き込みながら、文字通り「消失」した。
刹那、視界が爆ぜた。
逃げる暇も、叫ぶ暇もない。
直哉が通り抜けた軌跡にいた者たちは、一秒を二十四枚に引き裂かれ、重ねられた衝撃の重圧(プレス)によって、肉体という形を維持できぬまま「標本」へと成り果てた。
積層された衝撃が一点に集中し、相手の肉体を24分割されたフレームとして強制分解したのだ。路地の奥の壁まで直線で貫通し、4人まとめて肉の塊となって跳ね返った。壁には、彼らが「積層」された、凄惨な凹みが刻まれている。
直哉はその場に右膝をつく。右脚は感覚を失い、血が溢れている。
「……ハッ、一発が軽い? そら『一発』しか見てへんからや。君らには6枚(フレーム)で十分すぎたなぁ。もっと重ねたら、塵すら残らへんかったのに」
直哉は、血に濡れた右脚を忌々しげに一瞥した。
震える手で扇子を取り出し、パサリ、と開く。
「……汚いね。君らの血も、僕の無様な脚も」
顔を上げれば、そこには死柄木の覚醒が迫る泥花市の暗雲。
直哉は、自身の「産声」がまだあまりに歪であることを、その痛烈な痺れとともに刻み込んだ。
反転術式を全力で発動。15秒。
立ち尽くす残りの16人が、もはや恐怖すら超えた絶望に顔を白くさせ、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。
「……逃げろ逃げろ。今のうちにせいぜい足掻いとけ。俺が24枚重ねられるようになった時、君ら一人も『この世』に存在できへんからな」
泥花市の炎を背に、直哉は静かに歩き出す。
(6層で自壊。修復15秒。実戦じゃ使いもんにならんゴミや。やけど……これが『産声』や。この威力をノーリスクで振るえるようになった時、世界は僕のフレームにひれ伏すわ)
直哉は扇子を閉じ、脳内で次のステップを設計する。
骨格の耐久値を上げ、衝撃を一点に留めず、全身に「循環」させる。
理論はできる。だが、その「極致」を見せる手本が必要だ。
(エンデヴァー。あのおっさん、最強の火力を支えるために、体の中で熱を完璧に循環させとる。……冬季インターン。あのおっさんから、その『理屈』を全部盗ませてもらうわ)
直哉は、己の才能という呪い、そして略奪者としての本能を滾らせていた。
(楽しみやなぁ、No.1ヒーロー。あんたの技術、僕の『完成品』への肥やしにしたるからな)
夜が更ける。
泥花市の炎が遠ざかる中、直哉は次の「積層」に向けて、さらに冷酷に、さらに傲慢に、己の術式を研ぎ澄ませていった。
第三十二話、お読みいただきありがとうございました!
ついに極ノ番「積層残影(せきそうざんえい)」プロトタイプが披露されました。
これまでの「触れた相手を止める」「自分が速く動く」という投射呪法本来の使い方に加え、加速の重みを物理的な破壊力へ転化する……直哉なりの「極致」への第一歩です。
6層で脚が粉砕、修復に15秒。
この「ハイリスク・ハイリターン」な歪さが、いかにも禪院直哉らしくて書いていてニチャァとしました。
周囲が「ヒーローとしての成長」を目指す中、一人だけ「効率的な自己破壊と再構築」を繰り返す異質さ。
そして、覚醒した死柄木弔との邂逅。
今の自分ではまだ届かない「格」の違いを認めつつ、その笑顔を「基準点」とする不敵さもまた彼らしいポイントです。
次は冬季インターン編。
No.1ヒーロー・エンデヴァーから、直哉は何を「盗む」のか。
骨格密度、エネルギーの循環……さらなる高みへ向かう直哉の「調律」にご期待ください!
以下は獄の番の説明になります
禪院直哉 極ノ番:『積層残影(せきそうざんえい)』
投射呪法の「動きを上書き(スタック)できる」という特性を、攻撃力に変換した奥義です。
【技の概要】
通常の投射呪法は、失敗すると自分がフリーズしますが、この極ノ番は**「成功した動きを、同一の時間・同一の地点に何重にも重ねる」**ことができます。
• 多重存在の打撃: 1秒24フレームの動きをすべて「攻撃の瞬間」に集約させます。相手からすれば、直哉一人の拳のはずが、同時に24発(あるいはそれ以上)の重なったパンチを食らうことになります。
• フレームの強制圧縮: 攻撃を当てた瞬間、相手の肉体に「24分割された1秒間の加速エネルギー」を一気に流し込みます。相手の肉体は、その超スピードの運動エネルギーに耐えきれず、24分割された薄い肉の膜(コマ)となって、文字通りバラバラに剥離・飛散します。
• 加速の連鎖: 一度発動すれば、直哉が動けば動くほど、その空間には「過去の自分の加速」が残像として積み上がり、後の攻撃ほど威力が幾何級数的に跳ね上がります。
この極ノ番の詠唱は「瞬刻、二十四節、積層の理」 です。
なるべくイメージしやすくなるように考えました。
直哉の「投射呪法」を攻撃力に全振りさせたのが、この極ノ番です。
原理としては、1秒24フレームの動きを、同一地点・同一時間に「スタック(上書き)」させるというもの。
• 一枚の絵(フレーム)を「葉」と呼び、それが重なっている様。平安の雅さと、直哉の潔癖な美学が混ざるように演出しました。
重なる層の数により威力を変化させることができる点も、この技の魅力の一つです。
状況に応じて使い分けが可能になっております。
本来、この技は最大**「24層(24重の打撃)」**まで重ねることが可能ですが……。
今話で直哉が使ったのはわずか**「6層」**です。
わずか4分の1の出力。それでも、重なった加速エネルギーは爆豪の肉体が許容できる限界を超え、文字通り「フレームの剥離」を引き起こしました。
直哉からすれば、**「24枚も重ねる価値のある相手」**は、この雄英に(あるいはこの世界に)果たして存在するのか。
そんな彼の傲慢な底知れなさを感じ取っていただければ幸いです。
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