【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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いつもご愛読ありがとうございます!

前前回の甚爾との「夢の中の死闘」を経て、直哉の中で何かが変わり始めています。
今回、原作ではデクが絶望的な戦いを繰り広げた「あのスナイパー」との接触。

雄英の守りを抜け出し、一人夜の街へ。
呪いと個性が交差する、弾丸と術式の設計戦。

直哉がその「目」で捉えたのは、最強の狙撃手の指先でした。

キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性ございます。
ご注意ください。

感想、評価付与は直哉がスナイプよりも早く敵を仕留めます
伊達に最速の術師の元息子ではない…!ということですね!



第48話;黒デク編「投射と弾丸…刹那の交錯」

 

その不快な気配に気づいたのは、深夜の「空写」の端に、泥を落とされたような違和感が混じった時だった。

 

いつも通り、出来損ないの「デク」こと緑谷の追跡記録を書き終えた後だった。今夜の緑谷は南南東。必死に尻尾を振って走っているのか、移動速度が上がっている。

 

直哉は空写をそのまま維持した。雄英の外壁の外縁。泥臭い街の外縁。

 

「——なんや、これ。気色悪い」

 

精度優先モードに切り替えた。230メートルの「設計(輪郭)」の中ではない。もっと遠い。距離優先モードにまで意識を広げる。400メートル。

 

——おるな。

 

単独の気配。移動速度が異常に速い。地べたを這う虫ではない——空中だ。翅(はね)の音も、羽ばたきの残穢もない。個性などという安っぽい力で浮いているのだろう。

 

気配の質が、直哉の知っている「善人面したプロヒーロー」とも、そこらへんの「群れるだけの一般人」とも違った。

 

——鋭い。針の先やな。

 

スナイパーの気配だ、と直哉は直感した。遠くから安全圏を確保して、一方的に相手を覗き見て撃つ。近づかれる恐怖を知らない、思い上がった連中に特有の「薄っぺらい鋭さ」がそこにはあった。

 

「——緑谷くんと同じ方向に動いとる。……健気なこっちゃ」

 

気配はまだ遠い。だが、獲物を狙うベクトルは完全に一致している。

 

直哉は無造作にノートを閉じた。扇子をパチン、と開き、口元を隠して嗤(わら)う。

 

「……緑谷くんに喰わせるには、ちと勿体ない獲物やな。俺が先に当たったるわ」

 

 

 

直哉は相澤消太の部屋の前まで足を運び、無造作にドアをノックした。

 

「——禪院か」

 

扉の向こうから、疲弊したような低い声が返る。

 

「はい。30分ほど、外に出させてもらってもよろしいですか。少しばかり野暮用がありまして」

 

しばらくの間があった。教師としての監視と、生徒の自主性の天秤だろう。

 

「理由は?」

 

「空写で妙な気配を掴みましたわ。おそらく、レディナガンと推定します。このままやと緑谷くんが危ない。俺が先に当たったるのが、一番効率的やと思いまして」

 

内心では、あんな出来損ないより俺の方が適任だ、と嘲笑っている。相澤の返答を待つ間、直哉は扇子を弄びながら、退屈そうに廊下の天井を眺めていた。

 

再び、重苦しい間が置かれる。

 

「何故レディナガンが…——分かった。仮免を持っているとはいえ、無理はするな。生きて帰れ。それだけだ」

 

「分かっとります」

 

短く返すと、直哉は相澤の視線が外れるのを待たず、踵を返した。

 

廊下を歩きながら、意識は依然として空写の「設計」の中にある。外壁の出口に向かいながら、気配の位置を更新する。南南東。まだ、獲物を狙う猟犬のような気配が動いている。

 

(読み切れるか?)

 

伏黒甚爾との、あの呪いのような夢の死闘を経て、直哉の中で何かが変質していた。「外角」——世界という器そのものを捉える感覚。それは未だ完成には程遠いが、向かうべき「正解」の方向だけは確信している。この傲慢なまでの自信があるからこそ、今夜、独りで出る判断に迷いはなかった。

 

外に出ると、湿った夜風が頬を打った。

 

「……掃き溜めの風は、相変わらず臭いわぁ」

 

毒を吐き捨てると同時に、直哉は「落花の情」を展開した。

 

 

「空写」が描き出す弾道の設計図をなぞるように、直哉は夜の闇を滑った。

 

「落花の情」による高速移動。安っぽいレンガ造りのビルの壁を蹴り、反吐が出るほど凡庸な屋根を踏み越える。空写が示す「次にあの女がいる場所」へと、直線的に距離を詰めていく。

 

ふと、前方で気配が止まった。

 

狙撃位置の固定。獲物を仕留めるための、蛇のような静止だ。

 

直哉は建物の深い影へと滑り込み、空写で状況を俯瞰した。

 

緑谷の気配は、まだ遥か後方で無様に足掻いている。

 

(今なら、俺一人でこの獲物を「調理」できるわ)

 

直哉は屋根の上に、音もなく姿を現した。

 

冷たい月光の下、特徴的な白い耳が夜風に揺れているのが見えた。

 

——レディ・ナガン。

 

直哉がその視界に踏み込んだ瞬間、大気の密度が劇的に変わった。未知の脅威を捕捉した狙撃手特有の、針を刺すような鋭利な殺気だ。

 

「——誰だ、お前」

 

低く、抑制の効いた声。女特有の、しかし戦場に馴染みすぎた響き。

 

「関係のない第三者ですわ。ただ、レディナガン…今夜はあんたには大人しくしてほしくて、わざわざ足を運ばせてもらいました」

 

扇子で口元を隠し、直哉は細めた目で相手を品定めするように眺めた。

 

「……雄英の生徒か」

 

「合っとります。一応、形の上ではそうなりますわ」

 

「…子供が来る場所じゃない。死にたくなければ帰れ」

 

その言葉に、直哉の眉がわずかに跳ねた。

 

「女の分際で、俺に指図するんか?」という不快感が、内側からせり上がってくる。

 

「……帰りません。あんたみたいな強靭な眼光を宿している奴が、夜道で物騒な玩具を振り回してるのは感心せえへんですから」

 

一瞬の沈黙。それは対話の拒絶であり、引き金が引かれる前兆だった。

 

 

 

予告も、予備動作もなく、弾丸が飛来した。

 

 直哉はそれを、飛んでくる前から知っていた。「空写」が、発射の0.3秒前から完璧な弾道の設計図を描き出していたからだ。体をわずかに、優雅に右に傾ける。弾丸が鼓膜のすぐ横を、虚しく掠(かす)め去った。

 

 「——っ」

 

 ナガンの気配が、凍りついたような驚きに染まる。

 

 「読んだのか……お前」

 

 「設計図通りに飛んでくる弾なんて、俺の術式とは相性が良すぎるんですわ。根っこが同じ設計主義やからな」

 

 嗤(わら)いながら、直哉は「零駒」で一気に間合いを詰めた。

 

 ナガンがエアウォークで高度を上げる。距離を取ろうとする、スナイパー特有の臆病な動作だ。直哉は凡庸な建物の壁を蹴り、それを追った。

 

 弾丸が連続して襲い来る。三発。四発。

 

 その全てが、空写の設計図の上に載っていた。弾が来る前に軌道が見える。直哉は扇子で顔を隠しながら、最小限の動きで全てをかわし、嘲笑(あざわら)った。

 

 (近づけば終わりや。距離しか命綱のない、憐れな女スナイパーめ)

 

 「速い……っ! なんで、全部読める……?!」

 

 ナガンの声に、明確な焦りが混じり始める。

 

 もう一度、高度を上げようとする。直哉は空写で先読みをしつつ投射呪法で加速したのちに「鏃」を足元の壁に叩き込み、その反動で跳躍した。

 

 空中で、距離が一瞬にして詰まる。

 

狙撃手が絶望する間合いだ。ナガンが後退しようとするが、直哉はすでに「空虚呪法」を展開していた。彼女の体は空間ごと空中で固定され、逃げ場を失う。

 

 「——くそ、これが術式か……っ!」

 

(やはり青山くんから情報は漏れとったか…想定内やけど)

 

 「弾道、全部読ませてもらいましたわ。女にしては頑張った方ですけど、ここで終わりにしましょ。俺が幕引きを決める方が美しい設計になりますさかい」

 

 「うるせえ!」

 

 近距離、必殺の間合いから、弾丸が放たれた。

 

 直哉は体を傾けた。ぎりぎりで、弾が耳をかすめる。

 

 (…一瞬、この距離やからか少し震えたわ…こんな女如きに…腹立たしい!)

 

 一瞬、その感情が脳裏をよぎった。伏黒甚爾との、あの地獄のような戦いで味わった感触。「これが当たったら終わる」という死の確信が、体の芯を貫いた。

 

 だが、手は止まらなかった。その恐怖すら、甚爾という絶対的な存在の前では、瑣末(さまつ)な「設計の内側」でしかなかったからだ。

 

 「——瞬刻、二十四節、積層の理——極ノ番ーー」

 

 「『積層残影』ーー24葉!!」

 

 詠唱が口から漏れたと同時に、より強化された直哉の拳に24層分の圧倒的な衝撃が収束した。

 

 それを、ナガンの胴体に容赦なく叩き込む。

 

 「——が、っ……!」

 

 零駒で固定された身体は、衝撃を逃がす術を持たず、その全てを受け止めるしかなかった。ナガンの時間が止まる。そのまま、意識が深い闇へと落ちていった。

 

 直哉は零駒を解くと、力なく落ちていくナガンの体を無造作に受け止めた。

 

 死んではいない。脈はある。重傷だが、生きている。

 

(イラつく面もあったが、実力は確かな方やった…)

 

 「……まあ…女の割には、いい設計の弾(たま)でしたわ」

 

 

 

第46話「レディナガン・直接撃破」:帰還と事後

 

直哉は意識を失ったナガンを、近くのビルの屋上へと無造作に転がした。

 

「空写」を広げ、周囲の設計図を更新する。緑谷の気配は、依然としてこちらに向かって必死に走っているが、まだ距離がある。

(……緑谷くん、君が着く頃には全部終わっとるわ。無能な主役やな)

 

通報すべきか、と直哉は一瞬考えた。だが、公安の連中に「なぜ現場にいたのか」を説明する手間を想像し、即座に眉をひそめる。

 

(……あんな公務員の犬どもに、俺の時間を割くのは御免やわ。反吐が出る)

 

ナガンを、街灯の光が届く比較的見つかりやすい場所に配置し直すと、直哉はもう一度だけその脈を確認した。安定している。

 

「——貴女は運が良いですわ。あとは勝手に誰かが見つけてくれます」

 

誰に聞かせるでもなく、吐き捨てるようにそう告げると、直哉は「空写」を展開して夜の闇へと消えた。

 

雄英の外壁を越えて帰還すると、入口には相澤消太が立っていた。

 

「——生きていたか」

 

「はい。レディナガンを昏倒させましたわ。生存は確認済みです。屋上に転がしてきました。通報はしていませんが、灯りの近くに置いたので、朝までには誰かが見つけるんやないですか?」

 

相澤の視線が、直哉の全身を舐めるように動く。

 

「怪我は?」

 

「耳を少々。かすり傷ですわ」

 

「……反転術式で治せるか?」

 

「もう治してます。跡も残りませんわ」

 

相澤はしばらく無言で直哉を見つめていたが、やがて短く告げた。

 

「報告書を書け。明日の朝に提出しろ」

 

「はいです」

 

白々しい返事を残し、直哉は廊下を歩き出す。

 

(……報告書? 誰がそんな面倒なもん書くか。適当にAIにでも吐かせたろか)

 

一人になって、静寂が訪れた時、不意にあの感覚が蘇った。

 

(確かに銃弾は耳を掠め取った…慣れとった呪霊とはまた違った冷徹な凶器を感じたわ)

 

あの一発。至近距離から向けられた銃口。空写で弾道が見えていても、「当たれば終わる」という確信だけは、術式の外側から直哉を貫いた。

 

(ある意味怖い、という感情は、確かにあった)

 

(せやけど、手は止まらへんかった)

 

それは術式の設計の話ではない。感情という不確定要素が、設計の外側へ溢れ出さなかったということだ。伏黒甚爾との死闘を経て、自分の中で「器」の強度が変わった。それは、揺るぎない事実だった。

 

ノートを開き、無機質な記録を刻む。

 

記録:レディナガン(筒美火伊那)を無力化。生存。弾道は全て空写で処理できた。銃火器類の危険性を再認識。

 

(せやけどそれすら設計の内側。止まらなかった…それが今夜、一番の収穫やな)

 

翌朝、ニュースが教室を騒がせていた。

 

「謎のヒーロー…ヴィジランテ!?、レディナガンを無力化か?」

 

「え、誰がやったんだろ。めちゃくちゃ強いんじゃね?」

 

上鳴が興奮気味に声を上げ、切島が首を傾げる。

 

「『ヴィジランテ』って書いてあるな。ヒーローじゃねえんじゃねえのか?」

 

「……生きてるなら、それでいいだろ」

 

轟が淡々と告げると、周囲もそれに同意するように静まった。

 

直哉は窓の外、退屈な青空を眺めながら、ノートに一筆書き加えた。

 

翌朝確認:ナガン、病院搬送。生存。

 

(……あの女も、これからは病院のベッドで俺の強さを反芻(はんすう)して過ごせばええわ)

 

(緑谷くんは、今日も南。速度は通常。生存)

 

(昨夜の戦場に間に合わなかった無様な緑谷くんは、今日もどこかを必死に走っている)

 

 (俺は後ろから。一番安全で、一番高い場所から、君らを見とる)

 

 

 

 

 




レディ・ナガン撃破。原作知識があるからこその先回りですが、直哉の術式とナガンの弾道計算、実はかなり「相性が悪い(直哉にとって有利)」のではないか……という解釈で書いてみました。

恐怖を感じながらも「手が止まらない」直哉に、少しずつ禪院家の呪縛ではない、彼自身の強さが見え隠れしてきた気がします。

**「今回の直哉、格好良かった!」「反転術式の使いどころが粋だった」**と思ってくださった方は、ぜひ【評価】や【感想】で応援いただけると、完結までの執筆の大きな励みになります!
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