【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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緑谷出久が雄英を去り、残された者たちの時間は静かに、しかし確実に形を変えていきます。

 クラスメイトたちが喪失感やもどかしさと向き合う中、禪院直哉だけは独自のやり方で「緑谷の現在」を観測し続けていました。

 呪術師という「死」が隣り合わせの世界にいた彼だからこそ見える、生者の残滓。

 誰に頼まれたわけでもなく、ただ自分の設計のために記録を続ける直哉の独白から、物語は深淵へと足を踏み入れます。

キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性があります。
ご注意ください。

感想、評価付与は直哉の投射呪法に磨きがかかり、「あっち側」に近づいていきます…!


第41話:黒デク編「空写からの追跡」

緑谷出久が雄英を去ってから、三日が経った。

 

 直哉は今日も、夜に空写を広げた。

 

 習慣になっていた。

 

 まず寮の内部を読む。誰がどこにいるか。眠れていない者は誰か。廊下を歩き回っている者はいないか。食堂に一人でいる者はいないか。

 

 それが終わったら、校舎の外へ。外壁の向こうへ。街の方向へ。

 

 空写の到達距離は、今は二百三十メートル。訓練を続けているから、少しずつ伸びている。

 

 (——でもそれじゃ届かへん)

 

 緑谷が今夜どこにいるか。直哉には分からない。空写の射程外だ。遥か遠くを、今頃走っているはずだ。

 

 直哉は目を閉じたまま、少し考えた。

 

 (追跡、という言い方は正確やないな)

 

 直哉は方向を読んでいたーー緑谷がどの方角に向かったか。どういう速度で動いているか。気配の残滓を巡っている。完全な追跡には程遠い。しかし、何もしないよりは情報があると判断していた。

 

 扇子を膝の上で開く。夜の空気が窓から入ってきた。秋の気配が混じっている。

 

 (——生きとる)

 

 それだけは、なんとなく分かった。根拠を言葉にするのは難しい。ただ、呪術師の感覚として——生きている人間の残滓と、死んでいる人間の残滓は、質が違う。

 

 緑谷の残滓は、まだ生きている方の質だった。

 

 (それで十分や。今夜は)

 

 

 

緑谷出久が去った後の寮は、静かだが止まってはいなかった。

 

 人間はいなくなった者の代わりに、動き続ける。

 

それは直哉が呪術師の頃から知っていることだった。仲間が死んでも、朝になれば飯を食う。任務があれば動く。それが生きているということだ。

 

 ただ——形が変わった。

 

 食堂の雰囲気が変わった。以前は食事の時間に誰かが笑い声を上げていた。緑谷だったり、上鳴だったり、瀬呂だったりした。

 

今は食事が始まっても、最初の数分は誰も声を出さない。それから誰かが話し始めて、少しずつ元に戻る。でも完全には戻らない。

 

 緑谷の椅子は、まだ誰も使っていない。

 

 使わないことに、誰も言及しない。暗黙の了解として、そのままになっている。

 

 (——気持ちは分かる)

 

 直哉は食堂の端のテーブルで、いつも通り一人で飯を食いながら、その椅子を見た。

 

 (でも俺には、そういう感情の持ち方ができひん。物に感情を乗せる習慣がない。あいつの椅子はあいつの椅子や。あいつが戻ってきたら、あいつが座ればええだけの話やろ。……ほんま、湿っぽい連中やな)

 

 そう思考に耽っていた直哉に近づくように麗日お茶子が向かいの席に座ってきた。

 

 「禪院くん、一個聞いていい?」

 

 「なんや?なんかあったん?」

 「禪院くんって——デクくんのこと、心配してる?」

 

 直哉は箸を止め、少し考えた。

 

 「心配? ……そんな殊勝な感情があるかは分からんな。ただ、気にはしとるわ」

 

 「気にしてる、かあ…」

 

 「生きとるかどうかを、毎晩確認しとる。……まあ、確認言うても俺の気休めに過ぎんけどな」

 

 麗日は少し目を丸くした。

 

 「確認できるの?」

 

 「完全にやない。けど、気配の質で分かることもある。死んどる奴と、まだ泥の中でもがきよる奴の気配は、質が決定的に違う。俺の目は、そこまで節穴やないわ」

 

 「……そっか」

 

 麗日はトレイに視線を落とした。

 

 「私は心配、って言葉が正確かどうか分からなくなってきたの。心配というより——もどかしい、かな。何もできないもどかしさ、みたいな」

 

 「それは正確な表現やな。……実力が伴わん者に付き纏う、一番無益な感情や」

 

 「禪院くんには、もどかしさはないの?」

 

 「俺に?」直哉は少し言葉を止めた。

 

「何もできへんとは思ってへん。今の俺にできることをやっとる。それが十分かどうかは別として……俺は、俺の設計を崩すつもりはないんでな」

 

 麗日はしばらく黙っていた。

 

 「……なんかさ、禪院くんと話すと、気持ちが少し整理される気がする…」

 

 「整理の手伝いなんてしとるつもりはないんやけどな。お茶子ちゃんが勝手に俺の言葉を拾い食いしとるだけやろ」

 

 「拾い食いって…。でも、なんかそういう気になる」

 

 直哉は扇子をパッと開いた。

 

 (——お茶子ちゃんは、言葉を整理することで感情を落ち着かせるタイプや。俺はそのための壁役になっとるだけやけど、それが役に立つ言うなら、別にええわ。……まあ、話し相手がおらんよりはマシやろ)

 

 

 

訓練の後、飯田に声をかけられた。

 

 「禪院くん。少し話せるか?」

 

 「ええよ、なんや?」

 

 二人で廊下の端に移動した。

 

 飯田は少し姿勢を正した。こういう時の飯田は、本気で話そうとしている。

 

 「緑谷くんのことだ」

 

 「……はいはい」

 

 「俺は——正直に言う。今でも止めるべきだったと思っている。あの日の朝、気づいた時に、俺はすぐに動くべきだったと」

 

 「ふーん、そうなんや」

 

 直哉は興味なさげに返した。

 

 「禪院くんも止めなかった。俺はそれに対して何も言う資格はない。ただ——理解したいんだ。なぜ君は、あの場面で動かなかったのか」

 

 直哉は飯田を見た。

 

 真っ直ぐな目だった。怒っているわけじゃない。本当に理解したいと思っている目だった。こういう誠実さを、直哉は苦手にしていない。むしろ扱いやすい、とさえ思っている。

 

 「俺が止めんかった理由は二つあるわ」

 

 「聞かせてくれ」

 

 「一つ目は——緑谷くんの判断を俺が覆す権利なんてないからや。緑谷くんは自分の頭で考えて、自分の意志で出ていった。あれは感情的な逃避やない。緑谷くんなりの設計がある行動や。そういう確固たる意志を外側から無責任に止めるなんて、俺の美学に反するわ」

 

 飯田は黙って聞いていた。

 

 「二つ目は——止めても意味がなかったからや。緑谷くんは出ていくことを決めとった。その夜のうちに出るか、翌朝出るかの違いはあったかもしれんけど、結果は同じやったはずや。無駄なことにリソース割くほど、俺は暇やないんでね」

 

 「……でも、一緒に行くという選択肢が——」

 

 「一緒に行けば良かったか、って話やの?」

 

 「そうだ」

 

 「それはまた別の話やな。緑谷くんは一人で行くと決めた。一緒に来てくれなんて意思はあの手紙にも、俺との会話にも欠片もなかったわ。緑谷くんの意志を尊重するなら、無様に押しかけて同行するなんて、俺にはできひんわ」

 

 飯田は少し俯いた。

 

 「……俺は、緑谷くんの意志より、緑谷くんの安全を優先したかった」

 

 「それが飯田くんの答えやろ。俺と違う答えやからって、別に間違いやないんちゃう? ……まあ、俺とは相容れんけどな」

 

 「でも、禪院くんは正しかったかもしれない」

 

 「正しいかどうかは、まだ分からんわ。緑谷くんが戻ってくるまではな」

 

 飯田はしばらく黙っていた。

 

 「禪院くん。緑谷くんは——戻ってくると思うか?」

 

 「…思うわ」

 

 「根拠は?」

 

 「緑谷くんはそういう人間やからや。……あんな呪いみたいなドス黒い覚悟を持った男が、あんなところで終わるはずないやろ」

 

 飯田は少し笑った。苦い笑顔だったが、本物だった。

 

 「……ドス黒い覚悟…については少々引っかかるが、禪院くんに言われると、なぜか信じられる気がするな!」

 

 「信じたらええわ。俺は嘘をつく時は事前に言う主義やしな」

 

 「今はついていないのかい?」

 

 「…ついてへんわ」

 

 飯田は頷いた。姿勢が少し楽になったのが分かった。

 

 

 

 

その夜も、直哉は空写を広げた。

 

 毎夜の習慣になってから、五日目だった。

 

 直哉はノートを開いて、日付と記録を書いた。

 

 第一夜:気配の方向、南西。速度は速い。移動中。

 

 第二夜:方向、南。速度は落ちている。停止か、低速移動か。

 

 第三夜:方向、南西から東へ変化。急速な移動。戦闘後か。

 

 第四夜:方向、東。停止。おそらく宿泊地点。

 

 第五夜(今夜):——

 

 直哉はゆっくりと目を閉じた。

 

 空写を、層(レイヤー)を重ねるように丁寧に広げていく。

 

 校舎の内部。廊下。食堂。寮。順番に、無価値な雑音として読み飛ばしていく。

 

 それから意識を外へ飛ばす。外壁の向こう。死にかけた街の外。

 

 方向を探る。

 

 (——東——南東——)

 

 気配の残滓がある。泥を啜りながらも、まだ生きている「生」の質の残滓だ。

 

 (今夜は南東か。動いとるな。速度は中程度や)

 

 直哉は目を開け、ノートに無造作に書きなぐった。

 

 第五夜:方向、南東。中速移動。生存確認。

 

 ペンを置いて、扇子をパッと開く。

 

 (緑谷くんがどこで何をしてるか、俺は知っとる。ただ、誰にも言わんだけや。……こんな精度の低い情報、あのマヌケ面した連中に伝えたところで、ピーピー泣いて喚くだけやろ。何にもなりゃせえへんわ)

 

 助けに行ける距離でもなければ、安心させられるほどの確証もない。だから言わない。ただ、自分だけの設計図の中に記録する。

 

 (これは俺の仕事や。誰にも頼まれてへんし、誰も知らへん。……けど、俺がやることに意味があると思うからやるんや。有英を頼むと託してきた側が擦り潰れてるようじゃ興醒めやからな…潰れるなら俺の目の前で潰れてくれた方が楽しめるわ)

 

 窓の外に星が見えた。

 

 南東の空に、一つだけ、傲慢なほど明るい星があった。

 

 

 

翌日の昼休み。

 

 屋上に出ると、轟焦凍がいた。

 

 珍しいことだった。轟が屋上にいることは、なくはないが、多くはない。

 

 轟は欄干に背をもたせて、空を見ていた。直哉が来ても動かなかった。直哉は少し離れた場所に座った。

 

 しばらく、二人とも何も言わなかった。それで十分だった。

 

 (轟くんは言葉が少ない。余計なことを言わんから、一緒にいても消耗せえへん。……ほんま、こういう人間との時間は嫌いやないわ。どっかの爆破小僧みたいにギャーギャー喚くカスと違ってな)

 

 しばらく経ってから、轟が口を開いた。

 

 「禪院」

 

 「なんや?」

 

 「緑谷のこと、追ってるのか」

 

 直哉は少し止まった。

 

 「追ってる、言うのは語弊があるな。空写で気配を確認しとる、いう方が正確や」

 

 「毎日か」

 

 「毎晩や」

 

 「……そうか」

 

 また、心地よい沈黙が流れた。

 

 「クラスのやつらに言うのか」

 

 「言わんわ。情報の精度が低すぎて、言ったところで混乱するだけやろ。……あいつらみたいなんに話しても、無駄に騒ぎ立てるだけで反吐が出るわ。俺はただ、生きとるかどうかの確認だけしとるんや」

 

 「生きてるのか」

 

 「今のところはな」

 

 「……そうか」

 

 轟はまた黙った。

 

 直哉は扇子を開いた。轟の横顔を、少しだけ盗み見る。

 

 (——轟くんも、気にしとるんやな。言葉が少ないから分かりにくいけど、聞きたかったんやろな。ただ、聞き方が分からんかっただけで。不器用なこっちゃ)

 

 「轟くん」

 

 「……なんだ」

 

 「いずれは戻ってくるんやない?…緑谷くんは」

 

 「根拠はあるのか?」

 

 「俺の読みや。外れることもあるけど、今回は外れへんと思うわ。……俺がそう設計したからな」

 

 轟はしばらく空を見ていた。

 

 「……お前がそう言うなら、信じる」

 

 「えらい素直やな。轟くん」

 

 「禪院の読みが外れたことがあまりないからな」

 

 直哉は少し考え、皮肉げに笑った。

 

 「外れたことはあるわ。ただ——誰にも言わんだけやけどな」

 

 「それはずるいな」

 

 「ずるいな。……勝てば官軍やし、俺が外したところなんて誰も見んでええわ」

 

 轟は小さく笑った。直哉も、わずかに口角を上げた。

 

 

 

 緑谷が去って十日が経った夜。

 

 直哉は空写を広げながら、ノートの記録を見返した。

 

 十日間の軌跡が書いてあった。南西から始まって、東へ、南へ、また東へ。方向が毎日変わっている。一か所に留まることが少ない。

 

 (よく動いとる)

 

 (緑谷くんの体力は、元々の限界を超えてきとる気がするな。OFAの出力が上がっとるのか、それとも——)

 

 直哉は少し考えた。

 

 (無理をしとるわ)

 

 気配の質が、少しずつ変わってきていた。最初の三日と、今日とでは、違う。疲弊の質とでも言うべき何かが、残滓に混じっている。

 

 (やっぱり削れとるやん)

 

 分かっていたことだった。一人で動き続ければ、誰だって削れる。呪術師も同じだ。仲間がいない戦場は、消耗のペースが違う。支える者がいないと、休み方も分からなくなる。

 

 (でも今は、手を出せる距離やない)

 

 直哉はノートに書いた。

 

 第十夜:方向、南。停止または低速。気配の質——疲弊の成分あり。削れている。ただし生存確認。

 

 ペンを置いた。

 

 窓の外の空を見た。

 

 (今夜、緑谷くんはどこで眠っとるんやろ)

 

 (眠れてるやろか)

 

 (飯は食えとるやろか)

 

 (…けったいなことを考えとるな、俺も。はなから心配しとるわけないのに。いちいち気にしとる影響やわ。…今も哀れな姿で醜く戦っとるんやろ?…想像できるわ…ふん…)

 

 直哉は扇子で自分の頬を軽く叩いた。

 

 (まあ、かまへんか。こういう気の回し方もあるってことや。細かいところに気を配れる俺って雅やねぇ…)

 

 窓を少し開けた。

 

 秋の夜の空気が入ってきた。冷たかった。

 

 (南の方角は、今夜は少し暖かいやろか…知らんけど)

 

 

 

十二日目の夜。

 

 廊下で直哉は爆豪勝己とすれ違った。

 

深夜、静まり返った空気の中、二人とも「眠れていない組」だった。

 

 爆豪は直哉を一瞥し、苛立ちを隠そうともせずに声をかけてきた。

 

 「まだ起きてんのか、ドブカス野郎」

 

 「そっちこそ、何してんの。爆豪くん」

 

 直哉は適当に受け流したが、爆豪は鼻を鳴らして足を止めた。

 

 「お前、毎晩クソナードを追ってるだろ」

 

 直哉は一瞬、足を止めた。

 

 「……気づいとったん?」

 

 「お前の部屋の窓から光が漏れてんだよ。あの時間帯に光があるのは、何かしら作業してる時だ。お前の『作業』つったら、たぶんそれだろ」

 

 「正確やね。……意外とマメに観察しとるんやな」

 

 「バカにすんな、殺すぞ」

 

 爆豪は不機嫌そうに腕を組んだ。

 

 「……どこにいる?」

 

 「今夜は南や。生きとるで」

 

 「……そうか」

 

 それだけだった。爆豪は続きを催促しなかったし、直哉も余計な情報を付け加えたりはしなかった。

 

 (——爆豪くんも聞きたかったんやな。でも、素直に『教えてくれ』なんて口が裂けても言えへん性格やないからな。……ほんま、このクラスは不器用なカスばっかりやわ)

 

 「爆豪くん」

 

 「なんだ」

 

 「いずれ戻ってくるわ、緑谷くんは」

 

 爆豪が鋭い視線で直哉を射抜いた。

 

 「それを俺に言ったところで意味がねェだろ」

 

 「意味がないことは言わん主義や」

 

 爆豪は少し黙り、低く唸るように聞いた。

 

 「……根拠は?

 「緑谷くんはそういう人間やから。それに——」

 

 直哉は少し考え、薄く笑った。

 

 「——戻ってきてから謝らなあかん相手が、あいつにはいっぱいおるからな。そういう用事が山積みになっとる人間は、そう簡単には死なへんわ。それに俺の目の前でとことん潰れるところを見るまでは死なせへんしな」

 

 爆豪の表情がわずかに動いた。怒りか、あるいは図星を突かれた自省か。直哉の目を持ってしても、その微細な感情を判別するのは難しかった。

 

 「……お前はほんと、よく分かんねェドブカスだな」

 

 「そう? 褒め言葉として受け取っとくわ」

 

 「褒めてるが、同じくらい貶してるんだよ!!」

 

 「…知っとるわ。雰囲気でそんなことくらい読み取れるにきまってるやろ」

 

 爆豪は鼻を鳴らして、そのまま廊下の闇の中へと歩いていった。

 

 直哉はその背中を少しの間だけ見届けてから、自分の部屋へと戻った。

 

 

 

緑谷出久が去って、十五日が経った。

 

 直哉は今夜も、儀式を執り行うように空写を広げた。

 

 校舎の内部。廊下。寮。外壁の向こう側。さらにその先、死にかけた街の外へ。

 

 指先で空間の層を捲るように、方角を探る。

 

 (——南東——東——)

 

 泥を啜り、雨に打たれながらも、まだ消えずに燃えている気配を掴む。

 

 (……生きとるな)

 

 直哉は目を開け、ノートに向き合った。ペンを滑らせる。

 

 第十五夜:方向、東。中速移動。生存確認。気配の質——疲弊継続。ただし、今夜は昨日より少し安定している。

 

 ペンを置き、背もたれに体を預けて窓の外を見た。

 

 (今夜は少しましやな。何かあったんか? あの自己犠牲ヒーローに。……良いことでもあったんなら、けったいな話やけどな。……知らんけど)

 

 パッと扇子を開き、自室の静寂を仰ぐ。

 

 寮の廊下からは、誰の足音も聞こえてこなかった。今夜は、あの不器用で湿っぽい連中も、ようやく泥のような眠りに落ちているようだった。

 

 (まあ、静かなんはええことや。……俺も少し寝よか)

 

 扇子を閉じ、ノートを引き出しの奥へと仕舞い込む。

 

 照明を落とし、暗闇に沈んだ部屋の中で、直哉は静かに目を閉じた。

 

 (緑谷くんがどこで何をしとるか、俺は知っとる。……ただ、誰にも言わんだけや。それが今の俺の仕事やしな。誰にも頼まれてへん、一銭にもならん仕事やけど……それに原作の動向も気になるしな…あの金玉(AFO)をすり潰すためにも確実な情報がない以上、少しでも流れを把握しておく必要がある…だからこれでええわ)

 

 窓の外で、秋の終わりを告げるような風が鳴った。

 直哉は心地よい疲弊感に身を任せ、静かに眠りへと落ちていった。

 

 




第41話をお読みいただきありがとうございます。

 前半は、直哉とA組メンバー(麗日、飯田、轟、爆豪)との対話を通じて、彼の歪んでいるけれど尖っている死生観や「ドブカス」なりの内心を描きました。

爆豪との「ドブカス野郎」呼び合える関係性は、この二人ならではの距離感ですね。

それはそれとして…直哉が空写をより幅広く使ってますね…やっぱり汎用性が広いのか…直哉の術式の解釈の落とし込みがうまかったのか…はてさて…


※活動報告で、先着数名だけですが先行読者(終盤〜最終回)を募集しています。
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